イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

日本版グラミー賞があったなら…2023年度版主要5部門の結果発表 (コラボスペース終了の報告)

1月8日付のブログエントリーで記載した【日本版グラミー賞】予想企画。今回も音楽インフルエンサーのRYOさんと共に、同賞の存在を仮定した上で双方がノミネーションを用意、そして昨日20時からのコラボスペースにて受賞作品ならびに受賞歌手を決定しました。お聴きくださった皆さんに、心より感謝申し上げます。

昨日のコラボスペース、アーカイブはこちら。

双方のノミネート内容はこちら。

 

それでは、今回の結果を紹介した順に振り返ります。

 

 

・最優秀新人賞

自分は2022年度の段階でNewJeansがブレイクしていたと考え候補から外していたのですが、RYOさんがNewJeansをセレクトした段階でやはり含めるべきだったと実感。ビルボードジャパンの2023年度年間ソングチャートでは3曲を100位以内に送り込み、トップアーティストチャートでは11位に入っています。

自分が選出し、RYOさんが次点で挙げたTOMOOさんはラジオで人気な曲が多く、アルバム『TWO MOON』も好評。さらに私事ながら、私的邦楽ベストソング企画で上半期、下半期共にベストソングのひとつに挙げたこと等が選出理由。また音楽賞の特徴として、似たタイプの作品や歌手がノミネートに複数あれば票割れが起こるのですが、ともすればTOMOOさんはそのロジックを踏まえ一歩抜け出すのではと考えた次第です。

 

 

・最優秀楽曲賞

RYOさんによる藤井風「Workin' Hard」の選出に、いい意味で驚きました。藤井風さんは元来J-POP的なアプローチをいい意味で逸脱していますが、この曲はバスケットボール中継のタイアップ曲ながら、感動を呼ぶ、もしくは高揚感に溢れ鼓舞するという日本のスポーツ関連曲の定番にはないタイプの作品だというRYOさんの選出理由に深く納得しています。

YOASOBI「アイドル」については後述しますが、今回の双方の選出からは2022年の日本レコード大賞におけるSEKAI NO OWARI「Habit」(YouTubeこちら)や、2010年のグラミーにおけるビヨンセ「Single Ladies (Put A Ring On It)」(YouTubeこちら)を想起。楽曲賞にていわば"攻め"の曲が選ばれる傾向は高まっていると感じており、今回の「Workin' Hard」そして「アイドル」の選出はまさにその流れともいえるでしょう。

 

・最優秀アルバム賞

(上記はアルバム『THE GREATEST UNKNOWN』のティザー(ティーザー)動画。)

受賞作品の選出基準には、アルバム全体の流れの美しさや、全体を通して世界観が統一されていることが背景にあったと考えます。今回の集計期間最終週に登場したKing Gnu『THE GREATEST UNKNOWN』におけるインストゥルメンタルの効果的な配置や、先行曲に細かな変化を施すことで、アルバムとしての強度を高めるのみならず先行曲にも新たな輝きをもたらしたといえます。

今後、オリジナルアルバムにおいては先行曲を多数輩出した後にリリースされるパターンが増え、ベストアルバム的な要素が強まっていくかもしれません。それこそVaundy『replica』が2枚組としてリリースされたような形が増えることでしょう。『THE GREATEST UNKNOWN』はこれからのオリジナルアルバムの形として、最善を示したのではないでしょうか。

(上記にて、EP『Get Up』に収録された「ETA」および「Super Shy」が披露されています。)

NewJeansのセカンドEP『Get Up』は収録時間が12分13秒であること、またEPという形態であることからそもそもノミネーション対象とすることに迷いはありましたが、複数の音楽メディアがこの作品を選んでいることもあり、日本版グラミー賞のノミネーションに含めた次第。加えてパッケージのコンセプト(パワーパフガールズとのコラボ等)も含め、曲やパッケージ等トータルでの世界観確立が見事でした。

 

・最優秀レコード賞

やはり2023年度はYOASOBI「アイドル」の年だったということで双方の見解が一致。いやこれは多くの方にとっても同様ではないでしょうか。ビルボードジャパン年間ソングチャートでは他を圧倒し、米ビルボードによるグローバルチャートのうちGlobal Excl. U.S.(Global 200から米の分を除く)では通算3週に渡り首位を獲得しています。

このブログでは"活用"という表現を用いましたが、組曲的構造の「アイドル」やRYOさんが次点に挙げたAdo「唱」においてはどの箇所もTikTokUGC(ユーザー生成コンテンツ)に用いられやすく、またこれら作品は展開の目まぐるしさや曲の速さにもかかわらずカラオケでも人気に。SNSや短尺版動画が定番化した現在を象徴するヒット曲ではないでしょうか。

 

・最優秀アーティスト賞

(グラミー賞にはないもののアメリカン・ミュージック・アワードにて用意されている賞を、今回日本版グラミー賞に新設しています。)

(上記はアルバム『ANTENNA』ハイライト映像。)

今回初めてふたりの意見が一致。Mrs. GREEN APPLEは新曲登場の度に過去曲もフックアップされ(「青と夏」が昨年ビルボードジャパンソングチャートで最高位を更新したのは象徴的でした)、アルバム『ANTENNA』や先行曲のヒットも相まって、ビルボードジャパンの年間ソングチャートでは100曲中10曲、いわば10分の1をミセスが占めています(トップアーティストチャートではYOASOBIに次ぐ2位ですが、前年は11位でした)。

歌手が大ブレイクして以降"昔と違う"と離れていく方もいるかもしれないものの、Mrs. GREEN APPLEが元日にテレビで披露した「StaRt」を聴き、源流はきちんと初期のサウンドにあったんだと実感したというRYOさんの指摘に納得。「StaRt」はメジャーデビューとなるミニアルバム『Variety』(2015)のリード曲ですが、ミセスのフェーズ2は1の延長線上にあること、そしてこの曲を2024年の最初に鳴らしたことの意義を感じます。

またコンテンツカレンダーの用意等、Mrs. GREEN APPLESNS時代ならではの施策も徹底しています。サウンドへの確固たる自信(そのことは、たとえば2022年末のカロリーメイトCMソングにて新曲ではなく「僕のこと」(2018)のオーケストラバージョンを使用したことからもみえてきます)、そのサウンドを拡げるための工夫に長け、実際にヒット曲を多数輩出したミセスは、2023年度を象徴する歌手といって間違いないでしょう。

 

 

今回のコラボスペースをお聴きくださった皆さんに、心から感謝申し上げます。冒頭にてアーカイブのリンクを掲載していますので、是非お聴きください。

日本版グラミー賞に興味を持った方にはノミネート作品(歌手)、そして受賞作品(歌手)を選出してみることをお勧めします。推す歌手や作品が受賞する可能性は高いかもしれませんが、音楽チャート、ならびに他の作品のヒットの理由を知り、客観的な視野が身につくはずです。そしてそこから得た気付き等が、推す歌手がさらなる高みに到達するための還元や運営側への進言等にもつながるものと考えます。

今回の企画に興味を持ってくださった音楽関係者の方々には、日本を代表し、世界にも轟くような音楽賞の創設を願います。新たな音楽賞は世界からJ-POPの注目度を高めることにつながるでしょう(実際、J-POPが世界から注目される可能性はYOASOBIや、直近ではCreepy Nutsによるヒット曲輩出の面からも高まっているはずです)。今からでも音楽業界が前向きに変わることが、この企画を用意した者としての願いです。

 

今回コラボスペースを担当してくださったRYOさん、本当にありがとうございました。そしてお聴きくださった皆さんが"#日本版グラミー賞"をつけて感想等をつぶやいていただけるならば嬉しいです。