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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

歌手のファンが行う【ビルボード活動】、どの指標を伸ばすことが最善かを考える

先日取り上げたブログエントリーに多くのアクセスをいただきました。感謝申し上げます。

インプレッションの多くは、アイドルファンの方によるもの、好きな歌手がビルボードジャパンソングスチャートで首位を獲得してほしいという思いの表れだと捉えています。

 

 

さて、複合指標によるビルボードジャパンソングスチャートが浸透してきたこと、そのチャートでフィジカルセールス指標のウェイトがこの下半期に減少したこと(上記ツイート内ブログエントリー参照)を踏まえるに、フィジカルセールスに長けた歌手がビルボードジャパンで首位を獲得することは難しくなってきました。

その状況下で、いやそれ以前からですが、アイドルやK-Popアクト等ファンの中にビルボード活動と銘打った動きが散見されます。ビルボード対策等様々な呼び名はあるのですが、ビルボードジャパンで首位を獲るべくファンが協力を惜しまないというのがこの活動の趣旨だと理解しています。ファンがビルボードジャパンの頂点に歌手を押し上げるべく最も有効な手段は何か等について、私見を綴ります。

 

 

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冒頭のツイート内、ブログエントリーにて掲載したビルボードジャパンソングスチャートを構成する8指標の特徴を上記に。特にアイドルやK-Popアクトにおいてはフィジカルセールスが強く、同指標初加算のタイミングで週間チャートを制することは下半期以降でも十分あり得ます。この指標が大きな武器となることは自明ですが、どの指標を伸ばすことが最善なのでしょう。まずは所有指標からみてみます。

 

まずは純粋にフィジカルセールスを伸ばすべく複数購入する方法が考えられます。複数種リリース(ジャケット違いや収録曲違い等)のほか、CDショップで異なる特典等を目当てとして複数購入される方も少なくありません。しかし何より金銭面の負担が大きく、また発売週に購入する傾向が強いため2週目に失速しやすくもなります。

同じ所有指標でもダウンロードでは金銭面の負担が少なく済みます。しかしひとつのデジタルプラットフォーム、ひとつのアカウントで購入できる数は限られます。iTunes Storeレコチョク等複数のデジタルプラットフォームでアカウントを持ったとして、圧縮率等は異なるかもしれませんが基本的に同じ音源を購入することになり、ダウンロード複数購入は魅力的とは言えないでしょう。

 

 

では接触指標はどうでしょう。その前に所有と接触の双方を兼ね備えたルックアップをみてみます。ルックアップとはパソコン等にCDをインポートする際、インターネットデータベースのGracenoteにアクセスされる数を指し、売上枚数に対する実際の購入者数(ユニークユーザー数)、およびレンタル枚数をルックアップから推測することができます。

複数種リリース且つCDの収録内容が異なる場合、たとえば3種リリースされていれば各種1枚ずつ取り込めばルックアップは3枚分カウントされることになります。ファンの間でこのルックアップ強化の動きが浸透していると感じる一方、レンタルにおいては実店舗自体の減少や、店舗はあってもレンタル自体の取り扱いを止める動きも出ており、この指標の減少が予想されます。

 

カラオケについてはそれができる施設に行く必要があり、物理的制約が存在します。コロナ禍の影響で現在は尚の事、行くことを躊躇う方も少なくないでしょう。この指標を伸ばすのは、この時世では現実的でないかもしれません。

ラジオ接触指標の中で唯一の受動的な指標と言えます。ユーザーの希望通りに聴くことができないというのが受動という表現を用いた理由であり、また歌手がDJを務める番組や一歌手にフォーカスした特集が組まれた番組以外では、ひとつの番組中に同じ歌手の曲が複数流れることはほぼなく、リクエスト数が多くともOAされるとは限りません。まして、ひとつの番組中に同じ曲が複数回流れることはほぼないでしょう。

 

 

残る指標は3つ。まずは動画再生ですが、最初に星野源さんがラジオで語っていた内容を紹介します。

YouTubeの動画ってね、何回見ても1日に1回とか2回とかしかカウントされないんですよ。だからそれって、あんまりチャートには反映できないんだけども、

実際、『同一のIPアドレス(インターネット上に接続された機器が持つナンバー)からの連続した動画再生は、1回の再生と見なされます』『ある一定の時間をおいて再生したものは再生回数にカウントされます』とYouTube再生回数カウントの仕組み&最新ランキング2020 [インターネットサービス] All About(2月17日付)にて記載されています。何度リピートしても再生回数がそのまま反映されるわけではありません。

一方で、星野源さんの発言には続きがあります。『サブスクリプションサービスでは1日に何回も聞いたら、ちゃんとそれがカウントされてチャートに反映されるんですよ』と話し、『ぜひ何度も聞いていただきたいと思います』と伝えています(上記みやーんさんの書き起こしより)。つまり、サブスクの再生回数に基づくストリーミング指標では再生分がそのまま再生回数として反映、加算されることになるのです。

再生回数が可視化されるデジタルプラットフォームもあります。ユーザーが自身の再生回数を確認できるLINE MUSICやRakuten Musicでは、期間中に最も再生回数が多かった方にプレゼントが当たる等の企画が多数行われています。これらは、再生回数が可視化され、チャートにダイレクトに反映されるからこそのキャンペーンと言えます。

(なお、有料会員の1回再生と無料会員のそれとではストリーミング指標に反映されるウェイトが異なり、有料会員のほうがウェイトは高くなります。)

 

 

最後にTwitterについて。ビルボード活動と銘打った動きとして、最も多く行われているのがこの指標の対策と捉えています。ひとつのツイートに歌手名と曲名(複数OK)が入っていればカウントされ、そのツイートをリツイートしても加算対象となることから、ともすればブログの冒頭で紹介した自分のツイートが多数リツイートされたのも、Twitter指標の上昇を目的とした動きかもしれません。

一方で、Twitter指標は複数の問題を抱えています。まずは同指標のウェイトが下がった可能性。これはチャート予想に長けたあささんが指摘されており、下記ブログエントリーにてその疑問を記したツイートを掲載しています。

さらにこのブログエントリーでも述べているように、Twitterがソングスチャートの構成指標から切り離される可能性もゼロではありません。

Twitter指標のチャート推移を見ると、熱心なファンが多いアイドルやK-Popアクト等の曲が上位を寡占する傾向が強く(下記参照)、総合順位との乖離も含めて偏りが目立っていると言えます。

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また、あくまで推測の域を出ませんが、Twitter指標の導入にはデジタルに明るくない歌手の作品を取りこぼさないという目的もあったかもしれません。しかしこの指標が導入された2013年12月から現在に至るまでに、大半の歌手がデジタルを解禁し、未解禁のイメージが強い芸能事務所でも一部歌手が解禁を行っています。デジタル未解禁歌手の救済措置としてTwitter指標を設けたならば、その意義は薄れたと言えます。

 

Twitterがソングスチャートの構成指標から切り離される可能性はまだ低いかもしれません。2019年度にカラオケ指標が追加されるまで、ビルボードジャパンソングスチャートの構成指標は増加が続いていました。しかし2021年度になり、動画再生指標からいわゆる歌ってみた等のユーザー生成コンテンツ(UGC)が省かれ独自のチャートとして組まれるように。この変更を踏まえれば、指標の切り離しの可能性はゼロではないでしょう。

 

 

8つの指標すべてにファンが貢献することは可能です。その中でファンの負担の少なさ、よりダイレクトに貢献できるものを踏まえれば、ストリーミングおよびTwitterが2強と言えます。ただしTwitter指標はチャート構成におけるウェイトが大きくなく、またフィジカルセールス加算2週目で同指標も急落する傾向が少なくないことを踏まえれば、ロングヒットの要でもあるストリーミングへの貢献こそ最善というのが結論です。

 

 

ストリーミング指標をロングヒットの要と記載しましたが、真に社会的にヒットしている曲において重要なのは、週間首位獲得以上に年間チャートでの上位進出です。このことは、昨年度のビルボードジャパン年間チャート総括記事からみえてきます。

上記ブログエントリーの補足資料として、年間ソングスチャートから総合およびフィジカルセールス、ダウンロードおよびストリーミングの年間順位を掲載した下記エントリーについてもご参照ください。

好きな歌手を首位にすべくビルボード活動を行う方には、フィジカルセールスのみのランキング同様、週間チャート制覇が最も重要という心理が作用するかもしれません。しかしフィジカルセールスに特化した曲は中長期的なヒットに至りにくく年間チャートにも登場しにくいのが実情です。ビルボードジャパンは社会的ヒットの鑑であり、瞬間風速的なヒットでは社会的な流行に至れていないと厳しくもそう断言していいでしょう。

ビルボード活動を行うファンの方には、その活動の最終目標とは何かを考えてみることを勧めます。より長く歌手活動が行えることこそ一番だと思ってはいないでしょうか。だとすれば、コアなファンが支えることも勿論大切ですが多くの方に魅力が伝わることも重要であり、ライト層を拡大し、その中からコアなファンを醸成していくことこそ最も必要なことだと考えます。

 

先程はストリーミング指標をロングヒットの要と記載しました。このストリーミングはコアなファンのみならずライト層の動向も如実に反映したものとなります。となると、デジタルに強くない歌手についてはストリーミングを中心とした強化が必要であり、そしてデジタル未解禁歌手についてはそもそも解禁を行う必要があります。

以前、ストリーミングは利益が低い等の声に対してつぶやいたのが上記。さらに、ストリーミングはリリースから数年経過していてもカウントされ続けます。フィジカルは廃盤の可能性がある一方でその可能性が極めて低いのがデジタルであることも、デジタルを推奨する理由です。

 

となると、デジタルに強くない歌手を応援するファンの方々にとって行うべきは、レコード会社や芸能事務所への働きかけであり、声を上げることではないでしょうか。梨のつぶての可能性を覚悟で、客観的なデータを軸に説得することを勧めます。それもまた一種のビルボード活動です。推しの歌手が中長期的に活動できるべく、ライト層を拡大することも目的として、デジタルを充実させることが重要です。