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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』サウンドトラックが米アルバムチャート初制覇…その背景と今後を読む

日本時間の9月15日月曜に発表された最新9月20日付米ビルボードアルバムチャート(集計期間:9月5~11日)では、『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ (原題:Kpop Demon Hunters)』サウンドトラックが登場12週目にして初の首位を獲得しています。

K-POPによる米ビルボードアルバムチャート制覇は珍しくなくなりましたが(2週前にStray Kids『KARMA』が制したばかり)、このサウンドトラックの制覇は大きな意味を持つと考えます。

 

 

ビルボードアルバムチャートはデジタルおよびフィジカルセールス、単曲ダウンロードのアルバム換算分(TEA)およびストリーミング(動画再生含む)のアルバム換算分(SEA)を合算したユニット数が単位となり、SEAの割合が大きいほどロングヒットする性質があります。他方、単週でも上位進出を果たすにはセールスが重要であることもこのチャートの特徴です。

 

では、今回の『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ (原題:Kpop Demon Hunters)』サウンドトラックにおける首位獲得について紹介します。

 

9月20日付米ビルボードアルバムチャート(集計期間:9月5~11日)において、『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ (原題:Kpop Demon Hunters)』サウンドトラックはセールスが前週比56%アップの23,000、TEAが同7%ダウンの2,000、そしてSEAが同1%未満上昇し103,000を記録。ユニット数としては前週比7%アップとなる128,000を獲得しています。

 

『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ (原題:Kpop Demon Hunters)』制覇の背景には、集計期間初日にデジタル版デラックスエディションがリリースされたこと、そしてオリジナルバージョンを収録したCDが広く流通し始めたことが背景にあります。

(上がオリジナルバージョン、下がデラックスエディション(共にSpotifyより)。)

9月5日にリリースされたデジタル版デラックスエディションには23曲が追加。その大半は既発曲のシンガロング(シングアロング)、インストゥルメンタルそしてアカペラバージョンとなります。また同じ日には実店舗向けにCDが一般流通開始。CDは5種が用意され、それぞれにポスター、およびランダムに封入されたフォトカードが同梱されています。なおアルバムは10月17日にレコードがリリースされます。

 

 

登場12週目で初の首位を獲得した『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』サウンドトラックにおいては、アルバムチャートにて様々な記録が生まれています。

 

サウンドトラックの首位獲得は『ミラベルと魔法だらけの家 (原題:Encanto)』の通算9週首位(2022年1月15日付~3月19日付内にて記録して)以来、およそ3年半ぶりとなります。

さらに、『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』サウンドトラックにおける登場12週目での首位獲得は、2024年2月17日付にて訃報に伴い200位以内再登場にして首位に立ったトビー・キース『35 Biggest Hits』(2008年リリース)以来となります。再登場という点を除けば、ザ・キッド・ラロイ『F*ck Love』が2021年8月7日付にて、登場53週目(それまで52週連続でランクイン)にて26→1位に浮上して以来となります。この作品の首位獲得においては、集計期間中二度に渡りデラックスエディションをリリースしたことが原動力となっています。

 

サウンドトラックにおいて初の首位獲得までの期間が長かった作品は、『オー・ブラザー! (原題:O Brother, Where Art Thou?)』(の登場63週目における首位獲得)以来。2002年3月23日付で初制覇を果たしたこのサウンドトラックは、同年2月27日に開催された第44回グラミー賞にて最優秀アルバム賞を受賞したことが後押しとなっています。

 

さて、『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』サウンドトラックは初の首位獲得までに通算7週2位を記録しています。米ビルボードアルバムチャートで初の首位獲得を果たすまで長期間に渡り2位を記録した作品はリンダ・ロンシュタット『Simple Dreams』の9週(1977年10~11月)以来、およそ半世紀ぶりとなります。なお首位獲得には至らなかったものの最長期間2位を記録した作品はストレイ・キャッツ『Built For Speed』であり、1982年から翌年にかけて通算15週その座に就いています。この”最高2位ながら長期滞在”記録については下記リンク先をご参照ください。

 

アニメーション映画のサウンドトラックにおける首位獲得は、米ビルボードアルバムチャートが1956年3月にレギュラーチャートを開始して以来、ライオン・キング(1994-1995 10週)、『ポカホンタス』(1995 1週)、ジャック・ジョンソンによる『おさるのジョージ/キュリアス・ジョージ』(2006 1週)、『アナと雪の女王』(2014 13週)、『アナと雪の女王2』(2019 1週)、『ミラベルと魔法だらけの家』(2022 9週)に続き『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』が7作目となります。

また、サウンドトラック(元の映像作品のジャンルに関わらず)における首位獲得までのブランクは『ミラベルと魔法だらけの家』(最後の首位獲得は2022年3月19日付)以来、3年半となります。これは『アルマゲドン』(1998年7月25日付)から『オー・ブラザー!』(2002年3月23日付)までのおよそ3年8ヶ月以来となる長期ブランクです。

 

 

 

様々な記録が生まれた今回の『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ (原題:Kpop Demon Hunters)』初制覇ですが、K-POP歌手の作品とは異なる動きを辿っています。

上記は2025年度米ビルボードアルバムチャートにおける週間1位および2位を定点観測した表。青で表示したのがK-POP歌手(『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』サウンドトラック含む)の作品となりますが、サウンドトラック以外はユニット数に占めるセールスの割合が大きく、またセールスの大半がフィジカルであり、他方SEAが小さいために翌週はユニット数および順位の面で大きく後退する傾向にありました。

その中にあって『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』サウンドトラックは映像作品の話題も相まって、7月5日付での初登場以来8→3→2→5→3→2→2→2→2→2→2→1位と推移。ユニット数も初週31,000を記録して以降62,000→75,000→85,000→89,000→93,000→100,000→104,000→108,000→125,000→120,000→128,000となり、基本的に上昇を続けています。

登場10週目となる9月6日付米ビルボードアルバムチャートでの、『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』サウンドトラックにおける15%以上の上昇については上記リンク先にて紹介しています。映画館での上映に加えてCDがオンラインの形で流通を開始したことが影響し、翌週はその反動もあってかユニット数は初めて減少に転じていますが、当週はデジタル版デラックスエディションの登場やCDの一般流通が功を奏した形です。

 

 

ただし気になるのは、このアルバムがピークを迎えたという可能性です。デラックスエディションはオリジナル版の3倍近い曲数を収録し、オリジナル版と合算されながら、しかしSEAの上昇度が1%未満にとどまっていることはこのアルバムがピークを迎えたと捉えて差し支えないのではというのが私見です。それでもユニット数全体に占めるSEAの割合は未だ高く、急落するということは考えにくいでしょう。

今後はテイラー・スウィフト等上位進出が狙える作品が登場することが見込まれますが、そのタイミングで『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』サウンドトラックが順位を落としたとしても再び上位に戻れるような体力は持ち合わせ続けるものと思われます。そしてその人気が米にK-POPを浸透させ、他の歌手のチャートアクションをも良好なものにしていく可能性があるのではないでしょうか。今後はその点にも注目です。