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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパン年間アルバムチャートの記事から表を作成、そこからみえてくるものとは

ビルボードジャパンは12月8日金曜に2023年度年間チャートを発表しています。このブログでは同日にソングチャート主体とした分析を行ったほか、翌日にソングチャートについて詳細な分析を行っています。

今回はアルバムチャートを取り上げますが、結果から見えてくるのは年間チャート振り返り時におけるトピック10項目の中でも取り上げた【所有指標のみになったアルバムチャートの、ソングチャートとの乖離】です。

 

 

ビルボードジャパンは上半期に続き、年間アルバムチャートは100位まで、そして構成2指標については20位までを数値付にて公開しています。それらを踏まえ、下記表を作成しました。

今回は比較対象として、2022年度の年間アルバムチャートの表も用意。こちらではルックアップを除く2指標において、10位までの数値が公開されています。

 

アルバムチャートにおいては2022年度と2023年度にて大きく変容していますが、これは構成指標のひとつであったルックアップが2022年度にて終了したことに伴います。ルックアップとはCDをパソコン等に挿入した際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスする数を示し、CD売上枚数に対する購入者数(ユニークユーザー数)、およびレンタル枚数をある程度推測することが可能な指標となっていました。

このルックアップがレンタル枚数を推測可能とするため、同指標は接触的な役割も果たしていました。そのため、より支持される作品がロングヒットする傾向にあったのですが(ただしCD未リリース作品は除く)、ルックアップ指標の廃止に伴い所有指標のみのチャートとなったことでフィジカルセールスに強い作品の影響力がより大きくなっています。ルックアップの有無における差については、上半期振り返り時に紹介しています。

 

フィジカルセールス1枚とダウンロード1DLとでは後者のウエイトが高い一方、ダウンロードは全体的に下がっている印象があります。加えて、数値の面でフィジカルセールスが圧倒していることもあり、フィジカルセールスの順位が総合チャートのそれとほぼ一致する形です。ゆえにデジタル未解禁の旧ジャニーズ事務所所属歌手や、ダウンロード順位が高いとはいえないK-POP男性歌手の作品が総合で上位に進出しています。

男性アイドル/ダンスボーカルグループにおいては総合20位までのランクインが2022年度は11作品に対し、2023年度は15作品。BTSのメンバーによるソロ作を加えれば、2023年度は20作品中17作品を占めることに。そして2023年度においては、総合トップ10を男性アイドル/ダンスボーカルグループが独占しました。

 

他方、米ビルボードではアルバムチャートに、単曲ダウンロードのアルバム換算分、そしてストリーミング(動画再生を含む)のアルバム換算分が含まれます。それに伴い、特にソングチャートでヒットする曲を収録したアルバムがロングヒットする傾向となり、ソングチャートとアルバムチャートとがリンクしています。この点は、米ビルボードの2023年度年間チャートにてはっきりと証明されているといえるでしょう。

※上記ポストにおいてHot 100はソングチャート、Billboard 200はアルバムチャートを指します。

ビルボードによるアルバムチャートのチャートポリシー(集計方法)は収録曲数が多いほど有利になるという問題はあるものの、アルバムチャートから社会的ヒット曲がある程度解ります。では仮に、ビルボードジャパンアルバムチャートにストリーミングのアルバム換算分を組み込んだらどうなるでしょう。この点については、Spotifyによる週間アルバムチャートの推移から、みえてくるものがあります。

接触指標が仮に導入されればビルボードジャパンの週間チャート、そして年間チャートでも大きく変わったであろうことは、Spotifyによる週間アルバムチャートから断言できるでしょう。このSpotifyチャートも収録曲数の多さが有利になるとはいえ、ソングチャートでヒットした曲を含むアルバムが上位に進出しています。では、このチャートで存在感を発揮したアルバムの、ビルボードジャパンにおける結果をみてみましょう。

年間ソングチャート首位の「アイドル」を含むYOASOBI『THE BOOK 3』は年間アルバムチャート30位、同じくソングチャートで「美しい鰭」がトップ10入りしたスピッツ『ひみつスタジオ』は同41位に。またソングチャート100位以内に10曲を送り込んだMrs. GREEN APPLEによる最新アルバム『ANTENNA』は年間アルバムチャート27位、同じく6曲を輩出したback number『ユーモア』は同19位となっています。

(back number『ユーモア』のCHART insightは後述します。)

ソングチャートで存在感を発揮した(すなわち接触指標が強かった)曲を含むアルバムはダウンロード指標の強さに伴い年間アルバムチャートである程度上位に進出はしているものの、所有のみ且つフィジカルセールスの影響力が強いチャートポリシーの下では週間/年間の双方で上位に進出しにくい状況です。それでも2023年度年間アルバムチャートで上位に入った作品よりロングヒットすることが、CHART insightから見て取れます。

ビルボードジャパン年間アルバムチャート 上位20作品のCHART insight>

 ※ 年間アルバムチャート、1位から順に掲載。

 ※ 年間チャート最終週(11月29日公開分)までの最大60週分を表示。

 ※ 順位、チャートイン回数およびチャート構成比は11月29日公開分を指します。

 ※ CHART insightの見方については、以下のポストをご参照ください。なおアルバムチャートはフィジカルセールスおよびダウンロードの2指標で構成されています。2022年度まではルックアップも含まれていました。

 

 

年間アルバムチャートで上位に入った作品においては瞬発力が高い一方で持続力が高くないものも少なくない状況です(ゆえに結束バンド『結束バンド』の強さが際立ちます)。ルックアップが残っていれば、そしてストリーミングのアルバム換算分が加わっていれば、状況は少しでも変わっていたかもしれません。

 

 

今回の分析や提案は、フィジカルセールスに強い歌手が不利になるよう勧めたり願うというものではありません。所有指標、特にフィジカルセールスの強さは素晴らしいことですが、現状においてソングチャートとアルバムチャートとの乖離が際立つことは改善の必要があるという指摘です。所有指標で強い作品が接触指標でも強くなれば社会的認知度も上昇し、誰もが納得できるヒット作品と言えるように成ることでしょう。

2024年度初週にあたる12月6日公開分のビルボードジャパンアルバムチャートでは現行のチャートポリシーは変わらず、引き続き所有指標のみのアルバムチャートとなっています。今回掲載した内容、CHART insightの順位推移等を踏まえ、ビルボードジャパンがチャートポリシーを見直すことを引き続き提案していきます。

 

 

最後に。そもそもアルバムの環境については、ビルボードジャパン以外にも改善が必要な対象は多数あると考えます。

たとえば新作がリリース時にもっと聴かれるようサブスクユーザーが増えること、日本を代表する音楽賞が創設されアルバムにきちんと光を当てること(日本レコード大賞においてアルバム部門が消滅した(模様である)ことも問題です)、音楽誌が質の高いアルバムをネットでもきちんとを掲載すること(年間ランキングを各誌が取り上げ、それをまとめたAOTY的なものも登場すること)…これらの改善も急務と考えます。

これらが改善されることでアルバムの多角的な評価へとつながり、その反響が特にデジタルに反映されるようになれば、ビルボードジャパンもチャートポリシー見直しを前向きに検討するようになるのではないでしょうか。