ビルボードジャパンは適宜チャートポリシー(集計方法)を変更します。構成指標におけるウエイトの変更においては指標毎の影響力、そしてコアファンとライト層との熱量の乖離を考慮した上で行われています。ビルボードジャパンは、ライト層により響いた作品こそ社会的ヒットという考えの下、チャートポリシーを随時変更していると言って差し支えないでしょう。
ビルボードジャパンは4月20日公開分(4月25日付)のソングスチャートでチャートポリシーを変更しました。どのデジタルプラットフォームかは断言していないものの明らかにLINE MUSIC再生キャンペーンを念頭に、同サービスの再生回数に係数処理を適用しています。同サービスによる3月の再生回数上位10曲がすべて再生キャンペーン採用曲となり社会的ヒット曲と著しくバランスを欠いていたゆえ、自分は変更に賛同します。
一方で、係数処理適用でソングスチャートへの影響度は小さくなったとしても、再生キャンペーン自体は有効に作用します。そんな中このような動きが登場しており、個人的に強い違和感や懸念を表明します。
次週、5月11日公開分(5月16日付)ビルボードジャパンソングスチャート、ストリーミング指標において、速報段階でめいちゃん「ラナ」がトップに立ったことが昨日アナウンスされました。
#めいちゃん「#ラナ」は、LINE MUSICで2525回以上再生した方全員がめいちゃん本人に会えるキャンペーンを実施中。さらの別企画も用意されています。https://t.co/LJWxZhPXVG
— Kei (@Kei_radio) 2022年5月6日
Spotifyではこれまで、デイリー200位以内にランクインしていません。 https://t.co/RnMwu64yQ0
2525回以上再生した方全員がリアルトークイベント会に招待されるのみならず、めいちゃん本人と話せる1on1オンライントーク会参加権も抽選で当たるというもの。後者は再生回数が多いほど当選確率が上がると記載されています。このキャンペーンが功を奏し、ビルボードジャパンソングスチャートのストリーミング指標速報段階ではOfficial髭男dism「ミックスナッツ」を90万回以上上回り、「ラナ」は首位を走っています。
キャンペーン効果と断言した理由は、めいちゃん「ラナ」が日本におけるSpotifyデイリーチャート、最新5月5日付までに一度も200位以内に入っていないためで、LINE MUSICに再生回数が偏っていることは明らかです。めいちゃんは前作「ズルい幻」でもLINE MUSIC再生キャンペーンを実施していますが、今作の基準値は2千回も増加。一方でクリアした全員が会えるという確定条件が、コアファンを惹きつけたと言えるでしょう。
めいちゃん『#ラナ』
— umusicjapan (@umusicjapan) 2022年5月2日
LINE MUSICデイリー1位獲得🥇🎉
もの凄い再生数です!笑
たくさん聴いて頂きありがとうございます💓
引き続きたくさん聴いて下さいね🦐
▼#LINEMUSIC での再生はコチラhttps://t.co/5a4iY8GAkU#僕ら最強だ 🏃💨#めいちゃん #めいふぁみ
『もの凄い再生数です!笑』の『笑』という表現は、担当者が驚きを隠せないこと等を示しているのかもしれません。
本日0:00 🕛#めいちゃん「ラナ」配信スタート🎉
— めいちゃんインフォ (@meychan_info) 2022年5月1日
LINE MUSICだけでなく、他の各種サブスクでも再生していただけたらランキングに反映されますので、みなさま是非よろしくお願いします🎧🥇!
🔻配信リンクhttps://t.co/tUy7YN68is
みんなでオリコン1位目指しましょう!#ラナ pic.twitter.com/HQgfMzfHej
めいちゃん側の公式Twitterアカウントではビルボードジャパンではなくオリコンを目標としています。このブログではより社会的ヒットを示す鑑がビルボードジャパンであることを以前から記していますが、オリコンはビルボードジャパンのような係数処理を適用していないだろうことから、再生回数が純粋に反映されるオリコンを明示した上で言及しているのかもしれません。その認識にも疑問を抱きます。
LINE MUSIC再生キャンペーンはビルボードジャパンがチャートポリシーを変更してもある程度有効には作用します。ともすればめいちゃん「ラナ」のキャンペーンはチャートポリシー変更前に企画が動き出したかもしれませんが、チャートポリシー変更後は再生回数のハードルを高めたとしてもプレゼントを豪華にすれば、係数処理適用に負けず指標制覇に至る可能性があることが証明されたものと思われます。
LINE MUSIC再生キャンペーンは参加者の物理的および精神的な負担を招きますが、それ以上のリターンが負担の重さを上回るゆえ、コアファンにキャンペーンに対するネガティブイメージはあまり生まれないでしょう。また様々なプラスを呼び込み、一見好いものにみえます。
レコード会社の推進は自然かもしれません。@LINEMUSIC_JP 再生キャンペーンは、
— Kei (@Kei_radio) 2022年5月6日
・歌手側の利益
・曲のチャートアクション
・LINE MUSICの有料会員
これらの上昇という意味で、いわゆるWin-Winと言えます。
しかしこのキャンペーン推進が日本の音楽業界に歪さを与えたというのが、厳しくも私見です。 https://t.co/nlLGmPFgR6
しかしLINE MUSIC再生キャンペーンは問題と断言します。再生キャンペーン未採用曲であってもビルボードジャパンがLINE MUSICで聴かれたすべての曲に一律で係数処理を施しているため(下記ツイートをみれば、係数処理はサービス全体に採用され再生キャンペーン適用曲のみに施されたものではないと捉えていいものと考えます)。
【チャートに関するお知らせ】
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2022年4月20日
2022年4月20日発表チャート以降、総合チャートのストリーミング指標およびストリーミング・ソング・チャート“Streaming Songs”において、一部サービスの実再生回数に代わり、その市場シェアを鑑みた計算係数を採用することで、楽曲の総再生回数を算出しています。
真面目に頑張っている曲が報われないという状況を生んだのはLINE MUSICの罪だと言っても過言ではないはずです。
めいちゃん「ラナ」の状況を踏まえれば、ビルボードジャパンはソングスチャートのストリーミング指標を再度見直す必要があると考えます。ただしLINE MUSIC全体の係数処理強化ならば、再生キャンペーン未採用曲は報われません。ゆえに最善はキャンペーン採用曲のみへの係数処理強化だというのが私見ですが、ビルボードジャパンはストリーミング指標からLINE MUSICを除くことも視野に入れていいのではとも感じています。
米ビルボードは2020年秋、世界200以上の地域でのストリーミング(動画再生含む)およびダウンロードに基づくグローバルチャートを開始。ふたつのグローバルチャートのうち、Global 200におけるJ-Popのチャートイン動向をビルボードジャパンソングスチャートのストリーミング指標と比較すると、見えてくるものがあります。
(なお米ビルボードは今年度2週目(2021年11月27日付)以降、Global 200の公開を100→200位に拡大した一方で、Global 200から米の分を除くGlobal Excl. U.S.は無料公開を取り止めています。下記表ではその2021年11月27日付以降のチャート、および同時期以降のビルボードジャパンソングスチャートにおける動向を掲載しています。)
集計期間は海外が金曜に対しビルボードジャパンは月曜開始のため若干のずれは生じるものの、注目はビルボードジャパンソングスチャートのストリーミング指標制覇曲の中にGlobal 200の200位以内未ランクイン曲が少なくないこと。そして最も解りやすいのが、3月16日公開分(3月21日付)ビルボードジャパンソングスチャートでストリーミング1300万回超えを記録したBE:FIRST「Bye-Good-Bye」のGlobal 200未ランクインです。
(BE:FIRST「Bye-Good-Bye」、また後述するINI「CALL 119」共にLINE MUSIC再生キャンペーンを実施しています。詳細はLINE MUSIC月間ランキングトップ10がすべて再生キャンペーン採用曲に…総合チャートの推移から見えてくるものとは(4月8日付)をご参照ください。)
以下に3月16日公開分(3月21日付)および3月23日公開分(3月28日付)ビルボードジャパンソングスチャートのCHART insightおよび総合記事を掲載します。
3月16日公開分(3月21日付)ビルボードジャパンソングスチャートではBE:FIRST「Bye-Good-Bye」がダウンロードや動画再生も制し総合首位に輝いた一方、この期間におけるGlobal 200では3月12日付、およびその翌週とも「Bye-Good-Bye」は未ランクイン。3月12日付のGlobal 200においては「Bye-Good-Bye」が集計期間4日目に解禁されたという状況はあれど、勢いを踏まえればGlobal 200に入ってもおかしくなかったでしょう。
これはINI「CALL 119」でもみられる状況であり(ただし同曲はダウンロードの高くなさ等、Global 200に入りやすい環境だったとは言い難いかもしれません)、他方Aimer「残響散歌」は世界でも通用する日本のアニメ作品のタイアップゆえ海外でも人気だった可能性があります(その傾向の最たるものがSiM「The Rumbling」と言えます)。
ストリーミング1千万回再生を突破した曲がGlobal 200で200位以内に登場しないことは、ともすれば主要デジタルプラットフォームを押さえているはずの米ビルボードがLINE MUSICの再生キャンペーンを憂慮して同サービスに独自に係数を採用したか、それともLINE MUSIC自体を外した可能性もゼロではないかもしれないと思うのです。無論この仮定は推測(邪推)に過ぎないかもしれません。
まずはグローバルチャートの対象デジタルプラットフォームを明記しない米ビルボードがそれを明らかにする必要があります。またビルボードジャパンはグローバルチャートの認知度上昇の意味でも、対象デジタルプラットフォームを明記しつつグローバルチャートの基本について記事を書かれることを願います。
(世界にJ-Popを轟かせる意味でも有効であり、重要なチャートに成り得るはずのグローバルチャートが日本において認知度が低すぎる状況は、至極勿体無いと思うのです。)
その上で、仮に米ビルボードがグローバルチャートにおいてLINE MUSICに係数処理を施しているならば、ビルボードジャパンがチャートポリシーを見直すことは尚の事必須でしょう(米ビルボードが施していないとしても見直すべきですが、米ビルボードの意志は大きな意味を持つはずです)。そしてグローバルチャートがLINE MUSICを外しているならば、ビルボードジャパンも英断を下していいのかもしれません。