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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパン、新年度からルックアップ・Twitter指標を廃止…チャートポリシー変更への私見と提案を記す

2022年度の音楽チャートが最終盤となり、次年度以降の改定が聞こえ始めています。その中で一昨日に発表されたビルボードジャパンによるチャートポリシー(集計方法)変更は、とりわけ大きな衝撃を与えています。

ビルボードジャパンは昨日朝までにアップした最新ポッドキャストの冒頭でも、チャートポリシーの変更を紹介しています。表題が”ヒットチャートはどう変わる?”とありながら、踏み込み度合いは薄いと感じています。

今回はビルボードジャパンによる次年度のチャートポリシー変更の中身を捉え、私見を記載します。

 

ビルボードジャパンはソングスチャート(Hot 100)においてこれまで8指標で、アルバムチャート(Hot Albums)については3指標で構成していましたが、2023年度初週となる12月7日発表分(12月12日付)からはTwitter指標およびルックアップ指標を廃止することで、前者は6指標、後者は2指標での構成へと変わる予定。またこの発表により、2022年度は11月30日公開分(12月5日付)までの52週となることも判明しました。

(なおこれに伴い、ビルボードジャパンが展開するCHART insightからも2指標が廃止されることになりますが、ポッドキャストにてチャートディレクターの磯崎さんは残す方向であると明かしています。この2指標は是非確認できる状況を続けてほしいと願います。)

 

さて、今回廃止される2指標をおさらいします。ルックアップ指標はCDをパソコン等インターネット接続機器にインポートした際、インターネットデータベースのGracenoteにアクセスする数を示します。これにより売上枚数に対する実際の購入者数(ユニークユーザー数)、またレンタル枚数の推測が可能となります。

Twitter指標はひとつのツイートに歌手名と曲名を併記した場合にカウントされ、略称での記載も加算対象となります。またリツイートもカウントされますが、非公開アカウントのそれは対象外となります。

今回の廃止の理由として、ビルボードジャパンは『ルックアップ指標については、データ提供元の事情により今後継続して同様のデータ集計が不可能になるため、またTwitter指標については、ラジオ以外でのメディア露出効果を図ることを目的として集計を開始したが、他指標で十分に効果が測れるようになったため』と記しています(『』内は記事より)。そして2指標とも、廃止に至る前にウエイトの減少措置が行われていました。

 

このブログエントリーではTwitterに関して、構成指標からの除外も視野に検討すべきと以前提案したことがありました。Twitter指標がたとえばデジタルに明るくない作品の救済措置の役割を担っていること、指標に特定の傾向がみられること、そして米ビルボードでは当初からソングスチャートに組み込んでいないことがその理由です。

ビルボードジャパンが廃止の理由として挙げた『他指標で十分に効果が測れる』ことについては、特にテレビ出演効果がダウンロードに大きく反映されることが解っています。以前はデジタル未解禁作品が多かったためTwitter指標で補完するという意味合いもあったはずですが、デジタル解禁歌手が増えたことでたしかにTwitter指標の意味合いは薄れたと考えます。

またルックアップに関しても特定の傾向があることが判明していますが、TSUTAYAやGEOといったレンタルチェーンにレンタル事業縮小もしくは廃止の傾向がみられることで、いずれ縮小されるものと捉えていました(それゆえ、Gracenote側の事情での”廃止”は予想だにしなかったことではあります)。TSUTAYAフランチャイズの昨夏の動向と、偶然にもこのタイミングで登場したGEOについての記事を紹介します。

ビルボードジャパンでは2020年度のYOASOBI「夜に駆ける、2021年度の優里「ドライフラワー」と2年連続でフィジカルシングル未リリース作品が年間ソングスチャートを制しており、言い換えればフィジカル自体が作られないという音楽業界の環境の変化がみられます。それも原因としてですが、ルックアップ指標には特定の傾向が見えてきます。Twitter指標と合わせて、今年度の動向をみてみましょう。

 

・2022年度ビルボードジャパンソングスチャート 四半期毎のルックアップ指標推移

・2022年度ビルボードジャパンソングスチャート 四半期毎のTwitter指標推移

ルックアップ、Twitter指標共にボーイズバンド(男性アイドルやダンスボーカルグループ)が占める傾向があり、これはひとつの客観的事実として受け止める必要があります。

 

実際、今回のビルボードジャパンによる発表を機に、KAI-YOUが同日このような報じ方をしていましたが、その内容には以前のビルボードジャパンに対するインタビューを織り交ぜたもの。廃止する指標がいわば”チャートハック”の対象であったことを示唆していました。

KAI-YOUの記事が事実と以前のインタビュー内容を併記する一方、ビルボードジャパンは今回の発表やポッドキャストの双方で意図を発信していません。ゆえに、仮にKAI-YOU側の指摘が背景にあったとして、このような報じ方は危険だと考えます(記事の書き手はhttps://twitter.com/Wsword1126/status/1585218180485505030?s=20&t=EHUnMbuL96EdtozHX5o6Sghttps://twitter.com/Wsword1126/status/1585218180485505030?s=20&t=EHUnMbuL96EdtozHX5o6Sgこのようなツイートもしており、尚の事強く思います)。チャート”ハック”というマイナス表現を多用する段階で、KAI-YOU側の意図が見えてくるかのようです。

とはいえ、推測される(邪推ともいえる)意図を完全に拭い去ることはできないと考えます。たとえばルックアップにおいてはその大半がデジタル未解禁であるジャニーズ事務所に所属する、Twitterにおいては地上波音楽番組(特に『ミュージックステーション』(テレビ朝日))への出演が叶っていないジャニーズ事務所以外のボーイズバンドのコアファンを主体に、伸ばせるところを伸ばし弱点を克服したいという思いがあるでしょう。

それを単に”チャートハック”と非難するのは簡単ですが、その背景にあるものを察知し、改善を促す提案を実施するほうがはるかに前向きです。至極簡単に理想を述べるならば、ジャニーズ事務所所属のボーイズバンドがデジタルを解禁すること、ジャニーズ事務所所属以外のボーイズバンドが地上波音楽番組に出られること…これら環境の整備が、大きくいえば日本のエンタテインメント全体の改善につながると考えます。

 

今回のビルボードジャパンによるチャートポリシー変更からは、自身が日本を代表するチャートであるという毅然とした態度を感じます(KAI-YOUのインタビューでLINE MUSIC再生キャンペーンを非難することでLINE MUSIC側に再生回数カウント変更を暗に促した、その際の態度(→こちら)と大きく異なります)。そしてチャート側が音楽業界の改善を促すフェーズに突入したのではとも捉えており、その姿勢に賛同します。

他方今回を機に、一部組織やそのコアファンからそっぽを向かれる可能性もあるのではという危惧も捨てきれません。ビルボードジャパンは自らの認知度を高め信頼度を増す(特に一時期目立ったミスの連続を絶対に起こさない)ことで業界内外や広く海外にも支持者を集め、日本の音楽業界がチャートを無視できない環境を築き上げることを願います。そしてメディアが行うべきは、そのチャートへの正当な批評、そしてエンタテインメント業界改善に向けてどうするかを考え提案することでしょう。

 

 

そしてここからは、ビルボードジャパンへの改善提案について記します。

ルックアップ指標は購入したCD、レンタルしたCD双方の取り込みが対象となるため、所有/接触双方の側面を持ち合わせています。新年度からルックアップ指標が廃止され、アルバムチャートはフィジカルセールスとダウンロードという所有2指標のみが加算対象となることで、これまでレンタルが大きな役割を担っていた接触指標に強い、ロングヒット作品の把握はできにくくなるものと危惧します。

これは最新10月26日公開分(10月31日付)ビルボードジャパンアルバムチャートにおける総合チャートとルックアップ指標との比較、またチャートイン週数との関係からも解るでしょう。例えば下記CHART insightは、最新週のアルバムチャート総合1~6位、およびルックアップ指標1~6位を示したものです。

このブログでは以前より、ビルボードジャパンに対しアルバムチャートへのストリーミング指標導入を提案しています。導入された米ビルボードでは支持される作品がロングヒットに至れています(なお米ではストリーミング指標に動画再生を含み、また単曲ダウンロードも指標のひとつですが、まずはサブスク再生回数に基づくストリーミング指標だけでも導入すべきと考えます)。ただし米ビルボードのチャートポリシーでは曲数に関係なく分母が一律で収録曲が多いほうが有利となるため、その部分の改善は必要です。

アルバムチャートに接触指標であるストリーミングを導入することに違和感を抱く方もいらっしゃるかもしれませんが、先述したようにルックアップが接触指標の側面も持ち合わせている以上は特段問題ないものと考えます。そして現状のアルバムチャートにおける『ソングスチャートでヒットした曲を収録した作品が上位に届きにくい構造』や『フィジカルセールス優先のためのデジタル後発施策』を減らす意味でも、ストリーミング指標導入の前向きな検討を願います(『』内は下記ブログエントリーに記載)。

 

 

今回のチャートポリシー変更を発表したビルボードジャパンのツイートには、様々なリアクションが寄せられています。

今回の廃止以外の変更がない限り、ソングスチャートにおいてフィジカルに強い作品が週間でも首位を獲得できる可能性は低くなったと捉えています。しかしデジタル環境を整備し、そこにフィジカルセールスを追加で充てることでチャートアクションをより強固にできるでしょう。その最高の例になりそうなのが米津玄師「KICK BACK」であり、高水準を維持したタイミングでフィジカルセールスが加算されることが見込まれます。

しかし、常に大ヒットを記録する歌手は存在しないといえます。今年度をみても、米津玄師さんは「M八七」がトップ10内6週/100位以内15週在籍にとどまり、「POP SONG」は2週/10週という状況。またサブスクに強いと言われるYOASOBIは「祝福」がロングヒットの兆しをみせながら、今年リリース曲は「好きだ」が1週/5週、「ミスター」については0週/5週の状況です。YOASOBIはSpotifyの動向を別途紹介しています。

大ヒット、ロングヒットに至るのはサブスクに強いと言われる歌手でも至難の業であり、ライト層の獲得がヒットを大きく左右することになるのです。そして実際に大ヒットやロングヒットした曲の認知度の高さは、この数年におけるビルボードジャパンソングスチャート年間上位曲と世間一般との認知度との乖離の低さから理解できるはずです。

これまでルックアップやTwitter指標が常時高い位置にいた歌手側にとっては、フィジカルセールスが常時強いというアドバンテージがあり、はっきり強みだといえます。歌手側のデジタル等環境の整備、エンタテインメント業界の改善提案は勿論のこと、彼らを支持するコアファンはライト層に向けての施策立案に努力をシフトすることを勧めます。ゆえに引用RTでみられた”廃部”等一部の反応ははっきり勿体ないと言えるのです。

 

 

チャートポリシー変更後の動向を確認し、チャートに問題があれば改善を促すことが必要です。このブログでは新年度以降も、ビルボードジャパンソングスチャートおよびアルバムチャートの動向を注視していきます。