イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

日本でもっと様々な音楽が聴かれるためには? 音楽チャートにおける洋楽の現状を踏まえ、改善案を考える

日本のサブスクは新陳代謝がないという言説について、ここ最近様々な角度から考え続けています。一昨日は過去曲が海外にて上昇する傾向を踏まえてプレイリストを活用することもさることながらその存在を知ってもらうことが重要であること、昨日は新曲の上昇タイミングを踏まえて新曲を解禁日やリリース週にどうやって知ってもらうかについてを記しました。

本日は洋楽の動向について採り上げます。なおここでいう洋楽はK-POPを除きます。

 

 

ビルボードジャパンにはHot Overseasという洋楽のみを抽出したチャートがあります。チャートポリシー(集計方法)はソングチャート(Hot 100)に準拠します。

2月15日公開分ではグラミー賞関連作品が上昇。Hot Overseas首位のリゾ「About Damn Time」は最優秀レコード賞を、2位のハリー・スタイルズ「As It Was」は収録アルバム『Harry's House』が最優秀アルバム賞を受賞し、またサム・スミス & キム・ペトラス「Unholy」は最優秀ポップ・パフォーマンス(デュオ/グループ)を獲得しています。注目度の上昇がチャートの浮上をもたらしたと言えるでしょう。

しかしこれらの作品はいずれも、2月15日公開分の総合ソングチャート100位以内に登場していません。

ビルボードジャパンによるソングチャートのCHART insightをみると、黒で示される総合順位は最新2月15日公開分で3曲とも300位以内に入っていることが解ります。またチャート構成比をみると黄緑で示されるラジオ指標が牽引していることが見て取れます。ラジオ指標は対象局のOA回数に聴取可能人口等を加味して算出されますが、基となるOAチャートではグラミー賞関連作品が上昇しています。

毎週、世情を反映し表情を変えるラジオ・オンエア・チャートだが、今週は3つの大きなイベントが反映されるものとなった。

一つは、現地時間2月5日に米ロサンゼルスで開催された【第65回グラミー賞】授賞式だ。世界的に最も影響力のある音楽賞だけに、今年も多くの番組が受賞曲/アーティストを紹介するなか、年間最優秀レコードを受賞したリゾ「アバウト・ダム・タイム」は前週38位から4位へ急浮上。全体の93.5%、FMでは全ステーションでオンエアされ、今週最も広く注目された曲となった。

さらには、年間最優秀アルバムを受賞したハリー・スタイルズ「ハリーズ・ハウス」から「アズ・イット・ワズ」(26位→7位)、「レイト・ナイト・トーキング」(-位→181位)、「ミュージック・フォー・ア・スシ・レストラン」(-位→83位)の3曲がチャートイン。この他、ビヨンセ「ブレイク・マイ・ソウル」(32位→19位)、サマラ・ジョイ「キャント・ゲット・アウト・オブ・ディス・ムード」(-位→21位)、サム・スミス,キム・ペトラス「アンホーリー」(77位→43位)、ボニー・レイット「ジャスト・ライク・ザット」(-位→63位)、ウェット・レッグ「シェーズ・ロング」(-位→67位)などが上位入り。

グラミー賞で主要部門を逃しながらも受賞を果たしたビヨンセ「Break My Soul」およびアデル「Easy On Me」も、最新2月15日公開分ビルボードジャパンソングチャートにおいてラジオ指標100位以内にランクインしています。

今回採り上げた5曲には共通項があります。それはストリーミング指標が一度として100位以内に入っていないということ。この指標はCHART insightにおいて青で示されますが、リゾ「About Damn Time」およびビヨンセ「Break My Soul」においては300位以内にすら入っていないのです。以下は5曲のCHART insightにおいて、ストリーミング指標のみの動向を抽出したものです。

サム・スミス & キム・ペトラス「Unholy」では最新2月15日公開分ビルボードジャパンソングチャートにおいてラジオ指標37位、ストリーミング100位未満(300位圏内)と順位自体はラジオが勝っているのですが、チャート構成比をみるとストリーミングによるポイントが大きいことが解ります。ストリーミング指標がヒットの大きな要因となることが、この曲から解るのではないでしょうか。


このブログでは以前より、日本における洋楽が危機的状況ではないかということについて記してきました。

上記エントリーでも採り上げたのがラジオの動向。日本で洋楽がかかりにくくなっていることについて懸念を表明しました。

今回採り上げたCHART insightをみれば、ラジオで洋楽が弱くなったとして今も頼みの綱であることは間違いないでしょう。しかしストリーミングが強くなければ総合順位を押し上げることができず、洋楽が重視されなくなりラジオでの洋楽OAがさらに減るのではと危惧しています。

 

 

では、日本において洋楽がヒットするにはどうすればいいでしょうか。これまでの実績を踏まえれば、日本のメディアで定期的に採り上げられること、またTikTokのバズが広く世間に波及することが必要かもしれません。

 

冒頭で紹介した2月15日公開分のビルボードジャパンHot Overseasをみると、トップ10内にはザ・キッド・ラロイ & ジャスティン・ビーバー「Stay」(4位)、エド・シーラン「Shape Of You」(6位)がランクインしています。前者は2021年度のビルボードジャパン年間ソングチャートで76位、2022年度には47位を記録、また後者においては2017年度以降2→14→27→64位となり4年連続で100位以内に登場していました。

エド・シーラン「Shape Of You」のCHART insightは最初の150週分を表示していますが、最新2月15日公開分ビルボードジャパンソングチャートでも総合およびストリーミング指標共に300位以内に入っています。そしてザ・キッド・ラロイ & ジャスティン・ビーバー「Stay」共々、ストリーミング指標がはっきり可視化されています。

この2曲のみならず先述した5曲もすべて米ビルボードソングチャートを制していますが、日本においてザ・キッド・ラロイ & ジャスティン・ビーバー「Stay」やエド・シーラン「Shape Of You」が抜きん出たのは、前者においてTikTokのヒット後にチョコレートプラネットの松尾駿さんを動画に起用したこと、後者では連続ドラマに用いられたことで、広く世間に浸透したことがチャートヒットに貢献したものと考えます。

とはいえすべての洋楽が、芸人を起用したりメディアで毎週流してもらうことはできません。ならばできる範囲で洋楽をどう日本で浸透させるかを考える必要があるはずです。そのいくつかの方法について提案します。

 

 

まずはラジオにできることについて。ラジオで洋楽がかかりにくくなってきたことには芸人起用の拡大が一因と記してきました。それ自体が良くないと決めつけるのは正しくはないものの、トークとミュージックの割合が変化し、また馴染みの薄い洋楽がOAされにくくなると考えるのは自然なことです。彼らが如何に洋楽を親しんでくれるか、ラジオ局側がレクチャーすることは重要と考えます。

加えてTikTok発のヒットが増えたり音楽をTikTok経由で知る方が増えているならば、そのTikTok等動画サービスにて芸人が洋楽の良さやヒットの理由等を伝えることでより深く馴染んでもらうこともできるかもしれません。

 

ラジオにおいてはOA曲のプレイリスト化も必要と考えます。上記は本日5時40分現在のJ-WAVEにおけるOA曲リスト(リンクはこちら)。こちらでは”サブスクで聴く”との表示がありますが、Apple Musicにのみ遷移する形となっています。これをSpotifyやLINE MUSIC等、他のサブスクサービスも選択可能なリンクを貼付する形に変更する必要があるでしょう。

またラジオ番組によっては洋楽のみを紹介したり、洋楽邦楽を問わず深く掘り下げる番組もあります。それら番組のファンにとっては放送局のOAリスト以上に番組のOAリストが重宝されるかもしれません。OA曲の良さを知ったリスナーが次の行動に出やすくなる、その背中を押すためにもOA曲をプレイリスト化することは必要と考えます。たとえば星野源さんは『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)でのOA曲を最新回から遡る形でプレイリスト化しています。

 

その星野源さんは、以前作成したプレイリスト『so sad so happy』を自身のラジオ番組で紹介したところ、後日Spotifyのバイラルチャートにて複数曲ランクインしたことがありました。音楽に精通した方、ファンの多い方が思い入れのある曲を紹介しプレイリスト化することもまた、その方のコアファンを中心に洋楽に触れるきっかけになるかもしれません。

 

さらには、このような試みも面白いのではないでしょうか。

Travis JapanやジャニーズJr.による、ジャニーズ事務所歴代所属歌手の作品をダンスでカバーするYouTubeチャンネルが+81 DANCE STUDIO。個人的には、カバーされた曲がサブスク解禁されていれば、またオリジナル版のミュージックビデオが公開されていればこのチャンネルからの導線が生まれるものと考えます。

上記動画でパフォーマンスしているTravis Japanは昨年秋、キャピトル・レコードからデビューを果たしています。このレコード会社には先程紹介したサム・スミスをはじめホールジーケイティ・ペリー、さらにはアバやビー・ジーズといったベテランも所属しています。加えて今週公開される2月25日付米ビルボードソングチャートでトップ10入りが見込まれる「Boy's A Liar Pt. 2」(ピンクパンサレス「Boy's A Liar」のリミックス版)に参加したアイス・スパイスもまた、キャピトル・レコード所属の新鋭です。

Travis Japanが世界を舞台に活動するとすれば、自身のダンススキルを示す場として新旧問わずキャピトル・レコード発の作品をダンスカバーして紹介することも面白いかもしれません。今後同じキャピトル所属のラッパーとコラボしたり、海外でその名を轟かせることができるのみならず、日本で様々な洋楽が浸透することも可能と考えます。

 

そして、J-POPの金曜リリースや日本の音楽チャート金曜起点の徹底、音楽チャートにおいては合算等におけるチャートポリシーを海外同様にすることを引き続き求めます。

なぜ日本(J-POP)側が沿わせる必要があるのかと思われるかもしれませんが、洋楽のリリース日は金曜が標準となっており、J-POPのバラバラなリリース日の中にあっては埋もれかねません。そしてJ-POPが金曜を標準リリース日となり且つ音楽チャートが金曜を集計開始日とすれば米ビルボードによるグローバルチャートへのランクインの可能性も高まり、最終的にJ-POPもまた優位となるのです。

(上記は本日6時台のキャプチャとなります。)

SpotifyにはNew Music WednesdayおよびNew Music  Friday Japanという、主に日本のユーザーに向けた最新曲プレイリストが存在します。後者は洋楽比率が高いものの登録者数は前者の3分の2に届かない状況です。New Music Friday Japan側の比率も高め、洋楽に親しむ方を増やすことは必要です。

 

 

少なくとも音楽チャートにおいて、日本における洋楽の浸透度は下がっていると言えます。これ以上洋楽が弱くなれば、最終的には海外歌手の音楽活動(プロモーションやライブ、音楽フェスの出演等)において日本が重視されなくなるのではという懸念を抱いています。洋楽に気付いてもらうためにどうするか、どうやってストリーミングへの導線を作るかを音楽業界側が検討し、実践することは重要です。

 

最後に。私見と前置きしますが、洋楽においてはどんなに簡単な曲名であっても、メディアのみならずビルボードジャパンでもカタカナ表記となることに違和感を抱いています。J-POPでは英語の曲名や歌手名をそのまま表記するゆえ、洋楽においても少なくとも曲名については英語表記のままでいいと思うのです。