8日前のブログエントリーにて、KAI-YOUによるビルボードジャパンへのインタビュー記事について私見を記載しました。
『行き過ぎたものもありますが施策の多くは歌手側や各指標のデータ提供元によって生まれるわけであり、あたかもコアファンのチャート施策のみに、それも"ハック"と形容した上で言及するビルボードジャパン上層部やKAI-YOU側に強い違和感を覚えるというのが私見です。』https://t.co/B0EUiz5l2P
— Kei (@Kei_radio) August 6, 2022
そもそも、"ハック"というマイナスイメージを想起させる言葉や、"それって楽しいですか?"という表現が引っ掛かりました。ならばそれらが影響しにくいチャートポリシーへの変更と、不都合に隠しているとコアファンの方々に思われないために(実際そういう指摘が見られたゆえ尚の事、)チャートポリシーの内容や変更時の開示は必要だと考えます。
とはいえ、ビルボードジャパンの指摘内容が全て問題というわけではありません。今回は最新週前後のチャート上昇作品においてみられる動きを中心に紹介しつつ、自分なりの考えを記します。
KAI-YOUの記事は下記ツイートのリンクをご参照ください。
Billboard運営が警鐘「チャートハック目的では音楽を“聴く“とは言えない」https://t.co/2WGofjj9Nx #kai_you
— KAI-YOU (@KAI_YOU_ed) August 6, 2022
「再生数キャンペーン」など、ファンダム・レーベル・アーティストの意図的なチャート操作に対し、Billboard JAPANは何を思うのか。ヒットチャートのもたらす意義について取材しました。
まずはTwitterについて。ビルボードジャパンソングスチャートを構成する8指標のうち、米ビルボードソングスチャートにはないものがいくつか存在します。その中のひとつがTwitterですが、KAI-YOUの記事ではチャートディレクターの礒崎誠二さんが『口コミとしてTwitterは導入当初係数を高めに設定していました』と語っており、2021年度第4四半期初週における同指標のウエイト減少に信憑性を与えています。
(なおKAI-YOU記事では、礒崎誠二さんの役職がBillboard事業本部上席部長となっています。)
しかし昨年度第4四半期のウエイト減少以降も、総合チャートとの乖離が目立ちます。目立つのはジャニーズ事務所所属歌手を除く男性ダンスボーカルグループ(ボーイズバンド)の上位進出であり、フィジカルシングルのカップリング曲も複数エントリーしている状況です。チャートポリシー変更後、最新週までの動向を下記に。
尤もTwitter指標のウエイト減少は、このブログでも以前からその必要性を訴えていました。米ではTwitterのようなSNSの反応はソングスチャートに組み込まれておらず、日本でも除外することを視野に入れる必要があるとも考えています。とはいえKAI-YOUの記事を読む限り、ビルボードジャパン側は除外を検討してはいないようです。
個人の経験として、先日とあるバラエティ番組にボーイズバンドのメンバーが出演した際、番組では終了直前の告知まで登場しなかったはずのその歌手の新曲のタイトルが歌手名共々ツイートに併記したものが放送中に散見されました。その番組を観つつSNSも楽しむ方でボーイズバンドへの興味が高くない方への刷り込みにはなるのかもしれませんが、脈略のない新曲タイトルの盛り込みはたしかに好ましくないと感じた次第です。
米では以前Social 50という歌手単位のSNSリアクションチャートがありましたが、K-Popアクトの占拠が続きソングスチャートとの乖離が目立ったこともあってか、そのチャートを取り止めに。米ビルボードはその後楽曲単位のSNSリアクションチャートポリシーであるHot Trending Songsを用意しましたが、K-Popの強さが目立つ状態です。
KAI-YOUの記事で触れられていたコアファンの活動、もうひとつはストリーミングの再生回数に大きく影響を及ぼすLINE MUSIC再生キャンペーン(再生回数キャンペーン)です。Rakuten Musicでも同種のキャンペーンは実施されていますが、ユーザー数等の規模を考えれば、LINE MUSICの影響力は大きいことは自明です。
こちらは2018年9月12日掲載分。対象は1曲ではなくアルバム単位となっています。https://t.co/uSofSSNLzn
— Kei (@Kei_radio) August 8, 2022
2018年5月まで @LINEMUSIC_JP MAGAZINEを遡ってみたものの再生キャンペーンは見当たりません。ともすればTWICE『BDZ』が最初の再生キャンペーン対象作品かもしれません。
このLINE MUSIC再生キャンペーン、対象はアルバムであれど4年前には既に始まっていたことが解ります。キャンペーンの影響力は施策開始初期にはそこまでではなかったかもしれませんが、ビルボードジャパンはこの頃からきちんと対策を練る必要があったと考えます。
LINE MUSIC再生キャンペーンを採用する歌手は、今では少なくありません。この施策も反映され8月3日公開分(8月8日付)ビルボードジャパンソングスチャートでBE:FIRST「Scream」が首位を獲得しましたが、翌週にはトップ10圏外となってしまいました。
BE:FIRST「Scream」については施策が数多く実施され、マーケティングの面でその巧さについてブログエントリーをアップしましたが、その際このようなことを記しました。
LINE MUSIC再生キャンペーンを実施したBE:FIRST「Bye-Good-Bye」およびBTS「Yet To Come (The Most Beautiful Moment)」はポイント前週比5割台前半となり、中間といえます。「Scream」は少なくとも5割台をキープできるかが課題と考えます。
しかしながら最新8月10日公開分(8月15日付)ビルボードジャパンソングスチャートではポイント前週比32.1%となり15位に急落。フィジカル未リリースで総合チャートを制した曲が翌週トップ10圏外となる初の記録となってしまいました。
浮かぶのは、LINE MUSIC再生キャンペーンが果たしてライト層を取り込めたのかという疑問。そもそも動画再生を含む接触指標群は急落しにくい性質のものであり、ロングヒットの要となるものです。BE:FIRSTはアルバム『BE:1』リリース前に続々先行解禁を実施し「Scream」の再生回数が他曲に移行したという見方もありますが、曲にライト層が付いたならばストリーミング指標の2→35位という急落には至らなかったでしょう。
LINE MUSIC再生キャンペーンは、ライト層の影響力が大きい接触指標のストリーミングにおいてコアファンの熱量に伴うチャート上昇を可能としました。このコアファンの熱量は、フィジカルがリリースされるならばそのセールスに大きく影響を与えるものであり、LINE MUSIC再生キャンペーン終了後の再生回数急落や総合チャートのダウンはフィジカルセールス2週目のアイドル曲等の動向を想起させるに十分です。
【ビルボード】ジャニーズWEST『星の雨』初週25.1万枚でシングル・セールス首位、自己最多初週記録を更新 https://t.co/Xb3SX44pwR pic.twitter.com/2zHJsWT9bc
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) August 8, 2022
最新8月10日公開分(8月15日付)ビルボードジャパンソングスチャートのフィジカルセールスにおいてジャニーズWEST「星の雨」が最多売上を記録、総合ソングスチャートも制しています。そのセールスは「週刊うまくいく曜日」を2万枚以上上回り、ジャニーズWESTは最多初週セールスを更新しました。
しかしながら今作「星の雨」についてはこのような記事が出ています。掲載メディアの信憑性には疑問をいだきますが(メディアの記事全般の表現方法や記事に登場する匿名関係者発言等からそう感じています)、しかしカップリング曲違いの複数種発売やより多く買わなければ得られない特典という手法が、コアファンの物理的(金銭面での)疲弊を招くことは容易に想像できます。無論これは、他の歌手でも散見されることです。
今回はTwitter、ストリーミングおよびフィジカルセールス指標でコアファンが参加するチャート対策について、実例やその後の動向も交えて紹介しました。他の指標においても、その影響度が大きくないとしてもチャート施策は存在しますが、問題はどの指標のどの施策であっても、ライト層を取り込めないものは急失速しロングヒットに至りにくいということです。
KAI-YOUの記事では冒頭に、『2020年代、BTS「Dynamite」が米Billboardの「Hot 100」で初登場1位を記録したのをきっかけに、音楽シーンに可視化されたファンダムの存在』と記しています。TWICEがLINE MUSIC再生キャンペーンを初期に取り上げたこともあり、K-Popアクトがチャート施策に長け、コアファンが踏襲することで世界の音楽チャートにK-Popが躍進したとも言えます。ならばJ-Popも…というのは自然な流れです。
そのチャート施策の中には今回取り上げたような、ライト層の乖離(近寄りがたい空気感の醸成)、総合チャートでの急落、そしてコアファン自身の物理的(金銭面や時間)および精神的疲弊を招くものがあるということは、きちんと考える必要があります。
一方で、たとえばこれらの施策参加を知名度上昇のためとするコアファンの声も。その理由のひとつが"ボーイズバンドをメディアがきちんと取り上げてくれない(から私たちが押し上げる)"というもので、たとえばDa-iCEが「CITRUS」でストリーミング1億回再生を突破しても『ミュージックステーション』に出られないことへの違和感を記したブログエントリーの考え方を想起させます。この実情は知る必要があるでしょう。
またビルボードジャパンソングスチャートにおけるTwitter指標導入は、導入当時デジタル解禁が日本で少なかったためにテレビ出演等の口コミがデジタルに反映されにくいことを考慮してという理由もあったのではと捉えています。時が経ち現在では大半の歌手がデジタル解禁したことを踏まえれば、Twitter指標を米同様に外すというのも議論すべきと考えます。
そして何度も書くようですが、ビルボードジャパンは自身が"チャートハック"と形容するような施策が登場したタイミングで早急に対策を講じ、施策が影響しにくいようにチャートポリシー(集計方法)を変更することが責務だと考えます。
そのチャートポリシーが直近のフィジカルセールス指標変更時に明示しなかったことや変更されたチャートポリシーに発生している矛盾(最新週ではそのチャートポリシーが直された形跡も見られるので尚の事)、そしてそもそも"チャートハック"という言葉を用いて"楽しいですか?"と問うような姿勢から、同社が変更や開示への責任を持ち合わせているのかという疑問は拭えません。まず自社の対策にこそ力を入れるべきです。
そしてビルボードジャパンやKAI-YOU側はコアファンへ問題提起するならば(そもそも挑発的な文言を用いるのは問題提起が濁る意味でも問題ですが)、それ以上に各指標のデータ提供元に対し施策が行われにくい形に変更するよう働きかけることも必要です。特にLINE MUSICへの打診や取材は必須と考えますが、記事やこれまでのビルボードジャパンポッドキャストでLINE MUSICの名を出さないことに対し強い違和感を抱きます。
今回のKAI-YOUの記事に触れ、チャート設計者としての責務に疑問を抱かせかねないビルボードジャパン、尖った表現やアイキャッチを躊躇わないKAI-YOU、疲弊を招きかねない施策を用いる歌手側、そして時に冷静さを失うことのあるコアファン…四者いずれにも設計や意識等の改善の必要があると感じています。ひとつだけが問題ではないため、それぞれが責任を意識し自省していくことが求められます。
自分は今後も、好い点や評価できるところは実直に記し、問題点は冷静に指摘の上で提言していきます。