このブログでは先月以降、ビルボードジャパンソングチャートの構成指標のひとつでありロングヒットや大ヒットの要となるストリーミングについて、データ提供元のSpotify独特の特性、およびLINE MUSICにおける再生キャンペーンを紹介してきました。
これらも踏まえ、今回はビルボードジャパンソングチャートのストリーミング指標動向から真の社会的ヒット(に成り得る)曲を見極めるポイントを自分なりにまとめます。なおストリーミングについては指標化の際、有料会員による1回再生と無料会員によるそれとで前者のウエイトを大きく設定しています。
また、今回は最新4月24日公開分のビルボードジャパンソングチャートにおけるストリーミング指標および総合のトップ20、および同指標にデータ提供する各サブスクサービスでのトップ20の動向等をまとめた表を掲載します。この表からもみえてくるものがあるはずです。
<ビルボードジャパンソングチャートのストリーミング指標から真の社会的ヒット(に成り得る)曲を見極めるポイント>
① 3つの主要サブスクサービスいずれもヒットしているか
日本のサブスクサービスではApple Musicのシェアが最も高く、SpotifyやLINE MUSICも大きい状況です。
Spotifyは再生回数を可視化し、LINE MUSICは先述した再生キャンペーンの実施が可能な(ユーザー自身の再生回数を開示している)サービスです。ゆえに双方のサブスクサービスはファンダム(コアファンの中でもチャートへの意識等が高い方々)の利用が大きいといえます。またLINE MUSICは若年層の利用が多く、Spotifyはチャートの動きから保守的といえ、Apple Musicはその中間と考えます。
この3つの主要サブスクサービスいずれでもヒットしている曲は、真の社会的ヒット(に成り得る)といえるでしょう。またLINE MUSICが高い一方でSpotifyが高くはない状態の曲は、これから世代に関係なくヒットする可能性を持ち合わせているともいえます。現時点では808「You」がそのひとつと捉えています。
ただしLINE MUSICが高い、もしくはLINE MUSICとSpotify双方で高いとしても、Apple Musicが強くなければ全体的に強いとは言い難いというのが厳しくも私見です。これは先述したように、このふたつのサブスクサービスはファンダムによる利用が多いと考えるためです。
② LINE MUSICリアルタイムチャート、早朝の時間帯に突出していないか
LINE MUSICのリアルタイム/デイリー/ウィークリーの各種チャートはこちらから確認できます。
冒頭で紹介したように、LINE MUSICには再生キャンペーンが存在します。これはユーザーがひとつの曲を期間中に一定回数以上聴取し、応募することでプレミアムなプレゼントが絶対当たる、もしくは当選する可能性が生じるというものです。再生回数のハードルを大きく上回るほど当選確率が上昇すると謳うところも存在します。
その再生回数ハードルが高いほど再生に必要な時間が増えるため、ユーザーが寝ている時間でも再生を続ける傾向がみられます。それゆえ、アクティブユーザーの少ない早朝の時間帯にはLINE MUSIC再生キャンペーン実施曲が上昇する傾向です。
上記は4月25日20時および4月26日6時の段階のLINE MUSICリアルタイムチャート。後者については他のサブスクサービスでも人気の曲が上昇していますが、これはアクティブユーザー全体の聴取が増えてきたことに因るとみられます。
③ Spotifyの曜日特性に関係ない動き、他曲と大きく異なる動きをしていないか
Spotifyには曜日特性が存在します。これは再生回数を開示していない他のサブスクサービスも同様と思われますが、Spotifyでは再生回数が平日の中でも金曜が他の曜日より低く、また平日より土曜、土曜より日曜が上昇する傾向にあります。これは日本において金曜に飲み会等、音楽聴取以外の時間が多いことが背景にあると考えられます。
一方で、先程Spotifyを保守的と形容したのは"50位の壁"という特性が大きく作用するため。デイリーチャート50位までをまとめたトップ50プレイリストの影響力が大きいこのサブスクサービスでは、50位までに入ることで躍進/後退することで急落する傾向があります。言い換えれば、新たなヒット候補が50位近くまで上昇しても、そこで足踏みすることも少なくありません。
ゆえに50位の壁突破曲はその後数日は曜日特性と異なる動きをしますが、時折それ以外にも曜日特性と異なる動きをする曲がみられます。たとえばテレビパフォーマンスの評判、新曲リリースに伴う過去曲の再浮上等もありますが、それらとはまた違う動きをする曲も存在します。ともすればその要因のひとつは、Stationheadを用いたいわゆる"推し活"に因るものではと捉えています。
StationheadはApple MusicやSpotifyを用いて音楽を利用できるラジオ的なアプリ(サービス)であり、これらサブスクサービス(Spotifyは有料会員限定)が番組を聴くことで発信者共々再生分がカウントされます。この数年で盛り上がってきているこの推し活は、音楽チャートにも少なからず影響を与えています。
一方で、Apple Musicへの反映度合いは大きくはないかもしれません。これは先述したように、Spotifyはファンダムの加入が多い一方でApple Musicは多くないだろうことが根拠にあります(ただしこの点については精査が必要と考えています)。再生キャンペーンも開催しない、良い意味で中庸といえるこのサービスでのヒットが、真の社会的人気を得る可能性をより大きく持ち合わせているといえるかもしれません。
④ ビルボードジャパンソングチャートのストリーミング指標は安定しているか
LINE MUSIC再生キャンペーン採用曲は期間終了直後に再生回数が急落し、他のサブスクサービスでヒットしない場合はビルボードジャパンソングチャートのストリーミング指標で急落することが少なくありません。このことはビルボードジャパンのCHART insightリニューアル前まで定点観測していた、総合ソングチャート20位以内初登場曲の翌週以降における動向を紹介するエントリーにて実感しています。下記はその一例です。
2週前のフィジカルセールス指標初加算時に2位を獲得した櫻坂46「何歳の頃に戻りたいのか?」は当週、13→52位と後退しています。特に顕著な動きを示したのがストリーミング指標(8→74位)ですが、これはLINE MUSIC再生キャンペーン(→こちら)が集計期間2日目に終了したことが理由と考えていいでしょう。この曲も他のサブスクサービスとLINE MUSICとでヒットに乖離がみられています。
ロングヒット曲においてはストリーミング指標による獲得ポイントが全体の過半数を超え、またストリーミング指標の順位と総合順位は比例する傾向にあります。本来ライト層のヒットを可視化し安定したヒットとなるはずのストリーミング指標において、LINE MUSIC再生キャンペーンはコアファンの過熱とその反動を呼び込み、急上昇と急落を招きます。急落した作品を社会的ヒット曲とは呼び難いというのが、厳しくも私見です。
⑤ ストリーミングに強い曲が、ストリーミング以外の指標を獲得できているか
これはLINE MUSIC再生キャンペーン採用曲に多く見られる傾向ですが、ストリーミングは他の接触指標である動画再生や、所有指標ながら同じデジタルであるダウンロードでも人気を得る傾向があります(ロングヒット曲はダウンロード指標においても長く売れる傾向です)。しかし他指標が獲得できていない場合は、やはりコアファンへの浸透にとどまっているというのが私見です。下記にその例を挙げます。
(中略)
M!LK「Kiss Plan」はLINE MUSIC再生キャンペーンの実施がストリーミング指標の安定につながり、総合でも上位にとどまりました。他方、本来ストリーミングと比例する傾向にある動画再生指標が300位未満で加点されていない点からも、ライト層のニーズを可視化するストリーミングにおいてコアファンによる熱量が大きく作用したものと考えます。
(※CHART insightではダウンロード指標は紫、動画再生指標は赤で表示されます。)
M!LK「Kiss Plan」は動画再生やダウンロードといったデジタル指標群を獲得できておらず、またキャンペーン終了後にはストリーミング指標が急落しています。メンバーのひとりである佐野勇斗さんの俳優活動や、歌手としてテレビ出演が増えたことで知名度は徐々に上昇していると考えますが、コアファンとライト層に熱量の差がみられるというのがCHART insightからみえてくることです。
以上5点を紹介しました。他にもポイントがあれば、追記する予定です。
本来ストリーミング指標はライト層の人気を可視化して安定したヒットと成り、また他指標よりもシェアが大きい(つまりはビルボードジャパン側がヒットの重要な要素と捉えている)ことから、ロングヒットそして社会的ヒット曲につながります。一方でコアファンの頑張りそしてファンダム化の動きは素晴らしいながら、歌手が中長期的に活躍を続けるならばライト層波及とその上での社会的ヒット曲化がより重要と捉えています。
一方で、今の時代はどの曲が社会的ヒットに成るかは読めません。サブスクヒットの多い歌手でもすべての作品が社会的ヒットに成るわけではないため、安定したフィジカルセールスこそ重要と捉えたり、デジタルに明るくならない、またビルボードジャパンソングチャートを重視しない歌手やコアファンもみられます。しかしその姿勢を続けることで、日本の歌手そして音楽業界全体がデジタルに明るくないと映りかねません。
デジタルに積極的な歌手やそのコアファンは、より最善なリーチ方法を生み出す等ライト層への波及に努めることが重要です。冒頭の表にて米ビルボードによる最新グローバルチャートの順位を掲載しましたが(チャートについては下記リンク先を参照)、日本のチャートとリンクしているといえるかもしれません。グローバルヒットが世界への活躍の幅を拡げ、数十億もの音楽ファンの居る市場にリーチすることにつながります。
真に社会的ヒット曲に成り得るかを見極め、ライト層へリーチして社会的ヒットを輩出し、最終的には世界にも轟くようになることで、日本の音楽業界を前向きさせる力に成ることを願います。