イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

アルバムチャートを制したサザンオールスターズ、収録曲の動向からみえてくるものとは

2020年からポッドキャストBillboard Top Hits (通称:ポッドチャート)】を毎週発信。ビルボードジャパンがアルバムチャートの発表を木曜に変更したことを踏まえ、ポッドキャストにおいても今年から公開時間を木曜19時に設定しています(YouTubeでの公開はわずかですが遅れます)。

今回はポッドキャストでも紹介した、最新のビルボードジャパンアルバムチャートについて分析します。

 

 

昨日発表されたビルボードジャパンアルバムチャート(3月26日公開分(集計期間:3月17~23日))では、サザンオールスターズ『THANK YOU SO MUCH』が首位初登場を果たしています。

本作は、サザンオールスターズの約10年ぶりとなるオリジナル・アルバム。2023年のデビュー45周年時に発表した「盆ギリ恋歌」「歌えニッポンの空」「Relay~杜の詩」のほか、CMソングにも起用されている「夢の宇宙旅行」、デビュー前のサザン最初期に作られていた「悲しみはブギの彼方に」など、計14曲が収録されている。CDセールス数245,176枚、ダウンロード数7,588DLでそれぞれ1位、ストリーミング8位となった。

『THANK YOU SO MUCH』の初週フィジカルセールスは昨年度の年間アルバムチャートにおけるフィジカルセールス20位(JIN『Happy』が239,199枚を記録)を、ダウンロード数は同じく昨年度の年間アルバムチャートにおけるダウンロード18位(ジョングク『Golden』が6,854DLを記録)をそれぞれ上回っており、貫禄を見せています。そして注目は、ストリーミング指標でも8位に入っていることではないでしょうか。

最新のビルボードジャパンアルバムチャート、上位10作品の構成3指標動向を示すCHART insightを上記に。昨年末にチャートポリシー(集計方法)を変更しストリーミング指標(青で表示)を組み入れて以降、この指標がロングヒットに欠かせないものとなっています。前週総合首位を記録したWEST.『A.H.O. -Audio Hang Out-』がデジタル未解禁につき当週総合100位圏外に後退したのも、それが理由です。

 

 

現行のチャートポリシー下において、サザンオールスターズ『THANK YOU SO MUCH』は指標構成に隙がないように映ります。一方で収録曲の動向をみると、異なる状況が浮かび上がります。

サザンオールスターズ『THANK YOU SO MUCH』 収録曲のソングチャートにおけるCHART insight>

 ※ 総合順位およびストリーミング・ラジオ各指標の順位は3月26日公開分となります。

 ※ CHART insightは直近11週分の動向を表示しています。

 ※ アルバムの収録曲順に紹介。今回取り上げるのはCHART insightにてランクインが可視化された曲となります。

 ※ ミュージックビデオがYouTubeにて公開されている場合、その動画を貼付しています。

 ※ 総合ソングチャートおよび構成指標における20位未満の順位は、CHART insight有料会員のみが知り得る情報となります。ビルボードジャパンでは有料会員のみ知り得る情報の掲載を可能としており、今回紹介しています。

 

※CHART insightの説明

 

[色について]

黄:フィジカルセールス

紫:ダウンロード

青:ストリーミング

黄緑:ラジオ

赤:動画再生

緑:カラオケ

濃いオレンジ:UGC (ユーザー生成コンテンツ)

 (Top User Generated Songsチャートにおける獲得ポイントであり、ソングチャートには含まれません。)

ピンク:ハイブリッド指標

 (BUZZ、CONTACTおよびSALESから選択可能です。)

 

[表示範囲について]

総合順位、および構成指標等において20位まで表示

 

[チャート構成比について]

累計における指標毎のポイント構成

 

・「恋のブギウギナイト

 総合100位未満、ストリーミング300位未満、ラジオ100位未満(300位圏内)

・「ジャンヌ・ダルクによろしく」

 総合100位未満、ストリーミング300位未満、ラジオ100位未満(300位圏内)

・「桜、ひらり」

 総合100位未満、ストリーミング100位未満(300位圏内)、ラジオ18位

・「盆ギリ恋歌」

 総合100位未満、ストリーミング300位未満、ラジオ100位未満(300位圏内)

・「風のタイムマシンにのって」

 総合100位未満、ストリーミング300位未満、ラジオ85位

・「夢の宇宙旅行

 総合8位、ストリーミング100位未満(300位圏内)、ラジオ1位

・「歌えニッポンの空」

 総合100位未満、ストリーミング300位未満、ラジオ100位未満(300位圏内)

・「悲しみはブギの彼方に」

 総合100位未満、ストリーミング300位未満、ラジオ96位

・「神様からの贈り物」

 総合100位未満、ストリーミング300位未満、ラジオ64位

・「Relay~杜の詩」

 総合100位未満、ストリーミング300位未満、ラジオ100位未満(300位圏内)

 

『THANK YOU SO MUCH』に収録された14曲のうち既発曲、またアルバムにて初お目見えとなった曲のうちタイアップ曲を主体に、これまで10曲が総合もしくは構成指標100位以内にランクインしていますが、いずれもラジオ指標でポイントを獲得。ラジオの強さは、指標の基となるプランテックのOAチャート(下記リンク先参照)からも判ります(ビルボードジャパンは指標化の際、集計対象局の聴取可能人口等を考慮し算出します)。

ラジオはベテラン歌手が強く、レギュラー番組を持っていれば尚の事強くなる傾向があるのですが、今回の集計期間にはラジオのみならずテレビでもサザンオールスターズが複数の番組に出演し(『with MUSIC』(日本テレビ)でのパフォーマンス映像は期間限定でYouTubeでも公開)、NHKでも特集番組が組まれていることから、メディア全体がサザンオールスターズを高く注目していることが解ります。

 

一方でアルバム収録曲のうち、当週ストリーミング指標が加点されたのは「夢の宇宙旅行」「桜、ひらり」の2曲のみであり、いずれも同指標100位以内に入っていません。この状況下でアルバム『THANK YOU SO MUCH』がストリーミング指標8位にランクインしたことからは、リリース週に一通り聴く方が多かったことが想起されます(ゆえに他の収録曲はストリーミング300位未満ながら聴かれたと推測します)。

 

ソングチャート、またアルバムチャートにおいてもストリーミングがロングヒットに欠かせなくなった現在、この指標はベテラン歌手ほど強くはないながらサザンオールスターズはきちんと獲得できているというのが現時点での見方です。ただアルバム収録曲でストリーミングの強さに伴いヒットした作品は見当たらないため、当週この指標が加点された2曲が社会的ヒットに至るかが、アルバムのロングヒットを握る鍵と考えます。

もうひとつ。『THANK YOU SO MUCH』収録曲のみならず、ラジオとストリーミング指標でみられがちな乖離を解消するためにはラジオ側の創意工夫が必要でしょう。OAリストに各サブスクサービスのリンクを掲載する、OAリストを各サブスクサービスでプレイリスト化する、radikoから即座に各サブスクサービスに遷移できるようにする等、サブスクサービスとより親密になることをラジオ業界全体に対し希望します。