イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

前週トップ10初登場曲の最新動向、およびサブスクを解禁することの重要性について

昨年夏以降再開したこのエントリーですが、先週よりタイトルを”前週トップ10初登場曲の最新動向”に変更した上で、副題を新たに設けています。前週の内容はこちら。

 

ビルボードジャパンソングチャートの動向を分析する者として、真の社会的ヒット曲とはロングヒットする、年間チャートで上位に進出する作品と考えます。週間単位で上位に入るのは好いことですが、他方で所有指標が極度に強い曲は加算2週目に、また接触指標が所有指標的な動きをなぞる曲(主にLINE MUSIC再生キャンペーン採用曲)はキャンペーン終了後に指標が大きく後退し、総合でも急落することが少なくありません。

この急落は毎週のようにみられます。ソングチャートのトップ10は多いときで5曲程度が毎週入れ替わり、ロングヒットするか否かが極端に分かれる状況です。主にライト層の支持が反映されるストリーミングがロングヒット曲では強い一方、急落する曲はコアファンとライト層との乖離が大きいのですが、これらを1週分のチャートの順位およびポイントのみで判断することは、現状では難しい状況です。

そのため、このブログエントリーではビルボードジャパンに対しチャートポリシー(集計方法)の改善も提案していますが、あくまで自分なりのと前置きしつつもチャートの見方を提示したいと考えたのが、エントリー掲載の理由です。

 

<2025年6月18日公開分 ビルボードジャパンソングチャート

 前週初めてトップ10入りした作品の、前週および当週におけるCHART insight>

 

※CHART insightの説明

 

[色について]

黄:フィジカルセールス

紫:ダウンロード

青:ストリーミング

黄緑:ラジオ

赤:動画再生

緑:カラオケ

濃いオレンジ:UGC (ユーザー生成コンテンツ)

 (Top User Generated Songsチャートにおける獲得ポイントであり、ソングチャートには含まれません。)

ピンク:ハイブリッド指標

 (BUZZ、CONTACTおよびSALESから選択可能です。)

 

[表示範囲について]

総合順位、および構成指標等において20位まで表示

 

[チャート構成比について]

累計における指標毎のポイント構成

 

SixTONES「BOYZ」

 6月11日公開分 1位→6月18日公開分 14位

Mrs. GREEN APPLE「breakfast」

 6月11日公開分 2位→6月18日公開分 3位

 

つばきファクトリー「My Days for You」

 6月11日公開分 4位→6月18日公開分 100位未満

 

当週のストリーミング表はこちら。

 

今回紹介した3曲はいずれも特徴的な動きをなぞっています。

 

Mrs. GREEN APPLE「breakfast」は当週初の1週間フル加算に伴いストリーミング再生回数が前週比2割増加。ダウンロードの減少(13,093→4,360DL)が当週のポイント減少に大きく影響しているものの、その減少幅を5%弱にとどめています。この「breakfast」が他の曲にも波及し、総合20位以内に入ったMrs. GREEN APPLEの作品では「天国」を除き、ポイント減少幅が小さいことも特徴です。

 

SixTONES「BOYZ」はフィジカルセールス指標加算2週目にポイント前週比33.2%、総合首位から14位に後退するも順位面では前作「バリア」(同条件下で2→20位)より好調に推移。ポイント前週比は「バリア」の35.8%より低いものの、フィジカルセールスに強い曲の同指標加算2週目におけるダウン幅縮小にはデジタル解禁(に伴う加算)が貢献したと考えていいでしょう。この点は前週、Hey! Say! JUMP「encore」でも指摘しています。

 

一方でつばきファクトリー「My Days for You」が総合4位から100位未満へと後退したのは、ストリーミングの未解禁が大きいと考えます。所属するハロー!プロジェクトではフィジカルセールスに強い歌手のサブスク未解禁が続いていますが、そこには以下の背景が考えられます。

この曲のYouTube動画タイトルには”Promotion Edit”と記されており、他のハロー!プロジェクト所属歌手作品にもみられる傾向です。サブスク未解禁同様、ハロー!プロジェクトのフィジカルセールス優先という姿勢を示すといえるかもしれません。

 

(※ YouTubeにて"Promotion Edit"と検索すると、ハロー!プロジェクト所属歌手関連曲が上位に登場します。検索結果はこちら。)

 

一方で、上記リンク先ではKAWAII LAB.所属のCANDY TUNE「倍倍FIGHT!」およびCUTIE STREET「かわいいだけじゃだめですか?」を好調なアイドル曲として採り上げています。KAWAII LAB.はアソビシステムが手掛けるアイドルプロジェクトですが、そのアソビシステム代表取締役を務める中川悠介さんのインタビューが興味深いのです。

ーーKAWAII LAB.の本格的なスタートは2022年ですが、同時期から今のようなスタンスで、明確な未来像を見据えた上で取り組んできたのでしょうか。

 

中川:徐々に見えてきたことだと思いますが、先ほどお話したような状況の中で、チャンスを掴むためのスピード感は大切にしてきました。スタッフからすると「中川は言うことがコロコロ変わる」と思われているでしょう(笑)。けれど、臨機応変に方向性を変えていくことが大事だと考えており、プロモーションにおいても“リリース日”がすべての基準ではなく、「バズった日がリリース日だ」という捉え方をしていて。その中でスタッフのみんなが対応してくれたからこそ、今があると思っています。

 

(※ 『バズった日がリリース日だ』という発言については、noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦さんに教えていただきました。この場を借りて感謝申し上げます。

フィジカルセールス時にバズが発生していなくとも後日バズが起きることについては、FRUITS ZIPPER「わたしの一番かわいいところ」でも証明されています。同曲は2023年9月のフィジカルリリース時に総合13位に登場するも翌週には100位未満に後退、しかしながらバズによるストリーミングヒットに伴い昨年夏以降100位以内ランクインを続けています。

(上記はFRUITS ZIPPER「わたしの一番かわいいところ」の、有料会員が可能なCHART insight。総合および構成指標100位までが表示されています。ビルボードジャパンでは有料会員が知り得る情報の掲載を許可しています)

接触指標群の強さが際立つKAWAII LAB.所属歌手作品ですが、フィジカルセールスにおいても強い状況です。CUTIE STREET「かわいいだけじゃだめですか?」はほぼ毎週100位以内に、FRUITS ZIPPER「わたしの一番かわいいところ」は昨年5月以降300位以内にランクインを続けています。加えて、FRUITS ZIPPERの最新シングル「KawaiiってMagic」が初週29万枚を超えるフィジカルセールスを記録したことも特徴です。

 

動画発のバズがストリーミングに波及する、そのストリーミングはロングヒットする傾向ゆえ総合ソングチャートでの存在感が高まる、そしてフィジカルのロングセールスにつながりコアファンが拡大した結果、フィジカルシングル次作の初週セールスが増大する…バズのきっかけとなる動画が重要だとしてそのバズの受入先となるサブスクをきちんと解禁していることが、流れを作る上で大きな役割を果たしていると考えられます。

 

 

ハロー!プロジェクトをはじめとする芸能事務所がサブスクに明るくならない理由は解りかねますが、仮に利益率等の問題があるとして業界全体で議論のテーブルを用意すべく働きかけるほうが好い未来につながるはずです。KAWAII LAB.のみならず=LOVEもヒット、またダンスボーカルグループのHANAがブレイクしデジタルに前向きなアイドル/ダンスボーカルグループが勢力図を塗り替えている以上、サブスク解禁は必須でしょう。