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テイラー・スウィフト「Cruel Summer」、米での首位獲得を盤石にする施策の巧さについて

日本時間の10月24日火曜早朝に発表される予定の10月28日付米ビルボードソングチャートでは、テイラー・スウィフト「Cruel Summer」が同曲初のトップに立つことが確実視されています。既にロングヒットを記録し社会的ヒットといえるこの曲の首位到達には、テイラー側の施策の巧さが背景にあるといえます。

テイラー・スウィフト「Cruel Summer」は元々アルバムの収録曲でしたが、リリースから4年を経て大きく上昇。米では7月15日付ソングチャートで初のトップ10入りを果たしましたが、その際上昇の要因を以下のように紹介しています。

2019年リリースのアルバム『Lover』収録曲となる「Cruel Summer」は現在、テイラーの最新シングルとしてプロモート。アルバムはコロナ禍前にリリースされたため、現在行われているコンサートツアーで初めて『Lover』期の作品にスポットが当たっています。このコンサートではテイラーの9枚のアルバムを網羅する10幕で構成されており、『Lover』期のパートでは「Cruel Summer」でスタートしています。

その後安定したチャートアクションをなぞった「Cruel Summer」は、最新10月21日付ソングチャートで9位に。ドレイク『For All The Dogs』収録曲が大挙エントリーしたことで6ランクダウンしたものの、トップ10にとどまった3曲のうちのひとつです。

 

ビルボードではアルバムチャート初登場時に収録曲がソングチャートにて大挙エントリーする傾向があります。これはアルバムチャートにストリーミングのアルバム換算分(SEA)等が含まれているためですが、一方でアルバムチャートの登場2週目以降、収録曲の大半は急落する傾向にあります。

ビルボードソングチャートを予想するX(旧Twitter)のアカウントによる10月28日付ソングチャートの初期予想では、ドレイクの各曲が大きくダウンしています(イートをフィーチャーした「IDGAF」に人気が集約されているともいえます)。一方で集計期間初日にニューアルバムをリリースしたバッド・バニーが複数上位に初登場を果たすと予想されていましたが、2回目以降の予想ではその勢いが小さくなっています。

ソングチャート2回目の予想では最上位を4曲が競うものとみられていましたが、3回目には「Cruel Summer」が一歩抜け出すという予想に変わっています。

これはテイラー・スウィフトの最新コンサートを映画化した作品が大ヒットしたことも背景にあるものと考えられ、次回の米ビルボードアルバムチャートでもテイラーの過去作品が大挙上昇する可能性が高いと思われます。

その状況下ではコンサートを代表する「Cruel Summer」がソングチャートを制するのが自然といえますが、テイラー・スウィフトの巧さは首位到達を確実にすべく施策を投入する、その姿勢にあります。

 

ライブおよびリミックスバージョンのリリースは10月18日水曜であり、10月28日付米ビルボードソングチャートの集計期間6日目に該当。集計期間の初日にあたる金曜にリリースしスタートダッシュを決めるのが定番の中で水曜に2バージョンを投入したのは、チャート予想が更新され「Cruel Summer」が優位になったことを受けたことに伴うものといえるかもしれません。米ビルボードでは複数のバージョンが合算対象となります。

このブログでは毎週、米ビルボードソングチャートの動向を紹介していますが、そこで感じたのは最良のタイミングを見極めてリミックス等追加投入を行う歌手の多さ。予想の重要性、チャートで上位を獲得することがステータスであること、そして米ビルボードのチャートが社会的ヒットの鑑であること等がみえてきます。

テイラー・スウィフト「Cruel Summer」はリミックス投入も作用し、次回のソングチャートにてダウンロード指標が大きく伸びると予想されています。加えて、当初はアルバムバージョンのみだった同曲がこのタイミングでシングル化された(シングル専用ジャケットが登場している)ことで、テイラーのファンを主体に所有行動が生まれたと考えていいでしょう。

ビルボードソングチャートの予想アカウントはこれらの動きを踏まえ、「Cruel Summer」が2位に大差をつけて10月28日付チャートを制するとしています。

 

予想を用いること(およびその予想に伴い施策を打つという動き)は何もテイラー・スウィフトが特別というわけではありません。たとえば以前シックスナイン(6ix9ine)が参考にしたこともあります(その予想と結果が異なっていたことで、首位を獲得できなかったシックスナインが米ビルボードにクレームをつけたことについては以前紹介しています→こちら)。

その中にあってテイラー・スウィフトのチャートへのこだわりは歌手の中でも特筆すべきと考えることについては、上記エントリー等で紹介したとおりです。加えて、テイラーの再録版となる『1989 (Taylor's Version)』が10月27日にリリースされ11月11日付以降の各種チャートに反映されることから、「Cruel Summer」の首位獲得を再録版の勢いにつなげることもできます。その意味でも施策の徹底は見事といえるのです。

 

 

日本では施策に対するマイナスイメージが強いかもしれませんが、本来施策は大なり小なりどの歌手でも行われているということを上記エントリーで紹介しています。大事なのは、施策が極端な動きをもたらし社会的ヒットと乖離することが出てきたならば、その点をチャート管理者が考慮した上で早急にチャートポリシー(集計方法)を見直すということです。

こちらは今年春の米ビルボードソングチャートにおけるチャートポリシー変更を記したもの。JIMIN「Like Crazy」が首位に至った翌週の実施によりK-POPファン等の米ビルボードに対する非難が散見されましたが、この変更についてはテイラー・スウィフトAnti-Hero」登場3週目でのダウンロード急増および翌週の反動が議論のきっかけのひとつに成ったものと捉えています。

 

 

テイラー・スウィフト「Cruel Summer」は既にロングヒットしており社会的ヒットに至っているといえますが、今回の施策によってダウンロードの急上昇と急落が大きくみられるならば、チャート管理者側はチャートポリシー変更の議論を行う必要があるかもしれません。ただしそのような動きは「Cruel Summer」に限らないため、どの曲のどのタイミングに限らず極端な動きが登場した場合には早急な議論が必要でしょう。

そしてテイラー・スウィフトにおいては、チャートへの高い意欲やコアファンを味方につけること等、施策に長けていることは間違いありません。この巧さについてはすべての歌手が参考にすべきと考えます。