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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

M!LK「Kiss Plan」が関ジャニ∞「アンスロポス」を上回った結果を、CHART insightで分析する

最新1月31日公開分のビルボードジャパンソングチャートではM!LK「Kiss Plan」が6位、関ジャニ∞「アンスロポス」が7位に初登場を果たしました。ポイントは前者が7,022、後者が6,339となり、「Kiss Plan」は5位のAdo「唱」と42ポイント差となっています。

今回は、M!LKが関ジャニ∞を上回った状況について紹介します。なお今回用いるCHART insightについては、下記ポストによる解説をご参照ください。

 

 

M!LK「Kiss Plan」と関ジャニ∞「アンスロポス」における指標構成は異なります。

フィジカルセールス指標の基となるフィジカルの売上は関ジャニ∞「アンスロポス」が162,727枚、M!LK「Kiss Plan」が79,197枚となりますが、このフィジカルセールスは指標化の際、一定の週間売上枚数(5万枚以上と推定)を超えた分に係数処理が施されます。売上枚数と実際の購入者数(ユニークユーザー数)の乖離の拡大を踏まえたこの措置に伴い、2曲のフィジカルセールス指標における獲得ポイントの差は大きくない状況です。

(フィジカルセールス指標における係数処理適用は2017年度に導入開始(当初は30万枚と推測されます)。この導入以降、ビルボードジャパンソングチャートの社会的ヒットの鑑(模範)としての側面が急激に高まったものと捉えています。)

 

その状況下で、M!LK「Kiss Plan」が関ジャニ∞「アンスロポス」に勝った最大の要因はストリーミング指標加点の有無にあります。

関ジャニ∞は元日以降順次デジタル解禁を進めており、サブスク解禁のみならずダウンロードも可能になったことが「アンスロポス」におけるダウンロード指標加算の要因となった一方、ストリーミングは300位以内に入らず加点対象とはなりませんでした。他方MiLK「Kiss Plan」はストリーミング指標34位を獲得し、獲得ポイントのおよそ4分の1を占めています。これはLINE MUSIC再生キャンペーン施策が大きく影響した形です。

歌手のファンというわけではないものの曲が気になるというライト層の人気をより可視化するストリーミング指標にあって、LINE MUSIC再生キャンペーンはコアファンの熱量を反映させる施策として現在も利用される傾向にあります(9,999回という再生回数設定は、その熱量を踏まえてのものといえます)。LINE MUSIC側がすべての再生回数を反映させることはなくなりましたが、現在でも再生キャンペーンは有効に作用します。

M!LK「Kiss Plan」はLINE MUSICの週間チャート(集計期間は水曜開始)を制していますが、Apple Musicの週間チャート(集計期間はビルボードジャパンと同様)では100位以内に入っていません(チャートはこちら)。またデイリー200位までの順位を可視化するSpotifyでも「Kiss Plan」は一度もランクインしていません。ゆえに同曲のストリーミング指標においては、LINE MUSIC再生キャンペーンの影響を大きく受けている形です。

LINE MUSIC再生キャンペーンの採用がM!LK「Kiss Plan」におけるストリーミング指標獲得の要因となりますが、ロングヒット曲の要たるこの指標はキャンペーン終了時までに他のサブスクサービスで人気にならない限り、キャンペーン終了後の急落を招きかねません。「Kiss Plan」は短期的には関ジャニ∞「アンスロポス」を上回り、Ado「唱」にも迫りましたが、社会的ヒット曲とは断言しかねるというのが厳しくも私見です。

ちなみに、M!LK「Kiss Plan」および関ジャニ∞「アンスロポス」はいずれも動画再生指標が300位以内に達せず加点されていません。ストリーミングと動画再生という接触2指標は順位が近くなる傾向の中(当週における総合トップ10の指標構成参照)、後者が2曲とも加点されていないことは考える必要があります。なお、首位のCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」については現時点で加点対象となる公式動画がない状況です。

 

 

現状においてM!LK「Kiss Plan」および関ジャニ∞「アンスロポス」は、中長期的なヒットに至ることが難しいと考えます。M!LKに限らずですがLINE MUSIC再生キャンペーンを採用する歌手については他のサブスクサービスとの乖離の解消を、関ジャニ∞に限らずデジタルを解禁しながらストリーミング指標が加点されていない歌手についてはデジタル認知の強化を図ることが必要です。

 

関ジャニ∞については、コアファンがまずデジタルに明るくなることが重要となります(ストリーミング等接触指標群はコアファンの行動も、当然ながら影響を与えます)。ともすれば、デジタル解禁してもチャート順位が高くないことを理由にデジタルへの懐疑心が生まれる可能性もありますが、デジタルリリース曲のすべてを上位に送り込める歌手はいないということを念頭に置いていただきたいと願います。

そしてM!LKについては、今年に入りテレビでのパフォーマンス機会が増えている印象です。たとえば上記のようなリンク先一覧を掲載したポストをテレビ出演直後に投稿することで、パフォーマンスが気になり公式アカウントに辿り着いた方を取り込みやすくなります。グループの認知浸透が高まる機会を、上記ポストのような形で徹底的に活用することが重要と考えます。

 

 

最後に、ビルボードジャパンへの提案を。以前記したものと内容は重なりますが(下記リンク先参照)、今一度提示します。

ビルボードジャパンにはLINE MUSIC再生キャンペーンに関する対応をより強化してほしいということを、あらためて願います。現在はLINE MUSIC再生キャンペーン採用曲がストリーミング指標の基となるStreaming Songチャートを制した場合にのみ、指標化の際に他のサブスクサービスとの乖離を踏まえて係数処理を実施していますが、他方Streaming Songチャート2位以下の採用曲には係数処理が適用されません。

先述したように、ストリーミング指標はライト層の人気がより強く反映されるものであり、ロングヒット曲はいずれもこの指標が獲得ポイントの過半数を超えています。その中でコアファンの人気が過度に反映された曲が係数処理適用除外となることで、総合ソングチャートの急上昇と急落が生まれることを懸念します。一週分の順位から真の社会的ヒット曲を判断可能な状態が理想のチャートではないかと考えるゆえの提案です。

 

ビルボードジャパンのチャートディレクターを務める礒崎誠二さんによる『ビルボードジャパンの挑戦 ヒットチャート解体新書』が今月20日に発売されます。2023年度以降はチャートポリシー(集計方法)の大きな変更がなく、現在のチャートポリシーが理想形に近いと考えていることも書籍刊行につながったのではないかと思われ、また著書ではチャートポリシー変更の理由についても記されていると推測されます。

一方で、先述したLINE MUSIC再生キャンペーン採用曲への対応(チャートポリシー)は完全ではないでしょう。他にも、日本の楽曲のグローバルヒットを可視化したチャートを新設した一方でグローバルチャートと集計期間や合算のポリシーが異なること、合算について動画再生指標と他指標で対応が異なること等、議論が必要な点が複数存在することについてはこのブログで以前から述べている通りです。

 

現状のチャートポリシーを理想形とするならば、ビルボードジャパンにはチャートポリシーについてきちんと解説すること、また少なくとも初登場週とその翌週(LINE MUSIC再生キャンペーン採用曲についてはキャンペーン終了の翌週まで)における推移を見て真の社会的ヒット曲に成るかを見極める必要性について、伝達していただきたいと思います。

書籍を介してチャートの見方がより広まることは間違いありませんが、書籍はチャートが気になるという(チャートの)コアファン向けといえるかもしれません。たとえばメディアで特集を組んでもらい(雑誌『日経エンタテインメント!』やテレビ番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日)で組まれることが理想です)、チャートの見方や楽しさをライト層にも伝達すべく動くことを願います。書籍の購入促進にもつながるはずです。