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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

Mrs. GREEN APPLEがビルボードジャパントップアーティストチャートで記録達成、その背景を探る

最新1月31日公開分のビルボードジャパンによるトップアーティストチャート(ソングチャートおよびアルバムチャートを合算したチャート)ではMrs. GREEN APPLEが2週連続、通算10週目の首位を獲得。構成6指標のうちフィジカルセールスを除く5指標(ダウンロード、ストリーミング、ラジオ、動画再生およびカラオケ)を制覇しており、5指標でのトップ獲得は構成指標が8→6となった2023年度以降では初となります。

(上記CHART insightはMrs. GREEN APPLEの直近60週分を表示。)

2023年度以降のトップアーティストチャート、1~5位の歌手における指標構成は以下の通り。昨年5月31日公開分以降は5週連続でYOASOBIが制し、フィジカルセールスおよびラジオを除く4指標にて首位に立っています。これは「アイドル」の大ヒットが影響した形ですが、その間ラジオ指標を制することはできませんでした。

ラジオはロングヒットが最も難しい指標ですが、Mrs. GREEN APPLEが当週制した要因は映画主題歌である新曲「ナハトムジーク」の強さにあります。初登場した前週は14位だったこの指標が首位に躍り出たのは、当週の集計期間中に映画『サイレントラブ』が公開されたことが大きいと考えます。

最近ではタイアップ先の映像作品が公開、テレビの場合は初回が放送された直後に主題歌が配信開始となることが多い印象ですが、Mrs. GREEN APPLEは映画公開の9日前にリリースしています。しかしながらそのスケジュール策が絶妙な効果と成り、楽曲のみならず歌手としてのさらなる飛躍につながったのではと捉えています。

 

上記エントリーでは2023年の年末以降におけるチャート動向を踏まえ、『輝く!日本レコード大賞』(TBS 2023年12月30日放送)や『第74回NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか 2023年12月31日放送)で注目を集めた曲が伸びていることを紹介しました。Mrs. GREEN APPLEは「ケセラセラ」で昨年の日本レコード大賞を受賞したことから注目曲のひとつとして取り上げましたが、上記で取り上げた曲のその後の推移には差が生じています。

(ビルボードジャパンは50位までのポイントを表示しており、50位未満の曲については獲得ポイントが不明となります。)

表示した8曲のうちtuki.「晩餐歌」が大きく伸びている状況ですが、年末の番組で注目を集めた曲として取り上げた5曲の中ではMrs. GREEN APPLEケセラセラ」の強さが際立っています。年末の番組のチャートへの影響は(他のテレビ番組同様)およそ1週間と捉えていますが、「ケセラセラ」はその後も勢いをキープ。そしてこの動きは、ミセスの他の曲にも表れています。

ダンスホール」は紅白効果が薄れたタイミングにて一時的にポイントが下がるものの、その後持ち直しています。そして当週は「ナハトムジーク」の上昇に伴い、ミセスの各曲におけるポイントが全体的に上昇している、もしくは下がったとしても微減にとどめているのです。

 

先程は年末の番組におけるチャートへの影響を1週間と記しましたが、その影響が薄れたタイミングで歌手としての勢いをキープすべく動くことが重要といえるでしょう。Mrs. GREEN APPLEは1月10日に「ナハトムジーク」のコンテンツカレンダーを発信しており、これが後のチャートアクションを決めるひとつの重要ポイントに成ったものと考えます。

この施策について、ブログではこのように紹介しました。

コンテンツカレンダーはK-POP歌手が用いることが多く、これがK-POP全体のグローバルヒットに結びついた施策の一種と捉えています(その重要性については以前寄稿した「J-POPは海外に通用するのか?」を音楽チャートから考える - TOKION(2022年6月17日付)でも紹介)。日本ではこの施策を用いる歌手が未だ多くない印象ですが、Mrs. GREEN APPLEはコアファンの熱量をさらに高め、ライト層の興味を惹く行動に長けています。

さらに、「ナハトムジーク」においてはレコーディングにおけるビハインド・ザ・シーンも昨日公開されています。

1月17日に「ナハトムジーク」のリリースを据え、その1週間前から関連スケジュールを実行、2週目(1月31日公開分チャートに反映)に映画『サイレントラブ』が公開、そして3週目(2月7日公開分チャートに反映)では上記ビハインド・ザ・シーンの影響も出てくることで、コアファンの熱量をさらに高めライト層の興味を惹く行動を続けてきたことが、年末の番組で高まった注目度を維持し、さらに上昇させたのではないでしょうか。

また映画公開の9日前におけるリリースは、曲をより深く聴き込んだ上で映画を観に行く方を増やしたといえるかもしれません。ちなみに前週および当週の上位初進出曲におけるCHART insightから、真のヒット曲に成るかを読む (2024年1月24日公開分)(1月26日付)では映画主題歌関連で「Soranji」も紹介していますが、「ナハトムジーク」に沿う形でポイントを緩やかに上げてきていることも注目すべき点といえるでしょう。

一方でトップアーティストチャートにて当週唯一首位ではなかったフィジカルセールス指標は、年明け以降緩やかに後退するものの上位をキープしています。フィジカル購入という行動はライト層よりもコアファンが採ることが多く、年末の番組出演や日本レコード大賞受賞を経てライト層からコアファンへと昇華した方が多いことが見て取れます。新曲リリースや相次ぐ施策の展開が、昇華の背景にあるのではないでしょうか。

 

 

最後に。Mrs. GREEN APPLETikTokでも精力的に発信していますが、そのミセスが所属するユニバーサルミュージック側はTikTokから音源を順次引き上げています。TikTokの反論や、それに対するユニバーサルミュージックの反論(米ビルボードの記事はこちら)を踏まえれば、ユニバーサルミュージック所属の歌手がTikTokを機にヒット曲を生み出すのは極めて厳しくなったといえます。

TikTokの改善も重要ですが、ユニバーサルミュージック所属の歌手側にとっては逆風といえるかもしれない今回の状況を、Mrs. GREEN APPLE側がどう乗り越えていくかが気になるところです。施策そしてSNSを介したエンゲージメントの確立および維持の巧さを踏まえれば、ユニバーサルミュージック所属歌手の中でTikTok音源引き上げの影響は小さくなるのではないかというのが現時点での私見です。