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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

Travis Japan「JUST DANCE!」がGlobal Excl. U.S.で5位初登場…次週以降の動向を占い、中期戦略の重要点を提案する

10月31日~11月6日を集計期間とする11月12日付米ビルボードソングスチャートおよびグローバルチャートのトップ10速報は日本時間の今週火曜昼前、通常より数時間遅れて登場。記事を翻訳した内容は同日2本目のブログエントリーとしてアップしましたが、そのエントリーに多くのアクセスをいただきました。心よりお礼申し上げます。

Travis JapanJUST DANCE!」はグローバルチャートのうち、Global 200から米の分を除いたGlobal Excl. U.S.で5位に初登場を果たしました。一方でビルボードジャパンのソングスチャートでは急落しています。今回はこれらの動向について詳しくお伝えし、これまでのブログエントリーで記載した内容を踏まえつつ私見を記します。

 

最新チャートにおけるTravis JapanJUST DANCE!」の成績をおさらいします。米ビルボードによるグローバルチャートのうち、Global Excl. U.S.では5位に初登場。またGlobal Excl. U.S.に米の分を加えたGlobal 200では28位に入り、最新11月12日付Global 200に登場したJ-Pop7曲の中で最高位を記録しています。

ふたつのグローバルチャートにおいて、首位獲得曲やトップ10内初登場曲については構成2指標の数値が可視化されます。米記事(および翻訳した弊ブログエントリー)によれば、Global Excl. U.S.におけるTravis JapanJUST DANCE!」の獲得数はストリーミング340万、ダウンロード118,000を記録。最新の同チャートで数値が判明した他曲はテイラー・スウィフトAnti-Hero」(1位 5840万・7,000)、リアーナ「Lift Me Up」(3位 5320万、17,000)、JIN「The Astronaut」(6位 4350万、43,000)であり、Travis JapanJUST DANCE!」ではダウンロードが際立つ一方でストリーミングが高くない状況です。

Travis JapanJUST DANCE!」ではオリジナルバージョンのほか、tofubeatsさんおよびYaffleさんのリミックスが10月28日金曜に同時リリース。ビルボードジャパンでは言語の違いのみ異なる場合を除き様々なバージョンは基本的に合算されませんが、グローバルチャートや米ビルボードソングスチャートでは合算対象になるため、これらがGlobal Excl. U.S.におけるダウンロード指標10万超えに大きく貢献したと考えます。

一方で、合算対象ならば尚の事、3バージョン且つ動画再生を含めた分でストリーミング指標が1千万回を大きく下回るのは課題と言えます。ビルボードジャパンにおいても10月30日日曜までを集計期間とする11月2日(11月7日付)ソングスチャートでTravis JapanJUST DANCE!」が4位に初登場していますが、ストリーミング指標(ビルボードジャパンは動画再生が別途指標化)での300位未満による未加点は気掛かりでした。

 

今回のTravis JapanJUST DANCE!」におけるGlobal Excl. U.S.の獲得数値は、グローバルチャートの開始後間もなくランクインした嵐「Whenever You Call」をなぞるものと考えます。「JUST DANCE!」同様、この曲も金曜にリリースされています。

(ビルボードジャパンのホームページ内記事をブログに貼付するとエラーとなってしまうため、記事内の文言を引用したツイートを添付しています。なお以前同社のホームページ内記事を貼付したブログエントリーにおいても同様のエラーが発生しています。ご覧いただく皆さまに対し、見難い状況となっていることをお詫び申し上げます。)

ビルボードジャパンの記事における嵐「Whenever You Call」の2指標の数値はおそらくGlobal 200を指すものと思われます。またGlobal 200とGlobal Excl. U.S.で順位に乖離があることを踏まえれば、獲得数における米の分は少ないことが考えられます。そして「Whenever You Call」は翌週急落しており、Travis JapanJUST DANCE!」も同種の流れをたどると考えるのは自然なことでしょう。

 

グローバルチャートでのTravis JapanJUST DANCE!」急落の可能性は、ビルボードジャパンソングスチャートから想像可能です。グローバルチャートとは異なり月曜を集計開始とするこのチャートにおいて「JUST DANCE!」は、前週11月2日公開分(11月7日付)ソングスチャートにおいて集計対象2日半で総合4位に初登場した一方、最新11月9日公開分(11月14日付)ソングスチャートでは29位へと、比較的大きく後退しています。

上記は最新11月9日公開分(11月14日付)ビルボードジャパンソングスチャートでのTravis JapanJUST DANCE!」のCHART insight。フィジカル2指標(フィジカルセールスおよびルックアップ)は加算対象外ですが、カラオケを除く5指標すべてが加算。ダウンロード(紫で表示)は1→13位、ストリーミング(青)は300位圏外→100位未満300位圏内、ラジオ(黄緑)は38→14位、Twitter(水色)は1→3位、動画再生(赤)は36→5位と推移しています。

ここから読み取れる点がいくつかあります。ダウンロード指標における比較的大きなダウンからは、コアファンがひと通り購入を終えたと捉えることが可能です。またふたつのリミックスがオリジナルバージョンより上位に入っている理由は、集計期間中の金曜までキャンペーンを開催した効果が反映されたためでしょう(tofubeatsさんによるリミックスはダウンロード指標5位、Yaffleさんによるリミックスは同6位に登場)。

一方でストリーミング指標は前週300位未満となり加点対象外となっていましたが、今週は加点対象に。しかし100位以内には入っていません。それでも上記CHART insightにおけるストリーミング指標(青で表示)が100位未満でポイント全体の4分の1近くを占めていることは、この指標が如何に重要かということがよく解ります。

今の音楽チャートで重要なのは接触指標を如何に伸ばし、ロングヒットにつなげるかということ。特にストリーミング指標の強さがチャートに大きく寄与することは、最新11月9日公開分(11月14日付)ビルボードジャパンソングスチャート(下記ツイート内リンク先参照)におけるOfficial髭男dism「Subtitle」および米津玄師「KICK BACK」の再生回数、および2曲におけるストリーミング指標の割合の大きさからよく解るはずです。

 

Travis JapanJUST DANCE!」はストリーミングが強くないものの、同じ接触指標である動画再生は好調に推移。ミュージックビデオがフルバージョンでアップされているほか、今回の集計期間開始前日に公開されたダンスプラクティスも再生回数に貢献していると言えるでしょう。接触指標のひとつが好位置にいることは、ストリーミング再浮上の可能性を持ち合わせていると言えるかもしれません。

 

 

ビルボードジャパンにおける最新ソングスチャート(集計期間:10月31日~11月6日)の動向を踏まえれば、Travis JapanJUST DANCE!」は次週のグローバルチャート(集計期間:11月4~10日)での急落が避けられないと考えます。

グローバルチャートのストリーミング指標はデジタルプラットフォームの有料会員による1回再生と無料会員によるそれとでウエイトが異なり(前者により重きが置かれ)、動画再生は後者が多いと思われるため尚の事です。また次週はドレイク & 21サヴェージ(一部メディアではトゥエニーワン・サヴェジとも表記)のコラボアルバム『Her Loss』から大量エントリーが予想され、それらが「JUST DANCE!」を押し出しかねません。

 

では、今後どうすべきかを考えます。

Travis JapanJUST DANCE!」においては、その認知度等がまだ高くない可能性があります。10月28日金曜にデジタルリリースされた同曲の日本のメディアにおける初パフォーマンスは11月7日放送の『CDTVライブ!ライブ!』(TBS)まで待たなければなりませんでした。『ミュージックステーション』(テレビ朝日)では未だ披露されておらず、数週をかけて徐々に認知させていくという中期的な戦略が問われると言えるでしょう。

しかしながらここで大きな問題があります。これはツイートでいただいた声から気付いたことですが、Travis JapanJUST DANCE!」はコアファン、そしてライト層双方へのリーチが強くないだろうということです。ジャニーズ事務所所属歌手は未だその大半がサブスク解禁していないために、ダウンロードはまだしもサブスクでチェックする習慣が十分にできていないというのがコアファンの抱える問題ではないでしょうか。

そしてもうひとつはライト層へのリーチ。コアファンによる再生回数以上に、コアファンになる可能性を秘めたライト層を醸成することが必要ですが、”ジャニーズはデジタルに明るくない(解禁していない)”というイメージが世間で根強いならば、デジタル解禁していることも知られず、リーチが生まれにくいと思うのです。これらについてはビルボードジャパンソングスチャート初登場時(→こちら)でも記しています。

 

実際、ライト層へのリーチの可能性が潰えた事例が発生しています。折角の日本のメディア初パフォーマンスが見逃し配信から外れており、サムネイル画面はまるでジャニーズ事務所所属歌手が”出ていなかったことになる”のです。

(上記は11月7日放送『CDTVライブ!ライブ!』のTVer配信分のサムネイル画面。Travis Japanのほか、King & Princeやなにわ男子が掲載されていません。なおキャプチャについて、問題があれば削除いたします。)

たとえばドラマやバラエティにおいてはジャニーズ事務所所属タレントの作品は見逃し配信されるようになり、話題のドラマ『silent』(Snow Man目黒蓮さん出演)やジャニーズ事務所所属タレントを追った『連続ドキュメンタリー RIDE ON TIME』(共にフジテレビ)等もチェックが可能です。しかし音楽番組においては除外措置が採られており、これでは海外で主流となっているテレビ番組や音楽賞でのパフォーマンスのYouTubeアーカイブ化など不可能でしょう。

ジャニーズ事務所所属歌手はYouTubeにてミュージックビデオをショートバージョンでアップする傾向が根強くあります。最近では別バージョンでフル版をアップする歌手も出ていますが、ともすればジャニーズ事務所側はフルバージョンをアップすることでCD売上に悪影響を及ぼすと考えているのではないでしょうか。しかしこれまでの傾向を踏まえ、チャートを追いかける身としてその認識は正しくないと強く感じています。

仮に売上を左右するとして、デジタル化していれば曲がいつ何時(再)注目された場合でも大きく伸ばすことが可能です。中長期的に利益を創出できるのもデジタルの特徴であり、視野を拡げる必要があるでしょう。またジャニーズ作品がデジタルアーカイブ化していれば、今年は男闘呼組やKing & Princeの過去曲が大きく伸びる可能性があったと考えます。

 

Travis Japanにおいては「JUST DANCE!」のミュージックビデオをフルバージョンでアップしていますが、テレビ初パフォーマンスの見逃し配信が叶わず、ともすればジャニーズ事務所側の姿勢が重視されたと考えます。デジタル解禁曲であれどこのような措置を採られれば、観る側にはチェックしたくともできないというジレンマが生まれ、”ジャニーズはデジタルに明るくない”というイメージを強固にさせかねないでしょう。

重要なのは、ジャニーズ事務所側が自らの施策が正しいかを自問自答することだと考えます。日本ではきちんと批判や提案するメディアがほぼないためフィジカルにこだわりデジタルに明るくない手法は通用する形ですが、Travis Japanが”世界デビュー”と謳うならば尚の事、これまでのやり方はむしろ障壁になるということを理解しなければなりません。厳しい物言いですが、チャートを追いかけて来た身として断言できることです。

そしてそれを認めた上で、”ジャニーズはデジタルに明るい”と言えるように環境を改善し、デジタルを前向きに訴求する必要があります。ビルボードジャパンが次年度からTwitterおよびルックアップ指標を廃止しそれらに強いジャニーズ事務所所属歌手の作品がチャート面で(瞬発力の面で)強くなくなる可能性を踏まえれば、コアファンもライト層もサブスクでチェックできる流れを作ることは急務です。

Travis JapanJUST DANCE!」においては、数週をかけて徐々に認知させていくという中期的な戦略が問われると先程記しました。その数週でTravis Japan運営側のみならず、ジャニーズ事務所自体が変わる必要があるでしょう。強く願い、期待しています。

 

 

最後に。グローバルチャートについてのメディアの記事に対し違和感を抱いたことも記載します。下記キャプチャは今週水曜早朝5時段階でYahoo! JAPANのニュースにて”Travis Japan”と検索した結果となるのですが、Travis Japanのグローバルチャートランクイン報道のタイトル付けにおける”米チャート”(日刊スポーツ)や”米ビルボード”(スポーツニッポン)の表記は正しくありません。

グローバルチャートは世界200を超える国や地域の主要デジタルプラットフォームにおけるダウンロードおよびストリーミング指標で構成されます。ストリーミング指標には公式動画の再生回数も含まれ、また先述したように各デジタルプラットフォームの有料会員と無料会員とでは1回再生のウエイトが異なります。加えて、ドメスティックなサービス(レコチョクやLINE MUSIC等)はカウント対象外になるものと考えられます。

チャートの詳細については上記ブログエントリーにて、2020年秋のローンチから比較的間もないタイミングで紹介しています。米ビルボードが携わっているゆえに”米チャート”もしくは”米ビルボード”と一部メディアが記載したという想像はできますが、米ビルボード等の表記では米ソングスチャート(Hot 100)と誤解されかねません。

各メディアはレコード会社からのプレスリリースを基に記事化していると思われますが、その記事には誤解を招きかねないものが含まれます。自分はTOKIONに今年寄稿したコラムにてJ-Popのグローバルチャート進出を希望し、そのために必要なことを記していますが、メディアが海外のチャートに詳しくなることもまた重要なことと捉えています。それを望むと共に、自分に協力できることがあれば協力したいと思っています。