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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

BE:FIRST「Boom Boom Back」での様々な施策投入、そしてリリース日について考える

来週公開のビルボードジャパンソングチャートでは、注目の新曲が複数初登場することが見込まれます。

2020年度のビルボードジャパン年間ソングチャートを制したYOASOBIによる新曲「アドベンチャー」はユニバーサル・スタジオ・ジャパン”ユニ春”CMソング、そして2021年度を制した優里さんによる新曲「恋人じゃなくなった日」は年間制覇曲「ドライフラワー」に関連した作品とのことで、ここ数作品の中でチャートアクションがより大きくなるかもしれません。

そして本日は、BE:FIRSTが「Boom Boom Back」をリリース。所属事務所BMSGの”B”を頭文字に据えたこの曲のリリース手法は、今の日本や世界におけるヒット獲得のアプローチを様々踏襲しています。今回は「Boom Boom Back」における施策をまずは紹介します。

 

 

BE:FIRST「Boom Boom Back」のリリースアナウンスはおよそ半月前のことでした。

「Boom Boom Back」はヒップホップ調のダンスナンバー。制作にはアメリカを中心にDJ、トラックメイカーとして活躍するグラント・ブーティン、ソングライターのウィル・ジェイ、3onawavらが参加し、コレオグラフをKAITA、KAZ the FIREが担当している。本日1月26日に東京・国立代々木競技場第一体育館で行われた全国ツアー「BE:FIRST 1st One Man Tour “BE:1” 2022-2023」追加公演で、BE:FIRSTはこの曲を初披露した。

しかし情報解禁の半月ほど前から既に動きが。『KAITAとKAZ the FIREは「#BBBチャレンジ」「#BBBChallenge」というハッシュタグを付けて「Boom Boom Back」の音源や振付の一部をTikTokInstagramに投稿』していました(『』内は上記リンク先、音楽ナタリーの記事より)。

@kaita_the_hataboy " #BBBチャレンジ "みんなは踊れるかな??👀❤️‍🔥Have a try‼️‼️🕺#BBBChallenge ♬ Boom Boom Back - BE:FIRST

チャレンジモノとしてハッシュタグも用意することもさることながら、TikTokにて歌手名を明かさずに曲を先行解禁する手法は海外でみられたもので、たとえばドレイク「Toosie Slide」(2020)ではインフルエンサーを介し曲の一部を先行公開したことが話題を集め、米ビルボードソングチャートを初登場で制しています。

「Boom Boom Back」のリリースアナウンス後、TikTokではBE:FIRSTが積極的に動画を発信。その数は二桁に達しています。音源配信に先立つTikTokでの積極展開もまた海外の施策を思わせます。

@befirst_official BE:FIRST 'Boom Boom Back' 2023.02.13 Digital Release #BEFIRST #BoomBoomBack #BBBチャレンジ #BBBChallenge ♬ Boom Boom Back - BE:FIRST

 

BE:FIRSTは「Boom Boom Back」のリリース前後に、本日の解禁スケジュールを公開。ミュージックビデオ公開の1時間前から各サービスにて生配信を実施し、コアファンとの連帯や熱を高めていく姿勢が見て取れます。またミュージックビデオに先駆けて公式オーディオを午前0時に公開。動画視聴はビルボードジャパンソングチャートの動画再生指標、YouTubeのオーディオストリーミングはストリーミング指標に加算されます。

なお上記公式オーディオ公開の直前にはYouTubeのチャット機能にBE:FIRSTが登場。またサブスクサービスのAWAでは今週ラウンジが開催され、こちらにもメンバー4名がチャットに登場します。

デジタルプラットフォームでは各種キャンペーンを開催。ドメスティックなサブスクサービスでは再生キャンペーンが展開されています。

 

ラジオ展開も多数。出演情報を公式側が一覧化していることもポイントです。radikoで全国どこからでもコメントをチェックできるためコアファンの注目を集めるのみならず、ラジオはふと耳にした方にリーチしコアファンに昇華する可能性を持ち合わせています(このことについては歌手の推し活におけるラジオリクエストの重要性…音楽チャートにも最終的に寄与されていくと考える理由(2022年8月17日付)で紹介しています。)

リリース週は首都圏ラジオ局における聴取率調査週間に当たり、新曲以上にここ最近のヒット曲が多く流れる傾向にあります。この状況下でBE:FIRST「Boom Boom Back」がラジオ指標をどこまで獲得できるかも注目です。

 

匿名でのTikTok先行公開、ハッシュタグチャレンジの開催、積極的なティザー(ティーザー)公開、デジタルプラットフォームでのキャンペーン実施、ミュージックビデオ公開のイベント化、ラジオでの展開…ここで紹介した内容以外にもたとえば新曲におけるビジュアル公開等があり、海外で定番化してきた施策も採り入れつつ日本でできる限りの施策をBE:FIRSTが「Boom Boom Back」で打ってきたという印象を抱いています。

 

 

さて注目は、この施策がライト層にどれだけ届くかということ。それは登場2週目以降のチャートアクションから読み取ることが可能です。

 

ラジオのみならず、たとえばマクドナルド店内放送(上記ツイート参照)でも展開されており、「Boom Boom Back」はコアファン以外にもリーチする可能性を持ち合わせていますが、今の音楽チャート(とりわけ、最も信頼に足るビルボードジャパンソングチャート)はサブスク再生等に基づくストリーミング指標でのロングヒットが社会的ヒットの要であり、そのためにはライト層を巻き込むことが最重要です。

そのストリーミング指標において、再生キャンペーンは期間中の再生回数を押し上げる武器にはなれど、キャンペーン終了後は急落する性質を持ち合わせています。

BE:FIRSTはアルバム『BE:1』のリード曲「Scream」が昨年8月3日分ビルボードジャパンソングチャートを初登場で制していますがトップ10内在籍はその1週にとどまり、首位獲得の翌週におけるポイント前週比はフィジカルセールスに強い曲のそれと変わらない状況となっています。「Scream」においても再生キャンペーンが打たれていました(【LINE MUSIC会員限定】 BE:FIRST「Scream」再生キャンペーン | BE:FIRST参照)。

LINE MUSICにおいては昨年秋までに再生回数をそのまま反映させない形にカウント方法を変更したため、「Scream」登場2週目のような急落は今後起きにくくなるでしょう。しかしキャンペーン期間終了後にヒットを継続できなければ真の社会的ヒット曲に成るとは言い難いというのが厳しくも私見であり、どう打破するかについて、歌手側のみならずコアファンの方々もアイデアを出し合う必要があると考えます。

(LINE MUSICのカウント方法変更についてはLINE MUSICが再生回数のカウント方法を変更…再生キャンペーンを非難し続けたビルボードジャパンやKAI-YOUへの違和感を再掲する(2022年10月19日付)をご参照ください。またストリーミングが継続して強い曲が真の社会的ヒットに成るということについては、ビルボードジャパン年間チャート発表、2022年度のチャートトピックス10項目を挙げる(2022年12月9日付)等から解ります。)

 

LINE MUSICに代表されるドメスティックなサブスクサービスでの再生キャンペーンについては様々な見方があります。下記は、チャート分析や予想に長けたあささんの発信内容に引用リツイートしたものです。

一方で再生キャンペーンは、ビルボードジャパンソングチャートにおけるストリーミング指標上位初登場に寄与します。このブログでは最新2月8日公開分のソングチャートにおける男性ダンスボーカルグループの好アクションを基に再生キャンペーンの大きさを示した上で、キャンペーンに頼らずも新曲がリリース週に聴取される習慣を作ることが必要だと記しました。

再生キャンペーンを好ましく思わない方が(特に業界内で)いらしたならば、再生キャンペーンがなくとも新曲が上位進出可能な環境を構築することで再生キャンペーンの重要度を下げるよう動くことを勧めます。とりわけ、キャンペーンにはっきりと懸念を示していたビルボードジャパンにおいては、自らのチャートポリシー(集計方法)を変えることでキャンペーン展開に影響を与えることができるはずです。

上記ブログではリリース初週におけるサブスク聴取習慣化の一案として、ビルボードジャパンにおいてはチャートポリシーを米ビルボードや米ビルボードによるグローバルチャートに合わせることで業界全体の改善につながる可能性を記しています。特に、米ビルボードやグローバルチャートが金曜を集計期間初日とするのに対しビルボードジャパンでは月曜初日のため、標準リリース曜日が世界と異なることも問題と感じています。

 

 

BE:FIRSTが世界を目指すだろうことはオーディションの段階から感じていたことですが、今回の「Boom Boom Back」リリースに関しては海外の歌手が展開する施策も採りつつ、しかしながらリリース日を月曜に据えたことから日本の音楽チャートでの上位進出をより重視したものと捉えています。他方、2月10日金曜からの1週間を集計期間とする2月25日付グローバルチャート(Global 200およびGlobal Excl. U.S.)において同曲が200位以内に初登場できるかは難しいかもしれません。グローバルチャートではおそらくドメスティックなサブスクサービスはカウント対象に含まないため、尚の事です。

(ただし、ストリーミングが強くなくともダウンロード数が多いことでランクインすることは可能であり、Travis JapanJUST DANCE!」が例として挙げられます。この点についてはグローバルチャートとは何か、そしてJ-POPの現状と課題をまとめる (最新版)(1月2日付)等で紹介しています。)

世界を目指す、そのためにグローバルチャートで好成績を収めたいならば金曜リリースが必須と考えますが、仮に日本の音楽業界や音楽チャートが金曜を基軸としていたならば、日本でのヒットの延長線上にグローバルチャートでのランクインも考えられたでしょう。ゆえに自分は日本の音楽業界やビルボードジャパンに対し、スケジュール等をグローバルに倣うよう提案し続けています。

BE:FIRSTを選出したSKY-HIさんは新プロジェクト『D.U.N.K.』でも業界の慣例を打破する姿勢をみせていますが、たとえばビルボードジャパンでチャートディレクターを務める礒崎誠二さんと一度対談することも重要ではないかと考えた次第。自分がセッティングできる立場にいたならばと思わずにはいられません。