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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングスチャートなどを紹介します。

囁かれるロックの復権…支えるのはTikTok、そしてヒップホップ?

ロックの復権が囁かれています。最新7月3日付米ビルボードアルバムチャートで首位返り咲きを果たしたオリヴィア・ロドリゴ『Sour』について、音楽ジャーナリストの柴那典さんがこのような言葉を用いているのです。

収録曲もストリーミングサービスのグローバルチャートの上位を席巻。すでにビリー・アイリッシュに並びZ世代を代表するポップアイコンとなることも確定しつつある彼女だが、アルバムの大きなポイントはその成功が「オルタナティブロックの復権」に結びつくだろうことだ。

実はオリヴィア・ロドリゴに限らず、チャート面においてもロックの復権が見て取れます。

 

『Sour』収録の「Good 4 U」は6月26日付米ビルボードソングスチャートで2位にランクイン。BTS「Butter」に4週連続で阻まれているもののストリーミングで大差をつけ、ラジオでもリードしている「Good 4 U」は同日付のグローバルチャートにおいてGlobal Excl.U.S.で2位、そして米の分を加えたGlobal 200ではトップに立っています。また「Good 4 U」は米チャートでストリーミング5連覇を達成しているのです。

昨秋新設されたグローバルチャートでイタリアのロックバンド、マネスキンが今月Global Excl.U.S.で2曲トップ10入り。2年ぶりに開催されたユーロヴィジョン・ソング・コンテストで優勝したマネスキンは、大会で披露した「Zitti E Buoni」を6月12日付で、2週後には「I Wanna Be Your Slave」を送り込んでいます。それぞれの週で三千万前後のストリーミング再生回数を記録したことが、トップ10入りに大きく影響しています。

イギリスにおいては最新ソングスチャートで「Good 4 U」が首位となり、マネスキンは2曲がトップ10入り(「I Wanna Be Your Slave」が6位、「Beggin'」が10位)。最新の米ビルボードソングスチャートではマネスキンが100位以内に入っていないものの、これからの動向が楽しみです。

 

 

ここ数年、特にアメリカではヒップホップやR&Bがチャートを、そして音楽市場を席巻。とりわけストリーミングの興隆がこのジャンルに大きな影響を与えています。

2017年は、ニールセンが1991年に販売情報の追跡を開始してから初めてR&Bとヒップホップが米音楽業界のトップ・ジャンルになった年だった。消費量全体の25.1%を占め、オンデマンド・オーディオ・ストリーミングでは全体の30.3%を占めた。第2位のロックは18.1%だった。20年ぶりに米音楽業界が二桁%の増収となったのもストリーミングのおかげで、ニールセンによると、全米で最もストリーミングされた楽曲TOP10の内7曲がラップで、82億回に及ぶオンデマンド・ストリーミング全体の65%を同ジャンルが占めていた。

記事は2017年末のものですが、たしかにチャートを追いかけてみるとヒップホップは所有(セールス)より接触(ストリーミング)が多く、一方のロックは接触より所有が多い傾向にあります。米ビルボードアルバムチャートではアルバム収録曲のストリーミング再生回数がユニット換算されるため、ヒップホップのアルバムがロングヒットする一方でロックは瞬発的に終わる印象が拭えません。

それゆえ、オリヴィア・ロドリゴのロックナンバーである「Good 4 U」がストリーミングで強さを発揮し、アルバム『Sour』も首位に返り咲いたことは特筆すべきと言えます。尤も穿った見方と前置きして書くならば、彼女が人気俳優であり、またデビュー曲の「Drivers License」が彼女自身の恋愛を想起させる内容ゆえに若年層主体に興味を抱かれストリーミングが高まった…そんな側面があるかもしれません。

 

しかし、ヒップホップにおいてもロックアプローチが広まっていることは事実です。

昨年から今年にかけて通算8週米ビルボードソングスチャートで首位を獲得した24Kゴールデン feat. イアン・ディオール「Mood」は、総合ソングスチャートを制する前にロック&オルタナティブソングスチャートおよびオルタナティブソングスチャートで首位を獲得済。この週はラップソングスチャートも制しており、ジャンルを横断したヒットとなりました。

24KゴールデンはTikTok知名度を高めており、これが「Mood」の首位獲得にも大きく貢献。この点については下記ラジオ書き起こしで詳しく紹介されています。

24Kはビルボードジャパンのインタビューに対し、次のように答えています。

――あなたの曲はTikTokで火がつくなど、ソーシャル・メディア(SNS)の使い方が上手な印象があります。自分なりの戦略ですか?

24kGoldn:自分の曲をソーシャル・メディアでプロモートしないなんて、怠け者か、無知のどちらかだよ。とくに、自主隔離期間中は、それをうまく使える人と、使えない人の差がはっきり出たよね。俺は高校で曲を作り始めてから、ずっと自分でデジタル・マーケティングをやってきた。だから、ほかのアーティストより上手だし、本音を言うと、ほとんどのマネージャーやレーベルより得意だと思う。だから、自主隔離期間が始まったとき、「さて、コンサートはできないけど、自分でコントロールできることに集中しよう」って頭を切り替えた。曲作りはできるし、その曲をソーシャル・メディアでプロモーションするのもできるなって。そうやって集中してできたのが「ムード」だ。

”自分の曲をソーシャル・メディアでプロモートしないなんて、怠け者か、無知のどちらか”…この表現は衝撃的と言えますが、実際成功を収めているからこそ断言できるのでしょう。

 

さらに昨年秋には、ヒップホップ畑のマシン・ガン・ケリーが『Tickets To My Downfall』で初めて米ビルボードアルバムチャートを制したのですが、この作品のジャンルはパンクロックに該当します。

マシン・ガン・ケリー自身はヒップホップにカテゴライズされているが、本作はパンクを中心とした内容で、ブリンク182のドラマー=トラヴィス・バーカーもプロデューサーとして参加している。こちらも意外であるが、2020年度のチャートでロック・アルバムが首位を獲得するのは本作が初で、2019年9月14日付チャートでトゥールの『フィア・イノキュラム』が獲得して以来、約1年ぶりとなる。

グッズとのバンドルや、発売後1週間以内にデラックスエディションが用意されたことも『Tickets To My Downfall』が首位に立った理由と言えますが、デラックスエディションは主にストリーミング指標を刺激します。個人的にはこの手法に否を唱えたいのですが(以前ブログで記しています)、このパンクロック作の首位獲得にもストリーミングが大きな役割を果たしているのです。

 

ヒップホップとは異なりますが、フリートウッド・マックによる1977年発表の「Dreams」が昨年秋にリバイバルヒットし、米ビルボードソングスチャートでは12位に返り咲き。そのきっかけはインフルエンサーによるTikTokでの使用、そしてフリートウッド・マックのメンバーによる動画の再現にありました。

『ミック・フリートウッドのTikTokアカウント開設は流行に乗り楽しもうとするチャレンジ精神』にある、と上記ブログで記しました。24Kゴールデンはソーシャルメディアでのプロモーションの重要性を述べましたが、義務感に追われなくとも楽しんでやれば結果が付いてくるだろうことを、フリートウッド・マック「Dreams」が証明していると言えるのです。

 

 

他にも、ポスト・マローンがトラヴィス・スコットそしてオジー・オズボーンと組んだ「Take What You Want」等、ロックアプローチなヒップホップが登場。YouTubeの登場以降、同メディアを親しんで育った世代はジャンルにこだわらないサウンドを提示している印象があり、リル・ナズ・X「Old Town Road」に代表されるカントリーとの融合もそのひとつ。そしてロックもまた同様の形で広まっていると言えるでしょう。

 

 

ロックは所有が強い分接触が弱いという傾向は、今回取り上げた作品群ではみられないと言えます。ロックの復権とはTikTokの興隆への対応力、そしてストリーミングとの親和性にあるというのがチャート面から言えることであり、奇しくもロックから米音楽市場のトップの座を奪ったヒップホップによってもたらされたものなのです。

一方で、マネスキンはヒップホップアプローチとは別の(純粋な)ロックサウンドですが、ポスト・マローンや「Mood」等のムーブメントに触れてさらにロックサウンドを求めるようになった方々に対し、ユーロヴィジョン優勝を機に一気に求められるようになったと言えるかもしれません。