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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

日本のサブスクサービスで好位置初登場、百足 & 韻マン「君のまま」の配信に至るスケジュールが興味深い

日本のサブスクは新陳代謝がないという言説について、ここ最近様々な角度から考え続けています。先週末からは3日連続で、日本におけるSpotifyデイリーチャートやビルボードジャパンソングチャートの現状を踏まえた改善提案を実施していますが、本日は興味深い動きを採り上げます。

 

紹介するのは百足 & 韻マン「君のまま」。日本における最新2月19日付Spotifyデイリーチャートで72位に初登場を果たしています。

前週(2月13~19日)においては強力なリリースが多かったのですが、それら作品の日本におけるSpotifyデイリーチャートでの初登場位置は、BE:FIRST「Boom Boom Back」が53位(ただし前日にフラゲ的な形で110位に初登場し、初の24時間フル加算にて53位に)、優里「恋人じゃなくなった日」が93位、YOASOBI「アドベンチャー」が88位であり、百足 & 韻マン「君のまま」の72位が好位置であることが解ります。

さらには昨日20時前後の時点で、「君のまま」はApple Musicで34位、そしてLINE MUSICにおいてはリアルタイムチャートを制していました。LINE MUSICでは最終的に2月20日付デイリーチャートで2位につけましたが、このサブスクサービスで再生キャンペーンを展開していない「君のまま」がロケットスタートを切っているのです。日本のサブスクサービスにおいては珍しい動きと言えるかもしれません。

 

 

調べてみると、百足 & 韻マン「君のまま」にはヒットの兆候と呼べるものがありました。ミュージックビデオの好調がそのひとつです。

ミュージックビデオは上記ツイートから程なくして700万回再生を突破し、2月21日5時の段階では709万回に達しています。「君のまま」のミュージックビデオが昨年12月25日に公開された一方でダウンロードやサブスクの解禁は2月19日であり、2ヶ月近いタイムラグが設けられていたのです。

(上記は百足 & 韻マン「君のまま」のYouTubeおよびSpotifyでの画面。公開日の差を紹介するためにキャプチャしています。)

 

百足 & 韻マン「君のまま」はYouTubeでの公開に先立ち、Soundcloudにて披露していました。YouTubeでミュージックビデオを公開する20日以上前の段階で、「君のまま」はSoundcloudにて100万回再生を突破しています。

(上記は百足 & 韻マン「君のまま」のSoundcloudでの画面。公開日を紹介するためにキャプチャしています。なお”百足 韻マン 君のまま Soundcloud”でYahoo! JAPANにて検索すると、2022年10月3日に公開されたことが見て取れます。検索結果はこちら。)

 

またYouTubeでの公開前には、「君のまま」の歌詞がGeniusにて確認可能に。下記ツイート内リンク先をみるとリリース日は2022年10月4日となっており、Soundcloudでのリリースとほぼ同日となっています。加えてミュージックビデオ公開後に歌詞検索が増えてきたことが、下記ツイートから解ります。

歌詞はYouTubeの概要欄にも掲載されていますが、Geniusでは「君のまま」の歌詞閲覧回数が、サブスク等で解禁される前日に10万回を突破しています。

百足 & 韻マン「君のまま」の歌詞人気の高さは凄まじく、Genius Japanチャートにおいてはチャート発足以降1→2→1→1位と推移しているのです。

 

百足 & 韻マン「君のまま」の公開タイミングはSoundcloud(音源)およびGenius(歌詞)、YouTube(動画)、そしてダウンロードやサブスク(音源)の順となっているのですが、歌詞の評判が主要デジタルプラットフォームにおける解禁への期待値を高めたと考えていいでしょう。とりわけLINE MUSICでの人気は若年層からの支持の多さが推測されますが、歌詞をGeniusやYouTube概要欄で用意したことも功を奏したかもしれません。

 

 

百足 & 韻マン「君のまま」はTuneCore Japanから発信されています。

(上記ツイート内に掲載されたリンクから遷移可能なSpotifyの”New Music Everyday - tuneTracks (curated by TuneCore Japan)”プレイリスト、2月21日5時現在の掲載曲をキャプチャしています。百足 & 韻マン「君のまま」は3曲目に登場しています。)
TuneCore Japanとは『オリジナル楽曲やアルバムをApple Music、SpotifyAmazon Musicといった音楽ストリーミングサービスや、TikTokInstagramなどのSNSへ一括配信することが可能』なディストリビューションサービス(『』内はTuneCoreとは?基本的な利用方法から楽曲の配信の方法まで徹底解説 | プレイリスト&カルチャーメディア | DIGLE MAGAZINE(2022年11月9日付)より)。そのTuneCore Japanでは2015年8月25日付にて、Soundcloudに関する記事をアップしています。

このプラットフォームを、他のストリーミングサービスと同様に厳正な権利処理を施し、収益性あるものへと変えることが音楽業界を発展させる方法なのか。

或いは、このプラットフォームを生かすことによって、新たな音楽の才能を育んでいくべきなのか。

今まさに、SoundCloudは難しい問題に直面していると言えます。これは音楽に携わる者として、注意深く見守っていく必要がありそうです。

「君のまま」をリリースした2組は共にTuneCore Japanにてページが用意されていますが(百足さんはこちら、韻マンさんはこちら)、Soundcloudにもアカウントがあり、韻マンさんは2週間前に、そして百足さんは本日新たな曲をリリースしています。

2組によるコラボ曲「今の方が」についても、サブスクサービスでのリリースが今年に入ってからだった一方でSoundcloudでは昨年前半に公開されており、Soundcloudで音源を解禁し機が熟した(話題になった)タイミングでTuneCore Japanを介してリリースするという流れが、彼らにとっては一般的なのかもしれません。

そして百足 & 韻マン「君のまま」はTikTokでも、ミュージックビデオ公開前から用いられている状況です。自分が確認した限りでは動画の多くが「君のまま」ではない曲名表記となっていますが、曲がTikTokにきちんと配信(登録)されていない段階であってもいち早く見つかり、活用した方が多かったことも、歌詞人気の高さやサブスク解禁日のロケットスタートにつながったものと考えます。

 

 

自分は今回、百足 & 韻マン「君のまま」についてこのようなツイートを発信しました。

今回あらためて調べるうちに、YouTube先行/サブスク後発が意識的なものではなかったと考えるに至っています。どの曲をデジタルプラットフォームに発信するかは歌手側が決めているとして(それ自体は施策かもしれませんが)、TuneCore JapanがSoundcloudを活かし、そこで人気になった曲を広く配信する(一方で配信後もSoundcloudに残すことを了承している)ゆえに、偶然にもこの解禁スケジュールになったのかもしれません。

今回、広くデジタルプラットフォームに解禁する前に歌詞人気を生み、リリース待望論を高めたことが、各サブスクサービスでの2月19日付における好位置初登場につながったと言えるでしょう。百足さんや韻マンさんのようなSoundcloud活用者がどのタイミングで広くデジタルプラットフォームに発信するかについて、興味を抱いています。