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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパンソングスチャートにみるロングヒット曲の条件とは

最新4月21日公開(4月26日付)ビルボードジャパンソングスチャートは全体的に大きな動きが少なかった、とポッドキャスト担当者が語っています。

ちなみにサブタイトルの『東京事変「永遠の不在証明」1年を経て上昇』については、ポッドキャストではその理由が語られていないようですが、自分が以前記載した内容が大きく影響しているものと考えます。ダウンロード指標が9位に入りトップ10入りしたのは、映画公開に合わせた”コナン仕様”が大きな要因でしょう。

 

 

さて、『全体的に大きな動きが少なかった』ということはすなわち、ロングヒット曲が安定した動きを見せていることの表れといえます。そこで最新チャートにおけるロングヒット曲の動向から、その特徴を掴んでみることとします。

今回抽出した曲は、最新4月21日公開(4月26日付)ビルボードジャパンソングスチャートで20位以内にランクインし、且つ10週以上50位以内に入っている作品です。

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黄色の表示は各曲の最高ポイントを。太線はチャートポリシーの変更(前後の境目)を指します。2020年12月2日公開(同年12月7日付)からはYouTubeにおけるUGC(ユーザー生成コンテンツ)が加算対象から外れ、また3月3日公開(3月8日付)からは各指標のウェイトが変更されています。

 

それぞれの曲のチャート推移についてはビルボードジャパンのCHART insightをご参照いただきたいのですが、ポイントにおける各指標の割合(チャート構成比)が最新週のみの表示であるため、11曲すべてキャプチャし掲載します。ビルボードジャパンにはチャート構成比を日付毎に表示できるようにしてほしいと願います(し、その機能が有料会員のみに実装されれば加入する方はきっと少なくないはずです)。

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(DISH//「猫」はミュージックビデオが存在しないためライブ動画を掲載。また直近60週分を表示しています。)

そしてこの11曲におけるポイント推移はこちら。

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これらから見えてくるものは何でしょうか。

 

まず挙げられるのは、フィジカル関連指標が加算された曲が少ないこと。フィジカル関連指標はフィジカルセールスおよびルックアップのことで、シングル表題曲が加算対象となります(ダブルAサイドシングルの場合は1曲のみに加算されます)。今回の11曲中、YOASOBI「怪物」、LiSA「炎」および菅田将暉「虹」の3曲のみが該当し、他はアルバムにてリリースされているもの、また現段階でフィジカルに収録されていない作品もあります。

一方で、フィジカル関連指標が加算される曲はポイントの落ち込みが大きい傾向があります。これはフィジカルセールスが1週目に多いことの反動と言えますが、たとえばYOASOBI「怪物」のようにデジタルが大分前に先行リリースされた曲の場合でもフィジカル関連指標加算後にポイント前週比がはじめて85%を下回っています。フィジカル関連指標のうちフィジカルセールスは所有指標であり基本的に1枚購入すればよいため、何度でも再生可能な接触指標より下がりやすく、先述した3曲のチャート推移をみればフィジカルセールス指標(黄色の折れ線で表示)の総合(黒)との乖離が他指標より大きいことが解ります。

それでもフィジカル関連指標は1週でも飛び抜けたポイントを獲得するのに大きな役割を果たすことから、フィジカル未リリースでは得にくい旨味があるのです。今年度(2020年12月2日公開(12月7日付))以降、フィジカル関連指標未加算の曲で1万5千ポイントを超えたのは優里「ドライフラワー」(2月17日公開(2月22日付))、そして宇多田ヒカル「One Last Kiss」(3月17日公開(3月22日付)のみ。この2曲はいずれもこの時2位となっており、首位は共にフィジカルに強いアイドル曲が(翌週以降急落するとしても)獲得しています。接触指標群に強い曲でもフィジカル関連指標未加算ならば、1万5千ポイントの壁をほぼ超えられないのです。

 

チャート推移ではフィジカルセールス指標の乖離が大きい一方、ストリーミングや動画再生指標といった接触指標群が高水準をキープしていることが共通。今回取り上げた11曲のうち、菅田将暉「虹」およびDISH//「猫」を除く9曲はすべて最新チャートにおいて、ストリーミング(上記チャート推移では青の折れ線で表示)および動画再生指標(赤)が20位以内にランクインしています(「虹」や「猫」はその不足分をカラオケ指標(緑)で補っていると言えるでしょう)。またYOASOBI「怪物」は先々週および先週において、おそらくはYouTubeの紐付け問題により動画再生指標にエラー(と断言してよいであろう現象)が生じていますが最新チャートでは回復しています。11曲のチャート構成比をざっとみると、現在のチャートにおけるロングヒットの条件はストリーミング指標5割以上、動画再生指標およそ10%以上と言えるでしょう。

 

ロングヒット曲はそれでも、何も動きがなければ毎週5%前後漸減する傾向がありますが、メディア出演や新曲の投入による過去曲のフックアップ等がカンフル剤になります。『NHK紅白歌合戦』披露曲が1月6日公開(1月11日付)ビルボードジャパンソングスチャートにて上昇したのがその一例ですが、最近では動画の影響力も大きく、YOASOBI「群青」のTHE FIRST TAKE出演やEve「廻廻奇譚」のライブ動画投入がポイント前週比を伸ばす大きなきっかけになりました。特に「群青」は、YOASOBIの他の曲のポイントも上昇させる役割を果たしています。

 

 

これらロングヒット曲の特徴を踏まえれば、ストリーミングや動画再生をきちんと解禁していることは大前提として、如何にそれら接触指標群で多くのポイントを獲得し理想のチャート構成比に近づけるかが大事になります。シングルとして発売することは大きな山を築くことができてもその後のポイントダウンが加速しかねませんが、リリース後も動画を投入する等話題を提供し続け、コアなファンやライト層ともつながりつづけることでカバーは可能だと考えます。

 

最後に、これら11曲はすべて曲名が一語もしくは一文であるというのも面白いですね。そのほうがSNSで話題にしやすい(書きやすい)ですし、Twitter指標(上記チャート推移において水色の折れ線で表示)にも反映されやすいと言えます。これもまた、現代におけるヒットの条件と言えるかもしれません。