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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

【ビルボードジャパン最新動向】再生キャンペーンへ対応したビルボードジャパンのチャートポリシー変更を支持する

最新のビルボードジャパンソングスチャートから注目点を紹介します。

4月11~17日を集計期間とする4月20日公開(4月25日付)ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)。King & Prince「Lovin' you」が初登場で首位を獲得しました。

(上記はショートバージョン。)

トップ10は7曲が入れ替わるという状況ですが、この点は明日以降のブログエントリーで紹介します。今回はまず、チャートポリシー(集計方法)変更について取り上げなければなりません。

これが何を指すか。チャート分析者の間では同種の反応でした。

LINE MUSICで顕著な(一部Rakuten Musicでも実施される)再生キャンペーンとは、ユーザーによる曲毎の再生回数が可視化されたサービスならではの施策であり、キャンペーン対象曲を期間中に一定回数以上再生すれば抽選で、もしくは全員にプレゼントが当たるというもの。特に熱量の高いコアファンを抱えるアイドルやK-Popアクトがこの施策を採用する傾向にあります。

再生キャンペーン実施中は再生回数を伸ばし、ビルボードジャパンソングスチャートのストリーミング指標でトップ10入りする曲が増えた一方、ロングヒット曲が多くランクインし入れ替わりも大きくないこの指標の特徴に反し、キャンペーン終了後は急落する傾向がみられました。BTS等一部の作品はキャンペーン終了後に再生回数を落とすものの、ライト層を獲得することで全体の再生回数は維持しています。

キャンペーン終了後に急落するもしくはライト層にも届き維持するという二極化の流れにあって、ここ最近は3つ目の動きが登場していました。それがコアファン主体に再生回数を維持するというもの。BE:FIRST「Bye-Good-Bye」はキャンペーン終了前後を集計期間とする週もストリーミング指標を制しています。そしてINI「CALL 119」においては、キャンペーン効果がなくなった前週においても再生回数を維持していました。

前週4月13日公開分(4月18日付)は4月4日からの一週間を集計期間とします。「CALL 119」のLINE MUSIC再生キャンペーンは3月29日まで開催され(INI「CALL 119」LINE MUSIC再生キャンペーン開催!|INI OFFICIAL SITE参照)、前週のチャートではキャンペーンの影響を受けないにもかかわらず再生回数は前週比93%を記録、ストリーミング指標3週目の首位をキープしました。

一方でINI「CALL 119」は、日本のSpotifyデイリーチャートにおける200位以内ランクインが現段階で一日のみにとどまります(3月22日付で193位に登場。上記リンク参照)。BE:FIRST「Bye-Good-Bye」もこのチャートで50位以内に達しておらず、LINE MUSICと他のサブスクサービスとの乖離が発生していましたが、「CALL 119」はその状況がより極端になっていたことが見て取れます。

これは歌手のコアなファンにおけるチャート意識の高まり(それ自体は素晴らしいことです)、キャンペーンの相次ぐ実施でコアファンの熱量を有料会員契約へと結びつけたLINE MUSICの実績も影響していますが、しかしLINE MUSIC再生キャンペーン採用曲が他のサブスクサービスや他指標と乖離が大きくなっていくことは、3月のLINE MUSIC月間ランキングからも明らかでした。

 

毎週水曜夕方に発表されるソングスチャートの記事を読む限り、ビルボードジャパンは以前からLINE MUSIC再生キャンペーンの存在を知り、複雑な思いを抱いていたことは間違いありません。それがよりはっきりと示されたのが、3週前のポッドキャスト。MCを務めるチャートディレクターの礒崎誠二さんが、再生キャンペーンについて自問自答していたのが印象的でした。

上記ブログエントリー経由ではポッドキャストを確認できるほか、ストリーミング指標首位獲得曲のSpotifyにおける動向を一覧化した表も掲載しています。LINE MUSIC再生キャンペーン対象曲の動向が極端であることは明確であるゆえ、自分はこのブログやTwitterで、またチャート分析や予想を行う方もその都度、ビルボードジャパンに対しチャートポリシーの変更を求め続けてきたという次第です。

 

今一度、ビルボードジャパンの文言を紹介します。

総合ソングスチャート、およびストリーミング指標の記事には以下の文言が掲載されています。

※本日(2022年4月20日)発表チャート以降、総合チャートのストリーミング指標およびストリーミング・ソング・チャート“Streaming Songs”において、一部サービスの実再生回数に代わり、その市場シェアを鑑みた計算係数を採用することで、楽曲の総再生回数を算出しています。

ストリーミング指標によると、INI「CALL 119」は5848463回再生を獲得。同曲は前半3日間の先ヨミ記事(→こちら)では3825855回再生で首位となっていました。一方で速報段階では2位のIVE「LOVE DIVE」(302.8万回再生)、9位の星野源「喜劇」(220.1万回再生)は最終的に7047136回(2位)および4831080回(11位)を記録。倍以上の伸びを示す2曲とは対象的に、「CALL 119」が係数処理適用で大きなブレーキがかかったことが判ります。

『一部サービスの実再生回数に代わり、その市場シェアを鑑みた計算係数を採用』といいうことは、LINE MUSIC全体において各曲の再生回数に係数処理が適用されたと捉えていいでしょう。LINE MUSIC再生キャンペーン採用曲のみに係数処理を施すことは難しいとして、しかしLINE MUSICがコアファンを有料会員として獲得すべく積極的に再生キャンペーンを採用したことがチャートを歪にしたと考えれば、この措置は納得できます。

 

(また、ともすれば米ビルボードが2020年秋にスタートしたグローバルチャートにおいて、集計対象となるデジタルプラットフォームにLINE MUSICが含まれない可能性も考えられました。米ビルボードは集計対象を明確にしていませんが仮にLINE MUSICを集計対象から外しているならば、ビルボードジャパンもLINE MUSICに係数処理を適用することは自然な流れと捉えていいでしょう。)

 

ビルボードジャパンによるチャートポリシー変更はここ1年以上の間、各四半期の初週に行われていました(2022年度第2四半期を除きます)。それが今回、第2四半期の半ばにて行われたということは、それだけLINE MUSIC再生キャンペーンのチャートへの影響が無視できなくなった、ストリーミング指標そして総合ソングスチャートが真の社会的ヒット曲と乖離していると考えたビルボードジャパン側の決行と言っていいでしょう。

ビルボードジャパン、そしてビルボードジャパン各種チャートの基となる米ビルボードのチャートポリシー変遷を追いかけて感じたのは、ライト層の支持を受けロングヒットする曲こそ真の社会的ヒットであるという考えに基づき、チャートが社会的ヒットの鑑に常に成ろうとしているということ。今後も様々な施策が登場すると思われますが、その度に迅速に対応するというビルボードジャパンの姿勢が今回示されたと言えます。

 

今回のビルボードジャパンの決行、そして自分の支持表明は、決してINIやBE:FIRST等LINE MUSIC再生キャンペーン採用歌手や曲を非難するものではありません。著作権料は再生の度に入るはずであり、またキャンペーン自体は(チャート上での影響力が小さくなったとしても)今後も有効に作用します。問題は、コアファンとライト層が乖離する曲が、ダイレクトにチャートに反映されることにありました。

チャートにおいてキャンペーン等をそのまま反映させないという判断は、2017年度以降複数回行われたフィジカルセールス指標における係数処理適用にも表れています。上記ブログエントリーでは昨年度第3四半期(下半期)初週に行われた係数処理適用枚数の減少(推定30万→10万)を指し、今年度初週にはさらに引き下げられていますが、この係数処理適用がなければ、今もフィジカルセールスがそのまま反映されたことになります。

そのような係数処理が仮に今も行われず、ライト層と大きく乖離しながらもコアファンの熱量主体で瞬発的に最上位に進出し、翌週以降急落する作品が今以上に多いチャートのままだったならば、そのようなチャートを社会的ヒットの鑑と言っていいでしょうか。チャートポリシー変更に否を唱える方はそのようなチャートを想像すれば、今回の(また今回までに至る)チャートポリシー変更が自然であることが解るはずです。

 

 

さて、先述したようにLINE MUSIC再生キャンペーンについては、チャートへの影響度は減るとしても今後も有効に作用するだろうというのが私見です。

直近ではINI「CALL 119」が昨日より同曲で二度目のキャンペーンを開催。期間は1週間であり、開始日は「CALL 119」をリード曲とするセカンドフィジカルシングル『I』の発売日にあたります。

INIにおけるコアファンの増加および熱量の増大は、最新4月20日公開分(4月25日付)ビルボードジャパンソングスチャートにおけるTwitter指標でのトップ3独占且つ8位までに7曲ランクインという状況からもみえてきます。フィジカルシングルが前作同様3種リリースながらフラゲ日での売上が大きく伸びたのも、ファンの総数や熱量の増加を想起させるに十分です。

フィジカルシングルリリースのタイミングに合わせてキャンペーンを開催したINI「CALL 119」は次週のビルボードジャパンソングスチャートで最高位を狙える位置にあり、ともすれば2022年度最高ポイントを獲得する可能性があります。瞬発力を高めるにはLINE MUSIC再生キャンペーンの存在が大きな一助となることでしょう。

ならばそれを、より多くのライト層獲得につなげる必要があります。今回トップ10内に初めて登場した7曲を含め、ロングヒットに至るか、真の社会的ヒット曲と成るかを見極めていく必要があるというのが私見です。

 

 

最後に。通常木曜のブログエントリーではビルボードジャパンの最新動向を取り上げますが、その際は基本的に同日朝までに配信されるビルボードジャパンの公式ポッドキャストをチェックしない状態で記載します。

今回のブログエントリーはLINE MUSIC再生キャンペーンを踏まえたチャートポリシー変更であり、ポッドキャストでMCを務める礒崎誠二さんの考え等が最新ポッドキャストでも述べられるものと思っていました。ゆえにポッドキャストをチェックしてから私見を述べる予定でしたが、本日(4月21日)7時38分の段階でSpotifyでは配信されておらず、ゆえにポッドキャスト未確認のまま今回のエントリーをアップしております。