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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

歌手別チャートを制したtimelesz、トップ3入りのHANA…2組の指標構成からみえてくること

2020年からポッドキャストBillboard Top Hits (通称:ポッドチャート)】を発信し、現在は毎週木曜13時に最新エピソードを公開しています。最新回はこちら。

今回はポッドキャストでも紹介した、最新のビルボードジャパントップアーティストチャートについて採り上げます。

 

 

ビルボードジャパンによるソングチャートとアルバムチャートを合算した最新6月18日公開分(集計期間:6月9~15日)のトップアーティストチャートでは、timeleszが前週の44位から首位に到達。timeleszによるこのチャートの制覇は初、前身であるSexy Zone時代を含めれば2022年6月8日公開分以来となります。一方で、指標構成をみると他の歌手とは大きく異なる状況です。

6月18日公開分ビルボードジャパントップアーティスト、総合5位までにおける指標構成を示したCHART insightを上記に。こちらは有料会員が確認可能なもので、20位未満の指標順位も明らかになっています(ビルボードジャパンでは有料会員が知り得る情報の掲載を許可しています)。総合5位までに入った歌手の中で、timeleszはストリーミング(青で表示)および動画再生(赤)の順位が最も低く、総合トップ10までに広げても同様です。

 

 

timeleszによるトップアーティストチャート制覇は、『FAM』のアルバムチャート首位初登場に伴うものです。

オーディション(timelesz project)を経て8名体制となったtimeleszのアルバム『FAM』は、Sexy Zone時代も含めキャリア最高となる65万枚近いフィジカルセールスを記録。アルバムの週間フィジカルセールスは今年度においてSnow Manのベスト盤に次ぐ規模となり、timeleszはトップアーティストチャートも制した形です。他方ストリーミングは45→47位、動画再生は37→38位と推移し、接触指標群は後退しています。

 

『FAM』からは、オーディション使用曲を主体とするデジタルコンピレーションアルバム『Hello! We're timelesz』と同時リリースされた8人体制初の楽曲「Rock this Party」、および「ワンアンドオンリー」が先行で公開され、後者は動画再生指標のみで総合100位以内に入った実績があります。一方で2曲のミュージックビデオはYouTube公開版がショートバージョンであり、フルサイズはフィジカル同梱の映像盤でのみ確認可能です。

最新のビルボードジャパンソングチャートでは「Rock this Party」が2週続けて動画再生指標100位未満となり、「ワンアンドオンリー」は61→76位と後退しています。この推移から、コアファンのミュージックビデオ視聴先がフィジカル同梱の映像盤に移行したこと等が読み取れます。

アルバムチャート初登場時には収録曲がソングチャートでも勢いづく傾向にあり、またフィジカルシングルの登場がデジタルを増幅することについては米津玄師「Plazma」を例に昨日述べたばかりですが(→こちら)、timeleszは『FAM』をデジタル解禁していないことが今回の結果につながったといえます。

オーディションを経てコアファンが急拡大したのみならず、デジタル解禁でライト層の注目も高めたことは『Hello! We're timelesz』のロングヒットから推測可能です。その中での『FAM』のデジタル未解禁は、ライト層の拡大やそこからコアファンへの昇華という道筋を細めたものと考えます。フィジカル優先姿勢は間違いないでしょうが、ともすればデジタルがフィジカルの売上を毀損すると歌手側が捉えているかもしれません。

timeleszも含むSTARTO ENTERTAINMENT所属歌手がデジタルに明るくなったことの成果は、前週のソングチャートにおける所属歌手の8曲同時ランクイン等に表れています(上記参照)。一方、デジタルを完全に近い形で解禁した歌手は多くありません。timeleszのフィジカル優先という姿勢は、STARTO ENTERTAINMENT側が現時点においてもデジタルを重視していないだろうことを示しているのではというのが、厳しくも私見です。

 

 

一方、オーディション(No No Girls)を機に結成された女性ダンスボーカルグループのHANAが、当週のトップアーティストチャートで9→3位に上昇しキャリア最高位を更新しています。新曲「Burning Flower」のソングチャート2位初登場が大きな要因ですが(下記記事参照)、今回のトップアーティストチャートにおける指標構成をみるとtimeleszと大きく異なることが解ります。

HANAは最新のトップアーティストチャートにてストリーミングが5→4位、動画再生が5→2位に上昇。「Burning Flower」のリリースが過去曲(特にフィジカルシングル「ROSE」のカップリング作品)に波及し、「Drop」がソングチャートで28→16位、「Tiger」が同29→23位に上昇しています。HANAはリリースした4曲でトップアーティストチャート3位に入ったという次第です。

Tiger」はミュージックビデオが用意されていないものの、動画再生指標は高い位置をキープ。そして「Drop」および「Tiger」でストリーミングが比較的大きく伸び、前者では動画再生も上昇しています。また接触指標群の順位が後退する曲もあるとして、しかしそのダウン幅は大きくありません。ストリーミングの伸びについては、ビルボードジャパンの記事等から作成した下記ストリーミング表からもみえてきます。

 

 

ミュージックビデオのフル尺公開等デジタルを充実させるHANAにおいては、「Burning Flower」の勢いが弱まるとしてもアーティストパワー自体は強い状態が続くでしょう。他方timeleszは『FAM』のフィジカルセールス減少に伴い、トップアーティストチャートの下落幅は小さくないのではと考えます。次週の動向も注目ですが、timelesz『FAM』がデジタル解禁をいつ行うかが今後最大の注目点に成るというのが自分の見方です。

デジタルの推奨がチャート目的ありきと批判される可能性もありますが、しかし『Hello! We're timelesz』や「Rock this Party」のデジタルリリースがライト層獲得およびそこからコアファンへの昇華の道筋を作り、且つこれらの作品のロングヒットがアーティストパワー増大(およびその可視化)につながったと考えれば、『FAM』をデジタル解禁することで同様の事象が起こる可能性は高いと捉えています。