ビルボードジャパンにはソングチャートとアルバムチャートを合算したトップアーティストチャート(Artist 100)が存在します。このチャートが『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)の出場基準になるだろうことについて、以前このブログで記したところ大きな反響をいただきました。
その『NHK紅白歌合戦』においては、ベテランの出演も見どころのひとつ。周年記念となる歌手が出場しやすい傾向があり、基本はその年にリリースしていればビルボードジャパンソングチャートやトップアーティストチャートでロングヒットせずとも若手より出場しやすいと言えるのですが、そのベテランの中でもソングチャート、そしてトップアーティストチャートでの動きに差が生じています。
今回は2000年以前にデビューした歌手をベテランと定義づけた上で、7月以降のトップアーティストチャートにて総合もしくは構成6指標のいずれかにおいて20位以内に入った歌手から一部を抽出し、その動向をチェックします。
【ビルボードジャパンのCHART insightについて】
— Kei (ブログ【イマオト】/ラジオ/ポッドキャスター) (@Kei_radio) 2023年7月14日
リンク先:https://t.co/NVZ8bHjac1
<色について>
黒:総合順位
黄:フィジカルセールス
紫:ダウンロード
青:ストリーミング
黄緑:ラジオ
オレンジ:ルックアップ(2022年度で終了)
水色:Twitter(2022年度で終了)
赤:動画再生
緑:カラオケ
【ビルボードジャパンのCHART insightについて】(続き)
— Kei (ブログ【イマオト】/ラジオ/ポッドキャスター) (@Kei_radio) 2023年7月14日
<色について>
ピンク:ハイブリッド指標
(BUZZ、CONTACTおよびSALESから選択可能)
<チャート構成比>
最新週、もしくは300位以内最終在籍時における指標毎のポイント構成
下記に掲載するCHART insightは、上が最新週までの60週分、下が2021年度初週から最新週までの分となります。
・aiko
フィジカルリリースの度に上昇するのはベテランも若手も同様。ベテランにおいては周年記念のフィジカルリリースもプラスに作用し、aikoさんにおいては初期アルバム4作品を先月アナログにてリリース。そのフィジカルセールス指標は瞬発的上昇にとどまりがちな中、aikoさんは「花火」がロングヒットしておりそこにレコードセールスが後押しする形で、トップアーティストチャートにて上昇および安定していることが解ります。
夏になると各指標が上昇する傾向に。特に今夏はおよそ4年ぶりのリリースとなる「盆ギリ恋歌」の登場以降ラジオが大きく伸びていますが、これはラジオ業界がベテランを好む傾向が強いため。一方、CDをパソコン等に取り込んだ際にインターネットデータベース(Gracenote)にアクセスする数を示すルックアップ指標が昨年度で廃止となり、レンタル取込分は今年度からゼロに。接触指標群の補強が問われます。
・スピッツ
スピッツは劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』の主題歌に「美しい鰭」が用いられて以降、大きくステップアップ。アルバムのみならずシングルでフィジカルを用意したことも大きいのですが、以前からカラオケが強いこと、ストリーミング解禁後に「チェリー」等がサブスクでヒットしたこと等、接触への導線が太いことが「美しい鰭」以降における彼らの勢いをより大きくさせたと捉えていいでしょう。
10‐FEETの急伸は「第ゼロ感」の大ヒットに伴うもの。現在は漸減傾向にありますが、7月5日公開分でラジオ指標が上昇したのは集計期間の土日に行われた主催音楽フェス、京都大作戦2023の話題に伴うものであり、リクエストOA数は最多に(ラジオ指標の基となるOAチャートの記事参照→こちら)。音楽フェスで話題となることでラジオを中心に再浮上するという好例を示しています。
・B'z
この数週は久々のフィジカルシングル「STARS」が反映されたもののランクダウンの速度が高く、サブスクやミュージックビデオが(現在においても)解禁されていないのがその理由。過去曲は2年前に解禁されたものの、その後の作品は「STARS」も含めフィジカル先行/デジタル後発という状況であり、仮にデジタルを同時リリースにしていればフィジカルセールスを微減にとどめつつサブスク等で利益を補完できたと考えます。
・山下達郎
昨年度はオリジナルアルバムのリリース、今年度は5月以降のアルバム再販(レコードおよびカセットテープ)の影響が大きい状況。特に後者は月一ペースでリリースしているため総合でも上位に進出するものの、しかしチャートが安定しないのはストリーミング指標の基となるサブスクが未解禁につきポイント未加算である等、接触に強くないことが影響しています。ルックアップ指標の廃止も響いているといえるでしょう。
ベテラン歌手の中には今もサブスクと距離を置く方がいらっしゃいます。一方で過去曲がカラオケの定番化やTHE FIRST TAKEでの登場で脚光を浴びることで、何かのきっかけでさらに押し出されトップアーティストチャートで上昇することはaikoさん等の動向から明らかです。さらに新曲がサブスクで大ヒットを果たすことで過去曲も人気となり、トップアーティストチャートでステップアップにつながるスピッツ等の例もあります。
8月において注目したいのはサザンオールスターズ。先週放送の『ミュージックステーション』(テレビ朝日)で過去曲を含む3曲を披露したことで、サブスクに影響が出始めています。
#Mステ 生放送、無事終了‼️🥳✨#サザンオールスターズ は「LOVE AFFAIR〜秘密のデート〜」、そして新曲「#盆ギリ恋歌」「#歌えニッポンの空」の3曲を披露させていただきました🙌🎊#サザン45 周年を一緒に楽しんでくださる全ての皆様に、”ありがっとう‼️“
— サザンオールスターズ official (@sasfannet) 2023年8月4日
☑️https://t.co/84BWCysDtS@Mst_com pic.twitter.com/ck5NQyaN53
日本における8月5日付Spotifyデイリーチャート、200位以内における #サザンオールスターズ のランクイン状況。
— Kei (ブログ【イマオト】/ラジオ/ポッドキャスター) (@Kei_radio) 2023年8月6日
78→63位 「#真夏の果実」
142→107位 「#TSUNAMI」
143→126位 「#盆ギリ恋歌」
184→128位 「#LOVEAFFAIR~秘密のデート」
195位 (再登場) 「#涙のキッス」
ベテラン歌手は音楽番組で重用される傾向があります(この点については2022年の『NHK紅白歌合戦』への私見…紅白はビルボードジャパンや大ヒット曲輩出歌手を尊重してほしい(1月1日付)にて私見を記しています)。大きく取り上げられる機会は多いことから、その有利な状況を用いて出演後に接触指標群へと誘導できるか、ライト層をコアファンに昇華させ所有行動に至らせるかが、人気継続の鍵といえるでしょう。
ビルボードジャパンによるトップアーティストチャートについては、最近ではMrs.GREEN APPLEやNewJeansを例に、その重要性を挙げています。ビルボードジャパンの各種チャートが社会的ヒット作品の鑑となっていることから、特に接触指標が重要な鍵となるソングチャート、そしてそのチャートがアルバムチャート共々合算されるトップアーティストチャートの動向については定期的にチェックする必要があるでしょう。