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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

テイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』、米12週首位記録のデータからみえてくること

最新7月27日付米ビルボードアルバムチャートはエミネム『The Death of Slim Shady (Coup de Grâce)』が首位初登場。これにより、テイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』の首位獲得は初登場以降12週で途絶えることとなりました。

「“ザ・トーチャード・ポエッツ・デパートメント”を応援してくれた皆さんにも感謝の気持ちを伝えたいです。皆さんがしてくれたことにとても感動しています。リリースから最初の12週1位をキープしたのは私のアルバムでは初めてで、そんなことはこれまでなかったんです!! 皆さんは最高です」と、スウィフトは最近の【The Eras Tour】の一連の写真と共にインスタグラムに投稿した。

アルバムチャートでの連覇が途絶えたことが判明した後、テイラー・スウィフトは感謝の意を発信しています。一方『最初の12週1位をキープしたのは私のアルバムでは初めてで、そんなことはこれまでなかったんです!!』とありますが、これはテイラー側の施策に因るところが大きいというのが私見。そしてその施策のタイミングにも注目すべきだと感じています。

 

上記は2024年度米ビルボードアルバムチャート、週間1位および2位の作品一覧。初週261万ユニットは驚異的な数字ですが、注目は登場5週目(5月25日付)および12週目(7月20日付)におけるユニット前週比140%超えという記録であり、その週に2位を獲得した作品の数字と照らし合わせることでユニット数上昇の背景がみえてきます。そしてその施策自体が果たしてフェアなのかと感じることも少なくありません。

(なお米ビルボードアルバムチャートはフィジカルおよびデジタル(アルバム単位)での売上に加えて、ストリーミング(動画再生を含む)のアルバム換算分(SEA)、および単曲ダウンロードのアルバム換算分(TEA)が含まれます。なお、SEAおよびTEAについては計算式における分母は収録曲の大小にかかわらず同一であることから、デラックスエディションが30曲以上を収録した『The Tortured Poets Department』は有利な状況といえます。)

 

以下に、テイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』初登場以降12週分の米ビルボードアルバムチャート記事を掲載したビルボードジャパンのポストを貼付します。その中で施策について言及されている週については、キャプチャしたものを合わせて貼付します。

 

 

初週261万ユニット突破はK-POP並の複数種リリース等が大きく功を奏した形です。また時間差で用意したデラックスエディションのリリースについては以前ブログで言及しています。たとえデジタルのみで購入したとしてもオリジナルバージョンとデラックスエディションの二種を買う方がいらっしゃるだろうことも踏まえれば、アルバムセールスに対するユニークユーザー数(実際の購入者数)は予想以上に小さくなると考えます。

2時間後というのは『The Tortured Poets Department』をまずは1周聴き終ったであろうタイミング。聴取後の満足感等に浸っているコアファンが多いことを踏まえれば、『苦悩の詩』を描いたという拡張版収録曲に多くの方が移行したことは想像に難くありません。

 

 

続いて注目したのは5週目。ユニット数を大きく伸ばしたのはフィジカル、デジタルの双方で新たなバージョンをリリースしたことに伴います。

問題は(と敢えて明言しますが)、フィジカルの複数バージョンにおいて出荷日を明確にせず販売したものが5週目の集計期間内に出荷され、売上に計上されているという点。この問題は後述するエントリーでも記載していますが、この週は初登場を果たしたビリー・アイリッシュ『Hit Me Hard And Soft』への対抗措置と考えるのが自然でしょう。

 

 

9週目については特別ライバルといえる存在は登場しませんでしたが、テイラー・スウィフトは新たなエディションを投入しています。

 

 

そして11週目および12週目。ここでは11週目の集計期間最終日にザック・ブライアン『The Great American Bar Scene』がリリースされたこと(12週目において初の1週間フル加算)が施策の追加に影響を及ぼしたといえるかもしれません。追加リリースや前もって予約販売していたバージョンの出荷がなければ、『The Great American Bar Scene』やビリー・アイリッシュ『Hit Me Hard And Soft』が首位を獲得していたはずです。

 

 

テイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』はあまりに多くの種類がリリースされていますが、それでもフィジカル/デジタルの全種を購入したというコアファンもいらっしゃるかもしれません。コアファンがテイラーを首位にしたいという熱量も原動力となっているものと考えますが、その種類の多さを踏まえればテイラー側がコアファンの熱量を過度に用いてはいなかったかという疑問は拭えません。

 

ただ施策は過度でなければ自由であり、むしろ大事なのはチャート管理者側がそれを反映しにくいチャートポリシー(集計方法)に変更していくこと、そしてチャートポリシー自体に穴があってはならないと考えます。しかしテイラー・スウィフト側は出荷日を明確にしないまま予約を募ったバージョンをビリー・アイリッシュのアルバムリリース週に合わせて発送しており、アンフェアと捉えられかねないのではと感じます。

しかし今回、発売日や出荷日を明確にする必要性を示していないチャートポリシー(集計方法)のいわば穴をテイラー側が用いたことが、結果に反映されています。

テイラー・スウィフトによる今回の施策が今後もみられれば、チャートをある程度操作可能な状況に成るといえるかもしれません。尤もこの手法はコアファンの多さや熱量が多い歌手でなければ難しいものの、しかし今後も(テイラーに限らず)出てくる可能性は否定できません。米ビルボードは早急にこの穴を塞ぐことが必要です。

テイラー・スウィフトの施策の徹底については、米ビルボードソングチャートにおける「Anti-Hero」登場3週目の動向からも解ります。ダウンロード指標が前週比1793%アップしドレイク & 21サヴェージ「Rich Flex」の首位初登場を退けていますが、そのダウンロード急増には複数バージョンの投入が影響しています。他方、複数のリミックスを用意しながら、ストリーミングは前週比13%ダウンしています。

チャートへの強いこだわりゆえ『The Tortured Poets Department』では出荷日を明確にしない予約や発送、「Anti-Hero」では歌手のホームページ先行発売やデジタルプラットフォームでの時間限定発売等、フェアとは言い難い施策を採っています。現行のチャートポリシー上では問題ないかもしれませんがモラルとしてどうなのかというのが私見。これが、米ビルボードに対し穴のないチャートポリシーへの変更を願う理由です。

 

 

最新週においてはエミネムが28万超えとなるユニット数を獲得したことでテイラー・スウィフト側が最初から白旗を振った印象がありますが、仮に『The Tortured Poets Department』と僅差と予想されたならば施策を実行したことは想像に難くありません。作品の質のみならず施策の徹底もまた、テイラー・スウィフトの地位確立につながってきたと捉えています。

 

 

最後に。このような問題提起を"テイラー・スウィフトが嫌いだから行っている"と指摘する方がいらっしゃるかもしれません。ただこれは以前から申し上げていることですが、問題があれば誰であれ指摘し、改善提案を行うというのがこのブログのスタンスです。