ビルボードジャパンがKAI-YOUのインタビューにて、一部サブスクサービスによる再生キャンペーン(再生回数キャンペーン)を”チャートハック”というネガティブな言葉で形容し暗に非難したことについては、自分はこのブログの中で幾度となく違和感を表明しています。代表的なブログエントリーは下記に。
再生キャンペーンによる再生回数がそのまま加算されること、そもそも物理的精神的な制約を生むキャンペーンの是非は問われる必要がありますが、それ以前にチャート管理側が問題発覚時に適切な処置を採る必要がありました。再生キャンペーンへの対策が始まったのは今年度第2四半期半ばというのは遅きに失したと言えますが、その後も”チャートハック”という言葉を用いてLINE MUSIC側に問い質し続けていました。
ならばビルボードジャパンやKAI-YOU側が直接、再生キャンペーン実施サブスクサービスと話し合う機会を設けるべきと考えていましたが、ようやくそれに近い形での記事が先週末に登場しています。
LINE MUSICに「再生数キャンペーン」問題を直撃──今、音楽業界に必要なことhttps://t.co/yiAfDU53IZ #kai_you
— KAI-YOU(カイユウ) (@KAI_YOU_ed) October 15, 2022
チャートハック目的で行われる特典商法について #LINEMUSIC に取材。音楽を楽しむため、広めるため、数字に頼らずできることは何か。
おそらくは担当編集者によるであろう”ハック”の連呼に辟易しつつ、記事では大事なことが語られていますので後述します。ちなみにここでLINE MUSIC側が語った『音楽配信サービスのランキングには、同じ楽曲やアーティストが1年間ずっと1位にいるなど入れ替わりがないという問題』は実は正しくなく、またそこまで問題ではないのではということについては後日記載する予定です。
さて、LINE MUSIC側は再生キャンペーン(KAI-YOUの記事では『再生数キャンペーン』と記載)に関するカウント方法を変更し始めています。
取締役COOの高橋明彦さんによれば、「再生数キャンペーン」に対して具体的な対策もすでに取られているという。
「合理的に考えて異常な再生は再生数に入れなかったり、ランキングにカウントしないような形を模索しながら進めている状況です。
既に実施されているというこの発言は、ビルボードジャパンソングスチャートにおけるストリーミング指標の基となるStreaming Songsチャートで表れ始めた傾向を裏付けるもので、たとえばブログ【Billion Hits!】管理者でチャート分析に長けたあささんも指摘されています。
LINE MUSIC側で再生回数カウント方法を改良しているのではないかということは、今年下半期以降のストリーミングチャートで再生キャンペーンを主因とした上位進出事例が上半期比激減していることから予想はできていたがやはりだったか。課題意識明言もあり、これを以て本問題は完全解決と言えると思う。 pic.twitter.com/haU0vJRl5X
— あさ (@musicnever_die) October 15, 2022
たしかにLINE MUSICの再生回数カウント方法が変化したこと(Spotify等他のサブスクサービスに近い形となったこと)で、ビルボードジャパンソングスチャートにおけるストリーミング指標の問題は解決に向かったかもしれません。それ自体は評価する一方で、何よりここまでの流れに対する強い違和感は拭えないままです。そして根本にある部分が改善されない限り、チャートの様々な問題は根強く存在し続けるものと考えます。
自分が今回の @LINEMUSIC_JP の件で引っかかるのは、最終的に改善に至れたとして(しかしながら現に再生キャンペーンは今もあるのですが)、@Billboard_JAPAN や @KAI_YOU_ed がまずLINE MUSIC側ときちんと話し合うスタンスを取っていたか?ということです。
— Kei (@Kei_radio) October 15, 2022
もっと早い段階で @KAI_YOU_ed が @LINEMUSIC_JP と接触できなかったのかと思いますし、何より @Billboard_JAPAN が“ハック”というとてもネガティブな言葉を使って疑問を呈したそのやり方が、あたかも外濠を埋めるかのように見えてしまったんですよね。
— Kei (@Kei_radio) October 15, 2022
再生キャンペーン(これについては今回の記事で、LINE MUSIC側が後にレコード会社による自発的な実施により”暴走”(この表現はKAI-YOU側の記載)と説明していますが、尤もそのきっかけを与えた側の責任も問わないといけません)については、少なくとも4年前に開始されたことが判っています(下記リンク先参照)。ビルボードジャパンはその時から、過熱の可能性を踏まえチャートポリシー変更を行う必要があったはずです。
ビルボードジャパンは対応が遅きに失したと言えるでしょう。そしてLINE MUSICとの連携に問題があることや、チャート管理者として責任ある姿勢とは言い切れない状況については、今年度第3四半期におけるあまりにも大きいチャートエラーがそれを証明してしまったものと捉えています。
そもそもチャート管理者が責任を自覚していれば、LINE MUSICに対し再生キャンペーンの是非を問うなどのやり取りを常時実施し、同時にLINE MUSICの再生回数カウント方法が是正されるまではチャートポリシーを変更し係数処理を施すことができたはずです。しかしチャートポリシー変更は遅くなり、”チャートハック”というネガティブな印象を与えてあたかも追い込むようなやり方は、毅然とは真逆の姿勢ではないでしょうか。
また”チャートハック”という表現の多用が、日本におけるサブスクへのマイナスイメージを植え付けてしまったのではとも危惧しています。川本真琴さんや山下達郎さんが唱える負の主張にあたかもお墨付きを与えるようなその態度は、チャート管理者としてとても好ましくないものです。
チャート上昇施策はソングスチャート構成8指標すべてで可能であり、その中でコアファンの熱量が反映されやすく且つポイントも高いのがストリーミング指標における再生キャンペーンと捉えていいでしょう。過熱しやすさも目立ちやすい理由と言えますが、まずはビルボードジャパンが他者を悪く言う前に、すべてのハックに耐え得るチャートポリシーへの変更を行うことこそ大前提ではないでしょうか。
そして、ビルボードジャパンの姿勢の問題にも触れ続けなければなりません。
— Kei (@Kei_radio) October 15, 2022
チャートは完璧になることはありません。時代の変遷により指標毎の影響力が変わることや、新たなキャンペーン登場(の可能性)もあります。
いち早く察知しているか、他者を責める前に“自問自答”しているか、問い続けます。
その姿勢を捨てきれない以上、今後問題が噴出した際に後手に回ることが容易に想像できます。ビルボードジャパンは通常月曜に登場するフィジカルセールス週報が今週は火曜となり、さらには遅延に対するお詫びもないことが発覚したばかりゆえ、その責任感の所持について疑念が膨らむ一方なのです。
フィジカルシングルセールスチャートの結果が1日遅れで登場しました。そして、遅延についてのお詫びは記事に掲載されていません。ビルボードジャパンの姿勢へ強い違和感を覚えた次第です、 https://t.co/J5PHrlrVRn
— Kei (@Kei_radio) October 18, 2022
ひとつひとつに責任ある態度で接し、他者を悪く言うことなく、自問自答をする姿勢を最優先で臨むならば、ビルボードジャパンの信頼度は格段に高まり、認知度上昇にもつながるものと考えます。
最後に、KAI-YOU担当編集者は”チャートハック”について連載化しようとしていますが、記事から垣間見える姿勢(先述した”暴走”等の表現を用いること等)に対し強い疑問を覚えることを表明させていただきます。ビルボードジャパンに対しても、自身のポリシーを主張する媒体をKAI-YOU以外に用意することを勧めます。
”ハック”という好ましくない言葉を毎回用いることも問題ですが、”「数字」に頼らず”という表現は実はビルボードジャパンを否定することになってやいないかと思うのです。
— Kei (@Kei_radio) October 18, 2022
ビルボードジャパンは複数の指標、複数の「数字」を束ねたものであり、その「数字」の扱いを正常化させることこそ重要でしょう。 https://t.co/9fm5bv3kp8
LINE MUSIC再生キャンペーンの問題等については、KAI-YOUやこれまでの担当者ではない、よりフラットな視点で分析できる方に、追いかけてほしいと強く願います。
— Kei (@Kei_radio) October 18, 2022