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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

結束バンドの人気をビルボードジャパンのチャートから読む…2000年代ロックの復権の流れも受けているのでは

最新1月11日公開分(集計期間:1月2~8日)のビルボードジャパンアルバムチャートでは結束バンド『結束バンド』が総合2位にランクイン。フィジカルセールス3位、そしてダウンロードは3週連続で首位を記録しています。今回はこのバンドについて紹介します。

 

結束バンドはテレビアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』(TOKYO MXほか)にて登場するバンド。劇中で披露された曲等を収録したファーストアルバム『結束バンド』が、ビルボードジャパンアルバムチャートで好調をキープしています。最新1月11日公開分についてはこちら。

(上記は1月11日公開分におけるアルバム『結束バンド』のCHART insight。総合順位は黒、フィジカルセールスは黄色、ダウンロードは紫で表示されています。)

総合アルバムチャートでは『結束バンド』が6→1→2位と推移。またデジタルは1週先行で配信され、ダウンロードは5,877→15,190→7,574DLを記録しています。2022年度以降のアルバムチャート、ダウンロード指標において『結束バンド』2週目の売上を上回ったのはAdo『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』の1~2週目のみであり(2022年8月17日公開分にて30,528DL、翌週は16,908DLを記録)、『結束バンド』の人気がよく解ります。

またフィジカルセールスにおいては前週1月4日公開分にて初加算。売上枚数は73,244枚を記録しています。興味深いのはフィジカルリリース週にデジタルも伸びたこと。フィジカルがデジタルを凌駕せず共に上昇しているという結果は、デジタルがフィジカルセールスの足かせになると考える方の固定概念を見直すきっかけになるのではないでしょうか。

このフィジカル初加算に伴い、1月4日公開分のビルボードジャパントップアーティストチャート(ソングチャートとアルバムチャートを合算したもの)において結束バンドは初の首位を獲得しました(上記は最新1月11日公開分におけるトップアーティストチャートのCHART insight)。年末音楽特番の影響が大きく反映された中での首位獲得は、大きな意味があります。

 

ソングチャートにおいて、結束バンドの作品はこれまで総合100位以内に5曲がエントリー。順位面は高いと言い難いものの、ストリーミングでもヒットしていることがSpotifyの動向から見えてきます。

日本のSpotifyにおける週間アルバムチャートでは、12月23日金曜からの1週間分において4位に初登場し、翌週は3位に上昇。またビルボードジャパンのトップアーティストチャートにおけるストリーミング指標ではアルバムリリース以降33→8→10位と推移しています。仮にビルボードジャパンが米ビルボード同様にストリーミングをアルバムチャートの構成指標に含めていれば、『結束バンド』はより高い位置に登場したはずです。

 

 

SNSの反応を見る限り、テレビアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』は放送の度に評判が高まった印象です。自分が時折出演するラジオ番組にて、1月8日に社会人1年目のDJの方による2022年下半期話題曲特集をお送りしましたが(そのDJの方は以前地元大学のラジオサークルに所属)、特集最後にOAしたのが結束バンド「転がる岩、君に朝が降る」。アニメの高クオリティや音楽を評価しての選曲でした。流行への感度が人一倍高く尊敬するDJの方が結束バンドを推していたことに、人気の高さを強く認識した次第です。

(なお結束バンドがカバーした「転がる岩、君に朝が降る」はASIAN KUNG-FU GENERATIONが2008年にリリースしたシングル曲となります。)

 

そのラジオ番組でDJの方の話を聞き、実感したのは"ロックの復権"ということでした。実はこの言葉、以前米ビルボードのチャートを踏まえた海外の傾向を形容する際に用いています。そのブログエントリーを引用してくださったデイリーSMASHによるツイートに対し、自分はラジオを踏まえ考えたことをつぶやいています。

 

 

現在の音楽チャートではback number、Official髭男dism、King GnuMrs. GREEN APPLESEKAI NO OWARI、そしてSaucy Dog等バンドによるヒットが多数生まれており、既にロックは復権(もしくは常時ヒット)していると言えるかもしれませんが、このタイミングでヒットしているのが2000年代のロックサウンドであることは興味深い流れと捉えています。結束バンドがカバーしたアジカンの曲も2008年の作品でした。

記録的なヒットとなった映画『THE FIRST SLAM DUNK』のエンディング主題歌に起用されたのは10-FEET「第ゼロ感」。1997年に結成し2003年にメジャーデビューを果たしたバンドによる作品は、ビルボードジャパンソングチャートでは5週連続トップ10入りし、直近2週続けて最高位となる6位を記録しています。また同映画のオープニングテーマ「LOVE ROCKETS」を手掛けたThe Birthdayは2006年に結成。メンバーのチバユウスケさんおよびイマイアキノブさんはROSSOとして同年6月まで活動していました。

 

 

(上記はアルバム『The End of Yesterday』に収録された「Mountain Top」ミュージックビデオ。)

アルバム『The End of Yesterday』をリリースし、昨年12月28日公開分ビルボードジャパンアルバムチャートで初登場2位を記録したELLEGARDEN。彼らは1998年の大晦日に結成し、2008年に一度活動を休止。今作は2018年の活動再開以降では初となる、16年ぶりのオリジナルアルバムとなります。

 

2000年代のロックサウンドがこのタイミングで複数話題になるというのは偶然の一致かもしれませんが、昨日のブログエントリーで紅白にて広く世間に"見つかった"と紹介したVaundy「怪獣の花唄」もまた、自身のライブや2000年代に興隆した音楽フェスでもとりわけ映える、いわゆるロックアンセムではないでしょうか。このアンセムという言葉は、音楽ライターの松本侃士さんが同曲の紹介時に用いたものです。

(上記は紅白決定後、歌唱曲発表日に公開された「怪獣の花唄」のライブバージョン。)

 

 

アルバム『結束バンド』のレビューはまだそれほど多くは見かけない印象ですが、タワーレコードが運営するMikikiでは興味深い指摘がみられます。

ゼロ年代のエモやメロディックハードコアを総覧しポップに仕上げたような音楽性は、その系譜にある邦楽ロック(具体的には、アジカンBUMP OF CHICKENストレイテナーTHE BACK HORNUNISON SQUARE GARDEN、tricot、赤い公園など)を明確に意識したものなのだが、後藤ひとりの〈ギターヒーロー〉という設定を反映したメタル的なリードギターが全編でフィーチャーされることで、ゼロ年代テン年代当時にはありそうでなかった新鮮な構造が生まれている。

2000年代バンドサウンドをベースに独自に進化した結束バンドの人気はアニメファンのみならず、2000年代にロックを好んで聴いていた方々にもリーチしたのではないでしょうか。加えて今回取り上げたバンドはロックの中でも細かなジャンルこそ異なるとしていずれも12月に人気となったことで、Vaundyさんが紅白で「怪獣の花唄」を選曲したことも含め2000年代ロックの復権が結束バンドへの流れにつながったと言えるでしょう。

今回取り上げたバンドは長年活躍し続けており、"復権"と形容することに疑問を抱く方もいらっしゃるかもしれません。その一方で彼らの作品が現在のヒットの鑑であるビルボードジャパンにて結果を出したことで2000年代バンドサウンドが今後の主流に成り得る可能性を踏まえ、復権という言葉を用いた次第です。