イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(追記あり) グローバルチャートとは何か、そしてJ-POPの現状と課題をまとめる (2023年1月2日時点)

(※追記(7月3日6時15分):グローバルチャート紹介エントリーの最新版を掲載するにあたり、このエントリーの表題を”(最新版)”から”(2023年1月2日時点)”に変更しました。また冒頭の文章を加筆修正しています。)

(※追記(7月14日4時30分):グローバルチャートについての説明等を記した最新のブログエントリー(2023年7月3日掲載分)について、巻末にリンクを貼付しています。)

 

 

 

このブログでは毎週火曜、米ビルボードによるソングチャート(Hot 100)共々グローバルチャートについても速報を紹介しています。このグローバルチャートは2020年秋にローンチされたもので、2021年度以降は年間チャートも発表されています。

グローバルチャートについては発足後間もないタイミングにて一度その概要等について紹介しました。今回は2023年度版として、ブラッシュアップした内容を記載していきます。なお、今後変更があった場合にはこのブログエントリーに加筆修正していきます。 今後最新版を掲載する際には、別途エントリーを設けて対応します。

 

 

グローバルチャートとは何か

 

グローバルチャートとは

ビルボードが2020年9月に新設したグローバルチャートは、世界全体のヒットを示すGlobal 200と、Global 200から米の分を除いたGlobal Excl. U.S.の2種類が存在("Excl."とは除外を意味するExcludeのこと)。この2つのグローバルチャートは、世界規模でヒットしている曲を複合指標によって可視化したチャートです。またGlobal 200とGlobal Excl. U.S.とを比較することによって、米での人気度も見えてきます。

データは世界200以上もの地域の分が集計されます。データを提供するルミネイト(旧MRCデータ)のディアナ・ブラウン氏は『世界的な最有力アーティスト、国際的にインパクトのある楽曲、そして米国外でどの曲がトレンドし始めるかなどに関するインサイトを業界に提供できるグローバル・チャートを発表することを大変嬉しく思います』とコメントしています(『』内は米ビルボード、世界200以上の地域のストリーミングとダウンロードに基づいたグローバル・チャート発足 | Daily News | Billboard JAPAN(2020年9月15日付)より)。

 

 

発表スケジュールと発表内容

グローバルチャート発表はトップ10の速報が日本時間の火曜早朝に発表され、チャート全体の更新は同日夜となります(米において月曜が祝日の場合、基本的に翌日にずれ込みます)。なおチャート全体の更新については、サマータイムが導入されていれば18時台、導入されていない時期は19時台の公開となっています。

また発足当初はGlobal 200、Global Excl. U.S.共に100位までが無料で公開されていましたが、現在ではGlobal 200が200位まで無料公開されている一方でGlobal Excl. U.S.については米ビルボードの有料会員にのみ公開される形となります。

 

 

構成指標と集計方法

グローバルチャートはストリーミングとダウンロードの2指標で構成され、米ソングチャートのようにラジオエアプレイを含みません。また米ソングチャートとの違いとして、フィジカルセールス(CD、レコードおよびカセットテープ)や、デジタルダウンロードであっても歌手のホームページにて販売されたものはグローバルチャートにおいて対象外となります。

世界200以上の地域におけるデジタルヒットを可視化するため、世界の主要デジタルプラットフォームにおけるストリーミングやダウンロードがカウント対象となります。ゆえにドメスティックなサービスは対象に含まれないものと思われます。

(この2年ほどのデータを追いかけてみて、たとえば日本におけるLINE MUSICは対象外だと感じています。ただしどのデジタルプラットフォームが加算対象かは明確に示されていません。)

グローバルチャートが米ソングチャートと共通するのは合算に関して。オリジナルバージョンとリミックスや客演追加版等別バージョンは合算されます。また曲の獲得ポイントのうち客演追加版がマジョリティとなれば、歌手名表記は客演追加版のほうとなります。

 

計算方法は非公表ながら、チャート予想者によってこのように示されています。

(現在このブログやツイートではソングチャートという表現を用いていますが、以前はソングスチャートと記していました。ソングチャートもソングスチャートも同じ意味となります。)

"paid"は有料会員、"free"は無料会員を指します。ストリーミングにおいてはデジタルプラットフォームの有料会員による1回再生と無料会員によるそれとでは前者のウエイトが大きくなるよう設定されており、より利益を上げている作品が上位に進出できる構造となっています。

なおストリーミングにはミュージックビデオのみならず、リリックビデオや公式オーディオ等公式動画の再生回数が含まれます。一方で歌ってみたや踊ってみたに代表されるUGC(ユーザー生成コンテンツ)は対象外です。動画プラットフォームについてはYouTubeおよびFacebookが対象となります。

 

グローバルチャートには米ソングチャートのようなリカレントルールはありません。リカレントルールとは一定週数以上ランクインした曲が一定順位を下回った際にチャートから外れるというもので、新陳代謝を目的としています(ただしクリスマス関連曲によって押し出された場合は、クリスマス曲の急落に伴い再度ランクインします)。

 

 

集計期間

米ソングチャート同様、グローバルチャートの集計期間も金曜が起点となります。

 

 

これらのルールにより、グローバルチャートは世界規模でのヒットを示す鑑となっています。また今後、時代の流れ等に応じて米ソングチャート同様にチャートポリシーの細かな変更が行われていくものと思われます。

 

 

ランクイン曲の特徴

実際のチャートからその特徴を見てみましょう。最新2022年12月31日付(集計期間:12月16~22日)におけるグローバルチャート、および米ソングチャートのトップ10は以下の通りです。

クリスマス直前となり関連曲の強さが目立ちますが、米とグローバルチャートでは人気曲が異なります。米ではブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」やボビー・ヘルムズ「Jingle Bell Rock」のような往年のクリスマス曲が強い一方、Global 200やGlobal Excl. U.S.では順位が低くなっています。

またGlobal Excl. U.S.でのみレマ & セレーナ・ゴメス「Calm Down」がトップ10入りしているのも特徴。レマはナイジェリア出身でアフロビーツの先駆者と呼ばれています。アフロビーツは米ビルボードでも近年専門チャートが登場していますが、アフロビーツやラテン等のジャンルはグローバルチャートの登場により世界的ヒットが可視化され、米より米以外での人気がより強いことが解ります。

逆に米のほうが人気が高いジャンルとしてはヒップホップやカントリーが挙げられます。米、Global 200およびGlobal Excl. U.S.それぞれのトップ10を並べるだけで、違いがはっきりと見て取れます。

先述した通りグローバルチャートにはリカレントルールがないため、過去曲もランクインする傾向にあります。たとえばクーリオがL.V.をフィーチャーした1995年度米ビルボード年間ソングチャート首位曲「Gangsta's Paradise」は、昨年9月のクーリオの訃報に伴い上昇していますが、実際はそれ以前からランクインしていたことにより2022年度年間グローバルチャート、その双方にて100位以内に入っています(年間チャートは後述)。

 

 

J-POPのランクイン状況、そしてランクインを可能にするもの

グローバルチャートにJ-POPがランクインするのかという問いに対しては、"実は既にランクインしている"というのが適切な解答です。発足後間もなく嵐「Whenever You Call」がGlobal Excl. U.S.でトップ10目前に迫り、そして2020年秋にはLiSA「炎」がGlobal Excl. U.S.のみならずGlobal 200でもトップ10入りを果たしています。これまでのJ-POPトップ10入りについては、下記ブログエントリーにてまとめています。

J-POPにおいてはアニメソングほど海外でも聴かれる傾向がありますが、それでも獲得ポイントのうち日本市場における割合は高く、極端に言えば国内の獲得ポイントだけでもグローバルチャートにランクインが可能です。またTravis JapanJUST DANCE!」が顕著な例ですが、日本は海外よりも所有行動が強いためにダウンロード指標が牽引する形でリリース週に上位進出を果たすこともできます。

ダウンロードを大きく稼ぎつつ高いストリーミングを維持することがJ-POPにおける上位進出と安定の鍵と言えますが、市場範囲を海外に拡大すれば(海外をより強く意識すれば)より高い位置に送り込めるはずです。デジタルリリースは海外進出と同等と言えるため、目指さない手はないでしょう。

 

 

グローバルチャートにおけるJ-POPの課題

グローバルチャートは、世界規模でヒットしている曲を複合指標によって可視化したおそらく初のチャートです。たとえばSpotifyにもグローバル規模での再生回数チャートはありますが、米ビルボードによるグローバルチャートは複合指標というのがポイント。このチャートが注目され認知度が高まれば、チャートの上位進出曲が世界中の音楽ファンに知られていくことでしょう。

グローバルチャートにおいてはダウンロードを大きく稼ぎつつ、高いストリーミングをキープすることがヒットの鍵となります。前者ばかりが強いと短期的なヒットに終わってしまいますが、日本におけるダウンロード数は他国より高いため、短期的にでも上位進出はあり得る状況です。それを中長期的なヒットに昇華させるにはストリーミングの拡充が必須といえます。

英語詞の用意やJ-POP(歌謡曲)ライクなメロディの排除が世界進出に絶対必要だという時代ではなくなっています。またデジタルリリースはフィジカル在庫を抱えるリスクを考える必要がありません。アニメタイアップ曲が特に強いとは言えますが、日本語であれどもグローバルチャートにチャートインする可能性は十分あり得ることは、これまでの実績から証明されています。

 

ならば、J-POPが躍進するにはどうすればいいか…こちらについては昨年6月にTOKIONへ寄稿したコラムにて提案しています。チャート認知度の国内での上昇、ドメスティックなリリースタイミングの改善、ビルボードジャパンの音楽チャートがグローバルチャートに近づける形でチャートポリシー(集計方法)を見直すこと、歌手側やコアファンの意識の高まり等、『音楽業界が総出で環境を改善すること』が必要です。

日本の音楽業界においては未だにサブスク未解禁歌手が少なくないのみならず、そのサブスクサービスを悪とみなしたり、サブスクに絶対解禁しないと公言する歌手も存在します。利益率の低さ等が問題ならばそれを議論し妥協点を見出すことが必要であると共に、CDバブル時代と今の構造が異なることを歌手側に納得してもらうよう、音楽業界が動くべきです。サブスク未解禁歌手の多さは海外のJ-POPに対する失望度を高めます。

また音楽業界の環境改善は、J-POPを世界に届ける意識も高めます。Spotifyを使う身として毎週新曲プレイリスト(New Music Friday)をチェックするのですが、J-POPが入ることは数週に一度、入っても1曲しかありません。これは毎週のようにプレイリスト入りするK-POPとは大きな差であり、日本の音楽業界が各デジタルプラットフォームに働きかけることがこの差を埋めるのに重要と考えます。

 

海外作品の解禁が基本的に金曜なのは、海外チャートの集計開始日に沿わせるため。他方日本では未だフィジカルセールスを軸とし水曜(もしくはそのフラゲ日となる火曜)を最大限にカバーする意味でも月曜が集計開始日となっています。ビルボードジャパンも同様ですが、これがJ-POPの施策をドメスティックに狭めかねない一因ではないでしょうか。合算等も含め、チャートポリシーをグローバルに沿わせるよう検討すべきです。

ビルボードジャパンソングチャートのような複合指標に基づくチャートが日本における社会的ヒットの鑑となっていることを、まずビルボードジャパン自身が十分に訴求し日本での認知度を高めなければ、自分たちのチャートの優位性、そして同じく複合指標から成るグローバルチャートの重要性を日本人に認識してもらうのは難しいでしょう。ビルボードジャパンの、特にSNSを介した発信力の強化を願うところです。

 

J-POPとK-POPとでは、2021年度においてはグローバルチャートでそこまで差がついていないという認識でしたが、この1年で大きな差がついたという印象です。K-POPは特にBTSや女性ダンスボーカルグループにおいて接触指標を充実させロングヒットと成り、年間チャートでも上位に進出するようになっています。

日本の市場は大きく、それだけでもグローバルチャートでトップ10入りする可能性はあります。しかしデジタル時代にあってはその市場規模を、フィジカルを作らずとも海外に拡大することが可能となりました。この1年で生まれたJ-POPとK-POPとの差は、グローバルな視野を持ち合わせているかどうかの違いと考えても差し支えないでしょう。

 

TOKIONにコラムを寄稿した後、藤井風「死ぬのがいいわ」のバズが世界中で発生しました。過去曲がTikTokを機に日本以外でバズを起こし世界へ伝播、最終的に過去曲がグローバルチャートに登場するというのはこれまでのJ-POPにはなかった流れです。今回のブログエントリー(過去エントリーのいわばブースト)は、この曲のバズを機に再度グローバルチャートを知らしめるという目的も執筆の動機となっています。

しかし「死ぬのがいいわ」は、日本でそこまで大きなヒットに至れていません。アルバム収録曲(『HELP EVER HURT NEVER』(2020))ゆえという以前に、そのバズが一昨日の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)やその直前に放送された特番のOAまで、地上波テレビの音楽番組や情報番組にてほぼ(いや、全くでしょう)アナウンスされなかったことが大きく、メディアの姿勢からはグローバルへの意識が垣間見られるようです。

 

音楽業界の改善を求めてきた身には、音楽業界のみならずメディアも含むエンタテインメント業界全体がグローバルへの意識を持つことの重要性を痛感しています。日本語で紡がれた作品だからドメスティックな範囲で拡がればいいという認識を持つ業界関係者が仮にいらっしゃるならば、ネット時代にあってはリリースが世界進出とほぼ同等の意味を持つゆえ、その認識は抱くべきではないと強く考えます。

音楽業界のみならずエンタテインメント業界全体が改善すること、グローバルの視野を広く世間の人々が持ち合わせること、そしてドメスティックへの悪い意味でのこだわりを捨てること…これらによって、J-POPのグローバルチャート上位進出が可能になることでしょう。2023年、J-POP発のグローバル大ヒット曲が登場することを願っています。

 

 

※追記(7月14日4時30分):グローバルチャートについての説明等を記した、最新ブログエントリーのリンクを貼付します。こちらは2023年7月3日掲載分となります。