Travis Japanが昨日、配信シングル「JUST DANCE!」でデビューしました。
ジャニーズ事務所所属歌手では珍しい配信の形であり、世界的なリリース標準時である金曜、それも米東部標準時(EST)の午前0時に解禁というのですから、世界配信を強く意識したものであることが解ります。ちなみに復活したリアーナの新曲「Lift Me Up」も同時刻の解禁でした。
さて、Travis Japan「JUST DANCE!」はオリジナルバージョンのほか、tofubeatsさんおよびYaffleさんという今の日本の音楽シーンに欠かせない2名が担当したリミックスも同時リリースされています。
tofubeatsさんによるリミックスがマイケル・ジャクソン「Jam」的な終わり方をすると思ったら、続くYaffleさんのリミックスはジャネット・ジャクソン「I Get Lonely」を思わせる始まり方…偶然にも、Travis Japanの名前の基になっている振付師のトラヴィス・ペインが深く関わった2名の作品を想起させるのが巧いと感じた次第です。
デビュー日にはSNSを活用したライブ配信、またミュージックビデオのプレミア公開も行ったTravis Japanは、リリース直後にiTunes Storeでのダウンロードチャートについて言及。このような動きもジャニーズ事務所所属歌手では珍しく、今のシーンや施策をしっかり見据えている姿勢が感じられます。
10.28.2022 Worldwide Debut
— Travis Japan (@TravisJapan_cr) October 28, 2022
Degital Single "JUST DANCE!"
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ありがとうございます😭
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今回はこのリリースがチャートにどう影響するかは勿論気になりますが、今回のリリース手法について感じたことを中心に記載します。
今回のリリースにおけるリミックスの投入、その判明がリリースギリギリのタイミングだったのには驚かされますが、このギリギリでのアナウンスは海外歌手のチャート施策を思わせます。そしてリミックスの投入自体、海外の音楽チャートでは大きな意味を持ちます。
Travis Japan「JUST DANCE!」のふたつのリミックスは、ビルボードジャパンソングスチャートでは合算されません。一方で米ビルボードや、米ビルボードが一昨年秋に新設したグローバルチャートでは合算対象となります。それぞれのチャートポリシー(集計方法)については以前、ブログエントリーでまとめています。
この合算について、ビルボードジャパンでは客演等の追加やアレンジ違いは対象外となる一方、言語の違いのみ異なる場合は合算対象としています。
そもそも海外チャートの集計期間初日である金曜にリリースすること自体、日本ではあまりみられないことです。以前Travis Japanのデビューについて触れた際、金曜リリースを不利と説いたのは日本の音楽チャートが月曜起点であるため(下記ブログエントリー参照)。後述しますが、現在の音楽チャートは2強がそびえ立つこともあり尚の事、日本における初週の首位獲得は厳しいと思われます。
一方で、リミックス施策は海外のチャートにおけるダウンロード指標を主体とした上昇を見越せると考えます(ストリーミングにおいては現段階で数値が予想できない状況です)。
そのリミックスを投入するならば、そしてキャピトル・レコードから世界リリースするならば尚の事、海外でも著名なリミキサーを追加で投入することも必要ではないかというのが私見です。同じキャピトル・レコードから登場したサム・スミスの動向を倣ってほしいと考えます。
サム・スミスがキム・ペトラスと共演した「Unholy」はふたつのグローバルチャートで4週連続、米では双方にとってキャリア初となる首位を獲得しています。とりわけ米での首位獲得に大きな役割を果たしたのがディスクロージャーとアークレイズによる追加リミックスの投入。サム・スミスは以前ディスクロージャーに招かれ「Latch」を米最高7位に送り込んだ実績があり、この相性の良さが活きた形です。
そして「Unholy」においては、綿密なスケジュール施策が用意されています。これが首位獲得や維持の原動力と考えて間違いなく、他の歌手にとって学ぶべき点が多々あるといえます(下記ブログエントリー参照)。
Travis Japan側が「JUST DANCE!」を長く売り込みたいと考えるならば、海外で活躍するリミキサーにも依頼することを勧めます。またキャピトル・レコードや関連レーベルのラッパーを客演に迎えたバージョンの用意も面白いかもしれません。
ただ、キャピトル・レコードの対応においては、デビュー時の歌手一覧ページへの未掲載やSpotifyにおけるNew Music Fridayプレイリストへの選出漏れが気になります。尤も後者についてはSpotifyのセレクターに因るところが大きいのですが。
(※なお、日本時間10月29日5時15分に再確認したところ、キャピトル・レコードの歌手一覧にTravis Japanが追加されていました。その点については安堵しています。)
10月29日土曜5時15分(日本時間)に再度チェックしたところ、#TravisJapan の掲載が確認できましたので報告します。https://t.co/Eas25MwgBE pic.twitter.com/TaR1Ov9InK
— Kei (@Kei_radio) October 28, 2022
そもそも今回のリリーススケジュールがビルボードジャパンよりも海外の音楽チャートを意識していると言えるTravis Japan「JUST DANCE!」。日本ではリミックスはオリジナルバージョンに合算されないため、その意味でも有利ではないと言えます。
しかし、先程ビルボードジャパンの合算に関するチャートポリシーの内容を記載しましたが、このチャートポリシーは矛盾をはらんでいると言えます。この状況は問い合わせから4年経過しながら変わっていないため、今一度合算の必要性を記載します。
8月に最高13位を記録した水曜日のカンパネラ「エジソン」は、10月17~23日を集計期間とする最新10月26日公開分(10月31日付)ソングスチャートで動画再生指標が40→2位に急伸(上記CHART insightにて、動画再生指標は赤で表示)。これは集計期間の前週金曜にTHE FIRST TAKEが公開されたことに伴うものですが、THE FIRST TAKEの音源はオリジナルバージョンとは異なり、ここに矛盾が発生します。
ビルボードジャパンソングスチャートの動画再生指標はISRC付番動画を加算対象とするため、THE FIRST TAKE側が公開動画にオリジナルバージョンのISRCを付番していることが矛盾発生の要因と考えられます。またTHE FIRST TAKEにおいては動画の音源リリースも目立ちますが、音源リリースの際はミュージックビデオとTHE FIRST TAKEバージョンとで別のISRCが付番されているだろうことを下記ブログエントリーで記しています。
このような矛盾は以前から指摘し続けており、その度に米ビルボードやグローバルチャートと同様に合算するチャートポリシーに変更すべきと提案しています。オリジナルバージョンと異なるバージョンを同等に扱うことへの異論もあるかもしれませんが、ビルボードジャパンソングスチャートのグローバルチャートとのシームレス化が必要と考えており、その意味でも合算措置は必須というのが私見です。
加えて、以前提案した内容を再掲し、ビルボードジャパンが合算を議論のテーブルに載せることを願います。下記ブログエントリーは3年前のものであり、決してTravis Japan「JUST DANCE!」が登場したから合算すべきと唱えているわけではありません。
主な理由は3つ。1つ目は日本において、チャート上で合算されないことでリミックスや客演という文化が育ちにくいため。2つ目はアメリカで通用する洋楽やK-Popの戦略が日本のチャート上では成立せず楽曲が成功を収めにくくなり、最終的に日本を主要な音楽市場とみなさなくなる可能性があるため。そして3つ目は、日本の音楽業界で"仕掛け"という戦略や気概が生まれにくいため。
ダウンロード指標が高ければグローバルチャートでの200位以内エントリーも有り得るTravis Japan「JUST DANCE!」ですが、そのグローバルチャートでもストリーミングが強くなければ短命に終わってしまいかねません。そして日本においても、ストリーミングや動画再生といった接触指標群の高値安定がロングヒットの鍵となっています(なお米ビルボードやグローバルチャートでは、動画再生はストリーミング指標に含まれます)。
最新10月26日公開分(10月31日付)ビルボードジャパンソングスチャートを初制覇したOfficial髭男dism「Subtitle」は、ドラマ『silent』(フジテレビ)の人気上昇に合わせてストリーミングが急伸。次週の集計期間前半3日間(10月27~29日)の速報値では歴代3位の高水準に至っており、上記ミュージックビデオの公開も相俟ってポイント上昇の可能性は十分です。
『週前半3日間の集計が800万回を超えるのは、BTS「Butter」が記録した14,835,102回(集計期間:2021年5月24日~26日)と8,278,683回(集計期間:2021年5月31日~6月2日)、「Permission to Dance」が記録した9,190,740回(集計期間:2021年7月12日~14日)に続き史上3曲目となる。』 https://t.co/dPLUNSpqwK
— Kei (@Kei_radio) October 28, 2022
また、米津玄師「KICK BACK」が次週も2位に就く可能性が高いと思われます。この2曲の動向については、最新ソングスチャートを記したブログエントリーで紹介しています。
この高水準の2曲にTravis Japan「JUST DANCE!」が挑むにはスケジュールの観点からも難しいといえますが、より大事なのはロングヒットであり、腰を据えて施策に取り組む必要があります。日本独自の企画等の用意も重要でしょう。
常日頃唱えていることですが、ビルボードジャパンソングスチャート、米ビルボードソングスチャート、グローバルチャートいずれにおいても、週間チャートと同等、もしくはそれ以上に重要なのがロングヒットです。
— Kei (@Kei_radio) October 28, 2022
ですので、真のヒット曲に至っているかは数週の動向を踏まえて判断する必要があります。
一方でビルボードジャパン等日本の音楽チャート側は、J-Popの世界でのヒットが可視化されてきた現状を踏まえ、世界のチャートポリシーに即し金曜を集計初日とするよう変更してほしいと提案します。これもまた、以前から述べていることです。
先程はTravis Japan「JUST DANCE!」において『日本向け施策の用意も重要』と書きましたが、集計期間開始曜日が異なる海外と日本のチャートでは同じ施策が同じだけ有効になることはほぼありません。これが歌手側にとって追加施策の用意等の面で負担になる可能性を考えれば、そしてグローバルチャートの認知浸透の意味でも、ビルボードジャパンが変わることが必要だと考えます。
Travis Japan「JUST DANCE!」がヒットするほど、音楽チャートにおける日本とアメリカやグローバルとの差が浮き彫りになるかもしれません。ビルボードジャパンには再度、前向きな検討を強く求めていきます。