(※追記(2023年6月21日12時35分):はてなブログにてビルボードジャパンのホームページを貼付すると、きちんと表示されない現象が続いています。そのため、表示できなかった記事についてはそのURLを掲載したビルボードジャパンによるツイートを貼付する形に切り替えました。)
最新7月20日公開分(7月25日付)ビルボードジャパンソングスチャートにおいて、不可解な状況が発生しています。フィジカルセールス指標のポイント換算方法が変更されたようなのです。
今Hot 100の分析作業をしているのだけれど、どうもOCHA NORMA「恋のクラウチングスタート」の8,300ポイントというのは計算が合わない。このポイント構成比でCD13万+それ以外にも1,600点得ているNEWSを上回るのはおかしいな…と思っていたら、CD売上92,695枚に係数処理をかけなかったら計算があった。 pic.twitter.com/dU1AufqdiZ
— 紅蓮・疾風 (@ideal_charts) July 20, 2022
この事態を最初に見つけたのが、日本で数少ないチャート予想を行う紅蓮・疾風さんでした。その後、チャート分析に長けたあささんも、同様の違和感を発信されています。
ビルボード分析仲間の紅蓮・疾風さん@ideal_chartsが当週のOCHA NORMAのCD売上係数処理が漏れていると指摘。私も確認したところ、円グラフから割り出される当週のOCHA NORMAのCD換算点は9.2万枚で約7,100点。一方前週の関ジャニ∞は15.4万枚で約6,200点。計算方法変更発表もなく、完全に矛盾している。 https://t.co/bUxa75O3ED pic.twitter.com/kPixLHnGOX
— あさ (@musicnever_die) July 20, 2022
紅蓮・疾風さんのツイートを踏まえ、ビルボードジャパンにポイントの問題はなかったかを問い合わせましたが、問題はないとのことでした。
紅蓮・疾風さん(@ideal_charts)が指摘されたビルボードジャパンの集計に関する疑問。
— Kei (@Kei_radio) July 20, 2022
19時31分に @Billboard_JAPAN より回答がありました。
(気付くのが遅くなり、失礼しました。)
『お問い合わせの件ですが、
再度データを確認したところ、
特に問題はございませんでした。』
とのことです。 https://t.co/j1vcwegbB3
とはいえ、なぜこうなったのかは疑問が拭えません。
ビルボードジャパンは2017年度以降、フィジカルセールスをそのままポイント化するのではなく一定以上の売上枚数に係数を施すという減算処理を実施しています。これによりフィジカル未リリース曲のヒットが埋もれにくくなり、ビルボードジャパンのソングスチャートが社会的ヒットの鑑に近づいたと言っていいでしょう。
この係数処理適用枚数は2022年度(第1四半期)初週にさらに引き下げられ、5万枚になったと言われています(上記リンク先参照)。しかし最新チャートにおいて5万枚以上売り上げたシングルに対し、この係数処理が行われていません。
もしかしてと思ったらボイメンエリア研究生「BURNING DANCE -バニダン-」もだった。CD 売上68,273をそのまま換算すると自分の計算上5,226点に限りなく近い値が出るので、こちらもほぼ間違いなく係数処理が入っていない。本来は5万以上で適用される。@Billboard_JAPAN は早急な対応を。 pic.twitter.com/gxVdAKLExZ
— 紅蓮・疾風 (@ideal_charts) July 20, 2022
一方でフィジカルセールスで首位を獲得したSnow Man「オレンジkiss」には従来どおり係数処理が適用されています(紅蓮・疾風さんのツイートより→こちら)。その後、紅蓮・疾風さんはいただいた情報を基にひとつの仮説にたどり着いています。
この疑問を解決する可能性として、「係数適用曲をCD指標首位曲のみにしたのではないか」とのご指摘を頂いた(教えてくださった方本当にありがとうございます)。これならSnow ManのCD換算率は従来のままでも整合性が取れる。ひとまず次週以降はこれを前提として週間予想を行おうと思う。 https://t.co/QwwIidGfix
— 紅蓮・疾風 (@ideal_charts) July 21, 2022
フィジカルセールスの指標化において個別係数処理を適用する曲が首位曲のみという状況は、今年度第2四半期半ばにおけるストリーミング指標(Streaming Songチャートからの指標化)の対応と同様です。首位曲のみの適用はストリーミングでの前例が生まれているゆえ紅蓮・疾風さんの仮説に納得はできるものの、やはり違和感は拭えません。
この違和感の正体を挙げるならば、【なぜチャートポリシーを変更したか】、【フィジカルセールス首位以外且つ5万枚以上売り上げた曲のウエイトが実質上昇することは問題ではないか】そして【なぜアナウンスしないのか】となります。
最新7月20日公開分(7月25日付)ビルボードジャパンソングスチャートはこちらで確認可能。この最新チャートではトップ10内にフィジカルセールス指標3位までの曲が初登場もしくは再登場を果たしています。最新チャートにおけるフィジカルセールスおよび同指標のトップ5を下記に。各曲のCHART insightからは見えてくるものがあります。
(CHART insightにおいて黒が総合順位、黄色がフィジカルセールス、オレンジがルックアップを示します。)
Snow Man「オレンジkiss」はフィジカルセールス指標がポイント全体のおよそ7割、OCHA NORMA「恋のクラウチングスタート」(総合2位)は8割以上を占めている一方、ボイメンエリア研究生「BURNING DANCE -バニダン-」(総合6位)、GANG PARADE「シグナル」(総合19位)といった初登場勢、そして再登場したAKB48「元カレです」(総合25位)はほぼフィジカルセールス指標のみで全体のポイントを獲得しています。
フィジカル関連指標はフィジカルセールスのみならずルックアップも該当。このルックアップとはCDをパソコン等にインポートした際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスする数を指し、実際の売上枚数に対するユニークユーザー数やレンタル枚数の推測を可能とします。つまり、フィジカルセールスとルックアップが乖離すればするほど、ユニークユーザー数はそこまで多くないと読み取れるのです。
顕著なのはAKB48「元カレです」。5月に発売された最新シングルはおそらくは上記販売分で手に入れられるオンラインお話し会参加や生写真を目的に、発売から時間が経過しても3万枚以上が販売。しかしルックアップは100位未満であり、CDがグッズ的な意味合いを強めていると捉えていいでしょう。無論その意味合いが薄くともヒットする曲もありますが、ボイメンエリア研究生、GANG PARADEは他指標が伴っていません。
年間チャートで大ヒットに至るにはフィジカルよりデジタル、所有より接触指標の充実、ロングヒットが重要です。フィジカルも大ヒットするということは稀であり、フィジカルセールスに強い曲が(中にはデジタル自体未解禁のため)デジタルや接触指標を伴わないことが大半です。
実際フィジカルセールスばかりが目立つ曲は週間チャートで上位に登場しても翌週急落するのが大半のため、売上枚数にかかわらずフィジカルセールス指標全体のウエイト減少が必要だと考えます。しかし仮に最新チャートでチャートポリシーが変更されたならば5万枚以上売り上げた曲についてフィジカルセールス指標のウエイトが実質上昇する形となり、強い違和感を覚えるのです。
ちなみに今回採られたとみられるチャートポリシー変更(フィジカルセールスの指標化において首位曲のみ個別係数処理を適用)は、今年度第2四半期におけるストリーミング指標(Streaming Songチャートからの指標化)の対応と同様と言えますが、このストリーミングにおけるチャートポリシー自体が不完全だと捉えています。
この不完全の理由は以前も述べ、改善案も掲載しました(上記リンク先参照)。LINE MUSIC再生キャンペーン(再生回数キャンペーン)採用曲でStreaming Songsチャートを制した曲は指標化の際に個別係数が適用されるのですが、同じキャンペーンを採用しながら2位以下だった場合はその個別係数が適用されません。これにより首位曲だけが損をするという形が生まれているのです。
ビルボードジャパンは今回、フィジカルセールス指標の変更においてもこの不完全なチャートポリシーを引用したと言えるかもしれません。フィジカルセールスで上位2曲が競りながら指標化の際1位のみに個別係数が適用され、2位と逆転したならば、ビルボードジャパンはどう説明するのでしょう。
そしてビルボードジャパンが今回のチャートポリシー変更をアナウンスしていないことも問題です。これは直接不信感につながるものでしょう。
ビルボードジャパンは前週まで4週続けて最新チャートの発表が遅れました。前週においてはおそらくLINE MUSICのデータ訂正に伴い、その前の週のチャートを変更する事態も発生しています。これ自体はデータ提供元の問題だとして、連携をより密にとっていればチャート訂正を早めに済ませ、前週の発表は遅延せずに済んだかもしれません。
このようなミスを続けることで、ビルボードジャパンが心理的に守りの姿勢を強めた可能性は否めません。またミスが目立つことでクレームが寄せられ対応に追われるあまり、チャートポリシー変更を含め公表しないほうが吉と考えたかもしれません。この仮説が当たっているとして、その姿勢は守りではなく、厳しい物言いを承知で書くならば逃げだと考えます。
今回の件を踏まえ、ビルボードジャパンに対し以下の改善策を提案します。
・今回のチャートポリシー変更(の可能性)についてきちんと説明する
・チャートポリシー変更の度に、変更内容と理由を公表する
・チャートポリシー変更が各四半期初週ではない場合、その理由を説明する
(今年度第1四半期までは四半期初週にチャートポリシー変更が実施)
・チャートポリシー変更のこれまでの推移について、ホームページにまとめる
(クレーム対応増加が公表を控える理由ならば、説明できる場所を予め用意することで負担の軽減が可能)
・人員を増強し、チャート確認や問い合わせ時の対応力を高める
(新型コロナウイルス罹患でスタッフが脱落したという緊急時の対応も可能)
・フィジカルセールス指標の全体的なウエイトダウンを実行する
(他指標にも疑問がありますが、今回はフィジカルセールスに絞って掲載)
ビルボードジャパンの音楽チャートは支持を拡げています。アマゾンジャパンデジタル音楽事業本部の島田和大ゼネラルマネージャーへのインタビュー記事が今週ビルボードジャパンで公開されましたが、島田さんもビルボードジャパンの音楽チャートを評価されています。
――ビルボードのインタビューですので、チャートについてもお伺いできればと思います。ヒットチャートは世の中に必要だと思われますか。
島田:はい、絶対に必要なものだと思っています。客観性があって、恣意的に操作されたデータではないことを前提としたチャートが存在することで、音楽業界全体のクレディビリティー(信用性)や音楽ファンとの親和性が高まると思っています。当社も常にデータを重視してビジネスを展開していますが、クレディビリティーが高いデータを御社のような第三者が提供してくださるというのは非常に重要です。
一部のステークホルダーに忖度してチャートを作っても、消費者に対して客観的なデータにはなりません。ビルボードさんのような信用力のあるブランドから正しいチャート情報が提供されることで、音楽市場の活性化につながると思っています。音楽を聴いてくれるファンのことを考えるのであれば、そこはしっかりやっていかないといけないですし、チャート情報を伝えるメディアに対しても正確なデータを提供することが重要だと思っています。
<インタビュー>Billboard International Power Players vol.3 島田 和大 https://t.co/0oDaXc3Upg pic.twitter.com/v9gJWylqFu
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2022年7月19日
このインタビュー記事がアップされた翌日、今回のアナウンスなきチャートポリシー変更が発生したのです。島田さんが今回の事態を知ったならばどう思ったことでしょう。
ビルボードジャパンはチャート愛好者ならずとも業界内にも抱かれているであろう不信感の払拭に誠心誠意努めるべきです。そのためには今回の提案が参考になるならば前向きに考えてくださること、そして何よりもまず最新チャートにおけるチャートポリシー変更についてきちんと説明されることを望みます。
音楽チャートを活用するメディアの方にも提案します。是非ビルボードジャパンの音楽チャートを特集していただきたいのです。複合指標に基づくチャートの必要性は理解しながら知るのが面倒という方に対して有効なだけではなく、チャートに興味を持つ方を増やすことでビルボードジャパンが問題を起こさないか監視する目を増やすことにもつながります(無論評価、称賛する方も増えます)。是非とも検討をお願いいたします。