10月24~28日を集計期間とする最新11月2日公開分(11月7日付)ビルボードジャパンソングスチャートでは、Travis Japan「JUST DANCE!」が4位に初登場を果たしました。今回はこの曲における、デジタル解禁初週の動向からみえてくることをまとめていきます。
ビルボードジャパンにはCHART insightというサービスがあり、ソングスチャートにおいて総合および構成8指標のいずれかが20位に入った曲のチャートアクションが確認可能です(ビルボードジャパンの有料会員ならば、下限は100位となります)。そこでまずは、最新11月2日公開分(11月7日付)ソングスチャートにおけるTravis Japan「JUST DANCE!」各バージョンのCHART insightをチェックしてみます。
・4位 「JUST DANCE!」(オリジナルバージョン)
27位 「JUST DANCE! (tofubeats Remix)」
28位 「JUST DANCE! (Yaffle Remix)」
今回の獲得ポイントの大半を占めるダウンロード指標において3バージョンは1位、3位および5位に初登場(CHART insightではダウンロード指標は紫で表示)。ダウンロード数はそれぞれ66,078、22,007、21,658DLとなっており、オリジナルバージョンは今年度において、Aimer「残響散歌」が昨年12月15日公開分(12月20日付)で初登場した際の87,649DLに次ぐ高水準となっています(数値は下記ツイート内記事参照)。
【ビルボード】Travis Japan「JUST DANCE!」DLソング堂々の首位、back numberが続く https://t.co/KkmTG82bH2 pic.twitter.com/XTbVHAq4VW
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) November 2, 2022
Travis Japan「JUST DANCE!」オリジナルバージョンはTwitter指標も制した一方、他指標との差も目立つ状況です。
【ビルボード】Official髭男dism「Subtitle」2週連続総合首位、週間ストリーミング再生数が今年初の2,000万回超えを達成 https://t.co/SuHc94Jrop pic.twitter.com/2jWshMaVVv
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) November 2, 2022
『ジャニーズ事務所初の全世界配信デビューで注目されたTravis Japan「JUST DANCE!」は、計測期間わずか3日間にも関わらず、66,078DLでダウンロード1位をマークした。他指標でもTwitter1位、動画36位、ラジオ38位となり、初登場で総合4位を獲得しており、計測期間がフル7日間となる次週のチャート結果に注目だ』と、上記ツイート内記事には記載されています。ただし、ストリーミング指標への言及はありません。
ビルボードジャパンのポッドキャスト最新回ではこの点についての紹介がありましたが、サブスク再生回数等に基づくストリーミング指標(CHART insightでは青で表示)は300位に到達していないため加点されていません。ロングヒットに最も重要なこの接触指標の未加点をどう捉えるかは、判断が分かれる部分と言えます。
Travis Japan「JUST DANCE!」の解禁は米東部標準時(EST)の10月28日0時、日本時間の同日13時であり、最新11月2日公開分(11月7日付)ビルボードジャパン各種チャートにおいてはおよそ2日半が加算対象となります。米ビルボードによるグローバルチャート等海外のチャートでは金曜起点となる一方、日本の音楽チャートは基本的に月曜起点となるため海外を意識した解禁作品は不利となります。これは以前記したとおりです。
それでも、注目作品においてはストリーミングもロケット的なスタートを切れたと考えるのは自然なことかもしれず、今回のTravis Japan「JUST DANCE!」におけるストリーミング未加点(同指標300位未満)は疑問視されてもおかしくないかもしれません。
私見と前置きして述べるならば、今回のTravis Japan「JUST DANCE!」におけるストリーミング指標未加算は、ジャニーズ事務所としてのこれまでのデジタルシングルへの向き合い方の問題が大きく反映されたものと捉えています。
ジャニーズ事務所は今年に入り、デジタル解禁対象歌手を少しずつ拡大しています。10月10日にはKAT-TUN「ゼロからイチへ」、10月17日には20th Century「水曜日」がリリースされ、10月31日には中山優馬「Squall」も配信開始。Travis Japan「JUST DANCE!」を除くこれら作品はいずれも月曜解禁となり、音楽チャートの初週最大化を狙えます。KAT-TUNは2月4日金曜にも「CRYSTAL MOMENT」を配信リリースしています。
また堂本剛さんによるソロプロジェクト、ENDRECHERIは5月29日に「LOVE VS. LOVE」、8月21日に「1111111 ~One Another's Colors~」を配信リリース。いずれも日曜発売となっていますが、解禁2~8日目分がフル加算初週にあたります。
これらの曲はフィジカルを伴わない点においてTravis Japan「JUST DANCE!」と共通。いずれの曲もビルボードジャパンソングスチャートにおいてはダウンロード指標がリリース初週に20位以内に入りながら、ストリーミングは300位以内に入っていません。仮に「JUST DANCE!」がフィジカルリリースしない場合はジャニーズ事務所側における直近1年間の経験値がこれら作品群となるのですが、実績を残したとは言い難いでしょう。
今回Travis Japan「JUST DANCE!」について、”サブスクでは何をすればいいのかとの迷いがコアファンの間で目立っていた”との声をいただきました。所有指標であるダウンロードの強さと相反する動きをストリーミングが示すならば、事務所側がコアファンにレクチャーすることも必要だと感じた次第。尤も、最善は全作品の解禁およびビルボードジャパンソングスチャートやグローバルチャートを意識した取組の徹底でしょう。
仮にTravis Japan「JUST DANCE!」がフィジカルシングルとしてリリースする予定がないならば、コアファンの方々がストリーミングについての知識を共有していくことが必要です(一方で最も重要なのは、ライト層(歌手のコアファンではないものの曲が気になる層)へリーチさせることです)。自分が運営側だった場合には、このようなスケジュール戦略が現実的だとしてスケジュールを策定したことでしょう。
・10月28日金曜 デジタルリリース、ミュージックビデオ解禁
・11月30日水曜 3バージョンを収録したフィジカルシングルリリース
(フィジカルにも収録された)日本語バージョンの配信リリース
Travis Japan「JUST DANCE!」は中長期的な戦略が採られていると感じています。11月7日には『CDTVライブ!ライブ!』(TBS)、11月23日には『テレ東音楽祭2022冬~思わず歌いたくなる!最強ヒットソング100連発~』(テレビ東京)への出演が決まっており、今後も各音楽番組へ出演を果たすでしょう。そのテレビ出演をデジタル(特にストリーミング)訴求の好機として取り組み、同時にフィジカルも用意することが好いと考えます。
11月30日の週は現段階にて、ジャニーズ事務所所属歌手やフィジカルセールスに強い歌手の作品がほぼなく、ともすればフィジカルリリースが用意されているかもしれません(フィジカルセールスに強い歌手の作品はバッティングしない傾向があります)。フィジカルをデジタルの補完的役割として用意し後発することでチャートアクションを強固にすることについては、米津玄師「Lemon」やAimer「残響散歌」等が証明しています。
また日本語バージョンは、合算しないことを基本とするビルボードジャパンのチャートポリシー下にあって唯一の合算対象となります。フィジカルシングルにも収録することが最善ですが、リリース日にデジタルでも「JUST DANCE!」の日本語バージョンを単独で用意すれば、デジタルのみで3バージョン買った方にも親切な対応と言えるでしょう。
(フィジカルシングルについては、米ビルボードによるグローバルチャートのダウンロード指標には反映されませんが米ビルボードソングスチャートには反映されます。その点においても有効です。)
フィジカルがリリースされるとして、Travis Japan、いやジャニーズ事務所全所属歌手のコアファンの方々に対しデジタルを認知させること、サブスクの聴き方をレクチャーすること、サブスクによるストリーミング指標がヒットの要となるビルボードジャパンソングスチャートの存在を知らせることが重要であるため、運営側がその訴求に努めることが重要です。
ジャニーズ事務所側はデジタルリリース曲でこの1年の間に好い事例を積むことができたとは言い難く、その中でTravis Japanがしたことになります。歌手側のみならず事務所側が模索し、最良の解を導き出すよう努めることを希望します。
今回のTravis Japan「JUST DANCE!」においては、ビルボードジャパン側はストリーミング指標において今後に対し”期待”という表現を用いています。当該指標がスタートダッシュしにくい性質であることがその理由ですが、自分は300位以内に登場する可能性は十分あったものと捉えています。一方でチャート分析側からは今回の動向を踏まえたダウンロード指標ウエイト減少の議論の必要性も唱えられ、そちらもまた理解できます。
Travis Japan「JUST DANCE!」においては、というよりもジャニーズ事務所をはじめとするデジタルに強くないアイドル等の運営側は、今年度最終週までにデジタルを強くする方法を模索し整備する必要があるでしょう。今年度最終週と位置付けたのは、次年度からルックアップおよびTwitterという、いわばフィジカルセールスに強い歌手が得意とする2指標が廃止となるためです。
一方でビルボードジャパンに対しては以前提示したチャートポリシー変更、特に様々なバージョンの合算提案を引き続き求めていきます。リミックスはグローバルチャート等では合算対象となり、J-Popがグローバルチャートにも進出する中にあって日本と海外とで戦略を別に用意することは得策ではありません。また合算するならばダウンロード指標のウエイトを微減させることも検討していいのかもしれません。
ちなみに最新のビルボードジャパンソングスチャートでは不思議なことが起きています。動画再生指標では工藤真由「プリキュア5、スマイル go go!」が10位に入り、総合でも300位以内にランクインしているのですが、オリジナル曲の公式動画は見当たりません。おそらくはAdoさんによる”歌ってみた”動画の再生回数が反映されたと言えるでしょう。下記動画の概要欄には”ぷりきゅあ5”名義にて楽曲登録されています。
しかし本来、”歌ってみた”等はユーザー生成コンテンツ(UGC)に該当し、その再生回数はUser Generated Songsチャートに反映されるはずです。ISRC(国際標準レコーディングコード)の付番が動画再生指標カウントの条件となりますが、このISRCにおいても工藤真由さんのバージョンが付番されたものと考えます。しかしビルボードジャパンがこの欠陥と呼べる状況を把握されているのかは疑問です。
今回の事例は極端なものではありますが、しかしたとえばTHE FIRST TAKE動画にオリジナルバージョンのISRCが付番されていればバージョンは異なってもオリジナルバージョンに合算される例が続き、ビルボードジャパンに4年前に問い合わせた際に発覚した”言語の違いを除き合算しない”という合算に関するチャートポリシーと矛盾を続けています(下記リンク先参照)。
海外チャートとシームレスにする意味でも、ビルボードジャパンには様々なバージョンの合算を引き続き求めていきます。
Travis Japan「JUST DANCE!」については、年度内のチャートアクションを確認した上で他のジャニーズ事務所所属歌手による作品の動向共々、その経過と私見を12月に再掲する予定です。