イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

"歌ってみた"や"踊ってみた"等ユーザー生成コンテンツの人気と総合ソングスチャートの乖離をあらためて考える

まずはお知らせです。

2021年度のビルボードジャパン年間チャートを踏まえて、音楽ナタリーが座談会を企画してくださいました。憧れの存在である柴那典さん、そして松島功さんと共演できる日が、それも日々チェックしている音楽ナタリーにて叶う日がくるとは…今も夢のような気持ちです。機会を設けてくださった方々に心より感謝申し上げます。内容はかなり濃いものとなっておりますので、是非御覧ください。

 

 

さて、12月10日に発表されたビルボードジャパン各種年間チャートについて、昨日はソングスチャート主体に紹介しました。

2021年度年間チャートでは、同年度に新設されたHotseekers SongsチャートおよびTop User Generated Songsチャートについても総括記事が掲載され、上位10曲が紹介されています。今回、Top User Generated Songsチャートを採り上げます。

Top User Generated Songsチャートは、踊ってみたや歌ってみた動画に代表されるユーザー生成コンテンツ(User Generated Contents。以下UGC)を集計したもので、2021年度初週に動画再生指標のカウントから除外されたタイミングで別途設けられています。現在のビルボードジャパンソングスチャートにおける動画再生指標は、公式動画のみがカウントの対象となっています。

このチャートを制したのはKanaria「KING」でした。歌ってみた人気が大きく、『特にVTuberの葛葉、がうる・ぐらと森カリオペ、歌い手のめいちゃんがカバーした動画は、それぞれ1,000万回再生を超える人気作』に(『』内は上記記事より)。53週中通算33週で首位を獲得したのみならず、年間を通して常時トップ3をキープしたのは特筆すべきことです。

一方で、総合ソングスチャートでは真逆ともいえる現象が発生します。

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上記は2021年12月8日公開分(12月13日付)ビルボードジャパンソングスチャートまでの60週分におけるKanaria「KING」のCHART insightですが、赤で示された動画再生指標が2021年度初週となる2020年12月2日公開(12月7日付)で4→70位へと急落してしまいます。その後持ち直すものの、2021年に入ってからは一度100位に入った以外、動画再生指標は100位を割り込んでしまいます。総合での勢いも潰えてしまいました。

一方でカラオケ指標は高値安定が続いていますが、これは動画が実際に人気であることの証明と言えるでしょう。そう考えると、UGCの動画再生指標からの除外が、Kanaria「KING」の総合ソングスチャートに大きな影響を及ぼしたと考えて差し支えないでしょう。

2月以降Top User Generated Songsチャートで常時20位以内にランクイン、年間チャートでも4位に輝いたChinozo「グッバイ宣言」にもこの現象が当てはまると言えます。年間ソングスチャートでは99位に入っていますが、年間Top User Generated Songsチャートで2位のAdo「うっせぇわ」が総合ソングスチャートで7位、また年間UGCチャート3位のBTS「Dynamite」が総合2位だったことと、状況は真逆と言えるのです。

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(上記CHART insightは総合300位以内初登場時より、2021年12月8日公開分(12月13日付)ビルボードジャパンソングスチャートまでの分となります。)

Chinozo「グッバイ宣言」はTikTokでも人気を博し、2021年度の日本におけるTikTok人気楽曲ランキングでは5位にランクインしています(TikTokで人気の楽曲 - Year on TikTok | TikTokより)。TikTokから他指標に人気が飛び火しソングスチャートで頭角を現す曲が多い一方で、YouTubeでは歌ってみた動画が多い「グッバイ宣言」が総合チャートでそこまでの結果を得られていないように思うのは自分だけではないでしょう。

 

この改善には、UGCから公式動画へ遷移してもらう導線の徹底等、オリジナルバージョンやUGC投稿者の動画投稿時の意識付けの徹底も必要ですが、ビルボードジャパン側にも考えていただきたいというのが私見です。

UGC、そしてオリジナルバージョンの投稿者による意識の改善が必要と考えますがそれと同時に、UGCが動画再生指標から外れたことを機にチャートを大きく下げた曲があることを把握し、TikTok人気や『ウマ娘…』のようなヒット作品と総合チャートとの乖離が大きく起きている可能性を検証の上、ビルボードジャパンはソングスチャートにおける動画再生指標のウェイトを上げることを視野に入れる必要があると提案します。

動画全体の人気とビルボードジャパンの総合ソングスチャートとで時折発生する乖離については、3ヶ月前に動画再生指標を採り上げたビルボードコラムにて紹介しています。UGCを動画再生指標に再度組み入れることは難しいとしても、動画再生指標自体のウエイトをアップすることは議論の余地があると考えます。

 

新年度1回目となる12月8日公開分(12月13日付)ビルボードジャパンソングスチャートではチャートポリシー変更が行われましたが、動画再生指標についてはそのままでした。今後はさらにTikTokをはじめとするショート動画が興隆すると思われるため、同サービスも含めUGCの投稿や閲覧は増えるのではないでしょうか。

TikTokについてはチャートをリニューアルし(TikTok Weekly Top 20チャートが新年度にスタート)、社会的ヒット曲がより可視化されるようになっていると言えますが、動画全体の勢いがもう少し総合ソングスチャートに反映される必要があるのではと感じています。これは冒頭で紹介した音楽ナタリーでの座談会企画でも申し上げたことであり、2022年度第2四半期を前にビルボードジャパンが一度検討してほしいと願っています。