最新6月1日公開分米ビルボードアルバムチャートは、テイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』が初登場から5連覇を達成しました。ビルボードジャパンでは記事翻訳版が掲載されています。
Taylor Swift Scores Fifth Week Atop Billboard 200 With ‘The Tortured Poets Department’ https://t.co/UxgiK01eum
— billboard (@billboard) 2024年5月26日
【米ビルボード・アルバム・チャート】テイラー・スウィフト『TTPD』5週連続首位、ビリー・アイリッシュ初登場2位 https://t.co/up5WuhL4PD
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2024年5月27日
テイラー・スウィフトは当週初登場したビリー・アイリッシュ『Hit Me Hard And Soft』から首位の座を守っています。上位2作品の週間30万ユニット超えは8年ぶりの記録となりますが、今回『The Tortured Poets Department』が前週比45%の大幅アップを果たした背景を踏まえ、米ビルボードに対しチャートポリシー(集計方法)見直しを提案します。
テイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』においてはデジタルダウンロードで施策が組まれています。
今週セールスが急増したのは、既存のものに加え6種類のデジタル・アルバム(ダウンロード)がリリースされたからで、週間セールス210,000枚のうち77,000枚がデジタル・アルバムによる売り上げだった。全てのバージョンを総合したデジタル・アルバムのみの売上枚数の比率は、前週の6,000枚から1,184%も増加している。
新しくリリースされたデジタル・アルバムは、「フーズ・アフレイド・オブ・リトル・オールド・ミー?」、「カサンドラ」、「ザ・ブラック・ドッグ」のメモ音源が収録されたバージョンが3種類、【The Eras Tour】のパリ公演で披露した「loml」、「マイ・ボーイ・オンリー・ブレイクス・ヒズ・フェイヴァリット・トイズ」、「ジ・アルケミー」&「トレチャラス」マッシュアップのライブ音源を収録したバージョンが3種類あり、現時点では公式ウェブサイトでアメリカのユーザーのみ購入できる。
※ 冒頭で紹介したビルボードジャパンの翻訳記事より。
ライブ音源収録バージョンについては、リリースから間もないタイミングでつぶやきました。
#テイラー・スウィフト、ニューアルバムにパリでのライブによるアコースティックバージョンをプラスした限定盤(ジャケットもボーナストラックも異なる3種)を、公式ショップのみで24時間限定発売。5.99ドルゆえ負担も大きくなく、#ビリー・アイリッシュ から首位の座を守るための施策が見て取れます。 https://t.co/ZHQr7YdjAh
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2024年5月23日
ともすればビリー・アイリッシュ『Hit Me Hard And Soft』に首位の座を渡しかねないと考えたテイラー・スウィフト側がライブ音源収録盤のリリースを集計期間最終日の木曜に行ったと捉え、『ビリー・アイリッシュから首位の座を守るための施策』と記しました。表現が厳しいと非難されかねませんが、しかしこの表現が適切だったと感じたのが今回のチャート記事でした。
それから、5月9日にリリースされた「バット・ダディ・アイ・ラヴ・ヒム」のアコースティック・バージョンを追加収録したCDの新バージョンも今週の売上に反映していて、CDのみの売上枚数も前週の18,000枚から564%増加の121,000枚に大きく数字を伸ばした。アナログ盤のみの売上は前週の17,000枚から29%減少の12,000枚に下降しているが、5週目としては好記録を維持している。
CDの新バージョンは、5月9日に発売日を明確にせず7.99ドルで24時間限定で予約のみ受け付けていたが、今週の集計期間中に出荷されたことで売り上げに反映した。米ビルボード・チャートでは、公式ウェブサイトやAmazonなどのインターネット経由の小売店で販売されたフィジカル・アルバムの売上は、予約者に出荷された週に反映されるルールがある。
それから、5月14日から16日に25ドルで販売されたサイン入りエディションが1種類、5月7日から8日に各17.99ドルで販売されたブランドグッズを封入したデラックス・エディションが4種類、それぞれリリースされたことも今週の売上増加に貢献している。前述の新バージョン同様に、こちらも当初は出荷日を明確にしないで販売された。
※ 冒頭で紹介したビルボードジャパンの翻訳記事より。
問題は、新バージョン等の発売日や出荷日を明確にしていないという点です。
最新6月1日付米ビルボードアルバムチャートではビリー・アイリッシュ『Hit Me Hard And Soft』の上位初登場が想起可能であり(4月8日のリリース日予告やビリーによる週間での最高ユニット数はビルボードジャパンの翻訳記事にて確認できます)、テイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』が首位の座をはじめて明け渡す可能性も考えられました。
『The Tortured Poets Department』の獲得ユニット数は2,610,000→439,000→282,000→260,000とダウンしており、今回アルバムリリース後はじめて前週から上回っていますが、これが施策に因るものであることは明白でしょう。そして新バージョン等の売上をいつ計上するかはその発売日や出荷日を明確にしていない以上、6月8日付以降や5月25日付以前でもできたはずです。
ビリー・アイリッシュ『Hit Me Hard And Soft』でもフィジカル/デジタルの双方で複数種がリリースされていますが、この施策は多くの歌手で採用しています(ただ翌週以降の急落につながる可能性を踏まえればセールス指標のウエイトを下げる必要もあると考えます)。しかし今回、発売日や出荷日を明確にする必要性を示していないチャートポリシー(集計方法)のいわば穴をテイラー側が用いたことが、結果に反映されています。
テイラー・スウィフトによる今回の施策が今後もみられれば、チャートをある程度操作可能な状況に成るといえるかもしれません。尤もこの手法はコアファンの多さや熱量が多い歌手でなければ難しいものの、しかし今後も(テイラーに限らず)出てくる可能性は否定できません。米ビルボードは早急にこの穴を塞ぐことが必要です。
最後に。このような指摘は提案者がテイラー・スウィフトを好まないゆえと揶揄されかねませんが、テイラーは以前ソングチャートにおいても気になる施策を実行しており、数値の上で極度な変化が生まれています。施策の実施は自由ながら、ならばもっとフェアに行うほうが格好いいのではというのが、揺るぎない自分の考えです。
チャート施策はあって然るべきですが、そこにフェアとは言い難いものがあってはいけません。また、これは叶わないだろうことを承知で書きますが、チャートに穴があればそれを指摘したほうが格好いいと思うのです。テイラー・スウィフトの今回の施策からはサブスクサービスを批判した際の格好良さが感じにくいというのが正直な私見であり、米ビルボードにはチャートポリシーの再考を希望しています。
ゆえに歌手側の自制を求めつつ、しかしながらまずはチャート管理者の自問自答と迅速な改善が必須です。