タイラー・ザ・クリエイターが先週末、新曲「Lumberjack」をリリース。ニューアルバム『Call Me If You Get Lost』からのリード曲となります。
CALL ME IF YOU GET LOST: JUNE 25TH pic.twitter.com/2FkiNkLJl5
— Tyler, The Creator (@tylerthecreator) 2021年6月17日
『Call Me If You Get Lost』は、グラミー賞最優秀ラップアルバム賞を獲得した『Igor』以来のアルバムとなります。
さて、タイラー・ザ・クリエイターのスケジュールから確信を抱いたことがあります。それはアルバムからのリード曲がおよそ1週間前にリリースされる傾向が目立ってきたということです。
(厳密にはタイラー・ザ・クリエイターは8日もしくは9日前となりますが、ここでは1週間という括りにまとめた上で話を進めていきます。)
たとえばH.E.R.。今年グラミー賞とアカデミー賞の双方を受賞した彼女の初のフルアルバム『Back Of My Mind』が一昨日リリース。受賞曲は未収録ですが、アルバムからは1週間前に「We Made It」を切ってきました。尤もリード曲はその前にリリースしたクリス・ブラウンとの「Come Through」と言えるかもしれませんが、「We Made It」はアルバムの冒頭を飾っています。
先月リリースされ米ビルボードアルバムチャートを制したJ.コール『The Off-Season』。アルバム初登場週にはソングスチャートトップ10内に4曲送り込んでいますが、先行曲「Interlude」は1週間前にリリースされ、こちらもトップ10入りを果たしています。
そしてオリヴィア・ロドリゴ。アルバム『Sour』から3曲目のシングルとして「Good 4 U」をアルバムリリースの1週間前に解禁し、米ビルボードソングスチャートを制しています。アルバムが初登場で首位を獲得した翌週、「Good 4 U」はBTS「Butter」に敗れ2位に後退するも「Good 4 U」を含む3曲がソングスチャートトップ10入りを果たしました。
各音楽賞を制し好事家の注目を集めるH.E.R.、グラミー受賞の次作として期待が高まるタイラー・ザ・クリエイター、そしてアルバムチャートで首位を獲得したJ.コールやオリヴィア・ロドリゴ…いずれもアルバムリリースの1週前にリード曲をカットしています。
この傾向が目立ってきた理由として、まずリード曲が翌週のアルバムリリースの告知として最適に機能することが挙げられます。J.コールにおいてはアルバムからの最初のリード曲であり、そのインパクトの大きさがアルバム聴取につながったはずです。
そしてもうひとつは米ビルボードアルバムチャートの仕組みにあります。日本とは異なり、単曲のストリーミングやダウンロードがそれぞれユニットとして換算されアルバムセールスに加わります。このストリーミングやダウンロードは同時に、ソングスチャートにも影響します。
ソングスチャートで上位に初登場しながら、翌週急落する曲は少なくありません。これは登場2週目におけるダウンロードの急落やストリーミングのダウンをラジオの上昇でカバーしきれないためですが、しかしその2週目がアルバムリリースと重なるならばダウンロードやストリーミングの低下を抑えることが可能。事実、オリヴィア・ロドリゴ「Good 4 U」は初登場の翌週に2位へ後退するも、構成3指標すべて上昇しています。つまりソングスチャート2週目のチャート上昇(ポイント上昇)が見込めるのです。
アメリカにおけるアルバムリリース直前のリード曲の用意は、話題性からもチャート面からも有効と考えます。言い換えれば、歌手にとって米ビルボードが自身のプロモーションに如何に有効であるかと考えている証拠ではないでしょうか。