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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

【ビルボードジャパン最新動向】「唱」の勢い、そして男性アイドル/ダンスボーカルグループの動向を分析する

最新11月15日公開分ビルボードジャパンソングチャート(集計期間:11月6~12日)ではAdo「唱」が3週連続、通算7週目の首位を獲得しました。

Ado「唱」はポイント前週比が16%近くダウン。これはハロウィーン終了に伴う反動といえるでしょう。

それでも、記事からはラジオ指標による獲得ポイントが(順位はダウンするものの)前週比102.4%と上昇していることが解ります。ラジオは最も季節感が反映される指標であることから、ここでの強さはともすれば「唱」がハロウィーン後に(他指標を含め)ポイントを大きく落とし続けることなく、ライバルが出現しない限りはソングチャートを制し続けることを意味するのかもしれません。

 

 

さて当週は男性J-POPアイドル/ダンスボーカルグループ4組がトップ10入りしています。

 

この4曲の動向をCHART insightでみるとそれぞれの強さ、そして課題がみえてきます。

 

 

CHART insightについては、下記ポスト(ツイート)にて簡潔に説明しています。

 

 

まず注目は、IMP.「CRUISIN'」がKing & Prince「愛し生きること」に勝ったことでしょう。IMP.は旧ジャニーズ事務所所属時代にIMPACTorsとして活動していたことから、後輩が先輩を凌駕したと考えて差し支えないかもしれません。

King & Prince「愛し生きること」はフィジカルセールスが353,077枚となり他を圧倒していますが、フィジカルセールスは指標化の際に週間セールス5万枚(推測)を超える分に係数処理が施されることから、この指標だけでポイントを大きく獲得するのは難しい状況です。重要なのは他指標の加点ですが、この曲はデジタル未解禁につきストリーミングやダウンロードが加算されず、ポイントを追加することができませんでした。

King & Princeをはじめとする旧ジャニーズ事務所所属歌手は、初代社長による性加害問題への対応が十分ではないとして今年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか、以下"紅白"と表記)には選ばれませんでしたが、上記エントリーの最後ではサブスクサービスでの紅白プレイリストにおける出演歌手作品のフルラインナップを踏まえ、今後はデジタルに明るくない歌手の出場自体難しいのではないかと記しています。

今回King & Princeがデジタルに明るいIMP.の後塵を拝したことで、旧ジャニーズ事務所所属歌手のデジタル解禁は待ったなしの状態になったと言っても過言ではないでしょう。またダブルAサイドシングルゆえの票割れという側面もあるとはいえ、ラジオ指標100位未満という状況はラジオでのOA控えも生まれている可能性があります。デジタル経由でライト層を獲得するという意味でも、デジタル解禁は必須でしょう。

 

 

IMP.「CRUISIN'」はデビュー曲として8月にデジタルリリースされ、今回フィジカルセールス指標初加算に伴い3週ぶりに総合300位以内返り咲きを果たしています。

注目はまずダウンロード指標。リリースから2ヶ月以上経過しながらも3,801DLを記録し同指標12位となっています。また同曲のAcoustic Remixは5位にランクインしましたが、これはオリジナルおよびリミックス版の購入キャンペーンも作用したと考えます。

またラジオ指標については8月30日公開分での2位を上回り、同曲初の首位に。この指標はプランテックによる全国31のラジオ局のOAランキングを基に、各局の聴取可能人口等を加味して算出されるものですが、そのOAランキングでは「CRUISIN'」が2位となっています。

2位にはIMP.「CRUISIN’」が再登場した。滝沢秀明氏設立のTOBE所属7人組グループによる同曲は、8月に配信リリースした際に最高4位を記録。今回、11月8日に1stシングル「CRUISIN’」をリリースしたことでのオンエア再伸長となった。

ウィークリー定期番組/コーナーの固定枠を中心に特定局での大量オンエアが目立つ中、リクエストオンエア数が前回チャートイン時よりも倍増している点は特筆すべきだろう。確実に支持基盤を広げている証だ。今後の動向にも注目したい。

OAランキングを制したザ・ビートルズ「Now And Then」が幅広いラジオ局でOAされたのとは対象的に、IMP.「CRUISIN'」はおそらく聴取可能人口等の多い放送局での集中的なOA、すなわちフィジカルリリース週における効果的な露出が指標化時の順位上昇につながったものと思われます。この状況では翌週の急落の可能性は否めないものの、一方でリクエストOA数の倍増という事態は注目といえます。

他方、IMP.「CRUISIN'」はストリーミングや動画再生といった接触指標群、すなわちロングヒットや年間チャートランクインの原動力でありライト層の支持がより強く反映される指標が共に300位圏外となり、ポイントが加算されませんでした(ゆえに歌手側のポスト(→こちら)における『たくさん視聴』という表現には違和感を覚えます)。次週のチャートでも同様の事態ならば、総合チャートの急落は免れないでしょう。

 

 

THE RAMPAGE from EXILE TRIBE「片隅」もまたフィジカルセールス初加算に伴いトップ10内へ上昇を果たしています。まず注目は、デジタル先行ながらラジオ指標がこのタイミングで7位に初登場している点。先述したプランテックによるラジオOAランキングではトップ10入りしていないことから、IMP.「CRUISIN'」同様に聴取可能人口等の多い特定局での大量OAが影響しているかもしれません。

またストリーミングは初登場から5週連続で100位以内に入っていますが、これはLINE MUSIC再生キャンペーンを連続で実施していることが大きいといえます。

・「片隅」LINE MUSIC再生キャンペーン(実施期間:10月9日~11月7日)

・「片隅」LINE MUSIC再生キャンペーン(実施期間:11月8~21日)

フィジカルリリース日からはプレゼントの内容が変わっているほか、前者のキャンペーンは実施期間が延長されていました。

 

LINE MUSIC再生キャンペーン採用曲はライト層(曲は気になるが歌手のファンというわけではない方々)の支持が大きく影響するストリーミングにコアファンの熱量が持ち込まれることで、指標の上位進出につながりやすい傾向があります。それゆえキャンペーン終了後には、本来急落することが少ないはずのこの指標が大きく下がり、総合順位も後退することがほとんどです。

LINE MUSIC再生キャンペーンの実施も影響してAdo「唱」から一時的に首位の座を奪った櫻坂46「承認欲求」ですが、キャンペーン終了後は総合順位が急落。ストリーミングが前週100位以内にランクインしながらそこで途絶えたことは、この指標が当週300位以内に入らず加点されなかったことを意味します。この可能性は以前の分析時に示唆しましたが(→こちら)、その予感が的中してしまったことになります。

 

THE RAMPAGE from EXILE TRIBE「片隅」においてはフィジカルセールス指標3位の一方でダウンロード指標は100位未満(300位圏内)であること、また動画再生指標が300位未満となり加点されていないことを踏まえれば、今回の上位進出はLINE MUSIC再生キャンペーン効果も含めコアファンによる支え、およびラジオにおける施策が功を奏した形と考えます。次週以降の急落を避けるにはライト層へのリーチが急務です。

 

 

BE:FIRST「Glorious」は今回トップ10入りしたJ-POP男性アイドル/ダンスボーカルグループの作品で唯一フィジカルリリースされていませんが、ダウンロード指標を制しています。この曲についてもデジタルで各種キャンペーンが組まれています。

また上記ポスト内リンク先にて掲載された以外にも、LINE MUSICでもキャンペーンが実施されていますが、こちらは再生キャンペーンではありません。

BE:FIRSTは直近のフィジカルシングル「Mainstream」でもLINE MUSIC再生キャンペーンは行っていませんでした(ただし1ユーザー毎に再生回数ハードルを設けたものではなく、最終的に週間ランキングを制したならばプレゼントがもらえるという類のキャンペーンは実施されています)。その状況下で、リリース週のストリーミング上位進出が難しい日本にあって同指標29位に初登場したことは大きいといえます。

 

一方で、その「Mainstream」はこれまで順調だったものの、最新チャートにて比較的大きくダウンしています。総合、そしてストリーミング指標の順位が寄り添う形で下がっていることがCHART insightから解ります。

以前のエントリー(LINE MUSIC再生キャンペーンを採用しない曲や歌手が目立ってきたことを興味深く捉える(11月11日付))にて「Mainstream」を紹介した際、『ライト層のアプローチ、そしてコアファンもまた継続的に支持』と記したのですが、最新週の動向を踏まえれば「Mainstream」はコアファンによる聴取の割合が高く、その層が新曲リリースにて「Mainstream」から移行したのではと考えを改めるに至っています。

 

ストリーミングに強い歌手については、新曲リリースの度に過去曲が再度上昇し、トップアーティストチャートでも階段を駆け上がるようにステップアップする傾向があります。K-POP第4世代女性ダンスボーカルグループの動向が最も解りやすく、K-POP女性ダンスボーカルグループ、第4世代の人気はチャートでも証明…NewJeansの動向は要注目(3月10日付)にて紹介しています。

上記は今回ソングチャートでトップ10入りを果たした4組における最新11月15日公開分までの60週分(IMP.は初エントリーからの13週分)におけるトップアーティストチャート(ソングチャートとアルバムチャートを合算したチャート)のCHART insight。先程述べた階段を駆け上がるようにステップアップするという形に最も近いのはBE:FIRSTといえるでしょう。

加えてそのBE:FIRSTによる「Glorious」は、今回新たにもしくは再度トップ10入りした男性アイドル/ダンスボーカルグループの作品ではチャート構成比(各指標毎の獲得ポイント)が理想形に近いものと考えますが、一方では前作「Mainstream」がダウンしたことが気になります。男性アイドル/ダンスボーカルグループ全体が接触指標群に強くない状況とも言えるゆえ、この点の改善はどの歌手においても必須です。

 

 

無論、今回新たに(もしくは再度)トップ10入りした作品については次週以降の動向を確認した上で、最終的に社会的ヒット曲に成るかを判断する必要があります。重要なのは週間順位以上に中長期的なヒットゆえ、チャートの推移について今後も注視していきます。そしてその中長期的ヒットの支えになるのはライト層の獲得であり、歌手側そしてコアファンの方々はそのアプローチを考え、実践することが大切です。