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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

【ビルボードコラム】ビルボードジャパンのソングスチャートに対するチャートポリシー変更等の提案

月曜は不定期で、日米グローバルのビルボードチャートに関するコラムを書いています。これまではビルボードジャパンソングスチャートにおける各指標の解説、米ビルボードに対するチャートポリシー変更希望、ビルボードジャパンの知名度向上案やグローバルチャートにJ-Popを轟かせる方法について記しました。ビルボードコラムについては下記リンク先からご確認ください。

 

今回は、ビルボードジャパンソングスチャートのチャートポリシー変更について取り上げます。

 

 

ビルボードジャパンは今年度に入り四半期毎にチャートの集計方法変更、すなわちチャートポリシー変更を実施しています。

 

・第1四半期:5つのチャートの新設、および動画再生指標からUGC(ユーザー生成コンテンツ)を除去

・第2四半期:ソングスチャート構成指標のウエイト変更

・第3四半期:フィジカルセールス指標のウエイト減少(す係数処理対象枚数の引き下げ)

・第4四半期:ソングスチャート構成指標のウエイト変更

第4四半期の初週をどのタイミングに据えるかはチャート分析者で見方が異なりますが、ともすれば今年度は53週となる可能性があります。

さて、四半期毎にチャートポリシー変更を実施したならば、次回の変更が2022年度初週になることは想像に難くありません。自分のみならず多くの方が英断と捉えた第3四半期におけるフィジカルセールス指標ウエイトダウンの措置が最終決定したのはチャート発表日とのことでしたが、それまでに推考を重ねていたことが予想されます。ならば様々な提案を実施する必要性を感じ、今回のビルボードコラムを記した次第です。

 

 

ビルボードジャパンソングスチャートのチャートポリシー変更等の提案

 

 

① 構成8指標のウエイトを見直す

これまでブログエントリーで記した内容を基にしたものが上記となります。

この根拠となるのが、今年度のビルボードジャパンソングスチャートにおけるトップ3作品のポイント、フィジカルセールス、各指標の順位および翌週の動向をまとめた表。第2四半期の最終週と第3四半期初週、すなわちフィジカルセールスのウエイト減少措置が行われる前後の境を太線で表しています。

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第3四半期のチャートポリシー変更でフィジカル未リリースながらデジタルに強い曲が首位を獲得しやすくなったとは言えども、BTS「Butter」や「Permission To Dance」のような特大ヒットではない限り難しい状況です。そして下半期以降も、フィジカルセールスの強さが際立つ曲は翌週その勢いをキープできておらず、首位から100位未満への急落が2週連続で発生している状況です。

最新チャートを制したAKB48「根も葉もRumor」は次回10月13日公開(10月18日付)ビルボードソングスチャートで100位以内を割り込む可能性があります。また以前総合首位を獲得しながら翌週には100位未満となったSKE48「あの頃の君を見つけた」が、添付したイベント参加券によるフィジカルの売上のみと言える状況で最新チャートでトップ40に返り咲いたことにも違和感を抱いています。

 

ビルボードジャパンソングスチャートは複合指標に基づき、ストリーミングや動画再生といった接触指標群を取り込み且つその影響力が強いことで社会的ヒットの鑑となってきました。年間ソングスチャート上位曲の認知度の高さは、『ミュージックステーション』今年の1曲ランキングから解りますが*1、しかし首位の称号が第3四半期のチャートポリシー変更を経ても形骸化したままではと考えます。

それを踏まえ、フィジカルセールスのウエイトダウンが必要です。方法としては1枚あたりの獲得ポイントの減少、係数処理対象枚数の引き下げおよびその両方という3種類が挙げられます。現在の係数処理対象枚数は10万と言われていますが、5万枚に引き下げてもフィジカルセールスが極度に強い曲の優位性は変わらないだろうことから、1枚あたりの獲得ポイント減少が現実的と考えます。

 

ウエイト引き下げの必要性はTwitterにおいても感じていました。しかしこの指標をビルボードコラムで紹介したした直後、ビルボードジャパンはウエイトダウンのチャートポリシー変更を実施しています。

同じくウエイトが引き下げられたルックアップ共々しばらく様子をみる必要があると考えますが、総合チャートとの大きな乖離が続くことや、未だに散見されるコアなファンの熱量が大きく反映されたTwitter活動を踏まえれば、除外し別途チャートを用意することもひとつの選択肢と言えるでしょう。

 

ただしTwitter指標を説明したコラムで述べたように、Twitter指標を除外すれば星野源「うちで踊ろう」のような曲が総合チャートで除外されかねず、それは避けなければなりません。そこで下記コラムでも取り上げたように、動画再生指標のウエイトを上昇させることを検討すべきというのが私見です。

ロングヒット曲はストリーミング共々動画再生指標が上位を推移する傾向にあることからも、この点を希望します。またこの指標を引き上げることで、第2四半期でウェイトを引き下げたストリーミング指標のウエイトを再度引き上げる等の措置を採る必要がなくなるでしょう。

 

ただしストリーミング指標においては、LINE MUSICおよびRakuten Musicで行われる再生回数キャンペーン対象曲はウエイトの引き下げが必要だと考えます。ストリーミングは接触指標であり元来急落しない性質のはずが、再生回数上位者が当たりやすいもしくは全員に当たるプレゼントの用意によりコアなファンを刺激した結果、キャンペーン終了後に急落する曲が多く生まれてしまいました。

このようなキャンペーンは、突出した再生回数を求める歌手側とコアなファンの有料会員を狙うデジタルプラットフォーム側双方の思惑が合致することで継続していくことでしょう。しかし、それにより生まれるストリーミング指標の不自然な乱高下は好ましくないというのが私見。ストリーミングが社会的ヒットの最も重要な指標とは捉えにくくなってしまったと言っても過言ではないでしょう。

上記ではキャンペーンへの私見およびビルボードジャパンへの議論の希望を記載していますが、ウエイト変更の具体案を出していませんでした。たとえば再生回数キャンペーンを開催するデジタルプラットフォームにおける期間中の再生回数を、有料会員ではなく無料会員の1回再生に近い形のウエイトに引き下げることを、ひとつの案として提示します。

 

 

② 様々なバージョンを合算対象とする

各バージョンは合算させる必要があると考えます。上記ビルボードコラムでも記載しましたがTHE FIRST TAKE動画はオリジナル音源と異なりながら合算される一方で、リミックス等別バージョンがストリーミングやダウンロードにおいては合算されないのは矛盾ではと考えます。また米ビルボードやグローバルチャートが合算している一方でビルボードジャパンが非合算であることは、最終的にJ-Pop全体に不利となると思うのです。

前週、グローバルチャート開設1周年に伴う報告書を踏まえ、J-Popがグローバルチャートでより羽ばたくためにビルボードジャパンソングスチャートでも(グローバルチャートや米ソングスチャートに倣って)合算すべきと書きました。合算を勧める理由は2年前にも掲載しています。

実際、そのほうが計算上楽ではないかというのもありますが、主な理由は3つ。1つ目は日本において、チャート上で合算されないことでリミックスや客演という文化が育ちにくいため。2つ目はアメリカで通用する洋楽やK-Popの戦略が日本のチャート上では成立せず楽曲が成功を収めにくくなり、最終的に日本を主要な音楽市場とみなさなくなる可能性があるため。そして3つ目は、日本の音楽業界で"仕掛け"という戦略や気概が生まれにくいため。

合算の検討を強く願います。

 

 

③ チャート集計開始日を金曜にする

②でも紹介した、J-Popがグローバルチャートで飛躍するための案のひとつがビルボードジャパン各種チャートにおける集計期間の変更であり、米ビルボードおよびグローバルチャートと同様の、さらには海外での標準リリース日である金曜を起点にすべきと考えます。

音楽業界は今もフィジカルセールスが水曜リリースであり、おそらくその考えが月曜集計開始の根拠になっているのかもしれませんが、金曜リリースを標準化することで実店舗の週末の来客者数を増やせる可能性もあります。音楽業界全体が変わりかねない大規模な変更とも言えるでしょうが、ビルボードジャパンが音楽業界を牽引するという心意気を持って臨んでほしいと思います。

 

 

④ 下半期のヒット曲にスポットを当てる

接触指標群が大きなウエイトを占めるビルボードジャパンソングスチャートでは上半期のヒット曲が、もっといえば前年度からヒットする曲が年間チャートでも上位を占める傾向にあります。言い換えれば、下半期のヒット曲が年間チャートでは可視化されにくい状況です。

昨年度のビルボードジャパン年間ソングスチャートの発表タイミングでは下半期チャートは発表されなかったと認識しており、下半期のヒット曲が可視化されにくいという印象は拭えませんでした。無論年間チャートの総括で多忙なのは承知ですが、下半期についても別途取り上げてほしいというのが私見です。

もしくは、音楽賞の設立時に下半期分を際立たせることも可能だと考えます。

個人的にはテレビ放映の復活を望みます。その際は、①年間チャート発表のタイミングを授賞式と合わせてイベント化する(通常は最終週のチャートが発表された9日後、金曜午前4時に発表されますが、同日夜に放映(もしくは配信)し、その際年間チャートも発表)、②米ビルボード同様に年間チャート発表のタイミングとずらし、授賞式を12月以外に設定…この2点を提案します。

ビルボードジャパンの知名度向上案のひとつとして米ビルボードのような音楽賞の設立(復活)を記載しましたが、その賞の対象期間を年間チャートと半年ずらすことで、下半期のヒット作品を際立たせることも可能でしょう。

 

 

⑤ オールタイムソングスチャートを発表する

ビルボードジャパンソングスチャートの設計思想に大きな影響を与えた米ビルボードソングスチャートも、時代の変遷に応じて指標の導入やウエイト変更を続けています。その米ビルボードソングスチャートには"Greatest Of All Time"と名付けられた、開設から63年の歴史を通じてのオールタイムソングスチャートが存在します。

ビルボードジャパンにおいても、2008年のローンチ以降現在までの分をひとまとめにしたオールタイムソングスチャートを用意することが必要だと考えます。無論、たとえば2017年度にフィジカルセールス指標に対し係数処理が導入されたこと等により、チャートポリシー変更前後をどう均すか等、その算出には時間や労力がかかるとは思います。

ただし、ビルボードジャパンより残念ながら信憑性の乏しいランキングが番組企画で用意した長期対象ランキングが、その内容に様々な疑問や違和感が生まれながらもメディアを介して伝わることで誤った認識を抱かせかねない機会が残念ながら多いのが現状です。ビルボードジャパンソングスチャートがメディア発信することとは別にオールタイムソングスチャートを用意し、信憑性の高いものを提示する必要があると考えます。

なお、米ビルボードはソングスチャート60周年のタイミングでオールタイムソングスチャートを発表していますが、その際算出方法も紹介しています。ビルボードジャパンもこの内容を踏まえた上で計算を実施してほしいと願います。

No.1が最大値となる逆ポイント・システムを採用し、時代とともに算出方法が変化しているため、チャートにおけるターンオーバー比率を考慮し時代ごとに調整した。

また2021年度においては、各四半期でチャートポリシーが異なります。第4四半期のチャートポリシーに均した上で今年度の年間ソングスチャートを(別途)用意していただきたいという希望も書き添えておきます。

 

 

 

以上5点、如何でしょうか。

ビルボードが設けるようなリカレントルールについても導入を議論する必要があるかもしれませんが、今回は割愛しました。一定週数以上ランクインした曲が一定順位を下回ればチャートから消えるというチャートの新陳代謝を目的としたのがこのルールですが、米以上に日本のロングヒット傾向は大きいため設定順位を上げねばならず、またルールを設ければ50位のポイントが大きく落ち込むだろうことから取りやめた次第です。

 

ビルボードジャパンは特にソングスチャートにおいて、その内容が社会的ヒットの鑑と言えるか、社会の流行と乖離していないかを常に自問自答していると捉えています。訂正の際の対応には疑問を抱きつつも日本を代表する音楽チャートであることは間違いないと考えるゆえ、自問自答を欠かさず、より信頼の置けるチャートになってほしいと心から願っています。

*1:たとえば昨年の『ミュージックステーション』今年の1曲ランキングはMステ恒例の”今年の1曲ランキング”は真の社会的ヒット曲を示している(2020年11月28日付)にて紹介しています。