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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

Stray Kidsがビルボードジャパントップアーティストチャートを制する前から好調に推移していた理由を探る

最新3月1日公開分のビルボードジャパンによるトップアーティストチャート(Artist 100)はStray Kidsが制しました。日本でのファーストアルバムとなった『THE SOUND』が最新のアルバムチャートを制したことに伴うものです。

3月1日公開分におけるトップアーティストチャートのCHART insightをみると、興味深い動向が見て取れます。

K-POPは特に男性ダンスボーカルグループがフィジカルセールスに強い側面がある一方で、その初加算週前後は高くないという傾向がみられましたが、最新チャートに至るまでの半年近い流れはこれまでとは異なると言えます。下記はStray Kidsのトップアーティストチャートにおける、総合およびフィジカルセールス(黄色で表示)の順位のみを抜き出したものです。

 

Stray Kidsのビルボードジャパントップアーティストチャート制覇に貢献したのが『THE SOUND』であることは間違いありません。そしてその作品に収録されているのが「CASE 143 -Japanese ver.-」。オリジナルバージョンが巻頭を飾った『Maxident』は、昨年10月22日付の米ビルボードアルバムチャートを初登場で制しています。

そして下記は、「CASE 143」のビルボードジャパンにおけるCHART insight。

ビルボードジャパンではアレンジが同一であり客演追加等がなければオリジナルバージョンと日本語版は合算されます(ただし後述するTHE FIRST TAKEはアレンジ違いでも基本的に合算されます)。初週の高くなさはオリジナル版が金曜リリースの一方でビルボードジャパンが月曜集計開始というのが理由ですが、その後ストリーミング(青で表示)では二度のピークが生まれます。

ストリーミング指標の二度のピークはオリジナル版と日本語版双方でLINE MUSIC再生キャンペーンを実施したことに伴うものです。ただしキャンペーン終了後は急落する傾向にあるのですが、「CASE 143」は動画再生指標(赤で表示)が安定し、ストリーミング指標も大きくは落ち込んでいない印象です。たとえば今年キャンペーンを採用した曲と比較しても下落度は高くないと考えます(今年の採用曲はこちらで紹介しています)。

ソングチャートとアルバムチャートを合算したビルボードジャパンのトップアーティストチャートでは、好調な「CASE 143」に『THE SOUND』がプラスされたことで首位に至ったと解ります。実際、3月4日付における主要サブスクサービス(SpotifyApple MusicおよびLINE MUSIC)のデイリーチャートでは、「CASE 143」オリジナルバージョンがいずれも100位以内にランクインしています。

 

 

Stray Kidsの今回の強さの理由を考えるに、まずはスケジュールの巧さが考えられます。アルバム『THE SOUND』において、リリースにとどまらない展開が多数用意されています。

Stray Kidsは2月に日本でドームツアーを開催し、2月26日に最終公演を迎えました。この最終公演日は3月1日公開分ビルボードジャパン各種チャートの集計期間最終日であり、ライブ前後のSNSでの盛り上がりは各種チャートへ反映したものと考えます。そしてドーム公演は後日複数のメディアで紹介され、3月8日公開分以降のチャートに反映されていきます。

またStray Kidsは、3月3日にデジタルリリースされたNiziU「Paradise」の作曲およびプロデュースを担当。テレビアニメ『ドラえもん』では1月からOAされ、また配信開始日が『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』の公開日だったこともあり、「Paradise」がロングヒットすればStray Kidsへの注目度も持続するものと思われます。

加えてStray Kidsは、本日放送の『行列のできる相談所』(日本テレビ)に出演。テレビ露出は(パフォーマンスがあれば尚の事)ダウンロードを主体に多くの指標を刺激します。上記記事では好調なチャート推移や日本でのドーム公演成功についてもフォローアップしており、これら情報はより多くの方に浸透するものと考えます。

日曜夜の番組出演は3月15日公開分以降(集計期間:3月6~12日)のビルボードジャパン各種チャートに活きるでしょう。Stray Kidsはアルバム『THE SOUND』のリリースがプロモーションの到達点ではなく、リリース以降のスケジュールもまた徹底しているのです。

 

 

Stray Kidsの強さの理由には、日本での浸透度拡大も挙げられます。これは最初の理由ともリンクするものですが、日本独自の動画がプラスに作用する(している)と考えます。

Stray Kids「CASE 143」においては日本語版の”実写版”公式ミュージックビデオが存在しない模様です。一方で公式となっているのはイラストクリエイターの可哀想に!が担当した、ミュージックビデオを再現したアニメーションとなっています。

(Stray Kidsは先週、この日本語版ミュージックビデオのリアクション動画をアップしています。この投稿もまた、アルバムリリース以降の一種のスケジュール施策と言えるでしょう。)

日本語版ミュージックビデオは同曲のビルボードジャパンソングチャートにおいて動画再生指標45→12位(2月1日公開分)の原動力となりました。また「CASE 143」は今年度第1四半期のTikTok Weekly Top 20チャートで最高8位を記録しましたが、このヒットにはアニメーション動画も貢献したものと考えます。1月25日公開分の同チャートの記事はこちら。

Stray Kids「CASE 143」は前週の15位からランクを上げ10位にチャートイン。公式のダンスがTikTokでバズり続けているこの楽曲だが、日本語バージョンである「CASE 143 -Japanese ver.-」のMVが1月22日に公開されてからさらに人気が拡散していると見られる。MVではイラストレーターの可哀想に!がオリジナル・アニメーションを描き下ろしており話題となった。

そしてStray Kidsは、THE FIRST TAKEにて先月末に「CASE 143 -Japanese ver.-」を披露しました。

THE FIRST TAKEはアレンジ等が異なっても収録版が音源としてリリースされなければビルボードジャパンソングチャートにてオリジナルバージョンに合算されることから、この動画公開も同曲の最新3月1日公開分ソングチャートで総合79→64位へ上昇する一因と言えます。なお動画再生指標は39→40位とダウンしていますが、THE FIRST TAKE動画が初の1週間フル加算となる3月8日公開分では伸びることが予想されます。

THE FIRST TAKEの出演基準は不明でありこのタイミングでの出演は偶然かもしれないとして、日本での浸透度拡大やアルバムリリース前後のスケジュール施策においても十分なものではないでしょうか。

 

 

Stray Kidsが『THE SOUND』を基軸にしながらその前後のスケジュールも徹底し、「CASE 143」の日本語版がアルバムのリード曲としてきちんと浸透してきたことが、最新3月1日公開分のビルボードジャパントップアーティストチャートを制する以前からの同チャートにおける好調の要因と考えます。アルバムセールスが落ち着いても人気がこれまで以上に持続していくと考えるのは、これら施策に因るものです。

そしてチャート動向の変化は、K-POPの流れをさらに変えるかもしれません。

日本では男性ダンスボーカルグループは特に、フィジカルセールスと接触指標(ストリーミングや動画再生)とで乖離がみられる傾向がありました。ビルボードジャパンも年間ソングチャート総括の際、『年間累計ポイントを合計する年間チャートの設計上、週単位では高ポイントを獲得し高順位につけるものの、継続してポイントを蓄積できずに年間では圏外となるパターンが多い』と紹介していました(上記ブログエントリー参照)。

その中にあって、K-POPにおいては第4世代女性ダンスボーカルグループのチャートアクションが、米ビルボードによるグローバルチャートにおいても変化してきています。上記ブログエントリーをアップして以降もNewJeans「OMG」のヒットは続き、同曲は最新3月4日公開分のグローバルチャートにおいてGlobal 200で14位(これまでの最高は10位)、Global 200から米の分を除いたGlobal Excl. U.S.では9位(最高7位)につけています。

ビルボードジャパンもロングヒットするかどうかの傾向がグローバルチャートや米ビルボードアルバムチャートに近い形となっていますが、Stray Kidsにおいては最近の女性ダンスボーカルグループやBTSに近い動きをなぞるかもしれません。彼らの成功が、K-POP男性ダンスボーカルグループのチャートアクションを変え、K-POPをさらなる高みに導く可能性が考えられるのです。