最新6月23日公開(6月28日付)ビルボードジャパンソングスチャートでは9位に三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE「100 SEASONS」が急上昇。フィジカルセールス初加算に伴い、同指標がポイント全体の8割以上を獲得しています。
しかし「100 SEASONS」では、サブスク再生回数等を基とするストリーミング指標が加算されていません(最新週におけるCHART insight(上記参照)において、青で示されるストリーミングがチャート構成比に含まれていません)。この点についてはチャート分析や予想等を行うあささんが驚きのツイートを発信していましたが(→こちら)、自分も同様の感想を抱いています。
「100 SEASONS」は「TONIGHT」とのダブルAサイドシングルとしてフィジカル化されていますが、「TONIGHT」はストリーミング指標が72位に入っており、仮にフィジカルの1曲目が「TONIGHT」だったならば同曲が最新チャートでトップ5を狙える位置に行けたかもしれません。
(基本的なルールとして、ビルボードジャパンではダブルAサイド等複数の表題曲を用意したシングルのフィジカルセールスについては、1曲のみに加算されます。パソコン等にCDを取り込んだ際インターネットデータベース(Gracenote)にアクセスされる数を示すルックアップも同様です。)
デジタルでの勢いの差は、「100 SEASONS」と「TONIGHT」の公開タイミングの差やテレビパフォーマンスのタイミングも影響していると言えます。
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— 三代目 J SOUL BROTHERS (@jsb3_official) 2021年5月30日
とはいえ、「100 SEASONS」と「TONIGHT」では解禁に一週間しか差がありません。となると、曲としての人気は後者のほうが高いと考えるのは自然かもしれず、フィジカルにおいて「100 SEASONS」を先に持ってきたのはチャート的に勿体ないと思うのです。 「TONIGHT」においては直近でリミックスバージョンも公開しており、運営側はこちらがより人気だと認識しているのではと思うゆえ、尚の事なのです。
三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBEはシングル曲において、攻めた曲とポップソングの両面を押し出している印象があります。分かりやすいのが二年連続で日本レコード大賞を受賞した「R.Y.U.S.E.I.」(2014)、および「Unfair World」(2015)ではないでしょうか。
尤もこの傾向は、三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBEも所属するLDH全体のそれと言えるかもしれません。しかしここ最近、特に今年はシングル曲での攻めの姿勢が鮮明になっている印象があります。自分は毎月ブログで私的ベストソングスを20曲紹介していますが、そこでは1月にBALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBE「Animal」を、2月にはØMI(登坂広臣)「ANSWER... SHADOW」を選出しています。
海外の制作陣を積極的に起用する、または国内の制作陣が海外を意識した音作りを行う…それによりシングル曲でもいわば脱J-Popなサウンドが増えたことが、受け手の耳も肥えさせているのではないでしょうか。それが「100 SEASONS」よりも「TONIGHT」への支持につながった理由かもしれません。
一方で、TikTokを起点とするヒット曲が増えた現在、使い勝手があり且つ共感する方が多い曲が好まれ、J-Pop的な起承転結がはっきりしている曲がヒットしている印象があります。ならば「TONIGHT」よりもポップな「100 SEASONS」は、TikTokで積極的な展開を行ってもよかったと思うのです。
@jsb3_official 「100 SEASONS」MV staff camera📸 ##三代目JSOULBROTHERS ##100SEASONS ##100SEASONS_TONIGHT ##JSB3
♬ 100 SEASONS - J SOUL BROTHERS III from EXILE TRIBE
三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBEはTikTokに公式アカウントを用意し、「100 SEASONS」を用いた複数の動画を用意しています。しかしながらフィジカルシングルのプロモーションを超えるような、例えば日常動画での使い方を示すような提示があれば尚の事よかったかもしれません。
さて、三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBEのようなダブルAサイド、もしくはトリプル…といった複数の表題曲を前面に据えたフィジカルシングルが増えています。この1ヶ月強ではKing & Prince「Magic Touch」「Beating Hearts」やV6「僕らは まだ」「MAGIC CARPET RIDE」、星野源「不思議」「想像」等がダブルAサイドとしてフィジカル化されています。
歌手側がダブルAサイドシングルを用意するのは、特にシングルにおいてフィジカルをリリースすることが予算面等から難しくなった現状を踏まえ、出すならば付加価値を高める必要があったと想像します。しかし、デジタルで好調の表題曲がフィジカルセールス指標加算対象曲と異なる場合、その両方とも十分に浮上できない事態が生じるのです。
昨年8月にOfficial髭男dismがリリースした『HELLO EP』は表題曲を含む3曲がタイアップとなり、3曲とも最新6月23日公開(6月28日付)ビルボードジャパンソングスチャートで100位未満ながら300位以内にランクインしています。しかしフィジカル関連指標が加算された「HELLO」は最新週においてデジタルでの加点がありません。またYouTubeの再生回数も、「HELLO」が最も低くなっています。
(上記は昨年度のビルボードジャパン年間ソングスチャートにおける総合順位、およびフィジカルセールス、ダウンロード、ストリーミングといった各指標の順位。当時はフィジカルセールスをシングルCDセールスと表記しています。2020年度のソングスチャートで見えてくる、"日本のアメリカ化"と"アメリカの日本化"(2020年12月6日付)より。)
この表をみると、総合39位の「HELLO」は「Laughter」(総合43位)、「パラボラ」(同45位)に勝っているものの、特に「Laughter」に比べてデジタルが劣るのです。それゆえ、仮に「Laughter」がEP表題曲となり1曲目に据えられたならば、「Laughter」は年間トップ20を窺えたのかもしれません。
勿論、蓋を開けてみないことにはどの曲が最も人気かは解らなかったかもしれませんが、特に「Laughter」は大ヒットした「Pretender」と同じシリーズ映画の主題歌だったわけで、こちらを表題曲にしても良かった気がします。いや、強力なタイアップ曲が複数存在するならば、「HELLO」と「Laughter」とで分けてフィジカル化するのが最善だったかもしれません。
ダブルAサイドシングル、トリプル…等複数の表題曲を用意することはシングルのフィジカルに高付加価値をつけるには有効でも、チャート上で必ずしも成功するとは言えないというのが私見です。複数の表題曲を用意するならば、どの曲がより長くヒットするかを見極めることが必要です。
またフィジカル化について、時折不要論がみられますがそれは正しくないでしょう。たとえば昨日はこのような記事がアップされていましたが、ビルボードジャパンを介して紹介されることに尚の事違和感を覚えます。
ドラマのタイアップにCDは必要か?! back number「怪盗」 https://t.co/jgwqXeermX pic.twitter.com/nZAXr8Shrg
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2021年6月26日
(記事は『もちろん「怪盗」もCDがリリースされていれば瞬発力はあったかもしれないが、それがどこまでの結果になったのかはなんとも言えないところがある』という表現で〆られており、書き手である栗本斉さんは結論を濁しています。しかし記事の表題が『CDは必要か?!』となっており、誘導の仕方に疑問を抱く自分がいます。)
フィジカルリリースは、セールスおよびルックアップの初週加算時に表題曲のポイントが瞬発的に高くなるものの、翌週は大幅なダウンを招きます。ただし先述したOfficial髭男dismにおいては、「HELLO」が未だにフィジカルセールスとルックアップを加算しており、特にルックアップの加点はフィジカルリリース曲の延命に大きな役割を果たすのです。その点でフィジカル化は必要である、と記事に対して回答します。
フィジカル化における最善は、複数の表題曲を避け、できる限り分けてリリースし、そしてそもそもフィジカルを用意しない傾向を改めることだと考えます。業界全体の意向としてフィジカル化が難しいとするならば、コアなファン向けの豪華仕様を予約販売のみとし、レンタル店向けに通常盤を用意するということも有りかもしれません。
フィジカル化することのメリットはあります。ゆえに、どう最大化するかを考えなければなりません。