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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

【ビルボードジャパン最新動向】男性ダンスボーカルグループの初週動向から考える、”初週聴取習慣化”の必要性

毎週木曜以降は最新のビルボードジャパン各種チャートについてお伝えします。

1月30日~2月5日を集計期間とする最新2月8日公開分のビルボードジャパンソングチャートでは、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE「STARS」が初登場で首位を獲得しました。

三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEは喜びのツイート、そしてコメントを発信しています。

 

さて、今回の「STARS」をはじめ、今週ソングチャート100位以内に初登場を果たした男性ダンスボーカルグループによる作品には似た特徴があります。それはストリーミング指標が好位置につけているということです。

(上記CHART insightにおいて、総合チャートは黒で、ストリーミング指標は青で表示されます。)

三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE「STARS」は『初週売上104,841枚をマークしシングル1位、他指標でもラジオ3位、ダウンロード6位、動画再生17位、ストリーミング37位で、初登場で総合首位を獲得』(上記総合ソングチャートを紹介したツイート内リンク先より)。10万枚を突破したフィジカルセールスがポイント全体のおよそ6割を占めていますが、ストリーミングも315万回再生を記録し50位以内に入っています。

サブスク再生回数等に基づくStreaming Songsチャートでは、TREASURE「Here I Stand」が5位に初登場(実際に先行解禁されたのは”Anime Edit”と称したバージョンですが、ビルボードジャパンでは「Here I Stand」名義となっています)。加えて『8位にはINIが1月30日にリリースした新曲「New Day」が初登場。そのほか21位のStray Kids「THE SOUND」、26位のTOMORROW X TOGETHER「Sugar Rush Ride」、37位の三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE「STARS」、51位のXG「SHOOTING STAR」が初登場』し、男性ダンスボーカルグループの上位初登場が目立ちます。

(Streaming Songsチャートはストリーミング指標の基となります。昨年度になって、LINE MUSIC再生キャンペーン効果でこのチャートを制しながら他のサービスと著しい乖離が生じた曲については係数処理を施した上で指標化されるようになりましたが、後にLINE MUSIC側がカウント方法を変更したことにより指標化時に順位が変わることはほぼなくなっています(LINE MUSICによるカウント方法変更については後述します)。)

Streaming Songsチャート上位初登場曲は総合ソングチャートでも上位進出する傾向にあり、今回登場した曲の大半も該当。そしてXG「SHOOTING STAR」を除き、男性ダンスボーカルグループの作品はいずれもLINE MUSIC再生キャンペーン(再生回数キャンペーン)を採用しているのがポイントです。

三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE「STARS」(総合1位 ストリーミング37位)

・INI「New Day」(総合11位 ストリーミング8位)

・TREASURE「Here I Stand」(総合20位 ストリーミング5位)

・TOMORROW X TOGETHER「Sugar Rush Ride」(総合27位 ストリーミング26位)

・Stray Kids「THE SOUND」(総合34位 ストリーミング21位)

他方でこの5曲において、日本のSpotifyデイリーチャートで100位以内に入ったのはTOMORROW X TOGETHER「Sugar Rush Ride」のみであり、またこの曲においても期間内での最高位が73位(1月30日付)と高くありません。Spotifyビルボードジャパンソングチャートのストリーミング指標に占める割合がおよそ2割であるため、再生キャンペーンにより伸びたLINE MUSICと他のサービスとでは乖離が目立っています。

(上記ツイート内画像は2月1~7日におけるLINE MUSIC週間チャート。Official髭男dism「Subtitle」以外は再生キャンペーンを採用した曲がトップ5を占めていることが解ります。)

 

LINE MUSIC再生キャンペーンにおいては否定的な意見が目立ち、またビルボードジャパンがネガティブな発信をしたこともあってか、LINE MUSIC側は昨秋までに、ビルボードジャパンへデータ提出する際にはすべての再生回数をそのままカウントしないという方針に変更しています(ただしキャンペーンの継続や週間チャートの動向を踏まえれば、ビルボードジャパンへのデータ提出時に対する措置と言えるかもしれません)。

LINE MUSIC再生キャンペーンを採用した曲については、キャンペーン終了後もヒットが継続するかを確認した上で社会的ヒットに至ったかを判断する必要があります。ゆえに今回採り上げた曲については数週間の動向を注視することを勧めます。

 

 

さて、最新2月8日公開分ビルボードジャパンソングチャートにおける男性ダンスボーカルグループの躍進からは、日本のエンタテインメント業界の問題点が浮かび上がるものと捉えています。

ビルボードジャパンのソングチャートでトップ10入りを続ける曲のうち、100位以内初登場時において総合順位よりもストリーミング順位のほうが高かった作品は少ないゆえ、INI「New Day」やTREASURE「Here I Stand」の動きは特筆すべきとも言えます。無論LINE MUSIC再生キャンペーン効果ではあるのですが、新曲をリリースタイミングでチェックする方が実際は多くはないということが読み取れるのではないでしょうか。

 

ビルボードジャパンのCHART insightサービスにて様々な曲のチャート推移を確認できるのですが、K-POPアクトの作品のほうがストリーミング指標でロケットスタートを切りやすい傾向にあると感じます(なおK-POPは海外展開を見据え、アメリカの東部標準時(EST)に合わせ金曜午後にリリースされることが多いため、月曜を起点とする日本のチャートでは初週の順位が低くなる傾向がみられます)。

その海外では直近の3週に渡り、米およびグローバルチャートでマイリー・サイラス「Flowers」が圧倒的な強さを見せています。しかし「Flowers」に限らず、海外チャートのストリーミング指標(米やグローバルチャートにおいては動画再生も含む)においては、多くの曲においてストリーミング指標は初登場時に上位進出する傾向にあります。

対して日本では、話題性の極めて高い曲(Official髭男dism「Subtitle」や米津玄師「KICK BACK」等)はロケットスタートを切りやすい一方、先述したツイート内CHART insight画像からも解るようにたとえばアニメ関連曲の10-FEET「第ゼロ感」やOfficial髭男dism「ホワイトノイズ」等、総合順位以上にストリーミングの順位が高くはない作品が多い状況です。その点において、LINE MUSIC再生キャンペーン効果は大きいのです。

 

これにはいくつかの理由が考えられます。サブスクユーザーが海外に比べて多くないことも挙げられますが、ユーザーが新曲をリリースタイミングで聴く習慣が根付いていないということも考えられます。たとえば米Spotifyデイリーチャートにおいては新曲の標準リリース日である金曜に再生回数が上昇しますが、日本においてはそのような傾向はさほどみられないと感じています。

海外で金曜リリースが標準化している理由として、米ビルボードやグローバルチャートの集計期間が金曜始まりであることが挙げられます。金曜リリースは初週チャートアクションの最大化のためでもあるのです(ゆえに先述したK-POPアクトのリリース日も、海外展開を意識したものと言えます)。他方日本では音楽チャートが月曜起点で、リリースはCDに合わせ水曜設定が多いものの実際はバラバラであり、この足並みの揃わなさがユーザーの新曲リリース週聴取習慣化に至れない要因と言えるのではないでしょうか。

 

上記エントリーにて、音楽チャートのグローバル化の必要性を説きました。デジタル配信の段階で世界進出とほぼ同等であり(プロモート等の基軸を国内に置くか海外にするかで進出の意味合い(強弱)が異なることを踏まえ、”ほぼ”と記しています)、日本でのヒットがグローバルチャートでも反映される以上、日本の音楽チャートを海外チャート同様に金曜を起点とすることが必要であると説いています。

音楽チャートを金曜起点とすることで、音楽業界が金曜をリリース日とする傾向が高まるかもしれません。そうなることでサブスクユーザーにも新曲を金曜から週末にかけてチェックするという習慣が芽生え、新曲のチャートイン初週にストリーミング指標でも好位置に登場するようになるはずです。

 

 

LINE MUSIC側は新曲のロケットスタート効果も見越して再生キャンペーンを打っているかもしれません。再生キャンペーンを好ましく思わない方が(特に業界内で)いらしたならば、再生キャンペーンがなくとも新曲が上位進出可能な環境を構築することで再生キャンペーンの重要度を下げるよう動くことを勧めます。とりわけ、キャンペーンにはっきりと懸念を示していたビルボードジャパンにおいては、自らのチャートポリシー(集計方法)を変えることでキャンペーン展開に影響を与えることができるはずです。