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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

宇多田ヒカルのニューアルバム『BADモード』、リリースタイミングに差を設けたことが音楽業界の分水嶺になるか

ドラマ『最愛』(TBS)の主題歌であり、最新12月8日公開(12月13日付)ビルボードジャパンソングスチャートで2週連続2位を記録する「君に夢中」を含むニューアルバム『BADモード』を来年リリースするとアナウンスした宇多田ヒカルさん。そのリリース手法、いわばタイミングの違いを設けたことが非常に気になるのです。

『BADモード』はデジタル先行でリリース。言い換えれば、フィジカルリリースは遅れることとなります。

ニューアルバムは通常盤と、DVDとBlu-rayが付属する初回生産限定盤の2形態が用意され、DVDとBlu-rayには配信スタジオライブ「Hikaru Utada Live Sessions from Air Studios」の模様、本ライブのドキュメンタリー映像、「Time」「One Last Kiss」「PINK BLOOD」「君に夢中」「BADモード」のミュージックビデオが収められる。

アルバムを先行で配信するその当日には宇多田ヒカルさんにとって初の配信ライブが開催され、その模様も収録された映像盤がフィジカルに同梱。それゆえフィジカルリリースが後日に設定されたとも言えますが、宇多田ヒカルさんがこれまでオリジナルアルバムのリリースにおいて映像盤を同梱したことは一度もないはずであり(デラックスエディション化の際に同梱されたことはありますが)、この手法の変化に驚いた次第です。

 

このニュース(リリース手法)に触れた直後に自分は上記のツイートを行いましたが、J-Popの歌手がフィジカルはコアなファン向けという位置付けを示すようになってきたのではと感じています。海外ではフィジカル未リリース自体が増えている、もしくはフィジカルを出しても数ヶ月後にリリースしたり、または歌手のホームページで数量限定というパターンが目立っており、その点日本の対応はまだ優しいとは言えます。

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しかし一方では、フィジカルリリースは減っていると言っていいでしょう。特にシングルにおいては売上が見込めるであろうアイドルやK-Pop歌手、またはアニメ等タイアップ曲が(タイアップ元に一定数のファンがついていると見込まれるゆえに)フィジカル化に至る傾向がみられます。上記は一昨日掲載した2021年度のビルボードジャパン年間ソングスチャートの表ですが、人気曲のフィジカル化が如何に少ないかがよく解ります。

(なお宇多田ヒカル「One Last Kiss」のフィジカルは、ビルボードジャパンではアルバムとしてカウントされています。)

シングルについてはフィジカル化される場合、デジタル先行という手法が定着しています。一方アルバムにおいてはフィジカル/デジタル同時リリースが未だ主流だと認識していましたが、今回の宇多田ヒカル『BADモード』での対応には驚かされると共に、日本でも遂にという思いを抱くのです。

 

宇多田ヒカルさんがフィジカルリリースを遅らせることは、世界の流れや日本のシングル曲における動向を踏まえればやむを得ないと言えるかもしれません。無論今回の施策を採る理由はこちらの想像と異なるかもしれませんが、しかしながら今回の対応はフィジカルリリースする作品が今後減ることの分水嶺と言えるでしょう。あの宇多田ヒカルさんがやるならばと、他の歌手やレコード会社も追随するかもしれません。

アルバムのフィジカル遅らせリリースや、そもそもアルバムをフィジカル化しない状況が増えてくるならば、以前記したCDレンタル産業の終焉の可能性がより高まるのではないかと想像する自分がいます。