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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

日本で流行するヒップホップはストリーミングが急伸し牽引…ビルボードジャパンのCHART insightを分析する

最新3月8日公開分のビルボードジャパンソングチャートでは、百足 & 韻マン「君のまま」が7位に入り、初のトップ10入りを果たしています。

今回はビルボードジャパンのCHART insightを基に、日本でヒットするヒップホップのチャート動向を分析します。

 

 

百足 & 韻マン「君のまま」は初登場時から既にストリーミングが強いという状況でしたが、これはSoundcloudでの事前公開、またデジタルプラットフォーム解禁前のミュージックビデオや歌詞の人気によりリリース時には既に高い人気を誇っていたと捉えています(下記エントリー参照)。

そして、ストリーミングがいち早くヒットし総合順位を牽引する状況は日本のヒップホップ作品において少なくないのではと捉え、今回CHART insightを用意した次第です。では、ビルボードジャパンがフィジカルセールス指標に係数処理を用いた2017年度以降、年間ソングチャート100位以内に入った作品の動向をみてみましょう。

 

<2017年度以降のビルボードジャパン年間ソングチャートにおいて100位以内に入ったヒップホップ(関連)作品のCHART insight>

 

※ CHART insightについて

CHART insightは下記ツイート内リンク先から確認が可能です。

(このブログにビルボードジャパンのリンクを貼っても反映されない状況ゆえ、リンクを掲載したツイートを貼付しています。)

CHART insightにおいて総合チャートは黒、フィジカルセールスは黄色、ダウンロードは紫、ストリーミングは青、ラジオは黄緑、動画再生は赤、カラオケは緑で表示。ルックアップ(オレンジ)およびTwitter(水色)は2022年度にて廃止となっています。またピンクはハイブリッド指標を示しています。

チャート構成比等は最後に総合300位以内に入った段階のものを指します。また説明のないものはすべて、総合300位以内初登場からの60週分を示します。なお、ビルボードジャパンポッドキャストの最新回(YouTubeこちら)においてMCの礒崎誠二さんがTani Yuukiさんを例に挙げたことから、Tani Yuukiさんおよびなとりさんについても取り上げます。

 

・Rin音「snow jam」(2020年度 49位、2021年度 75位)

 

・Tani Yuuki「Myra」(2020年度 66位)

 

・空音 feat. kojikoji「Hug」(2020年度 71位)

 

ちゃんみな「Never Grow Up」(2020年度 83位)

 

・変態紳士クラブ「YOKAZE」(2021年度 39位、2022年度 41位)

(CHART insightは90週分を表示。)

 

・BLOOM BASE「Bluma to Lunch」(2021年度 43位)

 

・Tani Yuuki「W / X / Y」(2022年度 2位)

 

・なとり「Overdose」(2022年度 75位)

 

Creepy Nuts「のびしろ」(2022年度 82位)

 

 ・水曜日のカンパネラエジソン」(2022年度 78位)

Creepy Nuts「のびしろ」や水曜日のカンパネラエジソン」を除き、波形が似ていると感じています。総合チャート100位以内登場までに時間を要した作品もありますが、ストリーミングが駆け上がる形で総合チャートを牽引し、ストリーミング指標の順位が総合の順位を上回っていることが共通しています。一方で他指標とストリーミングとの乖離も小さくない状況です。

これら作品の動向は、今年度に入り総合トップ10入りを果たした作品と異なります。

Vaundy「怪獣の花唄」は緩やかに上昇し、『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)を経て急上昇。総合で上位をキープする10-FEET「第ゼロ感」およびNewJeans「Ditto」共々ストリーミングが強いながら、他指標も同時期に上位進出を果たしています。ヒップホップ(関連)曲のようにストリーミングが突出する状況ではないと言えるでしょう。

また、2022年度のビルボードジャパン年間ソングチャートで6位を獲得したSaucy Dog「シンデレラボーイ」、同じく8位のマカロニえんぴつ「なんでもないよ、」は双方の歌手にとって大ブレイクのきっかけとなった曲ですが、ストリーミングのみならず動画再生も似た軌道となり、またラジオ指標が早々から動いているのも特徴です。

 

 

今回採り上げたヒップホップ(関連)曲のほとんどは、各歌手にとってブレイクの契機となる作品と言えます。メジャーレーベル未所属歌手においてはラジオ局へのプロモーションが強くないことがラジオ指標に影響したと捉えていいでしょう(この点はラジオ番組を持つCreepy Nutsや、リリース時期に番組を担当していたちゃんみな「Never Grow Up」とは異なります)。水曜日のカンパネラエジソン」はボーカル交代後初の大ヒット曲となりますが、過去の実績がラジオ指標の増加につながったと考えられます。

 

”日本のヒップホップ”と一括りにするのは乱暴かもしれず、そのジャンルの中にも多彩なスタイルがあるとはいえ、総合ソングチャートを上昇する作品にはメロディアスなものや、いわゆるエモいとされるリリック(歌詞)という点で共通している曲が少なくありません。TikTok人気も影響していることでしょう。

そして百足 & 韻マン「君のまま」がLINE MUSICでまず大ヒットしたことに顕著なように、(同サブスクサービスをより多く使う)若年層の人気獲得がヒップホップのヒットの一因と考えていいでしょう。若年層人気は浸透が速く、また周りが知らない曲をいち早く知るというステータスにもつながっているのではないでしょうか。

一方で、「君のまま」やなとり「Overdose」等において、動画再生指標の欠測が時折みられる印象です。この点はチャートを予想する紅蓮・疾風さん(Twitterアカウントはこちら)も度々指摘されています。動画再生指標は週間ポイントやロングヒットに影響するため、この解消は必須と言えます。インディや自主制作でも大ヒットする可能性がある以上、ISRC付番等チャート知識の認知浸透は業界全体の課題でしょう。

 

日本の総合チャートでヒットするヒップホップのCHART insightは似ているというのが自分なりの結論です。ストリーミングヒットを他指標にも波及できたならば、ジャンルヒットのさらなる輩出、そしてジャンル自体の盛り上がりにつながるのではないでしょうか。