イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(訂正あり) 米ビルボードにおけるJIMIN『FACE』と「Like Crazy」の指標構成を注視、動向次第ではチャートポリシーの議論も必要

(※追記(4月11日19時54分):米ビルボードソングチャートにおける首位曲の急落記録はシックスナイン & ニッキー・ミナージュ「Trollz」と記しましたが、正しくはテイラー・スウィフト「Willow」でした。訂正しお詫び申し上げると共に、「Willow」について追記しています。)

 

 

 

日本時間の本日早朝に発表された4月9日付米ビルボードアルバムチャートはモーガン・ウォレン『One Thing At A Time』が4連覇を達成。そして2位にはBTSのJIMINによる『FACE』が初登場を果たしています。今回はこのJIMINの作品のチャートアクション(予想を含む)を踏まえ、私見を記載します。

最新アルバムチャートでトップ10入りした作品の指標構成は下記ツイート内の表をご参照ください(記事掲載分がまとまっています)。ストリーミング(サブスクや動画再生)のアルバム換算分は”SEA”、単曲ダウンロードのアルバム換算分は”TEA”、純粋なセールス(デジタルおよびフィジカル)は”Pure”で表示されています。なお記事によると、JIMIN『FACE』のセールスのうち79%がCD、残りがデジタルダウンロードとなっています。

JIMIN『FACE』においてはセールスが2023年において3番目に多く(ソロでは最多)、またTEAは今年最大の数値となっています。この要因を米ビルボードはこのように紹介しています。

Most of FACE’s TEA units come from the album’s current single, “Like Crazy” — which was available in five different versions (the album version — performed in the Korean language, an English-language version, two dance remixes and an instrumental) during the tracking week. All versions of the song are combined for tracking and charting purposes.

『FACE』のリード曲「Like Crazy」にはオリジナルの韓国語版のほかに英語版、2曲のリミックスおよびインストゥルメンタルがあり、これら5つのバージョンがTEAの大半を占めています。しかし、『FACE』に収録されているのはオリジナルと英語版のみであり、その他3バージョンは『Like Crazy (Remixes)』の形で発表。ゆえに5バージョンすべてを『FACE』に合算する米ビルボードのチャートポリシー(集計方法)に違和感を覚えます。

ちなみに今回の記事では、11月19日付アルバムチャートで2位を記録したテイラー・スウィフト『Midnights』においても「Anti-Hero」の複数バージョンが加算対象となったことが紹介されています。なおこの内容は同日付の速報記事(→こちら)には掲載されていません。

 

 

アルバムチャートの勢いも相俟って、JIMIN「Like Crazy」は日本時間で明日発表予定の米ビルボードソングチャートも制すると予想されています。

この予想については3月29日付ブログエントリーにて一度紹介しているのですが、その際米ビルボードソングチャートの予想担当者は「Like Crazy」がトップ10入りはするとしても首位に至るとは記していませんでした。

しかし上記を中心に、最終予想ではJIMIN「Like Crazy」を首位とする方が少なくありません。また下記予想も含め、「Like Crazy」は少なくともダウンロードが20万を超えるとみられています。

 

ビルボードソングチャートはストリーミング、ラジオおよびダウンロードで構成。ダウンロードは歌手のホームページにおけるデジタルやフィジカルセールスも含みます。そのダウンロードは唯一の所有指標のため瞬発力は高い一方で持続力に乏しく、ストリーミングは双方を兼ね備え、そしてラジオはリリースから1ヶ月以内のトップ10入りが難しい一方で持続力が最も大きい(長続きする)のが特徴です。

基本的に米ビルボードソングチャートでは、ロングヒット曲ほどストリーミングやラジオといった接触指標群の強さが際立ちます。そしてダウンロードにおいては20万はおろか10万を超えることも少ない状況です。その中で今年度初週に総合首位を獲得したテイラー・スウィフトAnti-Hero」は複数のリミックスバージョンの投入ならびに歌手のホームページ内での先行や独占販売の結果、327,000ものセールスを獲得しています。

Anti-Hero」が327,000ものダウンロードを記録した週は、『Midnights』のTEAが大きく伸びた週でもあります。これを踏まえれば、アルバム未収録のリミックスがアルバムチャートも伸ばすというチャートポリシーを見越して複数バージョンの展開を行う歌手が今後登場するかもしれません。下記エントリーで記した理由共々、米ビルボードがチャートポリシー見直しを議論することが必要ではないかと感じています。

 

明日の公式発表を待たなければなりませんが、JIMIN「Like Crazy」は米ビルボードソングチャートでの最上位初登場の可能性が高いと言えます。しかし気掛かりなのは翌週の動向です。所有指標は急落しやすく、ロングヒットを目指すには接触指標群を伸ばす必要がありますが、予想段階では接触指標群が高いとはいえません。また早くも登場した4月15日付ソングチャート予想では、「Like Crazy」が不確定の状況となっています。

ビルボードソングチャートにおける首位曲の急落記録はテイラー・スウィフト「Willow」が保持しています(2021年1月2日付 1→38位)。「Willow」は前週初登場で首位を獲得した際、様々な施策を行っていました(下記エントリー参照)。記録が生まれた週はクリスマス関連曲が大挙上昇したことも影響していますが、施策の反動もあると捉えています。なおクリスマス関連曲の首位からの急落についてはこの記録の対象外となっています。

「Willow」に続くのは、シックスナイン & ニッキー・ミナージュ「Trollz」となります(2020年7月4日付 1→34位。詳細は下記エントリー参照)。

「Trollz」はストリーミングが前週比62%ダウンの1380万(同指標18位)、ダウンロードが同92%ダウンの9000(同指標7位)、ラジオエアプレイは同97%アップするも230万(同指標50位未満)。ダウンロードの急落は前週のフィジカル施策の反動と言えますが、前週3位に初登場したリル・ベイビー「The Bigger Picture」が7位にとどまったのとは対象的な動きです。

「Trollz」が採用したフィジカル施策とは、歌手のホームページでフィジカルを販売した際に発送ではなく購入段階でダウンロード指標に加算、さらには到着までの間に別途用意されたデジタルダウンロードも加算される仕組みを活用した方法で、2020年度後半に米ビルボードが実質無効化しています(購入ではなく発送段階で加算、一方で別途用意したデジタルは加算対象外に)。

このチャートポリシー変更は、ダウンロード指標に強い曲がロングヒットしなくなったこと(その結果は年間ソングチャートでの強くなさにも反映)に対する、米ビルボードの自問自答の結果と捉えています(下記エントリー参照)。

その後もダウンロード指標については以下のようなチャートポリシー変更を行っているものとみられます。尤も下記エントリーの掲載内容は米ビルボードによる公式発表ではありませんが、2021年度においてBTS「Butter」が通算10週首位を獲得した一方で所有と接触指標群とのバランスが他の曲より大きく異なること、所有指標がいずれの週も10万を超えている等の点を考慮した変更と考えます。

JIMIN「Like Crazy」はこのチャートポリシー変更後のリリースとなりますが、今回のセールスからはJIMINが所属するBTSの「Butter」を想起した次第です。そして「Butter」がグラミー賞を獲るには接触指標群の充実が必須だったと考えます。

 

 

前提として、現行のチャートポリシーの下では週間チャートの結果は評価されなければなりません。ただし翌週急落するならば、所有指標についてはたとえば歌手のホームページにおける販売の加算取りやめ等を検討する必要があると考えます。また少なくとも、米ビルボードアルバムチャートではアルバム未収録のリミックス等をカウントから外すべきというのが私見です。

接触指標群が強くない作品は米ビルボードでも、また米ビルボードの仕組みを踏襲するビルボードジャパンにおいても、真の社会的ヒット曲とは言い難いと考えます。JIMIN「Like Crazy」がそれを克服できるかに注目すると共に、仮に首位から急落することになれば米ビルボードがチャートポリシー変更の議論を行わなければならないでしょう。