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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパン各種チャートに対するチャートポリシー変更等を提案する (2023年度に向けて)

昨日、このようなことをつぶやきました。

新年度開始まで残り1ヶ月。おそらくはまだ検討の余地があるという解釈の下、今回はビルボードジャパンに対するチャートポリシー(集計方法)改善提案をまとめます。

 

 

今回のチャートポリシー変更については既に提案しているものもあり、そちらについては過去のブログエントリーを再掲する形で紹介します。なおビルボードジャパンは、来年度よりルックアップ指標およびTwitter指標を廃止することを既に表明しています。

ビルボードジャパン各種チャートに対するチャートポリシー変更等の提案

 

 

① アルバムチャートにおけるストリーミング指標の導入

こちらについては、次年度における2指標の廃止理由を含め、下記ブログエントリーに記載しています。

ルックアップはレンタルCDの取込も加算されるため、接触指標的意味合いを持っています。しかしルックアップを廃止することでアルバムチャートはフィジカルセールスおよびダウンロードという所有指標のみとなり、レンタルが大きな役割を果たしてきたロングヒット作品の可視化が難しくなります。所有指標と、たとえばSpotifyが独自に用意する再生回数に基づくアルバムチャートとも大きく乖離します。

ビルボードによるアルバムチャートは、ストリーミング(動画再生含む)のアルバム換算分(SEA)および単曲ダウンロードのアルバム換算分(TEA)がフィジカル/デジタルセールスに加算され、ユニット単位で計算されます。TEA、またSEAのうち動画再生分については加算が難しいかもしれませんが、SEAのうちストリーミング再生回数分の加算はできるものと考えます。ロングヒット作品の可視化の意味でも検討を願います。

 

② リミックス等別バージョンの合算化

こちらについては昨日のブログエントリーにて記しています。

海外のチャートと異なり合算しないチャートポリシーを採用しているビルボードジャパンですが、THE FIRST TAKE等動画の合算や、そもそも言語のみの違いは合算対象とすること自体が矛盾と言われてもおかしくないでしょう。

リミックスや客演文化の醸成、洋楽やK-Popの戦略が日本のチャート上では成立しにくくなることで日本を主要な音楽市場とみなさなくなる状況を回避すること、日本の音楽業界に施策という概念を生みやすくすること、そしてグローバルチャートへの登場を含めたJ-Popの世界進出という意味でも、米ビルボードやグローバルチャートと同様のチャートポリシーにしていくことが必要です。

 

③ チャート集計期間の金曜開始
④ グローバルチャートの認知浸透とJ-Popランクインの紹介

J-Popはグローバルチャートに登場していますが、ビルボードジャパンが月曜集計開始であることやCDに合わせた水曜デジタルリリースが多いことにより、ビルボードジャパンソングスチャートで初登場週に成功を収めても金曜集計開始のグローバルチャートでは同等の成功を得にくい状況であることを、米津玄師「KICK BACK」を例に紹介したばかりです。

デジタルリリースする以上は海外に進出しているのと同等と言っても大袈裟ではありません。聴取可能環境はドメスティックからグローバルへと大きく変化しています。

ビルボードは2020年秋にグローバルチャートを用意し、世界中でのヒット曲を可視化しています。そのチャートの紹介が日本で不十分であることも問題ですが(それゆえこのブログでは、グローバルチャート速報段階で翻訳し紹介しています)、J-Popが日本でヒットすべく日本向け戦略スケジュールを策定してもそれがグローバルチャートでは活きにくいのは機会損失と言えるでしょう。ゆえに金曜集計開始とすることを希望します。

またビルボードジャパンには、グローバルチャートトップ10速報記事の翻訳に加えてグローバルチャートにランクインしたJ-Popの詳細な順位も報じることを願います。特にGlobal Excl. U.S.は米ビルボード有料会員限定の公開であることや、米ビルボードによるチャート専用Twitterアカウントが同チャートの初登場曲を紹介するものの毎週行っているわけではない等、米ビルボード側の情報発信が不十分であるゆえ尚の事です。

J-Popはデジタル環境化において既にグローバルチャートに登場していることは、TOKIONに寄稿したコラム(後述)でも伝えています。ビルボードジャパンがグローバルチャートと同様のチャートポリシー(集計期間の統一や合算化)を行うことで、J-Popがドメスティック向けの施策を採りながらグローバルチャートでも好成績を収めることが可能です。

 

⑤ 動画再生回数チャートの作成

ソングスチャートにおけるウエイトがストリーミングほど大きくはないものの、接触指標である動画再生はロングヒットにつながる大きな役割を果たしています。この動画再生指標において、欠損という状況が時折みられます。

特にJO1「SuperCali」においては、上記ブログエントリーを機にビルボードジャパンに質問してくださった方がいらっしゃいます。そしてその結果、ミュージックビデオが欠損だった模様という結論に至っています(ただしその報告をいただいた直後に当該ツイートを含めて非公開化されたため、直接の掲載はできなくなりました。問い合わせと報告について、この場を借りて感謝申し上げます)。

ビルボードジャパンソングスチャートの動画再生指標は、ISRC(国際標準レコーディングコード)を付番した動画が集計対象となり、欠損とはそのISRCが未付番であることを指します。ISRCは動画公開後でも付番可能なのですが、ビルボードジャパンは欠損が確認できた際に各レコード会社に対し欠損の存在と改善を促していることが、同社のFAQから伺えます。

その姿勢は素晴らしい一方で、しかし負担は小さくないとも言えるでしょう。そこで動画再生指標の基となる数値を別途チャートを設けて紹介することを提案します。動画再生回数チャートの用意は、レコード会社等がそれを基に欠損の可能性を自発的に見出す流れを作る意味で重要であり、そして何よりビルボードジャパン側の事務作業軽減につながるでしょう。

 

⑥ ストリーミング指標等カウント対象の下限拡大、もしくは撤廃

ストリーミング指標はサブスクの再生回数等に基づきますが、その中の1サービスでデイリー200位までの再生回数が可視化されたSpotifyでは、200位の水準(再生回数)が上昇しています。こちらについては徒然研究室さんが分析し、ツイートやnoteで発信されています(この場を借りて、データを見やすく解りやすい形で可視化してくださったことに感謝申し上げます)。

これにより、ビルボードジャパンが加算対象とするストリーミング指標300位の水準上昇も考えられます。一方で各指標301位以下はポイントに加算されないため、ビルボードジャパンによるストリーミング再生回数大台突破アナウンスにおいても未加算週が発生する(している)かもしれません。ビルボードジャパンと同じGfK Japanの提供データに基づき算出を行う日本レコード協会の発表とのズレにもつながる可能性があります。

300位の水準上昇(ストリーミングユーザー数の増加等と捉えることが可能)を考慮し、また日本レコード協会とのズレ(の可能性)解消のためにも、ビルボードジャパンは影響力が拡大する指標については加算対象順位を引き下げる、もしくは下限を撤廃することを視野に入れる必要があるのではないでしょうか。

 

⑦ フィジカルセールス指標のウエイト減少

ルックアップやTwitterといった新年度に廃止される2指標はいずれもボーイズバンド(ボーイズグループ)が強いため、この提案はともすれば反発を招くかもしれません。しかしながらフィジカルセールスばかりが強い作品は週間チャートでこそ最上位に近い位置に到達できても、ロングヒットしにくい傾向は今も変わりません。これは今年度のビルボードジャパンソングスチャートにおける週間1~3位獲得曲の動向から明らかです。

ビルボードジャパンは今年度初週にフィジカルセールスの係数処理対象枚数を10万→5万と引き下げました(枚数は推定)。今年度上半期に大ヒットしたAimer「残響散歌」やKing Gnu「一途」の初週フィジカルセールスが5万枚に達しなかったこともあり、係数処理対象枚数の設定値は問題ないと考えます。

1位獲得曲こそその翌週に100位圏外になることはなくなったこともこの係数処理対象枚数の妥当性につながっている一方、2位や3位ではその事象が少なからず発生します。フィジカルセールスに強い曲の翌週におけるポイント前週比の低さはデジタルの強くなさのみならず、フィジカルセールスがルックアップと乖離することでユニークユーザー数が売上枚数ほど多くないことも背景にあると考えられます。

(なお、ルックアップ指標の廃止によりユニークユーザー数の推測が極めて難しくなります。指標の廃止自体には賛成する一方、この点を懸念しています。)

尤も上位進出の翌週におけるポイント前週比問題については、各曲がデジタルで強くなることがひとつの解決策と言えます。その一方で、一部歌手においては特典に伴うフィジカルセールス再浮上に伴い総合ソングスチャートでも100位以内にも復活しながら、フィジカルセールス以外の指標が弱いためにフィジカルセールス共々総合チャートでも急落する事象がみられます。

上記リンク先でSKE48「あの頃の君を見つけた」を例に挙げていますが、健全なチャートアクションとは呼びにくいでしょう。5万枚に満たないフィジカルセールスであったとしてもこのような再浮上と急落という極端なチャートアクションが生まれることを考慮し、フィジカルセールス指標全体のウエイトを引き下げる必要があると考えます。

未だフィジカルセールスばかりが長けた曲が上位に登場しながら翌週急落する傾向にある曲を社会的ヒット曲とは呼びにくいでしょう。歌手側の改善も必要ですが、ビルボードジャパンがフィジカルセールス指標のウエイト減少を毅然と実行することで、歌手側の改善を促すことを希望します。

 

ビルボードジャパンによるチャート発信の徹底

この点は以前から述べていますので再掲します。特に定時発表については、チャートの世間一般への認知度(少なくともそのブランド名について、ですが)がより高いと思しきオリコンが午前4時に定時発表していること、そしてその徹底から得られる信頼について、ビルボードジャパンは考えてほしいと強く願います。

何度も申し上げていますが、ビルボードジャパンにはあらためて以下を提案します。

ビルボードジャパン チャート発表(更新)に関する改善案>

・最新チャートを夕方、定時に発表する

・夕方までに総合チャートや各指標の記事を揃える

  (その際に不備が見つかる可能性があり、それを見つける目的にもなる)

・発表時間直前から生配信し、カウントダウンと解説を行う

  (ソングスチャートのカウントダウン→公開→解説の流れが最善)

・生配信の模様を直後にアーカイブ(ポッドキャスト)化し、収録の手間を省く

・不備が続くならば管理体制を変更し、また責任の所在を明らかにする

 

 

今回の8つの改善要望について、その多くは1年前にも提示しています。

そして今年度のグローバルチャートのうち、Global 200ではJ-Popが毎週200位以内にランクインしています。Global 200から米の分を除いたGlobal Excl. U.S.に比べてJ-Popの順位が全体的に下がる傾向にあるGlobal 200においてJ-Popが常時200位以内に登場する状況は、J-Popのグローバル認知の可能性、そして市場の拡大を感じさせるに十分です。

TOKIONに下記コラムを寄稿した者として、世界のチャートを追いかける者として、ビルボードジャパンが合算基準や集計期間におけるチャートポリシーをグローバルチャート仕様にすることは必要と考えます。ルックアップやTwitter指標の廃止という毅然とした態度がデジタル未解禁歌手やデジタルに強くない歌手のデジタル意識を高める効果を持つと捉えており、チャートのグローバル化もまた音楽業界の改善を促せるでしょう。

 

今回の提案がひとつでも叶うこと、少なくとも議論のテーブルに載せていただけることを、心から願います。