日本時間の月曜早朝に公開される米ビルボードアルバムチャート速報記事についてはこのブログで翻訳していませんが、このチャートについてはテイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』の初登場から12週連続での首位獲得、前週の史上初となるK-POPワンツーフィニッシュについて、相次いで採り上げました。
日本時間の本日発表された8月10日付米ビルボードアルバムチャート(集計期間:7月26日~8月1日)ではテイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』が3週ぶり、通算13週目となる首位を獲得。一方で、記事には気になる点があります。
Taylor Swift’s ‘Tortured Poets Department’ Returns to No. 1 on Billboard 200 for 13th Week https://t.co/xGPOMoU7AW
— billboard (@billboard) 2024年8月4日
米ビルボードアルバムチャートはフィジカルおよびデジタル(アルバム単位)での売上に加えて、ストリーミング(動画再生を含む)のアルバム換算分(SEA)、および単曲ダウンロードのアルバム換算分(TEA)が含まれます。なお、SEAおよびTEAの計算式における分母は収録曲の大小にかかわらず同一であることから、デラックスエディションが30曲以上となる『The Tortured Poets Department』は有利な状況といえます。
テイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』はこの3週、82,000ユニット(前週比50%ダウン)、74,000ユニット(同9%ダウン)、71,000ユニット(同3%ダウン)と推移。一方で最新週の内訳をみるとSEAが59,000(前週比8%ダウン)、TEAがごくわずか(同23%ダウン)、セールスが12,000(同34%アップ)に。セールスの上昇はテイラーの公式サイトでデラックスエディションCD版の在庫が補充されたことが要因と記されています。
これにより『The Tortured Poets Department』は2位のモーガン・ウォレン『One Thing At A Time』を上回った形ですが、後者は当週64,000ユニットを獲得し、且つ3月以来となるトップストリーミングアルバムチャートを制しています。つまり、『The Tortured Poets Department』が『One Thing At A Time』を上回ったのはアルバムセールスが要因であり、公式サイトにおける在庫補充も引き離しの一因といえるでしょう。
テイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』の首位返り咲きは、2週前のエミネムや前週のK-POP歌手(Stray KidsおよびJIMIN)といった強力な初登場作品がなかったことも影響していますが、SEAの強さがロングヒットにつながり、強力な作品がなければ再度首位に立てることを証明したと捉えることができます。
(ちなみに当週における71,000ユニットは、モーガン・ウォレン『One Thing At A Time』の3月16日付首位獲得時における68,000ユニット以来の低い数値となります。)
ただ一方で、先述したようにSEAやTEAは収録曲数が多いほど有利となるものです。『The Tortured Poets Department』のみならず、モーガン・ウォレン『One Thing At A Time』も36曲収録されていることが強さの理由と考えれば、SEAやTEAを収録曲数に応じた形に計算するチャートポリシー(集計期間)へ変更するか、議論することは必要でしょう。
そして今回、テイラー・スウィフトは公式サイトにて在庫補充を行ったとあります(元記事では『aided by a stock replenishment of a deluxe CD edition of the album in Swift’s webstore 』と記され、"スウィフトのウェブストアでアルバムのデラックスCD版の在庫が補充されたことで"と訳すことができます)。この詳細は解りかねますが、5週目首位獲得時のような豪華版出荷策を倣ったならば違和感を覚えるというのが私見です。
問題は、新バージョン等の発売日や出荷日を明確にしていないという点です。
(中略)
しかし今回、発売日や出荷日を明確にする必要性を示していないチャートポリシー(集計方法)のいわば穴をテイラー側が用いたことが、結果に反映されています。
テイラー・スウィフトによる今回の施策が今後もみられれば、チャートをある程度操作可能な状況に成るといえるかもしれません。尤もこの手法はコアファンの多さや熱量が多い歌手でなければ難しいものの、しかし今後も(テイラーに限らず)出てくる可能性は否定できません。米ビルボードは早急にこの穴を塞ぐことが必要です。
テイラー・スウィフトは『The Tortured Poets Department』通算13週目の首位獲得により、モーガン・ウォレン『One Thing At A Time』(通算19週 2023年3月~2024年3月)以来の長期首位獲得作品に。女性歌手ではアデル『21』(通算24週 2011~2012年)以来となる長さを誇ります。またテイラーはアルバムチャートで82週目の首位となりソロでの最長記録を更新、エルヴィス・プレスリーの67週をさらに引き離しています。14作品の首位獲得はジェイ・Zと並びソロでは最多タイとなります。
このような記録がある(今回の記事で紹介されている)以上、そしてこれまでのチャート動向から、テイラー・スウィフトほどチャート結果や記録にこだわる方はいないと捉えています。これはいい意味での形容ではあるものの、一方でそれがチャートポリシーの穴を狙ったものならば健全とは言い難いのではというのが私見です。
最後に。最新8月10日付米ビルボードアルバムチャートでは前週首位のStray Kids『ATE』が6位に後退(前週比78%ダウンとなる52,000ユニットを獲得)、そして前週2位のJIMIN『MUSE』はトップ10圏外となっています(順位、ユニット数ともに不明)。『MUSE』の順位は日本時間の8月6日火曜18時以降に発表される予定ですが、当週の動向はK-POP作品がロングヒットしにくいという現状を示したものといえるでしょう。