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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

2023年度上半期の社会的なヒット曲、もしくはチャートを語る上で欠かせない曲10選

2023年度上半期に社会的にヒットした、もしくはチャートを語る上で欠かせない曲を選びました。2022年度下半期については下記リンク先をご参照ください。

J-POPについては、6月9日に発表されたビルボードジャパンによる上半期各種チャートを参考にしています。

今回は昨年12月から今年5月の間にヒットした作品を取り上げています。リリースタイミングはこの限りではありません。

 

<2023年度上半期の社会的なヒット曲、もしくはチャートを語る上で欠かせない曲>

 

 

① なとり「Overdose

ノンタイアップながら昨年秋よりロングヒット。ビルボードジャパンソングチャートにて13週連続、通算18週トップ10入りを果たした背景には、公式リリースに先立って行ったTikTokの”チラ見せ”も影響しており、TikTokをティザー(ティーザー)として活用することの重要性を感じます。

他方、動画再生指標の”欠測”がなければより大きくヒットしたのではと考えます(下記は「Overdose」におけるCHART insightから、総合(黒)、ストリーミング(青)および動画再生(赤)のみ表示)。この欠測はメジャー在籍歌手でも少なくないのですがインディペンデントで活動する歌手に多い印象があり、この点をどう改善していくかが音楽業界全体における今後の課題と言えるでしょう。

 

 

10-FEET「第ゼロ感」

アニメ関連曲の大ヒットが続いていますが、映画においては質の高さが観客動員増加につながり、結果的に興行収入の高さと曲のヒットが比例している傾向にあると感じています。

映画『THE FIRST SLAM DUNK』エンディング主題歌の10-FEET「第ゼロ感」は昨年12月から18週連続、通算19週トップ10入りを果たし、現在でも15位以内をキープする大ヒットに。同じく映画主題歌発のヒットとなったスピッツ「美しい鰭」同様、2000年以前に活動を開始したロックジャンル且つユニバーサルミュージック所属歌手がストリーミング主体にヒットする現象は注目すべき点と感じています。

 

 

③ Vaundy「怪獣の花唄」

2020年代のロックのアンセムと化したこの曲。元々音楽ファンの間では既に知られていたと言えますが、Vaundyさんの『NHK紅白歌合戦』出場により広く世間に知られ、さらなる高みに上り詰めました。無論Vaundyさんのパフォーマンスそのもの、パフォーマンス時のシンプルな演出等もさることながら、紅白が如何に影響を与える媒体かについても、この曲の大ヒット化からよく解ります。

 

 

④ YOASOBI「アイドル」

ソングチャートわずか7週の登場にて上半期トップ3入りを果たし、年間単位では強力なライバルが出現しない限り首位獲得を確実にしたと言える「アイドル」。米ビルボードによるグローバルチャートのうちGlobal Excl. U.S.を制したことも大きな話題となりました。

テレビアニメにおいてはリアルタイム視聴率以上に見逃し配信や口コミ等、総合的な観点からいわば”覇権”を取った作品が人気を高める傾向にありますが、4月クールにおいては『【推しの子】』がその位置に達しただろうことは「アイドル」の大ヒット、そしてエンディングテーマである女王蜂「メフィスト」の緩やかながら確実な上昇が示していると言えるでしょう。

 

 

⑤ NewJeans「Ditto」

2023年度K-POPを代表する1曲。NewJeansは「OMG」もヒットしましたが、同曲のカップリング収録でフィジカルセールス指標未加算ながら「OMG」以上にヒットした「Ditto」を選んでいます。

2000年前後の音を踏襲したという点でK-POPにおいて斬新な作品となった「Ditto」はロングヒット。加えてNewJeansやIVE、LE SSERAFIM等第4世代女性ダンスボーカルグループのチャートアクションが、K-POPをさらに高い段階へと至らせたものと考えます。これは日本のみならず、グローバルチャートにおいても同様です。

 

 

マイリー・サイラス「Flowers」

この曲のヒット初期には米ビルボードがヒットの理由について分析していましたが、その後もヒットを続けた「Flowers」は米ビルボードソングチャートで通算8週の首位、ラジオ指標では最新6月17日付現在17週連続首位となり、後者は歴代単独3位となる最長記録を達成しています。

リリースタイミングの勝利、曲への推測やTikTokの活用が大ヒット&ロングヒットにつながっている「Flowers」ですが、ラジオフレンドリーとなったのはグロリア・ゲイナー「I Will Survive (邦題:恋のサバイバル)」(1978)を彷彿とさせるゆえとも考えます。そして現在、この曲のヒットに触発されたと思しきいわば「Flowers」以降の作品も複数出現しており、その点からもこの曲の影響力を感じます。

 

 

モーガン・ウォレン「Last Night」

アルバム『One Thing At A Time』からの先行曲にして、最新米ビルボードソングチャートにおいて通算10週目の首位を獲得したカントリー曲。今年度のカントリーの強さを最も大きく示した作品かもしれません。保守的と呼ばれるカントリージャンルにてストリーミングが強いこと(しかも同曲のミュージックビデオはまだ登場しないゆえ尚の事強さが解ります)が、「Last Night」の凄さを物語ります。

ジャンルこそ違えど、R&Bのシザによる「Kill Bill」も「Last Night」に通じるものがあると感じています。収録アルバム(シザ『SOS』およびモーガン・ウォレン『One Thing At A Time』)のロングヒット、アルバムリリースにより曲が(さらに)ロングヒット化という共通項がその理由です。

 

 

⑧ ピンクパンサレス & アイス・スパイス「Boy's A Liar Pt.2」

リミックス投入に伴い曲がヒットするという構図は、たとえばザ・ウィークエンドがアリアナ・グランデを迎えたことで米チャート首位に至った「Die For You」や、ドージャ・キャット参加も相まってシザにとって初のチャート首位を記録した「Kill Bill」も挙げられますが、米ビルボードソングチャート最高3位ながらピンクパンサレス「Boy's A Liar」におけるアイス・スパイス参加版の投入は実に大きいと捉えています。

この曲のヒットでジャージークラブというジャンルが人気となり(ヒットを機にこのジャンルの作品が増えていることが何よりの証明)、2組は共に来月公開の映画『バービー』サウンドトラックに参加、またアイス・スパイスは自身の作品のリミックスにニッキー・ミナージュを招聘し、またテイラー・スウィフト「Karma」に呼ばれる等活躍の幅を拡げています。リミックスが彼女たちを一躍スターダムへと押し上げたのです。

 

 

エスラボン・アーマード & ペソ・プルマ「Ella Baila Sola

今年米ビルボードソングチャート、そしてグローバルチャートで一躍人気に成ったジャンルがメキシコの作品。TikTokで火が付いたことでストリーミングを押し上げ、特にグローバルチャートでは上位を占拠しています。

グルーポ・フロンテラとバッド・バニーによる「Un x100to」のヒットも大きいながら、今回「Ella Baila Sola」を取り上げたのはペソ・プルマの勢いを踏まえてのもの。最新6月17日付ではふたつのグローバルチャート共に、トップ5の過半数にペソ・プルマが参加。ニューアルバムが今月リリースされることで、ますますメキシコの作品、そしてペソ・プルマが世界に轟くかもしれません。

 

 

⑩ FIFTY FIFTY「Cupid」

米でトップ20、英でトップ10入りを果たしGlobal Excl. U.S.も制覇。接触指標が引っ張る形でロングヒットを続けるFIFTY FIFTY「Cupid」は、逆輸入の形で地元韓国でもヒットに。グローバル単位でのヒットの理由については英ガーディアン誌が分析したものを意訳し掲載していますが、とりわけ時代にとらわれないサウンド、そして英語版リリースは今後のK-POPの楽曲制作等にも影響するかもしれません。

 

 

 

以上10曲、如何だったでしょうか。複合指標から成るソングチャートは前年度からのヒット曲も多いゆえ、2022年度の年間チャートや冒頭でお伝えした2022年度下半期社会的ヒット曲に関するエントリー等もチェックしてください。

 

さて、最後に次点としてテイラー・スウィフトAnti-Hero」を取り上げます。この曲は米ビルボードで通算8週、2023年度においては同6週首位に。マライア・キャリーのクリスマスソングがチャートを席巻した後も首位に返り咲き、十分ヒットした作品と言えます。

他方、2023年度初週におけるダウンロード急増からはチャートポリシー(集計方法)変更の議論の必要性を説くほど、その手法に疑問が。尤もテイラー・スウィフトほどチャートへのこだわりが強く、またコアファンの熱量も高いのが特徴ですが、ライバルに首位を採らせない姿勢等が明確に示されたといえる昨年11月19日付の首位キープとダウンロード急増は、自分の中でこの曲が真のヒットと呼べるか引っ掛かりを覚えるほどです。

その後米ビルボードはチャートポリシーを変更した模様であり、自分はエントリーの中で支持を表明しています(下記エントリー参照)。変更を明言しない米ビルボードへの疑問もありますが、より多くの方に愛される曲がロングヒットし、年間単位でも上位に到達することこそが音楽チャートの理想であり、コアファンの方々には自分たちでできることのみならず推す歌手の作品の好さをライト層に拡げるよう努めることを願います。

 

 

2023年度後半も社会的なヒット曲が生まれること、楽しみにしています。