イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(追記あり) 『第74回NHK紅白歌合戦』出場歌手の顔ぶれから考える…紅白でのふたつの選出基準とは

(※追記(11月15日6時33分):紅白出場歌手一覧について、新たな分析を行いました。このエントリーの最後にリンクを掲載しています。)

 

 

 

『第74回NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか、以下"紅白"と記載)の出場歌手が本日発表されました。

昨年出場を果たしながら今回選ばれなかったのは紅組がIVE、ウタ、Aimer、工藤静香篠原涼子SEKAI NO OWARI、TWICE、日向坂46、milet×Aimer×幾田りら×Vaundy。同じく白組が関ジャニ∞KinKi Kids、King & Prince、King Gnu、Saucy Dog、SixTONESSnow Man、なにわ男子、Vaundy、藤井風、三浦大知。今年再登場を果たしたのは紅組が櫻坂46、椎名林檎、JUJU、YOASOBI。同じく白組がエレファントカシマシさだまさし藤井フミヤとなります(以上敬称略)。

なお『ONE PIECE FILM RED』でウタの歌唱キャストを務めたAdoさんは、今回"Ado"名義にて初出場を果たしています。また今回初出場するMISAMOは、TWICEの日本人メンバー3名により構成されたユニットです。

 

 

今回の傾向を語る前に、このブログでは先日紅白の最終予想を掲載しました。

今後追加で出場歌手が発表されるものの、今回は中堅やベテラン歌手、また旧ジャニーズ事務所所属歌手の未選出に伴い昨年同事務所が輩出した6枠について、予想と結果との乖離が少なくなかったと反省しています。全体の傾向としては当たらなかったわけではなかったのかもしれませんが、ともすれば今回紅白が掲げた"ボーダレス"というテーマは、国や地域以上に世代間に対して用いる意味合いが強いのではと感じた次第です。

 

 

さて、まずは初出場を果たした13組について取り上げます。このうち11組(伊藤蘭さん、大泉洋さんは除く)についてはビルボードジャパンがチャート記録を紹介する記事を用意していますが、出場歌手発表から1時間を経たないうちにこのような詳細な記事を作成することは難しいのではと考えるに、紅白側がやはりビルボードジャパンを社会的ヒットの鑑と捉え、情報の提示等において連携しているのではと感じています。

紅白とビルボードジャパンとの連携は昨年の動向からも読めたことでした。そしてその際、ビルボードジャパンのソングチャートとアルバムチャートを合算したトップアーティストチャート(Artist 100)での上位進出および安定が、選出されやすい条件に成るのではと結論づけました。

では今年はどうでしょうか。

<紅白初出場歌手におけるトップアーティストチャートのCHART insight>

※ CHART insightの見方については以下の通り。

※ CHART insightは基本的に、2023年11月8日公開分までの60週分を表示。

※ 歌手名はすべて敬称略。

MAN WITH A MISSIONは"MAN WITH A MISSION × milet"名義での記録を掲載。

 

新しい学校のリーダーズ

 

・Ado

 

・ano

 

・キタニタツヤ

 

・すとぷり (2023年9月27日公開分まで)

 

 ・Stray Kids

 

SEVENTEEN

 

10-FEET

 

MAN WITH A MISSION × milet (2023年4月19日公開分以降)

 

・MISAMO (2023年2月15日公開分以降)


・Mrs.GREEN APPLE

トップアーティストチャートのCHART insightからは、大半の歌手がチャートで安定していることが解ります。そしてそのほとんどはストリーミングや動画再生という指標が大きく寄与しています。ストリーミングや動画再生といった接触指標群はコアファン以上にライト層(歌手のファンというわけではないものの曲が気になる方々と位置づけています)の支持が大きいことを踏まえるに、社会に浸透した曲を輩出したといえるでしょう。

また男性アイドルやダンスボーカルグループならびにMISAMOについては所有指標、特にフィジカルセールスが大きい状況であり、これは男性アイドルやダンスボーカルグループ全体にいえる傾向でもあります。その中でもK-POP男性ダンスボーカルグループの二組はトップアーティストチャート100位以内に入った期間が長いのが特徴です。所有指標は直後の急落が激しい中にあって、この動きは特筆すべきといえます。

ゆえに、初登場歌手の大半は今ヒットしている方であると言って差し支えないはずです。Adoさんが「唱」、そして復帰組ですがYOASOBIは「アイドル」を披露する可能性が濃厚であり、尚の事でしょう。YOASOBIのトップアーティストチャートにおけるCHART insightはこちら。

加えて、予想の段階でも書きましたが、NHKの音楽番組、とりわけ特番や『Venue101』のプレゼンツライブに出演した歌手が選ばれやすい傾向にあります。今年プレゼンツライブに出演した歌手のうちJO1、すとぷり、Stray KidsおよびMISAMOの4組が紅白にも選ばれていることからも(上記リンク先参照)、予想の際はNHKの各音楽番組を隈なくチェックする必要性を感じています。これは『SONGS』においてもいえることです。

 

さて、今年は中堅と位置づけることが可能な歌手が多く登場します。紅組で椎名林檎さんやJUJUさんが復帰するのはその象徴といえますが、今後発表されるビルボードジャパン年間チャートの動向からも、初出場組や今回も出演する若手歌手とのチャート上での差は小さくないと考えます。なお年間チャートは12月8日金曜午前4時に発表される予定です。

加えて今回は旧ジャニーズ事務所所属の6組が外れました。同事務所初代社長が起こした性加害問題からの立て直しが十分ではないことを理由とした措置と思われますが、白組の初出場ならびに復帰組で、男性アイドルやダンスボーカルグループといった旧ジャニーズ側と代替可能といえる歌手が3組のみという状況は、紅白側の中堅歌手への移行と考えて好いかもしれません。もしくは旧ジャニーズ歌手が世代を超えて親しまれるゆえ、中堅という位置づけとして捉えていた可能性もあるのではないでしょうか。

 

その中堅やベテラン歌手はチャートでのヒットが大きくはないといえるのみならず、たとえば福山雅治さんについてはこの1年におけるリリースが昨年12月の「妖」1曲にとどまっています。さらに、今回歌手として初出場を果たす大泉洋さんについてはこの1年でのリリースが「あの空に立つ塔のように」のみの模様であり、同曲は10月31日にリリースされたばかりです。

ビルボードジャパンソングチャートにおける成績は、福山雅治「妖」が総合ソングチャート最高55位、100位以内1週のエントリーであり、大泉洋「あの空に立つ塔のように」は総合100位以内に登場していません。二組のトップアーティストチャートのCHART insightは以下の通りです。

(大泉洋さんのトップアーティストチャートにおけるCHART insightは、2022年12月7日公開分以降を表示。)

このCHART insightは、たとえば自分が今年初出場が予想されるとして挙げながら実際は出場とはならなかった歌手と比べても、差は大きいといえます。

・INI

・imase

 

XG

Da-iCE

 

・NewJeans

 

・back number

大泉洋さんは昨年まで紅白の司会を担当し、現在は『SONGS』で進行役(番組責任者という位置づけ)を務めています。また「あの空に立つ塔のように」のリリースに合わせて、11月2日放送回では生放送が組まれていました。

紅白は選出の対象となるチャート期間を明示していないものの、大泉洋さんのブッキング前に作品がリリースされていないだろう状況を踏まえれば同氏のNHKへの貢献度を踏まえた選出といえるでしょう。また福山雅治さんのチャートアクション等を考えるに、中堅やベテラン歌手においてはチャート成績以上に世論の支持が大きく影響することがよく解るのではないでしょうか。

(ちなみに、福山雅治さんや大泉洋さんをはじめ、星野源さんやPerfume、またエレファントカシマシアミューズに所属、または業務提携を受けています。旧ジャニーズ事務所の出演枠数が多いことを非難する声も散見されましたが、仮に今年出演できたならばチャート面を踏まえ4枠が妥当と捉えていました。ヒットを輩出したならば芸能事務所の枠の括りは関係ないと考えますが、アミューズの強さには純粋に驚いています。)

 

 

今年の紅白では、ビルボードジャパンが9月にスタートさせた世界における日本のヒット曲を示すチャート(Global Japan Songs Excl. Japan、ならびにJapan Songs (国名))に入っている歌手も今回出場しますが(これら新設チャートについてはこちらで紹介しています)、たとえばKing Gnuや米津玄師さんは今回の出場歌手一覧に含まれていません。また昨年の紅白以降さらにブレイクしたVaundyさんも入っていませんでした。

一方で、藤井フミヤさんの復帰は興味深いといえます。藤井さんは2022年11月2日リリースの『水色と空色』以来音源リリースはないのですが、チェッカーズのデビュー40周年を記念したアルバムや映像作品が9月以降相次いでリリースされ、その中にNHK出演映像をコンパイルした作品も含まれています(下記リンク先参照)。

(上記は藤井フミヤさんのビルボードジャパントップアーティストチャートにおけるCHART insight。11月1日公開分が総合300位以内の最終エントリーとなるため、その週までの60週分を示しています。)

周年記念という点では伊藤蘭さんも今回出場しており(今年キャンディーズはデビュー50周年)、ともすれば藤井フミヤさんの出演に伴いソロ曲(ソロとしても30周年)共々、チェッカーズの曲を披露する可能性もあるでしょう。そうなれば尚の事、"ボーダレス"は広い世代の歌手の登用、そして世代を超えた楽しみという位置づけという意味合いが強くなるものと考えます。また、NHKとの関連性も選出条件として小さくないはずです。

 

そして、今後追加で発表される歌手はどうなるかについてですが、今回は既に紅組白組共に昨年と同じ22組が選ばれており、また今年は昨年と放送時間が同じことから、仮に追加で発表されても紅組/白組に属する可能性は高くないでしょう。その中にあってベテランではなく若手歌手が追加で選ばれたならば、たとえば歌詞が広義のボーダレスを示す、多様性讃歌的な作品をヒットに至らせたことが選出条件になると考えます。

 

 

今年の紅白は、若手や初出場歌手は主にビルボードジャパンの各種チャートが、中堅やベテランは(初登場や復帰組も含め)世論の支持やNHKとの関連性が大きく影響することを実感しています。中堅が選ばれない可能性が高いのではとする自分の予想は外れたものの、紅白側の選出に当たっての芯、ポリシーと呼べるものが太くどっしりしていることを今回実感した次第です。

 

 

最後に、昨年述べた内容を掲載したポストを貼付します。たとえば既に、紅白にK-POP歌手が少なくない状況を踏まえたK-POPや韓国への非難が散見されるのですが、選出基準がしっかりしていることは今回のエントリーから自明です。紅白がより好くなってほしいと考えるならば冷静な分析、そして提案を行うほうがより素敵だと考えます。

 

 

※追記 (11月15日6時34分)

紅白出場歌手一覧について、新たな分析を行い公開しました。下記リンク先から確認できます。