NHK音楽番組のYouTubeに関する対応が、Agenda note (アジェンダノート)にて先月公開されたインタビュー記事から確認できます。
・前編
・後編
NHKプロジェクトセンターでエグゼクティブプロデューサーを務める加藤英明さんに、noteのプロデューサー/ブロガーの徳力基彦さんが取材した記事が先月末に2本公開。この記事にてNHK音楽番組におけるYouTube展開方法を理解し、同時にその施策への違和感をあらためて抱いています。
まずはNHKのYouTube動画が早々に削除される件について。昨年の『NHK紅白歌合戦』でも公開後1週間程度で消えてしまいましたが、これには放送法の影響があると加藤さんは仰っています。
ただ、NHKのインターネット活用業務は放送法や施行規則、実施基準によって厳密に定められており、あくまで放送を任意で補完し、受信料収入で成り立つ放送番組を国民に還元する目的が前提にあります(※)。そのためYouTubeの動画も放送に向けた「周知広報」や、受信契約のある方を対象とした同時・見逃し配信サービスの「NHK +」への誘導という用途に限られ、「NHK +」での配信終了と同時に、インターネット状の動画も削除する方針になっています。
※編集部注※ 2024年5 月、番組のインターネット配信を従来のテレビ放送を補完する「任意業務」から「必須業務」に格上げする改正放送法が成立。全番組の同時配信・見逃し配信、番組関連情報の配信を原則必須とした。NHKは2025年後半からの必須業務開始に向けて準備を進める。
・紅白プロデューサーが目指すNHK音楽番組の未来。YOASOBI、B’zのスーパーパフォーマンスが生まれた舞台裏とは? | Agenda note(3月26日付)より
この直後に加藤さんが『デジタル施策はあくまで放送の「補完」という位置付け』と語っていたことも印象的でした。
局側のNHKプラスを重視する姿勢は最近目立つ印象です(余談ですがNHKでは番組宣伝をニュース番組にて挿入することも散見されており、自分は最近こちらのポストから始まるスレッドにて疑問を記しています)。NHKプラス配信終了のタイミングでYouTubeから削除されるという現行の流れについて、そしてあくまでNHKプラスが、もっといえば放送が主であることについて、今回の記事にて理解できました。
その中にあって、米津玄師「さよーならまたいつか!」の『虎に翼』関連映像が、現時点でも米津さん側の公式YouTubeチャンネルにて公開されていますが、その状況についても記事にてクリアになりました。
素材提供については、NHKの関連団体であるNHKエンタープライズが素材提供事業を行っており、番組の一部を使用したい場合に買っていただけます。規定料金も公表されています。
・紅白プロデューサーが目指すNHK音楽番組の未来。YOASOBI、B’zのスーパーパフォーマンスが生まれた舞台裏とは? | Agenda note(3月26日付)より
実際、NHKエンタープライズには素材提供に関する料金が掲載されています。
上記引用部分の直前、加藤さんは『フルコーラスをYouTubeに上げることについては、日本と海外で捉え方が違うと感じています』と仰っていましたが、後に徳力さんが『素材提供によって動画の権利が放送局からアーティスト側に移れば、ビルボードなどの音楽チャートで動画再生回数が反映される』と述べられています。実際、「さよーならまたいつか!」がトップ10復帰を果たしたのは、上記動画の公開が背景にあります。
NHKにおけるYouTube発信には強い制約が設けられている一方、後半の記事にもあるように"MUSIC SPECIAL"にて放送された『藤井風 ~登れ、世界へ~』(2024年10月31日放送)はNHK WORLD-JAPANというYouTubeチャンネルを介し現在も配信されています(→こちら)。NHKのYouTubeチャンネルはブログ貼付等において過度な制約が設けられているのですが(これも制約の一種でしょう)、しかしながら注目の動きです。
また、後半の記事でも話題に上がっているMUSIC AWARDS JAPANの生中継に関しても、たとえばNHKプラスでの配信終了のタイミングでYouTube動画が消えることはない模様です。尤もこちらはMUSIC AWARDS JAPAN側の公式YouTubeチャンネルにて公開されるとみられています。
noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦さんはこの記事を基に、YouTubeチャンネル公開録画および(録画終了後の)雑談生配信を行うXのスペース(#ミライカフェ)を4月1日に実施。その際自分もお邪魔させていただきましたが、そこで【ファンダムによる映像購入(資金補助)の可能性】、そして【テレビパフォーマンス映像の歌手側YouTubeチャンネル配信に関するハードルを下げることの必要性】についての話が生まれています。
— 徳力 基彦(tokuriki) (@tokuriki) 2025年4月1日
前者に関してですが、映像提供は民放でも行われています。たとえば『CDTVライブ!ライブ!』を放送するTBSにもTBS素材提供というページがあるのですが、YouTube配信に関しては『企画内容と併せてメールでご相談ください』とあり、またそもそも『素材提供までは審査等で8営業日ほど頂きます』とのことで、フレキシブルな対応とは言い難いと感じます。
その中にあって、Mrs. GREEN APPLEは『CDTVライブ!ライブ!』等テレビパフォーマンス映像の(期間限定ながらも)歌手側YouTubeチャンネルでの公開を徹底しています。お茶の間の歌手として人気を高める背景にこのような公開の徹底があると考えれば、歌手側がやらない手はないはずです。ただし安価ではないことから、歌手のファンダムが応援広告(下記参照)的な形で資金を輩出(補助)することはひとつの手段でしょう。
そしてそれを行い続けることで、テレビ局側にテレビパフォーマンス映像の需要が高いことを認識してもらうことができるのではないでしょうか。音楽チャートでの実績は既に存在するのみならず、YouTube映像は基本的に海外でも流れるため歌手側のグローバル活動の後押しにもなります。テレビ局側が保有するコンテンツの重要性に気付くのみならず、現行の申請方法の簡素化や提供価格の低下にもつながるかもしれません。
さて、テレビ局の保有映像を歌手側がYouTubeで活用することについて、今月始まった中森明菜さんによる取組を興味深く感じています。
各配信サイトでは中森にとってNHK初登場となった1982年8月8日放送の「レッツゴーヤング」でのデビュー曲「スローモーション」歌唱映像をはじめ、彼女が出演した「レッツゴーヤング」「ヤングスタジオ101」「NHK紅白歌合戦」などNHKの音楽番組でのパフォーマンス映像を配信。数曲のまとめ動画と各単曲の2種類を月2回、毎月1日と15日に合計24回に分けて全100曲以上順次届ける。中森の誕生月の7月だけは、7月1日と、誕生日当日である7月13日の配信を予定している。またデビュー43周年記念日の5月1日には「NHK紅白歌合戦」でのパフォーマンスが一挙公開される。ワーナーミュージック・ジャパンと中森のYouTube公式チャンネル、NHKグループモールでは、4K画質相当のデジタルリマスター映像が配信される。
新曲のみならず過去曲のデジタルアーカイブ化についても今の日本では十分と言い難い状況ですが、今回の施策次第では状況が大きく変わるかもしれません。テレビ局側の動向を注視すると共に、テレビ局がもっとフレキシブルになるよう声を上げ続けることが重要です。