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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

宇多田ヒカル『BADモード』デジタル先行リリース…ビルボードジャパンに今一度チャートポリシー変更の議論を求める

このブログでは元日、日本の音楽業界への要望をのひとつとしてデジタルアーカイブの充実を提案しました。その際、以下の内容を記載しています。

デジタルアーカイブの充実】において、J-Popの新譜がフィジカルの発売と同時にサブスク解禁されることが増えています。宇多田ヒカルさんにおいてはデジタル解禁をフィジカルリリースに先駆けるという海外の動きを踏襲。異論も生まれるかもしれませんが、J-Popでもこの動向が増えていくはずです。

(中略)

一方で、この1年のリリース作品においてはたとえばMr.Children『SOUNDTRACKS』やB'z『FRIENDS III』がサブスク解禁を遅らせています。未だにフィジカル等所有指標を優先させる姿勢に、日本の音楽業界がまだ変わりきっていないことを感じずにはいられません。

ここでも言及した宇多田ヒカルさんのアルバム『BADモード』は2月23日のフィジカルリリースに先駆け、今週水曜にデジタル先行で解禁。昨日ビルボードジャパンはデジタルの速報値を公開し、『BADモード』は4665DLを売り上げたと紹介しています。

一方で、一昨日発表されたフィジカルセールスの速報値では木村拓哉Next Destination』が首位を独走しています。

ビルボードジャパンのアルバムチャートはフィジカルセールス、ダウンロード、そしてCDをパソコン等に取り込んだ際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスされる数に基づくルックアップの3指標で構成されていますが、デジタルのみのリリースはフィジカル関連2指標を得ることができません。

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(上記は最新1月19日公開分(1月24日付)ビルボードジャパンアルバムチャートのCHART insight。フィジカルセールスが黄色、ダウンロードが紫、ルックアップがオレンジで示されています。)

次回1月26日公開分(1月31日付)ビルボードジャパンアルバムチャートでは宇多田ヒカル『BADモード』が首位に至らない可能性が高いと言えます。その場合、一部メディアがチャートの仕組みやフィジカルリリース後発を考慮しようとせずに彼女を非難する(首位を獲れなかったことで人気が…等書く)のではないかと強く危惧しています。アルバムの高い評判を聞くにつけ、尚の事強く感じるのです。

 

(今回のブログエントリーにおける疑問の提示はあくまでアルバムチャートにおけるチャートポリシー(集計方法)についてであり、木村拓哉さん等の作品を否定するつもりは毛頭ありません。一方で木村さんによる『Next Destination』の内容をチェックしたいと思ってもデジタル未解禁のため、レンタル解禁までの間はフィジカル購入以外の聴取手段がなく、その内容を確認することができません。その点は予め記しておきます。)

 

ブログエントリーの冒頭で述べた内容には続きがあります。

(この点について、ビルボードジャパンがアルバムチャートを米ビルボード同様にストリーミング指標を取り込んだものへ変更することで、日本の音楽業界の改革を促すことができるのではと考えます。接触指標でもあるルックアップは既に構成要素の一部となっていることから、ビルボードジャパンはその導入を議論してほしいと願います。)

このアルバムチャートにおけるチャートポリシーの変更(集計方法の改定)については、2000年代以降の真のヒット曲を探求しビルボードジャパンソングスチャートにも詳しいあささんのブログエントリーを機に、あささんとやり取りした内容を踏まえて3ヶ月前にまとめています。

ビルボードアルバムチャートはフィジカルセールスやアルバム単位のダウンロードのみならず、単曲ダウンロードのアルバム換算分およびストリーミング(米ビルボードの場合はサブスクに加えて公式動画の)再生回数のアルバム換算分も対象となります。収録曲の再生はソングスチャート共々加算される形ではあるのですが、言い換えればソングスチャートで人気の曲が収録されたアルバムもロングヒットする傾向にあります。

接触指標がアルバムチャートの一要素となることには反対の声が出るかもしれませんが、現状のビルボードジャパンアルバムチャートにおいてはルックアップが指標のひとつとなっており、同指標はレンタルCDも対象となります。購入者の取込もレンタルの取込も含まれる以上、ビルボードジャパンアルバムチャートは一部接触分も反映されていると言えます。実際、レンタル数の多い作品はロングヒットする傾向にあります。

ゆえにビルボードジャパンアルバムチャートにおいても米ビルボード同様に接触指標を増やすことは可能だと考えます。とはいえ所有指標が多くを占める現在のアルバムチャートを米ビルボード方式に移すのは大きな変化であるため、個人的には米ビルボード方式採用時に現在のアルバムチャートと一時的にでも並走させ、ゆくゆくはどちらかに統一することを検討してほしいと願っています。

 

アルバムチャートのチャートポリシー変更を再度提案した理由は、宇多田ヒカル『BADモード』がフィジカル後発のために首位を獲得できない可能性が高いため。首位未達時に一部メディアや市井が非難する悪しき可能性を考えれば彼らが現在のチャートの仕組み等を理解することも重要なのですが、フィジカル後発もしくは未リリースの作品が増えていくだろう状況を考慮したチャートポリシーへの変更もまた必要でしょう。

そして実際、『BADモード』はサブスクでヒットしています。

この状況は各サブスクサービスで異なるでしょうが、しかしながらアルバム収録曲の複数が次回1月26日公開分(1月31日付)のビルボードジャパンソングスチャートで総合100位以内にエントリーする可能性があります。ビルボードジャパンソングスチャートは社会的ヒットの鑑と成っていると言える一方、現状のアルバムチャートがヒット曲をまとめた作品をより大きく評価できないならば問題と言えるかもしれません。

 

 

尤も米ビルボードによるアルバムチャートの集計方法にも一部問題がありますが、その改善内容は先程掲載したチャートポリシー変更提案のブログエントリーに記載しています。ビルボードジャパンには是非とも、日本でデジタル先行/フィジカル後発のアルバムが、それも日本を代表する歌手がずらしリリースを採用したこの段階で、チャートポリシーについて考えてほしいと切に願います。