1月29日~2月4日を集計期間とする最新2月13日付米ビルボードアルバムチャートの速報が日本時間の本日早朝に発表されました。首位は4週連続でモーガン・ウォレン『Dangerous: The Double Album』が制しています。
Morgan Wallen’s "Dangerous: The Double Album" tops the Billboard 200 chart for a fourth consecutive week. https://t.co/RnGyOXBTxg
— billboard (@billboard) 2021年2月7日
『Dangerous: The Double Album』は初登場からの4連覇を達成していますが、モーガン・ウォレンは自身の人種差別発言により先週(最新チャートにおける集計期間中)、多くの規制等がかけられる結果となりました。
しかしながら、その措置が逆に注目度を高める結果となったと言えるかもしれず、皮肉であると考えます。アルバムセールスについては前週比102%アップの25000を獲得、また単曲ダウンロードのアルバム換算分が前週比67%アップの6000ユニット、ストリーミング再生のアルバム換算分が同3%アップの118000ユニットとなり、総合で149000ユニットを記録。前週(記事はこちら)から19000ユニット増という結果となりました。
さて、この数値上昇にはある仕掛けが。モーガン・ウォレンは『Dangerous: The Double Album』に、小売チェーンのターゲット向けに発売したバージョンのみに収めらていれた「This Side Of A Dust Cloud」および「Bandaid On A Bullet Hole」の2曲、さらにアルバムの冒頭を飾る「Sand In My Boots」のライブアコースティック録音版を追加したバージョンを、主要ストリーミングサービスにてリリースしているのです。
リリース日は最新チャートの集計期間初日にあたる1月29日。ストリーミングサービスの伸びはダウンロードに比べて顕著ではないとしても、モーガンの作品が伸びるのは自然なことかもしれません。
とはいえ『Dangerous: The Double Album』は米ビルボードアルバムチャートにおいて元から有利と言える状況かもしれず、個人的にこの点にメスを入れてほしいとあらためて強く感じた次第。
アルバム・チャート“Billboard 200”では、オンデマンド配信を有料と広告支援の2種類に分けて算出する。有料オーディオ配信は1,250再生=1アルバム・ユニット、広告支援オーディオ配信は3,750再生=1アルバム・ユニットとなる。有料再生と同等のサービスを受けられるトライアル期間中の再生は有料としてカウントされる。“Billboard 200”ではこれまで通り、動画再生とプログラム・オーディオ配信はカウントされないが、“Hot 100”ではカウントされている。
Billboard 200は、週ごとに“トラディショナル・アルバム・セールス(TEA)”と呼ばれる従来の形態で販売されたアルバム数と、トラックごとのデジタル販売10回分を1アルバム・ユニットとして換算した“トラック・イクィヴァレント・アルバム(TEA)”と、ストリーミング再生数をアルバム数に換算した“ストリーミング・イクィヴァレント・アルバム(SEA)”を合算している。
上記は2018年7月に改正された米ビルボードアルバムチャートのチャートポリシーですが、この方法では収録曲数が多い作品が有利になりかねません。たとえば有料オーディオ配信(定額制音楽配信サービスの有料会員による再生)は1250再生で1ユニット扱いとなりますが、15曲入りの作品と30曲入りの作品とでは、前者が83.3回、後者が41.7回フルで聴けば1ユニットとなり、作品の収録曲数が多いほど有利になるのです。これはダウンロードのアルバム換算分についても似たようなことが言えるでしょう。
『Dangerous: The Double Album』はオリジナルバージョンでさえ30曲入りという大ボリュームであったことを踏まえれば、ストリーミングや単曲ダウンロードのユニット換算で有利になるのは自明。米ビルボードはこのチャートポリシーにメスを入れ、作品ごとにユニット換算数を決めるべきではないかと思うのです。
このチャートポリシー変更が叶えば、近年連発されている”リリース直後のデラックスエディション発表商法”も減るのではないでしょうか。
リリース直後のデラックスエディション発表商法は、たとえば日本時間の今日開催されるスーパーボウルでハーフタイムショーに出演するザ・ウィークエンドがアルバム『After Hours』で行っていましたが、自分はその商法に以前から疑問を呈しています。デラックスエディションは先述したようにチャート上昇の起爆剤としての役割を果たすほか、単純に売上の増加にもつながるでしょうが、デラックスエディションの早期リリースは『オリジナルバージョンを購入した方が損をしたと思わせかねない』ため、そのファンに無礼である点において好ましいとは思えません(『』内は上記ブログエントリーより)。ちなみにザ・ウィークエンドは3月開催のグラミー賞で一切ノミネートされず、その怒りを各所で表に示していますが、デラックスエディションの早期リリースが”オリジナルアルバムの意義とは?”と選考側に思わせてしまったことも影響しているものと個人的には考えています。かつてはプリンスが別角度からその意義を問い質していましたが、その点についても下記ブログエントリーで触れています。
個人的にはビルボードジャパンのアルバムチャートにもユニット換算というシステムを導入してほしいと願い続けています。同チャートは3つの指標で構成され、パソコン等に取り込んだ際にインターネットデータベースにアクセスする回数であるルックアップもそのひとつ。このルックアップはレンタルCD数も示すため、ビルボードジャパンアルバムチャートには接触という概念が含まれているのです。ならば同様に接触を示すストリーミングを米ビルボードに倣って導入することに問題はないと思われます。
ただその際には、アルバム収録曲数に応じたユニット換算という計算手法を導入する必要があります。無論収録曲数が多い分聴くのに時間がかかるということはあれど、現状では収録曲数が多いほど有利であることは否定できないでしょう。まずは米ビルボードがユニット換算にメスを入れることで、日本での導入にも、そしてデラックスエディション商法の見直しにもつながっていくものと捉えています。