イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

マイリー・サイラスやテイラー・スウィフトが3月3日に新バージョンをリリース、それぞれの施策が興味深い

2021年度の米ビルボード年間アルバムチャートを制したカントリー歌手のモーガン・ウォレンが昨日、ニューアルバム『One Thing At A Time』をリリースしました。

収録曲は36曲。ともすれば前作『Dangerous: The Double Album』のようなデラックスエディション(曲数追加版)の投入もあるかもしれません。米ビルボードアルバムチャートではストリーミングのアルバム換算分も集計対象となり、曲数が多いほうが有利になる性質があります。そして強力なアルバムの登場は、初登場週においてソングチャートも席巻します。

ゆえにモーガン・ウォレンがアルバムをリリースした3月3日は強力な作品がリリースを避けがちかと予想したのですが、実際は違っていました。直前になってリリースをアナウンスしたのがマイリー・サイラス、そしてテイラー・スウィフトです。

 

 

マイリー・サイラスは、米ビルボードソングチャートで初登場から6連覇を記録している「Flowers」のデモバージョンをリリースしました。

マイリー・サイラスの公式ホームページではこのデモバージョン、そしてオリジナル版が0.69ドル(69セント)で販売(日本時間3月4日6時現在)。通常は1.29ドルであり(iTunes Storeも同価格)、安価で購入が可能です。マイリーのホームページではさらに別ジャケットバージョン(いわゆる”Alternate Cover”)やインストゥルメンタル版も同時にリリースされています。

拡大分は下記に。いずれもマイリー・サイラスの公式ショップ(→こちら)にて確認可能です。

ビルボードソングチャートでは様々なバージョンが合算対象となります。尤もこれまで1種リリースながらダウンロード指標が高水準を続けていたのは特筆すべきことですが、今回デモバージョンリリースを”6週連続首位の御礼”として記すマイリー・サイラスの姿勢は、コアファンを喜ばせる点においても長けていると感じています。

加えて、デモバージョン等の登場は翌週にリリースされるニューアルバム『Endless Summer Vacation』への橋渡しとしても重要な役割を持つでしょう。

 

 

そしてもうひとり、3月3日にリリースを実行したのがテイラー・スウィフト。最新の米ビルボードソングチャートで22位に上昇している「Lavender Haze」について、4種のリミックスを配信しています。

(上記は「Lavender Haze」EPの冒頭に収録された”Tensnake Remix”の公式オーディオ。)

テイラー・スウィフトは昨年リリースのアルバム『Midnights』が米ビルボードアルバムチャートを制した週にソングチャートトップ10を独占するという史上初の記録を成し遂げています。その2週後、ドレイク & 21サヴェージのアルバム初登場週に彼らの「Rich Flex」をソングチャート首位に至らせなかったのもテイラーの「Anti-Hero」でしたが、そのリリース手法には違和感を抱きブログエントリーを記しています。

アルバムからのセカンドシングルとなる「Lavender Haze」においても複数のリミックスが同時にリリースされましたが、テイラー・スウィフトのホームページ先行リリースではないことに(上記ブログエントリーを書いた身として)安堵しています。実はこのEP収録の各リミックスは単独でも販売されているのですが、そこにはテイラー側の各リミックへのこだわり、いずれの曲も手にしてもらいたいという思いが感じられます。

上記は日本時間3月3日20時台におけるテイラー・スウィフトの公式ショップトップページ(こちらで確認可能)。「Lavender Haze」4種のリミックスが販売されていますが、いずれもジャケットが異なるのです。またiTunes Storeでは先に紹介したSpotify等のように”Remixes”で括られてはいませんでした。

ジャケット違いはアルバム『Midnights』でも行われていた施策で、そのアルバムでは4種すべてのバックカバーアートを合わせれば時計のデザインとなることからコアファンを主体に4種すべてが購入される傾向が高かったと思われます。今回の4種のジャケットについても、(それがフィジカルの形ではないとしても)持っていたいと思うコアファンの購入意欲につながるのではないでしょうか。

 

 

リミックスや別バージョンの投入はチャート施策も意味し、海外の歌手はその施策に意欲的であるということについてはザ・ウィークエンド「Die For You」におけるアリアナ・グランデ参加版の登場時にも紹介しました。

加えてリミックスは、リミキサーや共演/客演の参加者を知る、参加した(招聘された)側のファンの方に知っていただけるきっかけにもなります。今回マイリー・サイラスが行ったデモバージョン投入はあまり見られなかった手法ですが、当該バージョンから大ヒットした「Flowers」が生まれた経緯を想像するには貴重な資料と言えるでしょう。リミックス等の投入はチャート施策以外の意味も持ち合わせているのです。

 

3月3日からの1週間を集計期間とする3月18日付米ビルボードソングチャートは、日本時間の3月14日火曜早朝に発表予定です。