イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

アイドルやK-POP歌手の選出基準や旧ジャニーズ事務所所属歌手の今後等、今年の紅白について考える

『第74回NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか 以下"紅白"と記載)の出場歌手が一昨日発表され、それを踏まえた出場歌手分析ならびに私見を同日記載しました(下記リンク先参照)。

今回はその続きとなります。

 

一昨日のエントリーにて、『今年の紅白は、若手や初出場歌手は主にビルボードジャパンの各種チャートが、中堅やベテランは(初登場や復帰組も含め)世論の支持やNHKとの関連性が大きく影響する』と分析しました(『』内は上記エントリーより)。ビルボードジャパン側は紅白出場歌手発表から1時間も経たないうちに、初出場歌手(13組中11組)のチャート動向を紹介する記事を発信しています。

その上で、一昨日のエントリーではビルボードジャパンのソングチャートとアルバムチャートを合算したトップアーティストチャート(Artist 100)のCHART insightを紹介していますが、このCHART insightは今回出場に至らなかった歌手と比較してもみえてくるものがあるでしょう。

そこでまず、初出場歌手11組のトップアーティストチャートにおけるCHART insightを今一度掲載します。

 

<紅白初出場歌手におけるトップアーティストチャートのCHART insight>

※ CHART insightの見方については以下の通り。

※ CHART insightは基本的に、2023年11月8日公開分までの60週分を表示。

※ 歌手名はすべて敬称略。

MAN WITH A MISSIONは"MAN WITH A MISSION × milet"名義での記録を掲載。

 

新しい学校のリーダーズ

 

・Ado

 

・ano

 

・キタニタツヤ

 

・すとぷり (2023年9月27日公開分まで)

 

 ・Stray Kids

 

SEVENTEEN

 

10-FEET

 

MAN WITH A MISSION × milet (2023年4月19日公開分以降)

 

・MISAMO (2023年2月15日公開分以降)


・Mrs.GREEN APPLE

 

 

さて今回、紅組では坂道グループが2組出演。昨年出場を逃した櫻坂46が復帰した一方で、日向坂46は選ばれませんでした。連続出場を果たした乃木坂46共々、三組のトップアーティストチャートにおけるCHART insightをみてみます。

乃木坂46

 

・櫻坂46

 

・日向坂46

 

日本のアイドルやダンスボーカルグループは基本的に、男女問わずフィジカルセールス主体型となる一方、接触指標群(ストリーミングや動画再生)が強くない傾向にあります。その接触指標群が強くなることでロングヒットや年間単位でのヒットにつながるため、CHART insightでは新作リリースに伴いフィジカルセールス指標が突出した翌週以降の動向における総合順位、そして接触指標群の推移をみることが重要です。

 

その点において、日向坂46はそもそも今年のリリース作品が多くなかったこともありますが(なお本日発表分のアルバムチャートにおいて『脈打つ感情』がアルバムチャートに初登場予定)、新作のフィジカルセールス指標加算2週目以降における総合順位の急落が目立ち、また接触指標群も高くはありません。

尤も、櫻坂46はLINE MUSIC再生キャンペーン開催に伴うストリーミング指標の急上昇と急落があるものの(11月12日付エントリー参照→こちら)、それでも接触指標はもう少し長い間ランクインしていることが解ります(ただしストリーミングが100位以内に入りながら直後に300位圏外となっている状況は気になります。この動きの理由は後述します)。

最新シングルの初週フィジカルセールスにおける櫻坂46と日向坂46との差は2万枚強ですが、一定枚数以上の週間フィジカルセールスに係数処理を施すビルボードジャパンソングチャートのチャートポリシーにおいてこの差はそこまで考慮に入れなくてもよいのではと考えます。それ以上に今のヒットに欠かせない接触指標群での人気、およびそれに基づくロングヒットが重要であり、出場に影響したといえるでしょう。

今年連続出場を果たすLE SSERAFIMについてはフィジカルセールス初加算のタイミングでトップアーティストチャートの順位も上昇していますが、ストリーミングや動画再生といった接触指標群も安定しています。K-POPは第4世代女性ダンスボーカルグループが接触指標に強くロングヒットする傾向なのは日本のみならずグローバルチャートも同様であり、このロングヒットが紅白連続出場にも影響したとみていいはずです。

 

 

若手においてはトップアーティストチャートでの上位進出および安定した成績を収めている歌手が基本的に選ばれていることが解るでしょう。ゆえに、選出がおかしいと思うならばまずは紅白側の選出基準、特にビルボードジャパンにおけるチャート動向をチェックすることを勧めます。特に報じる側ならば、冷静な立場で記すことができるはずです。

ここでひとつの記事を取り上げましたが、こちらでは48グループ、またハロー!プロジェクトLDHの所属歌手が入っていないことを紹介し、"ネット衝撃"と題しています。

AKB48

 

モーニング娘。'22 (2022年3月23日公開分以降2023年3月22日公開分まで)

モーニング娘。'23 (2023年8月16日公開分以降)

 

・THE RAMPAGE from EXILE TRIBE

ハロー!プロジェクトからはモーニング娘。(...'22および...'23)、LDHからはTHE RAMPAGE from EXILE TRIBEという、特にフィジカルセールスに強い歌手のトップアーティストチャートにおけるCHART insightを掲載していますが、総合順位は急上昇と急落が目立ちます。モーニング娘。はサブスク未解禁につきストリーミング指標を獲得できないことも大きな要因となっています。

LDH所属歌手においてはLINE MUSIC再生キャンペーンの採用が少なくないと捉えていますが、キャンペーンの影響でストリーミング指標が上位に達しても終了後に急落すること(100位以内エントリーの翌週に300位圏外へ)が目立ちます。ストリーミングはライト層(曲は気になるが歌手のファンというわけではない方々)の支持によって安定するゆえ急落は本来考えにくく、人気がコアファンの先に届いているとは言い難いでしょう。

そしてAKB48については、フィジカルシングルの特典販売を繰り返すことでフィジカルセールス指標が何度も上昇していますが、他指標が伴わっていない状況からはこちらも人気がコアファンの域にとどまること、そしてコアファンのデジタル意識が高いとは言えないことが見て取れます。この点は以前も指摘しています(→こちら)。

 

これらから、フィジカルセールスに強くとも、それに頼らないヒットを確立しなければ紅白の出場は難しいと考えられます。ハロー!プロジェクト所属歌手の場合はサブスクを解禁していないゆえさらに厳しい状況であり、今回出演しない旧ジャニーズ事務所所属歌手(フィジカルシングルの週間セールスが20万を超えることが見込まれる歌手は特に)も同様にサブスクを解禁しなければ、今後も出場は厳しいのではと考えます。

 

 

演歌歌謡曲ジャンルにおいては、出場歌手の顔ぶれは昨年とほぼ変わらず。昨年は活動休止直前の氷川きよしさんが特別枠に移行しながら、空いた枠を演歌歌謡曲歌手が埋めることはありませんでした。そして今年も同様です。

(上記エントリーでは今年リリースされた演歌歌謡曲ジャンルのシングル(主に紅白出場歌手)におけるソングチャートのCHART insightを紹介しています。)

演歌歌謡曲界ではしばらくの間大ヒット作品が登場していない状況であり、歌手が固定する一因と考えます。このジャンルはより中高年層に好まれていると考えますが、フィジカル購入場所(実店舗)が減ったこと、ネット購入の定番化等を踏まえれば、何よりまず中高年層がネット、そしてデジタルに親しくなることは急務でしょう。そしてデジタル発のヒット曲誕生が、顔ぶれの刷新やジャンル自体の強化につながるはずです。

 

 

さて、紅白出場歌手が発表されて以降、K-POP歌手が多いとメディアが紹介し、それに対するネガティブなコメントもみられます。しかし出場歌手の数自体、昨年と大きくは変わっていません。

・NewJeans

 

・ジョングク (Jung Kook)

自分は今年の紅白出場歌手最終予想(エントリーはこちら)の段階にて、紅組にNewJeans、特別枠にジョングクを記載していました。NewJeansはLE SSERAFIMの項でも述べたように第4世代K-POP女性ダンスボーカルグループ特有のチャート動向を辿り、ジョングクはラトーをフィーチャーした「Seven」のリリース以降、高位置で安定しています。そして共に、接触指標群が高い状況です。

この二組は選外となりましたが、ともすればK-POP関連はもう少し増えた可能性もあり、仮にそうなったとして選出が順当であることはCHART insightから解るはずです。ゆえにK-POP歌手(そして彼らを輩出した韓国)への非難よりも、大ヒットを飛ばすJ-POP歌手を輩出や支持することがより健全でしょう。K-POP歌手のライト層への拡がりも踏まえれば、非難という行動はライト層に対しても無礼であることは認識すべきです。

 

 

メディアの報道に関して述べるならば、今回の紅白出場歌手発表前にはスポーツ紙にて様々な"内定"報道が登場しました。今回、そのほとんどは当たっていたことになります。

ただし11月13日付スポーツ報知の記事(→こちら)における『旧ジャニーズ勢が消えたことで空いた枠は (中略) 演歌勢が埋めるとみられる』という部分は正しくなかったといえるでしょう。また内定報道で登場しながら今回の出場者に含まれていない方がどうなるか、確認する必要があります。

 

 

歌手の追加について考えます。一昨日のエントリーでも述べたように、既に紅組白組共に昨年(の最終確定時)同様の22組が発表されていることから、今後は各組への追加はなく特別枠での出場が発表されるのではと捉えています。ただ、MAN WITH A MISSIONとmiletさんがコラボで「絆ノ奇跡」を披露する可能性が高く、そのコラボを一組とみなすならば紅組もしくは白組が一枠分空き、そこに追加で招かれる可能性もありそうです。

 

その中で追加発表が考えられるとすれば、King Gnuかもしれません。「SPECIALZ」がヒット中であること、11月にニューアルバム『THE GREATEST UNKNOWN』をリリースするゆえ尚の事です。

今回、椎名林檎さんが復帰しています。椎名さんは今年デビュー25周年記念イヤーを迎えましたが、今年リリースした作品はフィジカルシングル「私は猫の目」のみとなります。一方で椎名さんはmillennium paradeとのコラボ曲、「W●RK」「2◯45」(ダブルAサイドシングル)もリリースしています。

millennium paradeはKing Gnuの常田大希さんが主催する音楽プロジェクトであり、紅白出場経験もあります。ともすればmillennium paradeが追加され、椎名林檎さんが「W●RK」を披露、その流れでKing Gnuの曲も披露という可能性は、極めて低いだろうとしてゼロではないかもしれません。

 

もう一組。こちらも可能性は低いことは承知で、中森明菜さんの復帰を挙げてみます。

今回JUJUさんが復帰しますが、その要因としては『SONGS』でもフィーチャーされた昭和歌謡カバー集の存在が大きいと考えます(上記リンク先参照)。そのアルバム『スナックJUJU ~夜のRequest~ 『帰ってきたママ』』のリード曲は「なごり雪」および「あゝ無情」ですが、この中には中森明菜さんの「飾りじゃないのよ 涙は」のカバーも収められています。

中森明菜さんは、今月リリースされた林哲司さんのトリビュートアルバム『50th Anniversary Special A Tribute of Hayashi Tetsuji – Saudade –』にて、林さんが提供した「北ウイング」をセルフカバーしています(「北ウイング-CLASSIC-」名義)。紅白は2014年の復帰の場となっており、ともすればJUJUさんのエスコートに伴い活動を再開するという可能性は、限りなく低いとしてもゼロではないでしょう。

ただし、JUJUさんのカバー集にはもんた & ブラザーズ「ダンシング・オールナイト」が収められており、もんたよしのりさんへのトリビュートとして披露することも考えられます。また安全地帯「じれったい」のカバーも収録していますが、今回出演する大泉洋さんの「あの空に立つ塔のように」は玉置浩二さんが手掛けており、ともすれば玉置さんが招聘され「じれったい」をデュエットということもありそうです。

 

紅組や白組にて歌手の追加があるかは分かりかねますが、特別枠共々追加の発表を楽しみにしたいと思います。

 

 

最後に、旧ジャニーズ事務所所属歌手について考えます。紅白側は旧ジャニーズ事務所所属歌手が出演しないことについて、次のように回答しています。

個人的には現状を踏まえるに今年の出演は厳しいと考えますが、下記にて取り上げる状況を踏まえれば、仮に初代社長による性加害問題の解決の可能性が高まり所属歌手の出演が可能と判断されたとして、実際出場に至ることは難しくなったと捉えています。

 

今回の紅白出場歌手発表を受けて、Spotifyではこのようなプレイリストが作成されました。興味深いのは、現時点でアナウンスされた44組すべての作品が収められているということです。

ともすれば、今後の出場条件にサブスク解禁、およびそれも含めデジタルに明るいことが含まれるかもしれません。これは昨年の紅白がSNSとの高い親和性を図ったこと、また(メインの目的はNHKプラスでの視聴を促すことでしたが)短尺版パフォーマンスをYouTubeにてアップしたという流れを加速させることを意味するのではないでしょうか。昨年の動向およびそこから予想されることについて記した内容を引用します。

たとえば昨年の紅白はネットで話題となり見逃し配信も多かったことから、リアルタイム視聴率(それ自体テレビ全体で下がっていることをまずは認識すべきです)がすべてではない、そしてネットの活用に積極的になっているということを知る必要があります。

 

(中略)

 

ともすれば今回の紅白にて予想した歌手の中にも未だデジタルに明るくない歌手がいらっしゃるかもしれませんが、NHKは『NHK MUSIC EXPO 2023』以降顕著になったと思しきYouTubeでの各歌手のフルでのテレビパフォーマンス配信を行うことを前提に、デジタルに明るくない歌手に対し毅然とした姿勢を示すかもしれません。海外でも番組が視聴可能ならば尚の事でしょう。

 

(追記あり) 『第74回NHK紅白歌合戦』出場歌手を予想する (最終予想)(11月10日付)より

 

※ 『NHK MUSIC EXPO 2023』放送分のYouTube配信については、『NHK MUSIC EXPO 2023』の施策から、テレビパフォーマンス映像のYouTube公開時における最善策を提案する(9月20日付)にて紹介しています。 

 

一昨日のエントリーでは、"ボーダレス"が国や地域という意味合い以上に、広い世代の歌手の登用を指すのではと記載しましたが、リリース形態(のボーダレス)についても当てはまるかもしれません。そう仮定すれば、サブスク未解禁歌手は選ばれにくくなるでしょう。デジタルに明るくない歌手や芸能事務所側は考え方を改める必要があるはずですし、この紅白の姿勢が日本の音楽業界全体を動かすのではないかと感じています。

音楽チャートを踏まえて日本の音楽業界の現状を憂慮し、改善を提案し続けた者として、仮定が当たっているならば紅白の姿勢は強く支持できるものです。