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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

J-POPで目立つ金曜リリース…興味深く捉える理由、そして音楽チャートへの提案を記す

先月以降、金曜に新曲をリリースする日本人歌手が増えています。今回のエントリーでは金曜リリースのJ-POP曲を紹介し、興味深く捉える理由、そして音楽業界への提案について記します。

 

<7月以降、金曜にリリースされる主なJ-POP曲>

 

・7月28日リリース 宇多田ヒカル「Gold ~また逢う日まで~」

 (映画『キングダム 運命の炎』主題歌)

 

・8月4日リリース back number「怪獣のサイズ」

 

・8月11日リリース SKY-HI「Sarracenia -Anime Size-」

・8月18日リリース BE:FIRST「Salvia -Anime Size-」

 (アニメ『範馬刃牙 地上最強の親子喧嘩編』オープニング/エンディングテーマ)

 

 

・8月18日リリース IMP.「CRUISIN'」(デビューシングル)

 

・8月25日リリース 藤井風「Workin' Hard」

 (FIBAバスケットボールワールドカップ2023 中継テーマソング)

@fujiikaze1997

How do You dance to this beat?? 君はこのビートでどう踊る? Fujii Kaze “Workin’ Hard”. August 25th.

♬ Workin' Hard - (1) - Fujii Kaze

 

宇多田ヒカル「Gold ~また逢う日まで~」はタイアップ先となる映画の公開日に、藤井風「Workin' Hard」はワールドカップの開幕日にそれぞれリリースされることから、タイアップ先を踏まえて金曜リリースに至ったと考えることが可能です。一方で、IMP.の"世界同時配信デビュー"という触れ込みからも、金曜リリースは海外を見越してのものでもあると捉えることができるでしょう。

 

 

金曜は、米ビルボードによるアメリカおよびグローバルのソングチャート(Global 200およびGlobal 200から米の分を除くGlobal Excl. U.S.)において集計期間の初日にあたります。両者にデータを提供するSpotifyでも、公式サイトで紹介される週間チャートは日本を含め金曜が集計開始日となっています。

金曜にリリース日を設定したJ-POP曲は、リリース初週の成績がグローバルチャート上位進出につながることがあります。

Travis Japanはデビュー曲「JUST DANCE!」を2022年10月28日金曜にリリース。tofubeatsさん、Yaffleさんによるリミックスも同時に発表し、同年11月12日付Global Excl. U.S.にて5位に初登場を果たしています。グローバルチャートはビルボードジャパンと異なりリミックス等様々なバージョンが合算対象となります。また日本は他の国や地域よりもダウンロード数が高く、その点も功を奏しました。

そして前週8月5日付までGlobal Excl. U.S.で15週連続トップ10入りを果たしたYOASOBI「アイドル」は、同チャートで通算3週首位を獲得。6月10日付では、5月26日金曜にリリースされた英語詞版(「Idol」)が1週間フルにて初加算されたことが原動力となり、初めて首位の座に到達しました。下記エントリーでも記したように、YOASOBI側の反応からはグローバルチャートの上位進出を意識していたであろう姿勢が見て取れます。

 

複合指標から成る音楽チャートでより重要なのはストリーミングの高水準での安定に伴うロングヒットであり、急落はマイナスイメージも持たれかねません。ただしダウンロードの高さはストリーミングを補い、一時的でもグローバルチャートでの上位進出につながります。

そしてYOASOBI「アイドル」のGlobal Excl. U.S.制覇は、日本におけるグローバルチャートの認知度を確実に高めたものと考えます。となると、海外活動を行ったことのある、また海外を視野に入れている歌手を主体に、グローバルチャートをこれまで以上に意識するようになったのは自然かもしれません。

 

 

一方で日本の場合、金曜リリースは音楽チャートにおいて初週のインパクトを下げかねません。宇多田ヒカル「Gold ~また逢う日まで~」は8月2日付ビルボードジャパンソングチャートで40位に初登場。翌週は10位に上昇しましたが(下記CHART insight参照)、これは同曲が登場2週目に初めて1週間フル加算されたためです。

ビルボードジャパンやオリコン等、日本の音楽チャートはフィジカルリリースを基準としてか月曜が集計期間初日となっています。デジタルリリースは世界配信とほぼイコールであり、仮に音楽チャートの集計期間初日を統一すれば日本でのヒットの延長線上にグローバルでのヒットも見込めるはずです。合算も含め、日本の音楽チャートはチャートポリシーをグローバルに沿わせることを検討すべきと、以前から提案しています。

チャートポリシー変更提案については昨年秋に記載しましたが、今一度強く求めたいのが集計期間や合算のルールをグローバルチャートに沿わせること。水曜のフィジカル発売に合わせてビルボードジャパン等各種音楽チャートが月曜を集計期間初日とすることで、金曜集計開始のグローバルチャートと日本のチャートとの双方で初週に好成績を残したい歌手の戦略がどっちつかずになってしまうのは勿体ないことです。

日本市場だけでもグローバルチャートへのランクインは可能であり、また日本はダウンロード指標が大きいため初週の好位置登場が期待できます。日本のチャートを金曜起点とすれば日本でもグローバルチャートでも初週に好成績を収める方が増え、世界におけるJ-POPの認知度は飛躍することでしょう。そして集計期間の金曜開始は、フィジカル以上にデジタル、ドメスティック以上にグローバルへの意識を高められるはずです。

金曜デジタルリリースが増えたことの真意は分かりかねますが、歌手側が世界を視野に入れていることが理由ならば尚の事、日本の音楽チャートの変化を希望します。

金曜リリースは他にも、世界の新曲プレイリストに選出されやすくなる、リリース日の統一により日本のリスナー(ユーザー)が新曲を解禁日に聴く習慣が身に付く等、様々な可能性を高めるものと考えます。

フィジカルが今も売れ続けている日本ですが、ビルボードジャパンソングチャートにおけるフィジカルの位置付けはデジタルの一時的な補完や後押しの意味合いが強いと考えます。ならばその音楽チャートがフィジカルを強く意識せずともチャートポリシーを世界仕様に沿わせることはできなくはないでしょう。それが音楽業界全体の意識を変化させ、金曜リリースが徹底され、活動の幅を拡げる歌手の手助けにもなるはずです。

 

 

ビルボードによるグローバルチャートについては下記エントリーにまとめていますので、是非ご参照ください。

 

 

最後に、SKY-HIさんやBE:FIRSTがリリースするショートバージョン("Anime Size"版)に関連して、J-POP曲のチャート実績について紹介します。

SKY-HIさんおよびBE:FIRSTのスプリットシングルに収録された曲のフルバージョンがいつ公開されるかは現時点で未定ですが、短尺版を先行リリースしたことでヒットに火が付いた例としてSiM「The Rumbling」が挙げられます。テレビアニメ『進撃の巨人 The Final Season Part2』のオープニングテーマとして昨年2月7日に配信されたこの曲は、その4週前に短尺版("TV Size"版)を先行配信しています(リリースは共に月曜)。

アニメの世界的人気も相まって、Spotifyグローバルデイリーチャートでは短尺版が2022年1月11日付で最高位となる108位にランクイン。グローバルにおいては、フルバージョンよりも高い順位となっています。一方で米ビルボードによるグローバルソングチャート、Global 200では同年2月19日付で92位に初登場。こちらは短尺版とフルバージョンが合算され、後者の解禁タイミングでエントリーしています。

仮にSiM「The Rumbling」が金曜リリースだったならば、グローバルチャートでの順位は高まったものと考えます。